2019.08.27
無断キャンセル被害を肩代わり。次世代型保証サービス Gardia誕生まで

無断キャンセル被害を肩代わり。次世代型保証サービス Gardia誕生まで

飲食店における「無断キャンセル被害」などのリスク保証サービスを展開するGardia(ガルディア)。『食べログ』『CASH』『ズボラ旅』など、20以上の多ジャンルなtoCサービスと提携。立ち上げの背景にあったのは、「ウェブサービスの成長や、新しいチャレンジを後押ししたい」という熱い想いだった──。

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国内唯一 toCウェブサービス向け「リスク保証」

飲食店での「無断キャンセル被害」が問題になっていることをご存知だろうか。

ニュースやSNSなどで「当日キャンセルのせいで、せっかく用意した30人分の料理がパーになった…」といった悲しみの声を見かけることも。飲食店側としては、たまったものではないはずだ。

この「ドタキャン」や「不払い」など、何も飲食店だけの問題ではない。

美容院の予約の時間になっても、お客さんが現れなかったり。
ホテルが直前でキャンセルされ、キャンセル料が未入金だったり。

こうした「リスク」に目をつけたのが、フリークアウトグループの『Gardia(ガルディア)』だ。無断キャンセルに対する「リスク保証サービス」をリリースした。

具体的には、国内複数の予約サイトと提携。店舗に対して予約キャンセルの被害金額を肩代わりする。他にも、即現金化サービス『CASH』や、カメラ・家電のレンタル・サブスクリプションサービス『Rentio』などとも提携。「金額が支払われない」「貸したものが返ってこない」など、さまざまなウェブサービスのリスクを保証する。

「新規性の高いウェブサービスにおけるリスク保証モデル」として、国内唯一(※自社調べ)と言われるGardia。代表の小山さんはこう話す。

「世の中が便利になればなるほど、事業者のリスクは高まります。しかし、だからといってイノベーションを起こすことを躊躇ってしまうのはもったいない。誰もが安心してチャレンジできるように、僕はそのサポートをしたいと思ったんです」

そこにあるのは、「あらゆるウェブサービスを一緒に育てたい。サービス拡大を後押ししたい」という小山さん熱い想いだった──。

【プロフィール】Gardia株式会社 代表取締役社⻑ ⼩⼭裕(こやま ゆたか)
2009年、三越伊勢丹グループに⼊社。約4年間クレジットカード事業の領域に従事し、2012年に決済に関する保証事業会社の立ち上げを経験。その後株式会社AppBroadCast及び株式会社mediba(KDDIグループ)への参画を経て、2017年7月に株式会社フリークアウト・ホールディングスに移籍。同⽉、株式会社カンム執⾏役員に就任。2017年10⽉、Gardia株式会社を設⽴し代表取締役社⻑に就任。

「UXの追求」と「リスク」はトレードオフの関係

─SNSなどで無断キャンセルや不正など目にすることも多い気がします。やっぱり件数としても増えているのでしょうか?

あくまでも肌感ですが、世の中が便利になればなるほど、サービス提供者が背負うリスクが大きくなり、件数も増えているように思います。

たとえば、BANK社が提供する『CASH』は、目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わるという即現金化サービス。これまでにないようなサービスモデルですよね。手元にまだモノがあるのに、代金が振り込まれるわけです。2週間以内にモノを送るルールになっていても、やはり期限内に送れない人はいるし、中には最初から送る気のない人もいる。こういったリスクに対して保証を行なっています。

『Rentio』という家電やカメラのレンタル・サブスクリプションサービスの場合でも、借りたカメラが質屋に入れられたり、フリマアプリで売られたりする被害と常に対峙していく必要があります。

今って、どのサービスも「どれだけUXを良くするか」の勝負の世界になっている。より良いUXの典型って、ユーザーにとっていかに簡単で、手間がないかってこととイコールで。

飲食店や宿泊施設、サロンなども昔は電話でしか予約ができなかったものが、今ほとんどがWebで予約ができるようになっていますよね。登録するユーザー情報もどんどん削ぎ落とされ、それが「最高のUXだ」と評価されている。

そうなるとドタキャンや無断キャンセルへのハードルが、どうしても低くなってしまう。実際に、飲食店の無断キャンセルにおいては、年間数⼗万件で最⼤2000億円相当の被害が出ていると言われている(※自社調べ)。この時代、もはや事業者は「リスク」から逃れられない状況になってきています。

実際、いま取引しているパートナー企業は20社ほどですが、サービスを利用したいと言ってくれている企業は、常に80社以上ある状況です。いっさい営業活動をせずにこれですから、ニーズはかなり大きいと言えます。

新規性の高いウェブサービスって、大手の損保会社などが手をつけられない領域なんですよね。そもそも「保証」は古くから民法で定められた概念なので、アップデートが難しい。

それに、なかなかニッチな領域なので新規参入もなく。そういった背景で、ウェブサービス向けの保証を提供している会社ってまだほとんどありません。

プロダクトもエンジニアも、あえて持たずにスタートした

─Gardiaさんが提供するサービスは、いわば「紙」で契約書を交わすと事前に伺いました。ウェブサービスが対象なのになんだかアナログと言いますか…少しおどろきました。

それは本当によく言われますね(笑)

もちろん、定常的にテクノロジーを活用したビジネスを展開することを目指してはいます。ただ、最初はあえてテックに頼らずスタートしようと決めたんです。立ち上げから1年は、プロダクトもなければ、エンジニアもいませんでした。

意図的にそうしたのは、原点に立ち返ったときに、やはりまずやるべきは「必要とされている時に必要とされているサービスをすぐに届ける」ということ。今この瞬間にも、どこかで無断キャンセルや不正が起こっていて、1日経つごとに事業者のリスクは高まっていく。

プロダクトを作るとなれば、少なくとも数ヶ月はかかってしまうわけで。それでは救えるはずの人を助けられない。それに、以前立ち上げた他の保証会社での知見や人脈があったこともあり、テクノロジーに頼らなくてもできる自信があったんです。

今って、世の中がわりとテクノロジーに寄っている雰囲気があると感じるんですが、僕はテックだけがすべてじゃないと思っていて。

もちろん、ひたすらプロダクトを作り込んで、資金調達をして、1年ほどで満を持してローンチするということを否定したいわけではない。ですが、「ウェブサービスにおける保証」など、ニーズが非常に大きいのに誰も手をつけられていない領域においては、形よりもスピードを重視すべきなのかなと。

とにかく早くスタートして、テックの力を借りるのは後からでいいと思ったんです。

「一緒にリスクと戦う」という覚悟

─毎月どのくらい不正が起こるのかって、予想できるのでしょうか。会社として、収益の見通しが立てにくいのでは…?

おっしゃる通りですね。特に我々は新しいサービスを対象にしていることもあり、どうなるか予測できないというのが正直なところ。先月の不正は2件だったけど今月は20件もあった、みたいに、パートナー企業自身も平均値を出せない状況があります。

ですので、いただく保証料等の条件も、企業ごとにすべてカスタマイズしているんです。定価はいっさい決めず、「一旦このくらいの料率で置きましょう。あまりにかけ離れた数字が出たらまた相談させてください」と話し合って決めていく。精緻に測れないのでアテの部分も大きいですが、そのくらいの感覚じゃないと始められません。

じつは、こうして互いに協力してサービスを改善していける企業としか提携していない部分もあるんです。痛み分けじゃないですが、フェアな関係で一緒にリスクと戦っていける企業さんを、意図的に選ばせてもらっています。

─ぶっちゃけ…利益は出るんでしょうか?

保証料をいただいても必ずキャッシュアウトが出るビジネスモデルなので、たしかに「すぐに儲かる」とは言えません。そういった意味でも、長い目で見たときに「データ活用によるリスク回避」という価値を提供していきたいと考えています。

僕たちは様々な業態に保証サービスを展開しているので、すでに膨大なデータが集まっていて。有名アパレルECサイトさんや国内最大手の飲食予約メディアさんなど多くのユーザーを持つ企業との連携もあり、実際に、昨年からデータドリブンな世界を創造できつつあるんです。

エンジニアリングの部分でも、フリークアウトCTOで、スーパーエンジニアと呼び声高い西口次郎がGardiaに協力してくれている。独自のロジックに基づく与信データベースの構築やAPIの開発が、今どんどん進んでいます。

たとえば、今年の6月にBANKがリリースした『モノ払い』サービス。あれは開発段階から一緒に入っていたので、決済ボタンを押した瞬間にユーザー情報がうちに来るようになっているんです。Coineyのリアル店舗向け決済サービス『ツケ払い powered by Coiney』にも、うちのAPIが組み込まれていて。

ユーザーの行動データを分析し、不正しそうな人は予約時や登録時ではじく。今後そういった世界も実現できるはずです。

過去の一点でなく、“今”を正しく評価する「信用情報機関」に

最後に一つだけお伝えしたいのが、僕たちは何も悪質なユーザーをはじき出すためにこの事業をやっているわけではないんです。そうじゃなく、「新しい信用を創造する」会社になれたらいいなと思っていて。

たとえば今って、クレジットカードの支払いが連続で滞ったりするとCICという機関から「ブラックリスト」に入れられてしまうんですね。

支払うべき責任を果たしていないのは確かに良くない。でも、そこには自分ではどうしようもできない理由を抱えている人も必ずいる。

たとえば、親の介護で一時的にすごく出費がかさんでしまったとか。夢を持って起業したものの失敗してしまったとか。僕も起業家なので、そういった人は正直何人も知っています。

一度の失敗、過去の一部分だけをみて「ブラック」と認定されてしまうのには違和感を感じるんです。一度ブラックリストに入ってしまうと、何年も契約ができないような状況もあって。

それって新しいチャレンジを阻害している。今はちゃんと信用される状態になっているのに、5年前の失敗や不運に縛られて何もできないなんておかしいですよね。

だから僕たちは、データをもとにその人の「今」を正しく評価する新しい形の信用情報機関になりたい。なりたいし、なれると思っています。


取材 / 文 = 長谷川純菜


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