エンジニアの伊藤直也さんを審査員に迎えて開催した《 第2回 CAREER HACK MTG 》。投稿された全60アイデアの中から伊藤直也さんが選んだ、ベストアイデアとは!?
― まずは、全体的な印象を教えてください。
伊藤:そうですね、意外性のある答えはあまり多くなかったですね。いわゆるライフハック的な回答や、根性論に終始している回答もありましたが、そういうのってほとんと長続きしませんから、あまりおすすめできない。
「部下を雇う、育てる」「誰かに仕事を振り分ける」とか、そういうタイプの回答もありました。全体としての効率はもちろん上がるんでしょうけど、今回の文脈、クリエイター・エンジニアであれば、自分で何とかしようとすることが前提になっていて欲しいですね。そういった意味では、 「SNSを使えないようにする」というような“遮断系”のアイデアのほうがピンと来ました。
― なるほど。では、その中でベストアイデア賞に輝いたのは!?
ベストアイデア賞: 『山奥で働く』(naanchattyさんのアイデア)
伊藤:今回、「あなたの仕事の生産量を 2倍に引き上げるとした場合、どんなことを習慣化しますか?」というお題を出したのは、エンジニアやクリエイターといった「モノを生み出すことを生業にしている人たち」が、いかにして「独りで考える時間」をつくっているのか、そういう話がしたかったからなんです。
「自分ひとりで考えること」や「そのための時間」というのは、何かを作る人にとってものすごく必要なものだと思います。でも今は会社に行ってもすぐネットにつないで、Facebook、Twitter…という世の中になっている。本当の意味で孤独の中に身を置く機会が極端に減って、逆に自分の承認欲求が満たされる機会はものすごく増えています。
乱暴に言えば、特に何かを達成したわけでもなしに、誰もが承認されてしまうインターネットになっているという側面がありますね。SNSに何かを書けば「いいね」と言われ、Twitterで自説を述べればある程度は何かしらの反応がすぐに返ってくる。もちろんそれで満たされることで今までに感じ得なかった幸せを感じるということもあるでしょう。ただ、何だって毒はあるものです。自分の満たされない気持ち、どうにかして世の中に訴えたいものがあるけど届かない悔しさ、そういうのをバネにものをつくったり、表現したりということが結果として作品が出ることにつながる。SNSで反応が返って、自分のちょっとした承認欲求が満たされている時、一方で、そういう大きな機会を奪われているかもしれない、そういう毒には、自覚的になったほうがいい。
極端なことを言いますが、例えば三島由紀夫などの作家は、幼少期に特殊な家庭環境で育てられたことで心に大きな欠落を持ってしまった。結果的には、その欠落を埋めようとして、あのような芸術性の高い作品を執筆するに至った。太宰治にも、そういう過去があると聞いています。ものを作るとか表現するということに、こう、何か反動的な力が作用することがあるんだということが伺えます。
…といっても、僕らみたいな凡人が、何の気なしにその領域に達するのは難しい。日々、何の意識もなく、ただネットをして人と変わらないコミュニケーションをして、ということだけ繰り返しているようではなおのことです。だからこそ、意識して人と話さず物思いにふけるとか、ネットでのコミュニケーションから距離を置くとか…ちょっと辛いんですけど自分の欲求が満たされない環境を意識的に作って、独りで考える時間をとることもときには重要なんだと思います。
そういう意味で、「ネットを遮断する」系の回答には共感するところがあったのですが、その中でも特にピンと来たのが「山奥で働く」というアイデア。これ、あながち冗談でもないんですよね。
『ネット・バカ』(原著『The Shallows』) という本を書いたニコラス・カーという作家がいるんですが、彼がその本を書く際に、ネットでのコミュニケーションに慣れ過ぎたせいで集中力が持たず、本が読めなくなっていたり、いい文章が書けなくなっていることに気づいたらしいんです。それでどうしたかというと、実際に「一年間、山にこもって執筆した」と。
回答者の方がこういう意図で投稿してくれたのかどうかは分かりませんが、実例もあるということで、今回はこちらをベストアイデアに選出しました。
― 次点をあげるとすれば?
そうですね…『幸せな家庭を築く(大林 徹也さん)』と『仕事の内容を段階的に分けて、モチベーションを上げる(zasara_haindさん)』の2つですかね。
「幸せな家庭を築く」がいいなと感じたのは、継続性があること。幸せな家庭があればメンタル的に安定しますし、 長い目でみて仕事の生産量は上がるような気がします。例えば仕事量を2〜3倍にして頑張るとか、カフェインを摂取して乗り切るとか、そういうのは長続きしないから結局生産性が上がったことにはならないと思うんですよね。
自分が本を書くときもそうなんですけど、書かなくてもいいからとにかく毎日原稿の前に座る。プログラミングもそうですね。エディタを立ち上げて、一日3行でもいいからコードを書く。「5分でもいいから兎に角毎日やる」というような一見地味なことが長い目でみたときに、一番重要なことではないかなと思いますね。
今回そういった答えがたくさん出てくることを期待していた部分もあったんですが、思った以上に「How To」や、根性・気合系のアイデアが多かったです。設問が悪かったかもしれない。
「仕事の内容を段階的に分ける」に関しても同じような考えですね。例えばエンジニアが新しい言語を覚えようとするとき。何となく自分の力量を過大評価してしまって、いきなり難しいところから入って、なんだか覚えられない…というようなことがよくある。僕も長いことプログラミングしてますけど、だからといって簡単に覚えられるかといったらそんなことなくて。妙なプライドが、難しい本を選んじゃうんですよね。で、3ページくらいで挫折する(笑)。結局「○○入門」みたいな初心者向けの教本もちゃんとやって、コツコツと継続して段階を踏んでいくほうが早いんです。短期間でやろうとすると すごくつらいし覚えてもすぐ忘れちゃうから、結果的に生産性は上がらない。
この頃、特に多いのかもしれないけど、「How To」とか「ライフハック」を気にする人がたくさんいますよね。ああいうの、大概意味ないですから。個人的には、いかに地道に継続するかを考えたほうが効果的だと思っています。
― ありがとうございました!
改めまして、ベストアイデア賞を受賞された naanchattyさん 、おめでとうございます!
ということで、改めて伊藤直也さんにインタビューをさせていただくことが決定しました!
日本のソーシャルメディア草創期から第一線で活躍されているトップエンジニアが、いまソーシャルメディアをどう捉えているのか。また、エンジニアのキャリアについてどう考えているのか。じっくりとお話を伺いたいと思います。近日中に「CAREER REPORT」にて公開しますので、ぜひご期待ください。
第3回の審査員は、株式会社バーグハンバーグバーグ代表 シモダテツヤさん。「WEBのことを全く分かってない頭カチカチのクライアントに企画を通すためには?」というお題です。
ベストアイデア賞に輝いた方には、秋の夜長のお伴に『ドラゴンクエストⅩ + Wii本体』のセットをプレゼント!アイデアの投稿締切は9月30日(日)です。クライアントの頭をトロットロにとろけさせるアイデアを、お待ちしています!
編集 = CAREER HACK
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