『ぷよぷよ』『バロック』の生みの親であり、現在は立命館大学教授として次世代のクリエイター育成に取り組んでいる米光一成さんへの独占インタビュー。後編では、自身のゲーム論とこれからのゲームの可能性について語っていただいた。
― ゲーム業界の外側にもクリエイターの活躍の場が開かれているというお話でしたが、ゲーム業界自体はいかがでしょう?ここ最近「ソーシャルゲーム」が注目されているかと思うのですが…。
まずソーシャルゲームとは何ぞやというところから整理すると、ソーシャルって「社会」という意味ですよね。そこでいくと、ゲームは本来、ソーシャルなものなんです。私がゲームをはじめた頃は、友達が家に遊びにきたり、友達の家に遊びに行ってゲームをやっていた。中学時代の友達なんかゲーム友達ばっかりなんですね。当時は「あそこどうやってクリアした?」とか、夜中に電話して聞いたり。
『ドラゴンクエスト』って一定時間何も動かさないと画面にレベル表示が出るようになっているんですが、あれも実はプレイヤーのための表示ではない。開発中に「これはプレイしているとき、うしろから見ていても面白い」という意見が出たらしくて、「だったら、うしろで見ている友達も“今どれくらいのレベルなのか”分かったほうがいいだろう」と。
つまり、当時からゲームはソーシャルを意識した作りになっていたわけです。コンピューターと人が1対1でやっているところに、どうやって別の人をつなげていくか。そのテーマは、それこそゲームの勃興期から考えられていた。
それが最近になってインターネットでゲームができるようになり、ゲームそのものを通じて人と人を結びつけられるようになった。そこから「ソーシャルゲーム」という言葉が出てきたんだと思います。ソーシャルゲームの初期段階では「ただボタンを押すだけじゃないか」と懐疑的な声もありましたが、今では『パズル&ドラゴンズ』のような、従来のスタンダードなゲームとしても充分通用するクオリティで、かつ高いソーシャル性を備えたゲームが出てきています。
個人的にこの流れは一過性のものではなく、今後さまざまなゲームがネットワークでつながることによって、より面白くなっていくんだろうと思っています。人と人とのやり取りを、しっかりとゲームを軸にして展開できると面白いですよね。
― 米光さんが考える、面白いゲームの条件とは?
私の好みでもあるんですが、ゲームで一番大切なのは「インタラクション」だと思っています。インタラクションって、英語だと“inter”と“action”。お互いにアクションするのがインタラクションなんです。例えばあるゲームで「ボタン押すと電気がつく」というルールがあったとします。そのままだとただのリアクション。インタラクションにはなっていない。でも、そのボタンが「押してくれ!」と誘惑してくる演出を入れると、インタラクションになるんです。
そういうインタラクションを生じさせる工夫ができているかどうか。例えばゲームオーバーになったとき、「あそこでこうやっておけばクリアできたかも」とか「次はイケる」と思わせる仕組みがあるか。そこは、ゲームの面白さに直結していると思いますね。
― 米光さんの中で、ベストなゲームを一つあげるとすると?
なんだろう…好きなゲームはたくさんあるので…。あえて一つあげると、『テトリス』はやっぱり衝撃的でしたね。当時、ゲームの表現力が高くなって、開発期間も人数もどんどん増えていっている中でテトリスが出てきた。ついつい絵がすごいとか敵がいっぱい出るとか、そういう方向に進みがちになっていたところで、“いろんな道があるぜ”って気づかせてくれたのがテトリス。こんなにシンプルなのに、面白いものはこんなに面白いんだと。
テトリスの面白さを分析するといろいろ出てくるのですが、一つは「運と技のバランス」。技だけだとつまらないんですよ。運の要素が全くないゲームは、強い人が必ず勝つんです。でも、そこに少し運の要素が入ると、ダメだったのは技術のせいじゃなくて運が悪いからだって、運の問題にできる。「縦長のスペースがこんなにあるのに、長い棒が全然でない!」って(笑)
テトリスはそのバランスがとてもよくできている。プレイを続けているとバーの落ちるスピードがどんどん速くなるじゃないですか。それもただ加速度的に速くなるのではなく、速くなって落ち着いて、また速くなって落ち着いて…という具合に波があるんです。だから速いペースを乗り越えると、ちょっとラクになる。それがプレイヤーにも感覚的に伝わっているから、ゲームオーバーになったとき「もう少し頑張れば乗り越えられたのに!」という感情がわいて、リプレイしたくなるんですね。あれだけシンプルなゲームなのに、細かいところがすごく工夫されているんです。
― 最後に、ゲームはこれからどうなっていくのか、米光さんの見解を教えてください。
まず新しい潮流として、小さな規模で作ったゲームを、多くの人に遊んでもらえる環境ができてきている点には可能性を感じます。iPhoneとAndroid用のゲームアプリで『ぐんまのやぼう』ってご存知ですか?各都道府県を制圧して日本を群馬県にするという冗談みたいなゲームなんですけど、Twitterで一気に広まって。作者の方が、現実に群馬県の観光特使に任命されたそうなんです。私もあのゲームをやっていると妙に群馬が気になってきて、ちょっと行ってみようかなと…(笑)
コンピューターゲーム全般に関していえば、やっぱりネットワークにつながったのは大きい。『ドラクエ』の世界で、全国のプレイヤーが集まって遊べるなんて夢のようですよ。
iPhoneの小さなゲームでも、絵を描いて当てっこするゲームがあって。例えばバンパイアってお題が出て、私がバンパイアの絵を描くと、相手側にはその絵だけが送られるんです。その絵が何なのかを当てるとクリア。単純だけど、これが面白いんですね。友達とやっていたら6歳の娘が描き始めたらしく、送られてくる絵がもう何がなんだか分からないんです。でも、子供が描いてるのを知ってるから何とか当ててあげたくて(笑)。不思議な感情でしたね。コンピューターの中で起きていることなんだけど、だからこそ生じる感情があった。ゲームって、今までとは違うもっと豊かな何かを表現できるようになってきているんでしょうね。
あと広義のゲームという観点でいえば、SCRAPさんがやっている『リアル脱出ゲーム』も面白い。例えば遊園地で「60分以内にこの遊園地から脱出しなければなりません」って、リアルな空間で脱出ゲームをやるんです。園内にいろんな謎が貼ってあって、チームでその謎を解いていって。SCRAPさんはそれを、依頼に応じて結婚式の余興や企業の入社後研修でやったりもしているそうです。これも、さまざまなフィールドにゲームが浸透していける可能性の一つだと思います。
本当に、いまゲームクリエイターにはいろんな可能性が開かれていると思います。従来のゲーム業界で戦っていくという選択をしたっていいし、そこで何か行き詰まっているなら、業界の外でゲーム的な仕事を模索したっていい。まさに今、「ゲームの第二勃興期」が来ているんだと思います。
編集 = CAREER HACK
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