2012.10.01
《世界一の朝食》を仕掛けた男・中村貞裕に学ぶ、“流行”の作り方。[後編]

《世界一の朝食》を仕掛けた男・中村貞裕に学ぶ、“流行”の作り方。[後編]

“世界一の朝食”で話題の《bills》など、次々と人気スポットを生み出すプロデュース集団『TRANSIT GENERAL OFFICE』。代表の中村貞裕さんへのインタビュー後編では、流行のタネを大きくするための方法論から、流行を読み解くフレームワーク、更には仕掛け人に必要なマインドについて伺った。

0 0 44 0

[前編]から読む

メディアが引っかかる“フック”を、どれだけたくさん作れるか。

― 流行を仕掛けるには、まず膨大なインプットを通じて“いま流行りそうなキーワード”を掴むことから始まると。では、掴んだものを“流行にする”ための方法とは?

中村さん01

飲食店やホテルといった空間、人が集まる場所をプロデュースする上での話ですが、僕らの場合はまず「分かりやすいコンセプトにする」ことが大前提です。なぜなら、常にメディアを意識しているから。話題にするためにはとにかくメディアに出ることが重要。なので最初から“メディアに取り上げられること”を前提に考えていくんですね。

雑誌を開いて「Newショップオープン」ってコーナーがあったとして、おそらく誌面には店舗名があって、その下に15文字くらいの説明文があるでしょう?僕らの場合、その説明文をだいたい10~15文字、キャッチフレーズとして成立するようにします。そのフレーズと店名がそのままお店の“コンセプト”になります。

正直、メディアの方も分かりやすいコンセプトのお店のほうが取り上げやすいんですよ。お店自体が取材しやすいパッケージになっているほうがやりやすいんです。「写真とるならこの場所がいいですよ」とか予め用意してあげたりね。

いいコンセプトだと、僕もメディアの方に説明しやすいし、メディア側も取り上げやすい。さらにお客様から別のお客様にも紹介しやすいので“バズ効果”も高まります。逆に、まず自分が端的に紹介できないときはコンセプトが良くないです。


中村さん02

いいコンセプトができたら、それをさらに明確化して深みのあるものにするために、“コンテンツ”をたくさん作ります。そのお店のコンテンツになり得る名詞をとにかくたくさん並べていく。例えば、インテリアデザイン、ロゴ、メニュー、スタッフ、イベント、BGM、制服、アート…という感じで。普通の飲食店の場合、考えたとしても5つくらいで打ち止めなんですけど、僕らは少なくとも50個出す。そこからさらに10個出して、60個くらいかな。

ヒントになるのは雑誌ですね。例えば今だと「ママタレ」がよく露出しているので、ママのタレントさんに使ってもらえるようなコンテンツを作れば取材が来るな、とか。最近コーヒーを特集してる雑誌が多いなと思ったら、スペシャリティコーヒーを取り入れたり。そういう具合に、立ち読みした雑誌からいろんなコンテンツのヒントを見つけていきます。

コンテンツを出し切ったら、それをより具体化する“キャスティング”をします。インテリアなら片山正通さん、デジタルサイネージは中村勇吾さん、といった有名人のキャスティングは当たり前。僕らが手がけた《CLASKA》というホテルだと、「犬のトリミングサロン」というコンテンツを入れて《DogMan》というカリスマトリマーのお店をキャスティングしたり、「本との暮らし」というコンテンツで《hacknet》という洋書店をキャスティングしたり。「女子会」なら、それを束ねてる女の子を集めて「ロイヤル○○パーティー」みたいなものを企画したり。

ヒト・モノ・イベント…何でもいいんです。とにかくコンテンツとキャスティングで、身体中、お店中をフックだらけにしてあらゆる方向で引っかかるようにする。すると、いろんなタイプの雑誌に取材してもらえるし、いろんなタイプのお客様の目も惹けるし、お店中がバズの宝庫になる。

でもここまでなら、誰にだってできるんですよ。お店は“生き物”だから、オープンした後も、時代の流れにあわせてコンテンツとキャスティングを足し引きし続けないといけないんです。それを止めると、すぐに衰退しちゃうでしょうね。

ブーム・スタイル・リバイバル。“流行”を読み解くフレームワーク。

― 流行を掴むことと同様、その終わりを見逃さないこともまた重要だと思います。“流行の終わり”は、どのように見極めるものなのでしょうか?

中村さん03

もちろん店舗の売上などの数字に表れる部分もあるんだけど、僕は流行の波には基本的な法則があると考えていて。

まず「ブーム」というフェーズ。これは先ほどお話した“これから流行りそうなもの”のことです。1番目じゃなくてもいいから、2~3番目にでもこれに飛びつくとトレンドセッターになれます。

次に、「スタイル」というフェーズです。これはブームが広く浸透してカルチャーとして根づいたものですね。「スタイル」になったものに飛びつくのは、いわゆる二番煎じってやつ。でも二番煎じって、やりようによっては決して悪いことじゃない。なぜならブームがスタイルになる瞬間に、必ず大きな企業が参入してくるようになるから。プロデュースする側にとっては最も仕事になる瞬間で、ある意味一番おいしいところなんです。

そしてもう一つの流れとして、「ブーム」が「スタイル」として定着しないものもあります。そういうものは「もう一度ブームになる=リバイバル」する可能性が高い。例えば、モツ鍋とかアイドルとかサーフィンとか、今の時代のトレンドにアップデートされた形で蘇るんですよね。さらに言えば、リバイバルしたものは必ずと言っていいほど「スタイル」にはならない。そのうち飽きられる可能性のほうが高い。だから、「スタイル」にならなかった「ブーム」を過去から引っ張ってきて、続かないのを分かった上で仕掛けるやり方もあります。3~5年と割りきってやったりね。

こういう流れを踏まえて、これまでの歴史を振り返ってみる。その上で今の時代を見るようにすると、何が「スタイル」として定着するかだったり、何が「リバイバルブーム」で飽きられていくかだったり、感覚的に掴めるようになるんじゃないかと思います。

いついかなるときも、自分の好みを捨て、マスの好みに寄りそう覚悟。

― 最後に、“流行”を仕掛ける上で“マスの感覚を持つ”ことも重要だと思うのですが、その感覚はどのように身につけていくものなのでしょうか?

中村さん04

うーん、僕自身は強いてマスの感覚を身につけようとは思ったことがないですね。そもそもマスの感覚が大切だと思っているから、そこから出ないようにしているというか。自分がマスでなくなることに対して全く興味がない。

もちろん自分の興味・関心の対象がマス的なものにしかないということじゃなくて。インプット自体は、最高級のものからマイナーなところまで、幅広くいろんなことを押さえてないといけない。そうして初めて“マス”というものを正しく認識できるんだと思います。マスしか見ていなかったら、自分がマスの中にいるのか分からなくなるでしょう?

そういう意味では、僕はホントに全部見てると思う。本当にハイクオリティな、ごくごく限られた人たちの世界も見るし、それを見るためのコネクションも作る。そうかと思えば、流行っているカフェにも行くし、普通の街の居酒屋さんにも行きます。


― あえて好きなものを限定しないというか、自分の世界を作らないようにしていると?

それが僕の仕事ですから。生活のためにやってるわけで、そうじゃなかったら正直、自分の世界に入ってひきこもって寝たりしてるんだろうけどね(笑)

自分の食べたいものだけたべて、観たい映画だけみて、会いたい人とだけ会って…。それだけやってたら仕事にならないから、仕方なくやってるんです。ただ、決してイヤなわけじゃない。だからこそ、僕にはこの仕事が向いてるんでしょうね。

カップ05


(おわり)

TRANSIT GENERAL OFFICE 公式サイトはこちら

中村さんの著書『中村貞裕式 ミーハー仕事術』はこちら


編集 = CAREER HACK


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから