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ユーザーを置いてきぼりにすることに誠意はあるか?|クックパッドアプリ・メジャーアップデートのウラ側

2014-04-08

ユーザーを置いてきぼりにすることに誠意はあるか?|クックパッドアプリ・メジャーアップデートのウラ側

アプリフルリニューアルの際、一部機能を削ぎ落として再構成したクックパッド。直後、レビューが荒れながらも、利用者数を大きく伸ばした。そのプロジェクトを指揮したのが、現ロールケーキ社取締役兼デザイナーの伊野亘輝さん。彼は、どのようなキャリアを歩み、アプリフルリニューアルの経験から何を学んだのか?

クックパッドアプリの大リニューアルを成功に導いたデザイナー

昨年2月のアプリフルリニューアルを果たしたクックパッド。そのプロジェクトを指揮したのが、現ロールケーキ社取締役兼デザイナーの伊野亘輝さんだ。

既存の一部機能を削ぎ落としてアプリを再構成し、レビューが大荒れすることを事前に想定していながら、社内を説得してフルリニューアルを断行。結果として利用者数を大きく伸ばすという実績を作った人物だ。

一見、ユーザーの声を無視する選択ともとれる決断の背景には、どんな思想があったのか?また、伊野さんはどのようなキャリアを歩み、アプリフルリニューアルの経験から何を学んだのか?

プロダクトを生み出し、より良くしていくためにウェブサービスに携わる者が大事にすべき考え方のヒントを探ったみたい。

生粋のジョブホッパー

― 現在「レター」を手掛ける伊野さんですが、そこに至るまでのキャリアについて伺えますか?


伊野亘輝さん

伊野亘輝さん

大学では経済学を専攻していたんですが、ろくに就職活動もせず卒業後は1年間はひたすら自分の将来に悩んでいましたね。その不安感が積もりに積もった時、自分が何をやりたいかとことん考えぬいた結果「僕はモノを作りたいんだ!」と強烈に思ったんです。

もともと父が設計士で、ものを自ら考えて創るということがすぐそばにある環境で育ったことも影響しているかもしれません。真っ白な紙の上に線を引くことから始まり、だんだん形になって、実際のモノになる。ときどき街歩いてると「この場所はお父さんが手掛けたんだ」って言われた記憶があるんですが、よくわからないけどすごいなって(笑)。

ただ、モノづくりに携わる道に進むと決断した時は、お金もスキルもコネもない状態で。バイク便で生計を立てながら、デザイン系の専門学校に通い始めて一定のスキルをまずは身につけました。

それから知り合いの会社を手伝うところから始まり、制作会社、音楽系の会社への勤務を経て一度フリーに。改めてECベンチャーでアートディレクターとして働いたり、様々な経験をさせてもらいました。


― まさにジョブホッパーですね。


ええ。先日数えてみるとロールケーキの起業を含めて9回、仕事を変えたり働き方を変えていたんです。我ながら色々やったなぁと思います(笑)。いまさら回数について気にもしませんが、どこもネガティブに辞めた事はなく、次にやりたいことを見つけたから辞める、という感じでしたね。


― いまの仕事内容や役割に影響を与えたのは、いつ頃のことなんでしょうか?


転機となったのは、VOYAGE GROUPでの経験ですね。

それまでやってきたことは、「作り手の思い描いていたものを自ら考えてカタチにする」という作り方。でもVOYAGE GROUPでは当時からUXデザイナーが在籍していて、「使う人が何を達成するのか?使う人のゴールはなにか?」を設定してからプロダクトに落としこんでいくというものだったんです。

その作り方は当時の僕にはすごく新鮮で、面白い、正しいと思えるアプローチでした。そこで携わっていたサービスは多くて10万人くらいの規模で一定の成果が出せた。次は、同じやり方で、より多くのユーザーのいるところで試してみたい、自分が好きだと思えるサービスに関わりたい、そう思いクックパッドの門を叩いたんです。

クックパッド・アプリメジャーアップデートの裏側

― クックパッドでは入社3ヶ月ほどでアプリのリニューアルを提案したそうですね。順調に成長している中、どうしてある意味リスクを抱えてまでやったんでしょうか?


そもそもWEBサービスは、アップデートしていくことが前提だと思っています。そのために段階的かいっぺんにやるかという選択肢はあると思うんですけど、どちらにしろアップデートは必須です。必須ではないとすると、私たちが大事だとしているお客さんを昔の技術やユーザビリティのところに置き去りにするわけですよね。それは誠意なのかということです。技術はどんどん進化しますし、インタラクションによってコンテンツも変わっていきます。なにもしないという選択の方が大きなリスクではないでしょうか。


― なるほど。それでは、段階的ではなくフルリニューアルを選択したわけは?


言いづらい部分もあるのですが…、当時のアプリはコードも変更容易性も低く、かなりレガシーなものだったんですね。そういうものを引き継ぎながらやるとコストが高くつくし、「できないこと」がどんどん増えていく。それならばいっそこのタイミングで、そもそも使っている人たちは「本当は何を達成したいのか」というところからちゃんと設計してフルスクラッチで組みなおし全部やりなおそうと。


― 社内での反対や抵抗は?


もちろん多少なりともありました。クックパッドの人たちは、ユーザーからどんな声があがっているのか、どの職種の人でもある程度知っているんです。だからこそ、予想していなかった批判が出るのは良くないけど、予想して対応しながらやっていきましょうと話を進めました。

なにより、トップから「やってみろ」「いいものを提供できればユーザーも必ずついてきてくれる」という言葉があったのが大きかったですね。また、直属の上司もアップデートの必要性を感じていたし、僕の提案も議論しながら納得してもらえました。

更に追い風だったこととして、アプリがプラットフォームから閉め出される危険を回避する必要がありました。というのも当時、iOSアプリ内の月額課金モデル(Auto-Renewable Subscriptions) がアップル社内で揺れていたんです。メディアじゃないものに使わせないという方針があって。紙面的なメディアではないので、都度課金してくださいと。その危険を回避するためにも、メジャーアップデートは必須というコミュニケーションをした背景があります。


― 結果、レビューが一時荒れるものの、利用者数を大きく伸ばせたと。


体験を再設計したので、ユーザーの行動はおのずと変わるんですよね。行動が変わると数字に現れる。その数値が、アップデート前に比べると大幅に上がってホッとしたのは覚えています。これでダメだったら勉強しなおしだなと思ってたので。ギリギリ社内に居場所を確保して、あぶねーって(笑)

鍵はユーザー体験をどこまで深く設計できるか

― 結果が出た段階で、気づけたことは?


当たり前のことですが、サービスって企業側のベネフィットだけ考えるものじゃないということでしょうか。それはあとからついてくるもの。「ユーザーのゴールを達成するものを作る」ということは間違ってないなとは再確認できましたね。


― 具体的には?


例えば、レシピを保存したいって思うじゃないですか。でも、レシピを保存することはゴールでもなんでもないんですね。そんな目的の人はいないんです。レシピを保存したい理由は、またこのレシピに会いたいから。更にいうと、美味しいものをもう一度作りたいから、もっと掘り下げると、自分も食べたいし大切な人に食べさせてあげたい、最終的には「自分は頑張っているよ」ときっと心のどこかで認めてもらいたいから。そこまできてやっとゴール。そこまで見越していきたいといつも思っています。


― 伊野さんの働きや考えは単なる「デザイナー」にとどまっていないですよね。


うーん。なんなんでしょうね(笑)ロールケーキでも建前上「デザイナー」ですけど、ビジュアルコミュニケーションから設計、体験など、プロダクトの質に関わるもの全ては僕が責任をもっていますし…。


― それでは、そのスキルを身につけられたきっかけや環境、大事にしている考えなどありましたら教えてください。


恵まれていたなぁといえることの一つに、やりたいことを実現する能力を持っている人が近くにいた事ですね。iOSエンジニアの永野という者なんですが、彼の理解と後押しも大きかったですね。

技術的なアドバイスやプロトタイプの早さだったり。VOYAGE GROUPからずっと一緒にプロジェクトに携わってきていて、クックパッドでのアプリリニューアル、そしてロールケーキでの起業までずっと一緒にやって来ました。

どちらも大事にしていることは、アラン・クーパーが提唱したインタラクションデザイン方法論「ゴールダイレクテッドデザイン」みたいな考えです。要するに、ユーザーがどんなゴールを達成するのかという一点だけを見て自分たちで考えていくんです。企画も設計もビジュアルコミュニケーションも。そのスキルと経験は「レター」にも活かしています。


― お!それでは、引き続き、ロールケーキでの起業とレターの開発しそうなどお聞かせください!


      

▼ロールケーキ・伊野さんへのインタビュー第2弾
誰と、どんな事業を、いかなる思想で行なうか?|ロールケーキ伊野亘輝の選択。


[取材] 梁取義宣 [文] 松尾彰大




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