2022.12.23
ビザスク 112億円での海外M&Aから1年。代表 端羽英子が「今が一番エキサイティング」と語るワケ

ビザスク 112億円での海外M&Aから1年。代表 端羽英子が「今が一番エキサイティング」と語るワケ

ビジネス領域のナレッジプラットフォーム運営の「ビザスク」。2021年11月に約112億円で米国企業を買収したことでも話題となった。この海外M&Aから約1年。ハードシングスについて代表 端羽英子さんを取材した…が、話は思わぬ方向に?「まだハードシングスはないです(笑)今が一番楽しい」彼女がそう語る理由とは?

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ビジネス領域特化のナレッジプラットフォームを運営する「ビザスク」概要
・2012年3月に創業したビザスク社。2020年3月に東証マザーズ(現グロース市場)へ上場
・新規事業開発・DX・組織開発など、ビジネス領域における有識者(アドバイザー)の知見と、それらに課題のある企業を様々なスポットコンサルの手法でマッチングする
・コアサービス「ビザスクinterview」は、1時間からweb/電話/対面でビジネス相談やユーザーインタビューができる。新サービス「ビザスクnow」は業界動向、ケーススタディなどに関する質問を送ると有識者5名以上から24時間以内にテキストで回答が届く。
・コロナ禍を経てリモートワークが世の中に浸透。国による副業推進や、社会人のリスキリング(学び直し)などの潮流もあり、サービス拡大の後押しに。
・2021年11月、ビザスク社は米国の「Coleman Research Group, Inc.」を買収。グローバルにおいて190カ国52万人超のアドバイザーデータベースを有する規模となり、成長を続ける。

ある日突然、グローバル企業になった。

2021年11月に、米「Coleman Research Group, Inc.」を約112億円で買収し、話題となったビザスク。約1年が経つなかで会社の現状から伺うことができた。

一気に「グローバル」との距離が縮まり、関わるメンバーも増え、すごく変化の多かった1年ですね。それまでと全く違うステージで、成長に向かってチャレンジしている感覚。グローバルな市場に打って出て、どう成長していくか。背伸びしながらがんばって、どうにかギリギリ手が届きそうなことにチャレンジする。そういった楽しさを感じています。

何よりメンバーたちにとってもすごく刺激的な変化だったと思います。日本側でいえば、やはり具体的に課題となったのが英語力で。今まで自然にやっていたことも英語でコミュニケーションしなければいけない場面が増えました。たとえば、営業資料にしても、コーポレートサイトの変更にしても、プレスリリースにしても、内部統制にしても、ところどころで英語が必要に。創業時からグローバルは意識していましたが、実践で英語を使うとなるとそう簡単ではないですよね。

ちょうど全体でのリブランディングも検討しているのですが、アメリカ側にヒアリングをかけたり、たとえば、ロゴを考えるにしてもデザイナー自身がストーリーを説明したり。一気にグローバル化したため負担はかかりますが、これから30年、40年、50年と働かなきゃいけないなかで、いまこうして挑戦できるのはいいこと。私自身もそこそこ英語はできるつもりでしたが、ちょうど先日、たった3行の英語のメールでさえアメリカ側のメンバーに文法を訂正されて(笑)日々学びだらけですね。

同時に、社会変化がこれだけ大きく起こるタイミングもなかなかありません。ビザスクも、働く私たち自身も、そして日本も「グローバルで勝てるようになりたい」と思えること、その土俵に立つことがすごく大事だと思っています。

+++「会社全体で一気にグローバルに視点が向くようになった」と語る端羽さん。「なかなかアメリカ人に日本語を勉強してもらうのは難しい(笑)それにグローバルで戦っていく上でも私たちが英語を積極的に学ぶほうがいいかなと思っています。実際、福利厚生の一つとして社員の学びを促進する仕組みがあるのですが、かなりのメンバーがそれらを活用して英会話などに取り組んでいます」

資金調達、そして7拠点でのマネジメントで立ちはだかった壁

今まさに挑戦の最中だというビザスク。2021年11月の買収に伴う資金調達で「ぶつかった壁」についても伺うことができた。

今振り返ってみると、買収に至るまでのファイナンス(資金調達)では、かなり苦労しました。端的にお金を出してくれるところがなかなか見つからなくて。「日本企業による海外企業の買収は成功例がかなり少なくリスクが高い。本当にリターンがあるのか」と。新たな挑戦をしたいのに、前例をもとに判断されてしまう。そこには悔しさがありました。ただ、そういったなかでも国内ファンドであるアドバンテッジアドバイザーズさんから調達させていただき、みずほ銀行さんからは借り入れができ、チャレンジさせてもらえた。アドバンテッジアドバイザーズさんに関してはもともとビザスクのクライアント企業でもあって。もしサービスに価値を感じていただけていたらと思うと嬉しいですね。

こうして米Coleman Research Group, Inc.を買収したビザスク。この1年を振り返ると反省もあったという。

現在進行形ですが、すごく悔しいのは、マクロ環境の急激な変化などもあり、思うように業績を伸ばしきれなかったことです。もっとやれたこともあったと考えています。

たとえば、ビザスクと同じレベルでColemanを理解し、その上で環境変化に対応した意思決定が早くできていれば、状況は変わっていたかもしれない。

当然、買収してすぐの会社なのでビザスクのようには理解できていないことのほうが多くて。いきなりマイクロマネジメントをして嫌われてはいけないといった遠慮もあったのかもしれません。どこかでそれで良しとしていたのだと思います。ただ、今思えば、別にマイクロマネジメントではなく、ただ単により彼らを理解するために、どんどん質問していけば良かったんですよね。もっとColeman側に時間を使うべきだったと反省しています。口では「ワンカンパニーになる」と言っていましたが、その行動が取れていない自分がいたなと思っています。

ただ、決してネガティブな話ばかりではなくて。そういったことをきっかけに、2ヶ月に1回程度はアメリカに出張し、リーダー陣とラフなコミュニケーションも含めて取るようになりました。向こうは向こうで悪気があるわけではなく、「わざわざ代表に話すほどではないだろう」と気を遣って話をしてこなかったことも、現場に行けば自然と話をしてくれる。そんな風にグローバルの方に時間を使いたいとなった時、日本側の役員たちも「日本のほうは任せて」と言ってくれて、組織としてもいい変化が生まれています。

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本当のハードシングスにはまだ出会っていない

そして伺えたのが、端羽さんは答えのない難問、困難にどう向き合ってきたのか。「ハードシングス」をどう捉えているのか。

ハードシングスは何度もチャレンジしたにも関わらず、どうしてもうまくいかない、そういった極めて解決が難しい困難だと捉えています。たとえば、会社を売らなきゃいけないとか、数週間後に資金が底を尽きるとか、大きくリストラしなきゃいけないとか。そう考えると、私たちはまだ本当のハードシングスに出会っていなくて。いつも少しずつ違うチャレンジをしてきただけ。そもそも自分たちとしてやったことがないことをやるので、うまくいかないのは当たり前なんですよね。

もちろん、マクロ環境の変化などはありますが、経済にも必ず波はあるもの。そういった変化が起きた時にも、適切に向き合えるように準備と計算をしていくことは大切だと思います。この1年でマクロ環境は大きく変わりましたが、そうなる可能性も考慮した上で手を打ってきたつもり。ただ、それでもなお予見できないのがハードシングス。いつか来るかもしれないので、想像力を働かせながら起きた時のシミュレーションをしておくのも私の役割なのかなと思います。

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すべての言葉を好意的に解釈する

取材を通じ、一環して「チャレンジ」をキーワードに、仕事について楽しそうに話をする姿が印象的だった端羽さん。彼女が仕事と向き合う上で大切にしていることとは。

仕事は同じことでも違うやり方があり、いつも発見がありますよね。知的好奇心がそそられて楽しいこと。いろいろな人に会えますし、新しいことへのチャレンジは大変だけどできたら嬉しいですし。もちろん厳しい言葉をもらうこともありますが、30歳ぐらいの時に「もう全て好意的に解釈しよう」と心に決めていて。相手の言葉の行間を読もうとしない。そう思うと明らかに悪意のある言葉を投げかけてくる人もほとんどいないんですよね。

何か言ってくれる、ということは、期待をしてくれているということ。もしくはイライラしていて言いたくなってしまっているか(笑)もちろん人に当たるのは良くないことなので、機嫌良く仕事する術はみんなが学ぶべきだと思いますが、それだって何かしら頑張っていることがあるからこそ生まれる感情ですよね。いわば適当に流さずに頑張ってくれているのはすごくありがたいこと。わざわざ時間を使って伝えてくれるのはプラスしかないですよね。

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日々の学びが、私にビジョンをくれる。

そして最後に伺えたのが、「これから実現していきたいこと」について。

すごくシンプルで「ビザスク」を世の中にとって必要不可欠なプラットフォームにしていきたいです。そのためにやるべき一つはやはりグローバルだと思っています。「知見」はお金と同じように、無くてはならないインフラだと思いますし、それがグローバルで当たり前にマッチングする世界にしていきたい。そのためにも世界で戦えるような強い会社を作りたいですね。今は企業のあり方、働き方、仕事のやり方がダイナミックに変わる大事な転換期。日本を強い国にしていくためにも「ビザスク」を無くてはならない存在にしていければと思います。

なぜ、社会インフラになるようなプラットフォームを目指すのか。志の「核」にはどんな思いがあるのだろう。

すごく自然なことなので、そうしたいという思いがただあるといった感じかもしれません。むしろ無いことが不思議で。ただ、私自身も最初から強い思いでやっていたわけではありません。もともとビジョナリーな起業家ではありませんでした。そのなかでも、ユーザーさんがついてきてくれて、サービスが大きくなり、プラットフォームの価値に気付かされ、どんどん責任感が生まれてきました。必要とされるサービスなのだから、より多くの人に届けたい。要するに「インフラ」なのだと気付き、アジア、そして世界中の人たちに使われるものにしたいという自然な考えなのだと思います。

今振り返ると、情報を得て、毎回学んで、刺激を受け、そのたびにどんどん目標が高くなっていったイメージに近いかもしれません。山を登っている途中で霧が晴れたと思ったら、「あれ、この山ってこんなに高かったんだ。でも、ここまで来たから登るしかないか」みたいな(笑)

でも、それがすごく楽しいんですよね。起業した頃よりも、今の方が断然おもしろい。リソースがあるので、一度にたくさんのチャレンジを同時にできる。できることも増えましたし、成長速度もどんどん上がっていて。遠心力のようなものがついて、影響範囲が大きくなっていって。理想は、毎年1年を振り返った時に「1年前の私たちはまだまだだったね」と言えること。もしかしたらいつまでも謙虚に教えを請い続ける「素人集団」でいるくらいがちょうどいいのかもしれない。「わからないから教えてください」「学ばせてください」と、ずっと新しいことに挑戦し、生涯学び続けていく。そうありたいなと思っています。

+++

(おわり)


取材 / 文 = 白石勝也


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