2020.08.20
僕らは21世紀のJRになる。電動マイクロモビリティスタートアップ『Luup』の勝算

僕らは21世紀のJRになる。電動マイクロモビリティスタートアップ『Luup』の勝算

2020年5月25日、渋谷エリアでシェアサイクルサービスをリリースした電動マイクロモビリティのスタートアップ『株式会社Luup(以下、Luup)』。電動マイクロモビリティのシェア文化がまだ根付いていない日本。取り組むべき課題が山積みにも思えるモビリティの領域。『Luup』はいかに挑むのかーー。

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日本でも「電動マイクロモビリティのシェア」を日常に。『Luup』の野望

ここ数年、海外では定着し、当たり前になりつつある「シェアサイクル」。

新型コロナウイルス感染拡大防止、密集を防ぐ意味でもイギリスではさらに国をあげて推進するといったニュースも。加えて電動キックボードもほとんどの先進国と呼ばれる国々においては既に当たり前の存在だ。

ただ、日本では浸透しておらず、実現まで時間がかかると思われる。

「電動キックボードをはじめとする電動マイクロモビリティは、日本人にとって新しいモビリティです。広めていこうと思ったら、法律面での調整も多い。しかし、今後20年、30年先の日本に立ちはだかるであろう課題を根本から解決するためには、電動マイクロモビリティによって日本の交通インフラをアップデートしなければならないのです。だから僕らが先陣を切ってこの分野に挑みます。」

こう語ってくれたのがLuup代表の岡井大輝さんだ。彼らが渋谷エリアで仕掛けた電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」は瞬く間にSNSを中心に広まり、渋谷エリアのみ・50台のみからの提供であったにも関わらず、サービス開始から2日間で2000人を超える会員登録があった。電動マイクロモビリティの新星スタートアップだ。

「現在提供しているのは、シェアサイクルですが、当然そこで終わるつもりはありません。2025年までに、ご高齢者や足腰に不安がある方も含める全ての人が安心して乗れる電動マイクロモビリティを広めていく。さらに25年後、つまり今から50年後の交通インフラをつくっていきます。」

途方も無い話のようだが、彼らは本気だ。

市場はつくる。どれだけ高かろうがハードルは超えていけばいいだけ。50年後の「電動マイクロモビリティのシェアリングサービスが当たり前となる社会」を見据えた彼らの挑戦に迫った。

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シェアサイクル「LUUP」概略
・2020年5月25日電動アシスト自転車のシェアリングサービス開始
・現在の提供エリアは渋谷区、目黒区、港区、世田谷区、品川区、新宿区の一部
・料金:初乗り100円/10分(10分以降は1分あたり15円)
・QRコードで解錠
・機体は保険適用車両
・ポート数:104(2020年8月1日現在)(渋谷エリア内におけるシェアサイクル事業者の中で最高密度)
・2020年8月よりローソンにポートを導入

「電動マイクロモビリティ」後進国、日本。手遅れになる前に僕らがやる

日本での電動マイクロモビリティのシェア領域において、新規参入のハードルは高いのではないか…と感じてしまいます。なぜこの領域で仕掛けようと?

まず日本は電動マイクロモビリティの領域において、世界に遅れをとっていますよね。

個人的にも、いち経営者としても大きな焦り、危機感のようなものがあります。

先進国のなかにおいて、正直、日本はビリ。2020年7月4日、イギリスでもレンタル・シェア形式で電動キックボードの利用を解禁したので、事実上先進国で電動キックボードが原付バイク扱いなのは日本だけなんですよね。

その自覚が日本人にはほとんどありません。現状の交通インフラが人口動態や都市交通の変化に将来対応できなくなる可能性が高いのに、電動マイクロモビリティの普及が遅れていて、本当にそれでいいのかな?って。

当然、「新しいモビリティだから導入を進めるべき」という簡単な話ではなく、安心・安全な社会実装を目指しています。電動マイクロモビリティへのそもそもの認知がない中で広めていこうと考えたら、課題も多く、やらなければならないことも山積みです。ただ、だからこそやる意義があると思っています。

広めるための「3段階」

そもそもなぜ、日本では電動マイクロモビリティのシェアが根付かないのでしょうか?

理由としては、とくに都市部では電車がかなり便利で、駅を起点に住居やお店が密集して建っている。ここが大きいと思います。

また、東京でいえば、タクシーもたくさん走っていますよね。Uberもそのありがたみを感じづらい。けれど、日本のような電車社会である街こそ、移動をより効率的、かつ快適に行うためには電動・小型・1人乗りのモビリティをシェアする文化が根付くべきだと考えています。直近で言うと、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からも閉塞的な空間での移動は避けるべきです。

直近、見据えているのは、やはり電動キックボードのシェアリングサービスでしょうか?

そうですね。Luupは電動マイクロモビリティのシャアリングサービスを社会実装するために、まずは世界で受け入れられている電動キックボードの社会実装を目指しています。

公共の道で唯一世界中で受け入れられたのは現状電動キックボードのみです。皆さんよくご存知のセグウェイは、場所にもよりますが、基本的にはゴルフ場やリゾートホテルでの利用がメインとなっていました。

ただ、日本でいきなり新しいモビリティである電動キックボードでサービスを始めても誰もついてきません。新しいものに対しては誰もが不安を抱くものなので。ですので、丁寧に段階を踏んでに進めていく。

まずは、人々に高密度なシェアリングサービスの利便性を体験してもらう。その第一弾が、2020年5月25日にリリースした電動アシスト自転車でのシェアリングサービスです。

電動アシスト自転車は日本人にとって最も身近な電動マイクロモビリティですね。まずは自電車で、シェアリングサービスがいかに便利か、体験として素晴らしいかを伝えるためにとにかくUXにこだわり、提供していきます

あわせて“ポート”を増やし、街じゅうに張り巡らせていく。そうすることによって人々からの「家のすぐ近くにあって、いきたい場所にもある」という認知をとっていきます。

その上で、第2フェーズとして、規制の適正化の後に、街のニーズに合わせて機体を徐々に電動キックボードに置き換えていく。

最後、第3フェーズは、2025年までに1つの機体で高齢者から若者まで全ての人が乗れる三輪か、もしくは四輪のユニバーサルな機体でのシェアリングサービスも手掛けていきたいと考えています。

体験する前から否定するのではなく、とにかく知ってもらって体験してもらう。あとは市場が「いる」「いらない」を判断してくれるはずです。

+++ LUUPの機体。第1フェーズでは現在リリースされている、電動アシスト自転車(左)。第2フェーズは電動キックボード(中央)、第3フェーズは高齢者や足腰が不安な方ものれるように、椅子が起き上がったり速度が制限されたり、ユーザーの特性によって機体が変化するモビリティ(右)に移行予定。電動アシスト自転車は自販機1台分のスペースに、機体1~2台設置可能。(LUUPのポート設置を希望する不動産/店舗オーナーの方はこちらまで:https://www.luup-port-owner.com/

『Luup』の躍進

実際、リリースから2ヶ月、どのくらい広まってきているのでしょうか?

すでに渋谷エリアでのポート密度は都内最大手のシェアサイクルの倍です

ただ、まだまだ自分たちが理想としている数には足りていない。「乗りたい時に、すぐに、確実に乗れる」ということがインフラとして何よりも重要だからです。現状は圧倒的に供給が追いついてないため、まだインフラとしては程遠い。これからより一層力を入れてポートと機体台数の拡大を進めていく予定です。

更に言うと、LUUPは将来的にはご高齢者にも乗っていただくモビリティを目指しているので、現状の密度では全く足りないと考えており、ご高齢者でも機体を取りに行けるような密度でポートがあるべきと思っています。

便利なサービスを提供することができた後で、第2フェーズと僕らが位置づけている「電動キックボード」の導入へと進めると思っています。そこまでは死にものぐるいでやっていくしかないですね。

向き合っていくのは、人々の「不安」

より具体的に、現在、力を入れて取り組んでいることがあれば教えて下さい。

何よりも多岐にわたる関係者の理解を得ていくこと、協力者を増やしていくこと、そこに注力していますね。

正直、他分野、とくにアプリやWebのスタートアップと比べると「対話しなければならない相手」が非常に多い。僕らの事業は、人々の「不安」と向き合っていくんですよね。

それは安全性、事故防止はもちろん、街の景観が変わってしまうのではないか?という「不安」も同じ。電動キックボードが広まれば、街の景観も少なからず変わりますので。当然、「乗る人」だけではなく、議会や自治体、関係団体など、「街」に関係する全員への挨拶はもちろん、十分に理解を得ながら丁寧に事業を進めていく必要があります。

協調したい、協業したい。その姿勢を自分たちから見せていく。そうすることで結果につながっていく。そういった手応えが得られ始めています。

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進む、実証実験

「電動キックボード」関連でいうと、現段階ではどのように進んでいるのでしょうか?

これまでにLuupは全国約30ヶ所で実証実験を実施しました。実証実験を実現するためには、自治体、警察、地元関係者との調整が必要な場合が多々あります。そのような「対話」を、日本中約30ヶ所で行ってきたのです。これは国内の大手やベンチャーを含むモビリティ企業の事例と比較しても、かなり多い部類に入ると思います。

そして2019年10月、内閣官房の規制サンドボックス制度(※)の認定を受け、横浜国立大学で政府に認定を受けた実証実験を行いました。これは、モビリティ分野における初の認定となりました。

横浜国立大学は私有地ではあるのですが、構内をバイクや自転車が走っていて、ほぼ「街」のような環境です。そこで関係各位の承認のもと、電動キックボードを走らせ、実証実験を無事に終えました。

次はいよいよ公道での実証に向けて調整を進めています

当然いろいろな懸念があり、事業を始めた当初は安全性の検証さえ進んでいなかった“鶏の卵”でした。これが徐々に進んできています。

※規制のサンドボックス制度とは
新たな技術の実用化・ビジネスモデルの実施が、現行の規制との兼ね合いで難しい場合に、必要に応じて現行規制の見直し・変更を行なう。これにより、新しい技術やビジネスモデルの実現を目指す制度。IoT、ブロックチェーン、ロボット、モビリティ等の領域で利用されている。

あわせて僕らとしては

規制の適正化は、国や自治体に、ポジティブに求めていきたいですね。

そもそも、現行の道路交通法だと、電動キックボードは原付扱い。運転免許・ヘルメットがないと乗れません。もちろん安全には最大限配慮した上で、日本に適した形を見つけたい。例えば、現行の原付扱いだと、電動キックボードは皆さんの街によくある自転車専用レーンに乗ることができません。つまり、自転車と同程度のスピードのものが、車道のど真ん中を走ることになるのです。

また、僕らは電動キックボードは「時速20km」くらいで走るべきだと考えていて。これは電動アシスト自転車のトップスピードより遅い。また機体も非常に軽量。もちろん、スピードが出ない、軽量だから安全、というわけではないですが、個別のモビリティに合わせたルールがあるべきだし、適した形が必要だと考えます。

法令に関する個人的な危惧としては、新たな技術と「前時代の法律・社会文化」が衝突してしまうこと。少し昔の話ですが、イギリスは「蒸気自動車」において世界に先駆けて発達したのですが、自動車産業で遅れをとってしまった。これは赤旗法(※)という「自動車が公道を走る速度を3kmに制限する法律」をつくったことが原因とされています。トヨタを生んだ日本が「電動マイクロモビリティ」で同じ轍を踏んではいけない。現代の日本版赤旗法が施行されることだけは避けたいです。

※赤旗法とは
19世紀後半にイギリスで施行された法律。歩行者や馬車の安全を考慮し、自動車は、市街地で時速3㎞までしか出せなかった。人間が歩くスピードが時速4.5㎞、日本で走行するシニアカーが時速6㎞であることを考えると、いかにスピードが出せなかったか分かる。

僕らは21世紀のJRになる

電動キックボードの実証実験の実施回数や実施場所でいえば、Luupが最も多いんですよね(2020年7月現在)。日本の道、日本での安全性、危険性、ここについては自分たちが一番データを持っていて、把握している自負があります。面倒すぎて誰もやらない。だからやる。それが、Luupの存在意義です

将来、子どもたちが「LUUP」ってJRが運営してるのかな?と思うくらいの存在になりたい。それがインフラになるということですよね。僕自身「50年後の日本のインフラをつくる」ために起業したんです。50年後に振り返った時、「あの時に作ってなかったらやばかった」と言われるものをちゃんとつくりたい。

実は介護士版Uber事業を日本でやろうと考えていたんですよね。ただ、東南アジアでマッサージ師や介護士の派遣サービスが成立しているのは、電車社会ではないため人が分散して住んでおり、かつみんな原付・自転車で移動しているからだ、と気づきました。日本だと免許を持つ人が少なく、車道にバイクや車を一時停車することへの規制も強く、駅から遠いところに人を輸送する力が弱い。まずはここだ、と考えました。

日本には素晴らしい鉄道があり、交通網がある。それを前提に、マイクロモビリティで移動の利便性を高めたい。鉄道やバスが大動脈であるのに対して、LUUPは毛細血管のようになることを理想としています。

はじめる前は多くの方に反対されましたが、やってみると「一緒に社会実装していこう!」という応援の声がとても多かった。

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投資家のみなさんはもちろん市長、区長、官僚の方々…多くの応援をいただいています。それはきっと「折れない」からだと思うんです(笑)必ず電動マイクロモビリティのシェアリングを広めて見せる。そのために小刻みであっても、粘り強く地域と調整・交渉をしながら、一歩ずつ前に進んでいる。応援団として巻き込んでいく。

僕らが近い将来、日本の重要な課題を解決する、社会に対して不義理なく進めている、そう信じてもらえているのだと思います。こうした方々の期待に応えていくために、あとは進めていくだけですね。


取材 / 文 = 林玲菜


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