2012.07.24
ゲームデザイナー 米光一成が見据える、クリエイターのキャリアとゲームの未来。[前編]

ゲームデザイナー 米光一成が見据える、クリエイターのキャリアとゲームの未来。[前編]

『ぷよぷよ』『バロック』の生みの親であり、現在は立命館大学教授として次世代のクリエイター育成に取り組んでいる米光一成さんを直撃。ゲームクリエイターに開かれた新しいキャリアの可能性について、考えを伺った。

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ゲームは、衰退産業なのか?

米光さん大

ゲーム不況が叫ばれて久しい。一方で「ゲーミフィケーション」というキーワードが生まれ、ゲームの方法論にさまざまな方面から光が当たり始めているのも事実だ。そんな現在の状況を、『ぷよぷよ』『バロック』といったタイトルで知られるゲームデザイナーの米光一成さんは「ゲームの第二勃興期」と捉えているという。

「数年前から統計的にゲーム業界の伸びが鈍化していると言われてはいますが、広い視野で見ればゲーム業界はどんどん面白くなっていると思うんです。ゲーミフィケーションという言葉に表されるように、これまでコンピューターと人の間で完結していたゲームというものが日常生活の中にまで入り込んできている。ゲームではないものまでゲーム的なシステムを取り入れるようになってきたことで、ゲームというジャンルの境界線が限りなく薄まってきているんだと思います」

そう語る米光さんは、“ゲームのこれから”をどのように見ているのだろうか。ご自身のゲーム観から、ゲームクリエイターのキャリア、これからのゲームの可能性にいたるまで、考えを伺った。

ゲーム的発想が求められるのは、もはやゲーム業界だけではない。

米光さん左A

― 米光さんは今、大学でゲーム制作を教えていらっしゃいますよね。今、ゲームというものに対する考え方や捉え方がどんどん多様化しているように思うのですが?

歴史をたどると、まずボードゲームのような原初的なものがあって、『ファミコン』の登場が1983年。その10年後に『リッジレーサー』というポリゴンでテクスチャをはった3Dのゲームが出てきました。翌年『PlayStation』が出て、立体的な空間の中で遊ぶゲームが当たり前になって。10年後に『ムシキング』が出て、それからニンテンドーDSの『脳トレ』のような純粋な娯楽目的だけではない、従来のゲームから一歩外にでたものが出てきた。そのあたりから、ゲームが現実社会に対して浸透拡散しはじめました。

少し前から、「ゲーミフィケーション」という言葉が流行り始めましたよね。私自身、ゲームはもうゲーム業界だけのものではないと考えていて、ゲーム的な考え方が世の中のさまざまな場面で求められるようになってきていると感じています。実際に私が大学教授として教えているのもゲームのことですし、電子書籍関連のプロジェクトにも関わっています。

講談社さんの『プロジェクト・アマテラス』というWEBサイトをご存知ですか?インターネット上で新たな作家を発掘しようという企画なのですが、実は私もアドバイザーとして参加しているんです。そこでの私の役割というのが「このプロジェクトをどうやって面白がってもらえるものにするか」という、デザインやコンセプトを考えるところなんですね。“それってゲームデザインなの?”という仕事ではあるのですが、私に声がかかったのが“ゲームを作っている人だから、世の中に面白がってもらう方法を分かっているだろう”と、そういう理由で。ゲームクリエイターという職業が、本当にさまざまなところで活躍できる時代になったなと実感しています。

例えば、自動販売機をゲームクリエイターがデザインするという可能性。

米光さん右A

― 米光さんのように多方面で活躍されるゲームクリエイターというのも珍しくなくなってきているのでしょうか?

うーん、まだそう多くはないでしょうね。だから仲間が欲しいんです、私ももっとやりやすくなるし(笑)

でも、他の業界とぶつかって何かをする準備は整った感じがするんですよね。今、さまざまな企業で決定権を持っている人たちが、ようやく小さいころからゲームをやった世代になっているんですよ。中学で『スペースインベーダー』をやったり『ファミコン』で遊んだ人たちが40代になっているわけです。以前は「ゲームなんて遊びだろう?」「ビジネスは遊びじゃないんだ!」とマイナスの空気だったのが、今ではゲームの話を充分理解してもらえるようになっている。ゲーム業界という小さな枠から半歩飛びだしても、自分が面白いと思っているゲームの仕事ができるようになってきたと思うんです。

ゲームと全然関係ない会社に転職してゲーム的な発想でインターフェースデザインをやっている人もいますし、カーナビのデザインをやっている方も知っています。それこそ自動販売機にゲームデザイナーが関わればもっと使いやすいものができると思うし、あとは組織のシステムを作るのもそう。会社の中でどう快適に仕事をするかという部分をデザインすることも、ゲームの仕組みを応用すれば面白くできる。ゲームクリエイターがもっと外に目を向けて、こういうシナジーを生み出していけば、きっと世界は面白くなると思います。

ゲーム業界とは違うフィールドに身を置いてみて、人を楽しませる技術に関してはゲームクリエイターに一日の長があると改めて感じています。極端な話、ゲームってやらなくてもいいものなんです。だからゲームは最初から面白くないといけない。私がゲーム会社に始めて入ったときに先輩から言われたのは、「最初の10分間やって面白くなかったら、ユーザーはやめてしまう。だからそこまでに面白いことを示せ」と。昔の携帯電話ってマニュアルが500ページとかありましたよね。操作も結構難しかったりして。それでも必要だから使ってくれたわけですけど、でもその苦労はなくていいものじゃないですか。だからすぐに使えるようになる工夫とか、快適に使えるモチベーションを維持できる工夫って分野を問わずとても重要だと思うんです。そして、そのノウハウは実はゲームの中に注ぎ込まれていたりする。

これだけモノやサービスが溢れてコモディティ化した時代ですから、どんな場面でもプラスアルファの価値が求められますよね。ゲームクリエイターって「いかに人をひきつけて、いかに止めさせないか」と本当にそればかりを考えてきた人たちなので、そのプラスアルファを生み出せる可能性は充分にあると思います。


[後編]はこちら


編集 = CAREER HACK


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