2015.08.06
WordPress.comに携わる唯一の日本人女性、高野直子のワークスタイルとは?

WordPress.comに携わる唯一の日本人女性、高野直子のワークスタイルとは?

日本におけるWordPressの第一人者である高野直子さんは、世界各地にいる社員のほとんどがリモートワークという米Automattic社の社員として、東京の自宅やコワーキングスペースで仕事をしている。国を超えて協力しあう同社のチームワークのあり方や、日本という枠を超えてグローバルな活躍の場をつかむためのポイントとは?

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【プロフィール】高野直子
高校時代の交換留学をきっかけにアメリカの大学に進学し、グラフィックおよびWebデザインを学ぶ。卒業後は地元福岡でネット系の企業に就職。その後アメリカに戻り、現地企業で翻訳、Webのフロントエンド開発などに携わる。それらの経験から「自身は会社員に向かない」「大企業は無駄が多い」とフリーランスに転向し、国内外の顧客からリモートでWeb制作の仕事を請け負うように。WordPressのオープンソースコミュニティに初期の頃から参加し、日本での普及に貢献。その活動がきっかけとなり、2009年にWordPressの生みの親であるマット・マレンウェッグ氏が経営するAutomattic社にジョイン。2011年に帰国後は唯一の日本在住社員となる。現在は同社のサービスWordPress.comの国際化対応を担当。

世界トップシェアのWordPress、日本で一番詳しいのはこの人!?

「WordPress」。Webに関わる仕事をする人なら、一度はその名を耳にしたことがあるのでは? 無料で簡単に本格的なWebサイトやブログが作れるツールとして、CMSと呼ばれるこういったソフトの中では圧倒的なシェアを誇るソフトウェアだ。

無料で使えるのは、有志のオープンソース開発者達が開発しており、自由に利用できるよう公開されているソフトウェアだから。WordPressは2003年にその原型が作られて以来、世界中の開発者が「協働」してバージョンアップを重ね、発展してきた。

高野直子さんは、日本のWordPressのオープンソースコミュニティに初期の頃から参加し、WordPressの発展と普及に大きな役割を果たしてきた人だ。

現在は、WordPressの生みの親であるマット・マレンウェッグ氏が設立したAutomattic社の、唯一の日本在住スタッフとして働いている。

Automattic社のサービスは世界各地でリモートワークをする社員たちに支えられている。その中で高野さんはどんな役割を果たしているのか? 自分らしく力を発揮できるキャリアをつかんだ秘訣を探った。

WordPressコミュニティ、そしてAutomattic社との出会い

― どのような経緯でAutomattic社の社員になったんですか?


アメリカで働いていた頃、個人のブログでツールとして使っていたのがWordPressで。その日本のコミュニティにオンラインで参加するようになりました。最初はオープンソースという概念も知らなかったんですが、協力者を歓迎するオープンな雰囲気が良くて、すごく楽しかったんです。その活動の一環でイベント「WordCamp Tokyo」の運営をしていて、Automattic社創業者のマットがゲストとして来てくれることになりました。イベントに参加するために東京に来たマットのアテンドをしたんですが、後日彼からSkypeで連絡があって、「WordPress.com(※)を英語圏以外に広めるのを手伝ってくれないか」と。その頃はフリーでやっている仕事があったので「フルタイムではできません」と言って、時間制で引き受けることにしました。

(※「WordPress.com」はAutomattic社が提供しているレンタルブログサービス)


― 高野さんは日本のユーザーのサポートを担当をしたのですか?


最初はそういう話でしたが、気がついたら英語圏のサポートもやるようになっていました。当時はサポートメンバーが10人もいなかったので、人手が足りなかったんですね。
「あれ? 思ってたのと違うぞ」と思いましたが、Automatticの仕事のやり方に面白さも感じていました。みんな自宅などからリモートで仕事をしているんですが、対応すべき問い合わせの内容や各メンバーの対応件数なんかが、会社のWebサイト上ですべて見えるようになっているんです。とてもわかりやすくて面白いな、と。

過去の経験から会社で働くのは合わないと感じていましたが、「Automatticでリモートで働けるならいいな」と思いました。仕事の内容というよりは、会社自体やワークスタイルに魅力を感じたんです。それで、1年しないくらいのタイミングで「フルタイムで働きたい」と申し出ました。

世界各地でリモートワークする社員たちのチームワークの秘訣

Automattic社_高野直子さん

― 現在担当されているお仕事は?


「チームグローバル」というWordPress.comの国際化に関わる仕事をしています。外部ベンダーさんと一緒に各国語への翻訳を進めるほか、今はブラジル向けのマーケティングを担当しています。


― ブラジルですか。地球の裏側ですね! チームメンバーはどこの国の人たちなんですか?


6人のチームで、国はオーストラリア、オーストリア、イスラエル、アメリカ、日本、それからスイスに住んでいるベラルーシ人がいます。


― 日本でも「ダイバーシティ(多様性)」を重要視する企業が増えてきていますが、御社はその先端を行っていますね。多国籍なリモートワークのチームに欠かせないことってなんでしょうか?


ひとつはテキストでのコミュニケーションですね。Skypeでミーティングすることもありますが、時差があってなかなかタイミングを合わせるのが難しいので……。そして、なんでもかんでもドキュメンテーションすること。ミーティングでは書記を決めますし、誰かに質問して答えてもらったことは質問した側が書く。書いて共有することが習慣になっています。


― なるほど。たくさん読まなければいけないものがあって大変ではないですか?


自分宛てのメッセージは分かるようになっているし、後から検索もできるので、常に全部に目を通しておく必要はないんです。


1対1や特定のグループでのやり取りはSlackでやって、みんなに共有することは社内のブログに書いています。チームやテーマごとのブログが一括で検索できるので、わからないことがあったときもすぐに情報を探せるし、過去に「何かをやらなかった理由」とか、もう当時の担当者がいなくなってしまった場合でもデータをさかのぼれば分かるので、とても便利ですよ。


― 誰もが必要な情報にアクセスできるようになっているから、バラバラの場所にいても仕事が進むんですね。一方、全員が1か所に集まる合宿もあるんですよね?


会社全体では1年に1回、チームでは1年に1~2回、みんなで集まります。前後の移動も含めて1週間くらい一緒に仕事をするんです。


― 合宿の場所は、どのように選ばれているんですか?


全社の合宿は最近アメリカが多いですが、チームの合宿はいろいろな場所で行われています。私たちのチームは今年コペンハーゲンを選んだのですが、そのときは夫についてきてもらって子供も同行しました。各国から直行便があって便利だったりするので、東京に来るチームも多いですよ。都合が合えば、東京を案内したり、一緒にご飯を食べたりします。


― 楽しそうです! でも、長距離の移動が大変ですね。参加しない人もいるんでしょうか?


全体の合宿は、よっぽどのことがない限り参加必須です。

チームの合宿もできる限り頻繁にした方がいいと思ってます。お互いをよく知ったり、今後のことをじっくり話し合う機会になるので。

グローバルな仕事をしたければ、英語よりも必要なのは行動力

Automattic社_高野直子さん

ドキュメント文化があるAutomattic社。Slackやブログを活用する。


― 高野さんの経験から、グローバルに活躍するために日本人に必要なことってなんだと思いますか?


「英語力って必要ですよね?」って聞かれますけど、最低限のコミュニケーションができれば仕事を通して上達していくもの。大事なのはまずは行動してみることです。

特にコードやデザインは言葉がなくても通じますよね。最近は海外の人に作品を見てもらえる場がたくさんあるので、作ったものを公開しましょう。そうすれば何かしらのフィードバックが得られるので、さらにブラッシュアップしていけば、きっと力がついてくるはずです。

海外の人たちと仕事をするのに尻込みしてしまう方は多いのかもしれないですが、日本人は真面目でスキルもあると評価されることが多いので、ぜひチャレンジしてほしいです!


― 高野さんがキャリアや生き方の選択、決断をしてきたときに、一番大事にしてきたことはどんなことですか?


「違うかな」と違和感を感じることがあったら、それを無視しないこと。チャンスは1回だけでなく何度でも挑戦できるので、やってみてダメだったら、次に行ってみればいいと思います。

そうやって直感で選んできたので、以前は「私って、どうしてひとつのことが続かないんだろう」と後悔していた時期もありました。でも、いろいろな経験を重ねてくることができたので、今は「それで良かった」と思えます。15年くらい仕事をしてきて、やっと分かったという感じですね。

▽インタビュー第2弾はコチラ
パパママ社員がたくさん! 米Automattic社のファミリーフレンドリーな社風とは|高野直子


文 = やつづかえり


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