「家を自分でスマートハウス化する」そんな面白い取り組みを個人で始めた南雲玲生氏。伝説の音楽ゲーム『ビートマニア』やヒットアプリ『斉藤さん』の仕掛け人だ。その南雲氏が「スマートハウスについて意見を伺いたい」とハードウェアスタートアップで活躍するメンバーに声をかけた。その座談会の様子をお届けする。
「IoT(Internet of Things)」モノとインターネットがつながる時代――その中でも注目されてれるのが「家」だ。経済産業省の制度検討会で全世帯へのスマートメーター導入がほぼ決まり、家庭用の太陽光発電システムや蓄電池も増えてきた。
ただ、現状を見れば、HEMS(家庭内のエネルギー監理システム)にしても、スマート家電・スマートハウスにしても、キーワードとして広まっているものの、まだまだ身近ではない。メーカーによって設備の規格が異なっていたり、ユーザーの使い勝手が考えられていなかったり。
もっといえば、本当に「スマートな家」とは、どのような家なのか?
疑問を抱くだけでなく、「自ら作ってしまえ」と考えたのが、今回の座談会の発起人となった南雲玲生氏。ビートマニアの父にして、大ヒットアプリ『斉藤さん』の仕掛け人だ。南雲氏は「家をスマートハウス化するにあたってぜひ意見を伺いたい」とハードウェアスタートアップで活躍する方々に声をかけた。
このような経緯で実現した座談会の様子を特別企画としてお届けする。身近なモノをハックし、「今までにないものを世に生み出す」という視点に触れられるはずだ。
[参加者]
南雲玲生/青木俊介(ユカイ工学)/石橋秀一(Sassor)/久川真吾、久川まり子(鳥人間)
[記事ハイライト]
・簡単に安くできる「のび太くんの家」のスマートハウス化
・ECという巨大市場につながっていくスマートハウス
・未来の家におけるキーワードは「コミュニケーション」
・座談会を終えて―便利なものより「面白い」でキャズムを超える
・編集後記
Open Network Lab会議室で開催された座談会。まずは発起人である南雲氏による「スマートハウスを自ら作ろうと考えた経緯」の説明からスタートした。
南雲:まずなんで自分でスマートハウスを作ろうと思ったか、説明したほうがいいですよね。マンションから一軒家に引っ越そうと考えて、新築で探し始めたんですけど、あまりに「出来ないこと」ばかりだったんですよ。
車だとキーレスエントリーが当たり前でも、住居の電気錠は普及していないとか、納得できるモノもなくて。新しく家を作るなら「もっとこうしたい」が出てきてしまう。
それならのび太くんが住んでいるような中古物件を買って、好き勝手いじったほうが面白いと思ったんです。あと日本ってみんなが似たような家に住んでいてヘンですよね。だから、自分だけの家を作ろう!と。
久川真吾:電気錠のお話がありましたが、メーカーごとに規格が違ったり、価格が高かったり、色々問題はあるのかもしれませんね。ただ、もう今の時代だと、マイコンを使って誰でも簡単に作れてしまう。材料費だけで言えば、2000円くらいかな。私たちも作ってみたものがあるんですよ。
(githubはコチラ)
南雲:すごい!コレさっそく買いますよ!
久川真吾:ありがとうございます(笑)。あとAndroidの音声コントロールでエアコンがつく、お風呂が沸く、というハックもやりました。何かしらのトリガーで設備を自動的に動かすのはもう難しいことじゃなくなっているんですよね。
久川まり子:たとえば、Kinectでジェスチャーを読み取らせて動かすことも出来ますよね。照明を指さすと電気がつくとか。特別なポーズをとると、家のなかで何かが起こるみたいな感じで。
南雲:すごい!本当に色々できそうですね。僕はハードウェアのプログラムが組めないから、難しいことはやってなくて。たとえば、いろいろなデスクトップのリモートコントロールを使ったり、既存サービスを連携させたり、ブログで書いたんですけど、工夫でなんとかやっている感じ。メールをトリガーにして照明や音楽を遠隔で操作したり。
今はhueで色々実験していて、個人なら日本で一番買っているかも(笑)。JAWBONEのUPを使っているから、ランニングした距離とか、体のコンディションに合せて照明の明かりを調整してみたりとか。
日本での防犯って「鍵をしっかり掛ける」という発想ですが、欧米だと「人が生活しているように見せる」を重視したりするんですよ。そういう観点で夜も照明の色が自動で変わるようにしたり、僕が家から離れたらスマホのラジオアプリ(radiko)が自動で起動したり、そういったことをやっていますね。
久川まり子:私たちの場合「じゃあ何を作ろう?」という発想なんですけど、「何をどう使おう」という発想がすごく面白いですね。
続いて「どういった家にしていくか?」と構想が語られた。ビジネスとしての可能性にまで話が発展。意見交換は大いに盛り上がった。
南雲:これからどういうことをやりたいか?という話ですけど、やっぱり「日常の生活で当たり前になること」に着地させたくて。照明とか、衣食住とか、そういった部分のサポートですよね。だからアマゾンやスーパーマーケットのECに結びつけたい。
久川まり子:ECでいえば、ここ一ヶ月くらい温めていたネタで…初めて披露するんですけど台座がネットにつながって、重さを感知するガジェットも作ってて。予め決めておいた重量になるとアクションが起こる。たとえば、猫缶とか、ビールとか、醤油とか、消耗品ってありますよね。それが減ると自動発注するとか(画像右)。
久川真吾:レストランでお皿の上の料理がなくなったとか、冷蔵庫に敷き詰めて何が不足しているとか、いろいろできそうだね。…でも、そんなことやっていたんだ。
久川まり子:えっと…こっそりと(笑)。構想の段階で話すとケチをつけられるから…。
一同:(笑)
南雲:やっぱり出口は大きいほうがいいですよね。狂ったようなデバイスがあって、ECのトリガーになったり。たとえば、おじいちゃん、おばあちゃんの座布団に圧力センサーをつけて心拍まで計測して、遠隔から状況がわかるとか。
久川真吾:電気錠と赤外線センサ、Kinectを組み合われば、家でのお年寄りの行動パターンが追えるかもしれませんね。たとえば、「おばあちゃんが立ち上がった。この行動パターンはお風呂に行くだろう」と家が判断して、お風呂が最適な温度になり、ドアに近づけば自動で開閉する。部屋を出れば廊下の照明も勝手について。
スマホが鍵になる電気錠はもうあるんですけど、ヘルパーさんが来る時間だけアクティブにして、ヘルパーさんに物理的な鍵を渡さなくても、スマホで家に入れるようにしたり。近所の人に昼間だけ家を貸すとか、特定の部屋だけを貸すとか、色々出来そうですね。物理的に鍵をコピーされる心配もないですし、そもそもノブがいらなくなるかもしれません。
南雲:子ども部屋につけて「宿題が終わるまで部屋から出さない」とかもありですか?
青木:それ監禁じゃないですか、だめですよ!
一同:(笑)
石橋:さっきの「行動データ」という話だと、HEMSのデータを活用する動きもあるんですよね。HEMSは家庭内のエネルギーを管理するシステムで、国が補助金を出して、普及させているんですけど、いつどの家庭でどれだけ電気が使われたかわかる。
だから、「帰宅した」「食事を始めた」「寝た」「起きた」とアクションデータが取れるんです。もっと進めば「家族の誰が家にいるのか」こういったこともわかるようになるはずです。リアルタイムでデータを取って、冷蔵庫の空き具合をプッシュで教えたり。長い目で見ると、子どもが生まれた、車を買ったみたいなライフステージの変化も把握できるようになると思います。
面白いのは「年収が一定以上の人における生活の特徴」がわかったりするんですよ。たとえば、週末にパーティが開かれていて、夜中まで電気が使われているとか。
久川まり子:へぇ!自分のデータをライフログ的に見るのも面白そうですね。
南雲:あとはアクションと紐付けて広告を出すとかですよね。テレビや冷蔵庫で。ただ、「便利」や 「面白い」とかユーザーにとっての価値が先にこないとダメですよね。データだけとられて、バンバン広告を打たれても不快なだけで。
久川真吾:そこって本当に大事で。広告の話ではないですが、私たちが作ったこの電気錠も、たとえば、出資を受けて「単一の商品」として量産するかと言えば、しないんですよ。別に鍵を作って儲けたいわけじゃないから。世の中が便利になったり、楽しくなったり、そういったサービスや体験の一環として提供したいんですよね。
青木:スマートハウスって、キーワードは出ているけど…南雲さんみたいに個人で楽しんでいる人は初めて会ったかもしれません(笑)。
現状でいうと、結構メーカーさん都合なところもあったりして。この前、実際に見せてもらったんですけど、太陽電池、燃料電池…いろいろなコントローラーがこんな感じになっているんですよ(画像左)。
南雲:全然スマートじゃない!標準でこれですか?展示じゃなくて?僕の家だと、電力まわりは半年後の課題にしているんですけど…やばいですね。
青木:そうなんですよ。規格や制御がバラバラだったりして、こうなっちゃう。
国内の家電でいえば、スマートハウス向け制御プロトコルで『ECHONET Lite』という経済産業省が決めた規格があるのですが、これも政府が補助金を出して広めようとしてるんですけど、無線制御には別売りコネクタが必要だったり。家電メーカーさんも「国が言っているから」と対応するけど…使いやすいかどうかはわからないですね。
久川真吾:それなら自分で作っちゃったほうが早いですね。
南雲:国や大きなメーカーさんが規格を立ち上げて…というやり方はあるだろうけど、無線制御とか誰かが勝手に作って、それこそLINEでスタンプを送って家がコントロールできたら、そっちのほうが意外と普及しちゃうんじゃないですかね。
僕はシャープさんが出している『COCOROBO』を買って、スマホで操作できたり、すごく面白くて。でももっと可能性がありそうな気がしているんですよ。
青木:あ、僕、じつは『COCOROBO』の開発、ちょっとだけお手伝いしていたんですよ。
南雲:そうだったんですか!持ってます、持ってます。すごくいいんですけど…もう掃除しなくてもいいんじゃないか?くらいに思ってしまって(笑)。僕がやっているユードーという会社で『斉藤さん』という知らない人同士がテレビ電話で話せるアプリを出したんですけど、そのノリで知らない人の家に遊びにいけたら面白いのかな、とか。VoIPとロボットと組み合わせて違和感なく話せるようにしたりして。
青木:そういえば、飲み屋でありましたね。飲み屋さんのテーブルにロボットとWEBカムがあって、その中継を見ながら酔っぱらいに話しかけられるというやつ。で、もし酔っぱらいが面白いことを言ってくれたら、ポテトボタンがあって、見ている側が押すと、酔っぱらい側にポテトをプレゼントできる(笑)
お年寄りで誰でもいいから話したい人もたぶんいますよね。そういった方をランダムにつないでロボットでコミュニケーションが出来たらいいなぁと考えたこともありましたね。
南雲:コミュニケーションに展開させるっていいですよね。最近、『斉藤さん』に搭載した機能があって、通話相手にポイントが送れる機能で。知らない人が、知らない人にポイントをあげられる。昔だったら、近所のおばさんがお駄賃をくれたり。リアルな関係からの発想だったんですが、今はちょっとヤバい使い方をする人も出てきてしまって、健全化に向けて全力で運営を頑張っているところなんですが…。
ただ、やっぱりリアルな口コミに勝るものはない。正直、Twitterやfacebookのバイラルってあまり意味はなくて、強制力がないんですよね。直接的なコミュニケーションで語られる「面白い」「やってみなよ」「やばい」「きもい」には強制力があって。たとえば、オススメされたその場では「まさかやるわけないじゃん」と言っても、家に帰ってこっそり一人でやってたり(笑)
僕がやってきたのは、わかりづらいもの、むずかしい技術を、エンタメにして、市場を創ることなんですよね。『ビートマニア』は楽譜が読めない人に音楽を作る楽しさが伝わるエンタメだし、『斉藤さん』はドコモがFOMAでやって流行らなかったテレビ電話を「知らない人と話す体験」にしてヒットしたり。もしかしたら、スマートハウスも作る過程でブレイクスルーがあるんじゃないか、と思っています。
座談会の最後には、参加者全員より感想をもらった。その感想を一人ずつ見ていこう。
石橋:IoTの時代と言われていますが、スマートハウスやホームオートメーションは結構前から言われていて。ただ、それがビジネスとして大きくスケールした事例はまだ見たことがありません。
色々なものがネットにつながり、それがどうキャズムを超えるのか。わかりやすいメリットが必要なBtoCのマーケットだと特に答えが出ていない。だから、南雲さんが持たれているような視点って、この業界にとってすごく大事なんだと感じることができました。
久川まり子:スマートハウスってアプローチが二極化しているんですよね。国やハウスメーカーさんが規格を作って普及させるトップダウン型と、我々みたいなオタクが「うぇ~い!」とか楽しんで色々作るボトムアップ型と。
どちらが勝つかはわからないけど、トップダウンは規格の導入を義務づけたり、「それがないと暮らせない」とするやり方ですよね。
で、ボトムアップの戦い方は「面白くみせる」なのかなと思ったんです。便利だから使おうじゃなくて、面白いからやってじわじわ広まって…気づいたらキャズム超えちゃった!こういうのが理想的ですよね。
久川真吾:「この技術すごいでしょ」というのはやっぱり自己満足ですよね。何かを作るというのは自分が気持ち良くなるためですけど、他人も気持ちよくなって、お金まで出しちゃう人がいるというところを目指したい。だから、みんなが必要としてくれるものを作ったほうがいい。
あとはもう南雲さんが家を持っているので、いろいろなものを作らせてほしいです(笑)。家はみんな違うし、空き家だってあるし、すぐに解決できることもたくさんあって。何よりもこういう話し合いはすごく大事ですよね。
私はそれぞれの人生を尊重したいので、一部の人しか使わないもの、市場規模がマスじゃないものでも、今回の会のように得意分野を持った人たちが話して、解決しあって、だんだん広がっていったらいいなと思います。
青木:僕たちの会社は「コミュニケーションロボットをどうやってビジネスにするか」から始まったんですけど、どこで使えるだろう?と考えてスマートハウスに行き着いたんですよね。で、わかったこととして、実際、ロボットにしても、スマートハウスにしても、使ってもらって初めてわかることがある。それが正しいというか。きっとちょっと未来のスマートハウスにはロボット的なものが必要になるのだろうけど、その市場をどう創っていくか?やっぱりここが悩みですね。
南雲:家というテーマで話をしてきましたけど、家にいるのは「人」なので、「人」に近づいていくということなんですよね。「人」であり、「生活」をサポートする。ウェアラブルの一環としてのスマートハウスというアプローチというか。
個人のニーズからスタートした話ですが、聞いていくうちに、「まだ市場がない」ということに改めて気がつきました。それならボトムアップで創っちゃえばいい。やりたいし、やらなきゃって(笑)
経験則から、仕事やお金儲けでやるより、面白がって勝手にやったことのほうが、結果として上手くいくということもわかって。家も「今はどう役に立つのか理解できない」ということでも、実験して追求することで「ヤバい!」という何がが生まれるんじゃないかと思うんです。今、会社だと僕は「社長業」しか問われないんですよ。作ることはあまり求められていないから、こういうところで大暴れしたい(笑)。ベンチャーキャピタルさん、営業会社さん、不動産会社さんと連携したりも面白そうですね。ぜひまた第二回も!
そもそもは、南雲氏がどう自分の家をスマートハウス化するか?という話だったが、いかに市場を創るか?という話に発展。彼らが協力して何かを生み出すかもしれない、そう考えると今後が非常に楽しみとなる会だった。CAREERHACK編集部も今後の動きに注目していく。(※もし、似た活動をされていたり、南雲さんの活動に興味を持たれたりした方はぜひ編集部までご連絡を!)。
また、スマートハウスというと太陽光発電や蓄電、省エネなどが注目されがちだが、「スマートな暮らし」を考えた時、もっと身近で出来ることも多そうだ。
南雲氏の取り組みはいずれも既存のWEBサービスを組み合わせたもので、専門的な知識は使っていないという。また、個人のハードウェア開発における敷居もどんどん下がっている。個人のエンジニア・クリエイターが挑戦できるし、その結果として、業界を超えて活躍の場を広げていけるのかもしれない。
(おわり)
[取材・文]白石勝也
編集 = 白石勝也
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