アートのハッカソン「Art Hack Day 2015」作品レポートをお届け!エンジニアも、絵描きも、デザイナーも、建築家も、音楽家も、ダンサーも、美術家も、美大講師も、小学校教員も2日間缶詰になり、ダダダダダッとモノづくり。そして誕生した「新しい時代の作品」とは?!
こんにちは、塩谷舞です。
「時代ってどうやって生まれるんだろう?」「新しい時代はどうやって始まるのか?」ということにもっぱら興味があるのですが、そんな“新たな時代のにおいがする場所”を嗅ぎ回っていると、自然とスタートアップシーンや、テクノロジーを使った表現領域に出くわした訳です。
前向きな人が集まる場所には、前向きな流れが出来る。スタートアップシーンも、テクノロジーでの表現領域でも、そこには良い「気の流れ」が確かにあるもの。
でも、ちょっと残念なこともあって、それは「イツメン」になりやすいこと。
「イツメン」とは「いつものメンバー」の略である。いつも一緒にいる仲の良い友人達のことを指し、学生や社会人など関係なく、いつもつるむ仲良しメンバーのことを意味する
ネット用語の辞典サイト「ネット王子」より
Webマガジンのインタビュー枠も、トークイベントも、ふと気がつけば「イツメン」勢ぞろい。そんな状況では想定外のバグが起こらず、衝撃的なイノベーションも起こりにくいんじゃないのかな…って。
と、タラタラとした前置きが長くなってしまうのですが! この夏、想定外のバグがいかにも起こりそうなアートのハッカソンArt Hack Dayに参加しました(私はスタッフ側です)。エンジニアも、絵描きも、デザイナーも、建築家も、音楽家も、ダンサーも、美術家も、美大講師も、小学校教員も集まって、2日間缶詰になってダダダダダッとモノづくりをする。
前回の前編レポート時から2週間。想像もつかないような展開がありました!
2週間の作戦会議期間を経て、9月5日、6日に完成までの作業をするべく3331アーツ千代田に集合した、70名近くの参加者のみなさん。みんなが集まって制作出来るのは、たった2日間きり。まるで文化祭前日のように、大人たちが共同作業を進めていくのです。
どこから調達したのでしょう? 大きな展示台を用意するチーム
こちらでは、本格的な舞台装置を作っています。
まわるまわる、真剣な表情をしてまわるまわる。
彼女はダンサー。作っているのは、まるでレッスン場に備えられているような大きな姿見。
振動をセンシングし、音に変換するシステムを作っているエンジニアたち。
少しでも体の負担を軽減出来るように、会場内には保健室があって…
鍼灸師の資格を持ったスタッフが施術をしてくれるというサービス付き(!)。
深夜の様子……(Art Hack Dayは24時間営業でした。帰宅した人もいます)。
遊びではなく本気なのか、遊ぶことに本気なのか。まるで無我夢中な子どもみたいに、プログラミングし、絵を描き、半田付けをする、それぞれの参加者の姿がありました。
中には口論になるチームもあるし、十数時間をかけたプログラミングが全て消失するチームもありました。もう全然穏やかではありません。
でも時間はない、とにかく完成させること。
そのゴールに向かって、各チームはとにかく創って、創って、制限時間ギリギリまで創り続けました。
そこで出来上がったのは、以下12作品。
「運命的アクシデント」
「Sound of Tap Board」
「頭のない口は言葉をしゃべらない」
「ONE:個・弧・子」
「ニシハラアイリ」
「ファントム」
「トモダチノカタチ」
「Time lines」
「# drip3331」
「水との会話」
「あわせ鏡」
「侵食する音」
…タイトルだけ書かれても意味不明ですよね。詳細は後日公式レポートが出ることでしょう。きっと。
そんな作品を審査するのは、こちらの4名です。
左から、tha ltd.代表の中村勇吾さん、コルク代表の佐渡島庸平さん、3331アーツ千代田統括ディレクターの中村政人さん、ライゾマティクス代表の齋藤精一さん。すごく豪華な方々が、1つ1つの作品を丁寧に審査していかれました。
まず、プレゼンが印象的だった2チームをご紹介。
こちらは「新しい宗教は作れるのか?」というテーマで集まった、松川美沙さん、ぎょうだなおしさん、石林典飛さん、小林颯さんという4名の作品。
「みなさんには信仰心、というものはありますか? もし宗教でなくても、情熱をもって信じているものはありますか? 僕たちは、新しい神様のあり方を提案させていただきます。こちらで手相をスキャンし、続いて人相をスキャンしてください。そのあとに悩みを入力すると、大量のデータをもとにした機械学習によって、神様があなたの悩みに答えてくれます…」
わずか2週間の作業で、無数の手相のデータを読み込んだり、メガネやヒゲ、眉毛の形などをセンシングしているのか……? そしてしっかり動作している神様の回答システム。これには審査員陣も驚きます。
が。一通りのパフォーマンスが終わり、ざわつくオーディエンスに向かって
「2週間でそんなものできるワケないでしょう!」
という盛大なネタバレ。裏で「神様役」をやっていた松川さんが「私が答えを入力してました〜」と登場します。
彼らは、大量のデータなんて一切取り扱っていませんでした。
一瞬バカにされたのかな?! と思いますが、しっかりと意識すべきことは、まんまと信じてしまった私たちがいるということ。
「ハッカソン」というプログラミングが中心になりがちなイベントの中で、いかに「問題提起」が出来るか、という方にアクセルを踏んでいたのが、このチーム。審査員の中村勇吾さんは「多くの作品がアーティストとテクノロジーのコラボレーションをしていたけど、このチームはエンジニア頼りではなかったし、それが面白かった」というコメントをされていました。
手相や人相のスキャンといった「それらしい行為」を行うと、人は案外簡単に信じてしまう。じゃあ、誰でも神様になれてしまうのでは?
12作品の中でも異例な、問題提起型の作品『ファントム』。こちらは佐渡島さん賞を受賞しました。
続いて、前回のレポートでもご紹介した、佐藤ねじさんが率いるチーム。タップダンサーの米澤一平さん、デザイナーの中農稔さん、エンジニアの池澤あやかさん、水落大さんというメンバーにて、タップダンスの拡張をテーマとした作品『Sound of Tap Board』を創り上げました。
「タップシューズがあの音だったから、タップダンスは生まれたという話があります。じゃあ、タップが違う音だったら、表現は違うものになるのでは? そんなタップの音をHackして、様々な音を鳴らせるタップボードを作りました」
最初のプレゼンテーションから、米澤さんのタップダンス、そして水落さんによる技術の説明まで、彼らのパフォーマンスはすべてにおいて完成度の高さを感じさせられました。カオスな空気が渦巻くArt Hack Dayの会場で、70人にも及ぶオーディエンスを集中させるのは至難の技。でも、広告業界で日々闘う佐藤ねじさんのプレゼンには、引き付けられるパワーがあるのです。
さらに、未完成のまま発表するチームがある中で、バグがなくパフォーマンスを終えたこのチーム。安心して楽しめるだけのエンターテインメントとなっていました。
3331アーツ千代田のディレクターである中村政人さんは「まず、タップダンサーが一人で参加して来てくれたことが素晴らしい!」と、ハッカソンであるイベントの想定を大きく超えてきたチーム編成そのものに強く感心されていました。
パフォーマンス表現を拡張するプラットフォームにもなりそうなこの作品は、プロダクト部門での最優秀賞を受賞。コルクの佐渡島さんからは「締め切りを守ることは大事!」とコメントし、その完成度の高さも評価に値しました。
素晴らしいプレゼンテーションを行った2チームとは対照的に、悲しいほどに未完成なチームもありました。
最後にご紹介するのは、絵描きのchiaki koharaさんが中心となった『運命的アクシデント』という作品。建築家の只石快歩さん、メディアアーティストの坪倉輝明さん、エンジニアの衞藤慧さん、瓜田裕也さんというチームの作品は、気合いの入った舞台装置をこしらえました。
が。
15分間のプレゼンテーションはバグの嵐。左右に設置されたハーフミラー(きっとお金もかけている)は動作せず、彼らが「魔法の筆」と呼んでいた、自動で動く筆は何度もなんども地面に落ちて……。魔力が…効かない……。
見ていてギュウッッと胃が痛くなってしまうような状況。ライブペイントは最後まで笑顔で行われましたが、授賞パーティーのときには『運命的アクシデント』チームの方々は隅っこでお酒も飲まず、自分たちのパフォーマンスの大失敗に呆然としていました。
そんな中、アート部門の最優秀賞に選ばれたものこそ、この作品。
驚いて涙を流すchiakiさんの姿と、審査員コメントをうなずきながら噛みしめるメンバーの姿が印象的でした。
ライゾマティクスの齋藤さんはこうコメントしました。
「ちょっと、ぼくらのモノづくりの姿勢に近い気がしました。やりたいことを全部詰め込む。やろうとしているアイデアの総量が多かった。あれが全部うまくいったらすごく興味深い作品です。そしてアーティスト主導なだけではなく、エンジニア側からも多くの案を出していた。これはライブペイントというよりも、新しい表現として名前を付けたいくらいです」
そして先ほど「締め切りが大事」といった佐渡島さんは「熱量があれば、締め切りは先方が伸ばしてくれるものですよ!」と笑顔でコメント。
熱量をすべて詰め込んで、結果として爆発してしまった作品。それをグランプリにしたのは、審査員の方々も現場でモノづくりをするプレイヤーだったからこそ。今後の伸びしろに、大きな期待が寄せられました。
おまけ。一般公開をした9月12日のパフォーマンスでは、そのパフォーマンスはかなり成功していました。(3分20秒頃、「初めて上手くいってるよ!」という歓喜のコメントが聞こえるかと思います…)
他にも、魅力的な作品がたくさん生まれたArt Hack Day2015。その様子は、9月26日(土)の深夜25時25分から、日テレSENSORSでも放送予定です。(※放送日は変わる予定があります。また、関東圏での放送になります)
こうして展示は終わりましたが、昨年もミラノ万博でパフォーマンスする作品があったように、今年のArt Hack Dayもまだまだ終わらないはず。想定外のバグから生まれた作品や、彼らの出会いから創られる未来が、本当に本当に楽しみです!
(Photo by Ayumi Yagi)
文 = 塩谷舞(しおたん)
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