スタートアップバブルが日本でも巻き起こる中、フリーランスとして働きながら起業準備を行なうある一人の若者にインタビュー。起業を試みる者が直面する現実に迫った。起業を目指す過程で初めて気づいた、これからの時代を生き抜くために必要な考え方・能力とは―。
近年、スタートアップの聖地アメリカだけでなく、ここ日本でもスタートアップバブルとも呼べるベンチャー企業の創業が相次いでいる。
輝かしい成功を収める新しいサービスを生み出したり、高額でバイアウトしたスタートアップは様々な方面からライトアップと称賛を受ける。しかし、成功する過程でどのような壁にぶつかり、乗り越えてきたかに焦点が当たることはそう多くはない。だがそのプロセスのリアルにこそ、WEB業界でのキャリアを考える上でのヒントが隠れているのではないか?そこで今回、起業を既に行なった方ではなく、今まさに起業に向けて準備を進めている金城辰一郎さんにインタビューを行なった。
金城さんは現在25歳。今年1月にネット広告代理店を退職し、現在フリーランスとして働く傍ら、起業準備をおこなっている。この1年弱の期間、フリーランスとして働きながら起業準備を進めている金城さんが直面している困難や課題とは? なかなか焦点の当たらない起業プロセスのリアルに迫った。
― 起業準備中とのことですが、現在どのような活動をされているのですか?
前向きに活動していますが、起業に関しては想定したとおりにはなかなか進んでいません。僕はWEBサービスでの起業を考えているのですが、いまは事業のアイデアを練ったりプロトタイピングを繰り返している段階ですね。
それとは別に、実際の生計を立てる手段として、ソーシャルメディアマーケティングの仕事を受託でやっています。また新しい取り組みとして、実験的なソーシャルテレビ番組の企画運用にこれから参加する予定です。
― そもそもなぜ起業しようと?
新卒で入社したネット広告代理店では、企画営業を行なっていました。その後“ソーシャル”に特化したことがやりたくて、最初は会社の許可無く勝手にソーシャルやスタートアップ系のブログの運営を始めたんです。
そのブログ運営の成功によって、会社がリスティングだけでなく、ソーシャルメディアマーケティングの分野に参入しました。ブログの執筆のための情報収集も兼ねて、様々なWEB業界で活躍されている方々にお会いさせて頂いたのですが、スタートアップを立ち上げている方々がとにかく一番刺激的で輝いて見えて。
― とすると、やりたいことありきで起業を考えたのではなく、まず“起業したい”という思いで?
いや、最初は自分の中にもTwitterクライアント的なWEBサービスの構想がありました。そのサービスについてのヒアリングとプロトタイピングを繰り返していく中で、“コレじゃダメだ”と気づいて。それからいくつかのアイデアをだしてプロトタイピングをしては勝算がみえず頓挫する…という繰り返しで。あっという間に10ヶ月経ってしまったという感じです。
― 起業になかなか踏み切れない中で気づいたことはありますか?
一言で言えば「甘かった」ということですかね…(笑)。自分が目標に対してアクションを起こし続けていけば、思考が具現化する…じゃないですけど、人もお金も集まってくるんじゃないかって、無自覚にそう考えてたんだと思います。でも、いざスタートしてみるとやっぱりそう簡単なことではなかった。
― 最も困難なことは?
「仲間探し」ですね。いま最も難しいと感じているところです。まだサービスの概要も決まってない中で見つけるのも難しいとは思いますが、同じ方向を向いて一からお互い協力していけるパートナーを今まで得られなかったのは誤算でした。
「面白そうだね」と興味を持ってくれる方もいますし、「手伝えることがあれば」といってくれる人もいる。だけど、本腰入れて一緒にサービスを開発していこうとなる人にはなかなか出会えない。これはもう、本当に思ってもいなかったことで。
前職の仕事柄、ソーシャルメディア周りではわりと僕の記事も読んで頂いていましたし、周囲からも「“金城さんと一緒にやりたい”っていう人たくさんいるんじゃない?」という感じでよく言われてたんですけど…。
― スタートアップの中には一人でプロダクトを作って起業されている方もいると思います。パートナーの必要性はどのようなところにあるのでしょうか?
自分と違ったところで強みを持ってて、それぞれの長所を活かす形が出来れば、サービスの質も必ず上がるし、ローンチ後の勢いも違ってくると思うんです。いまイケてるスタートアップはみんないいチームでスタートしてますしね。
僕の場合、プログラミングもある程度できますが、そこに強みを持った人間ではありません。ソーシャルやマーケティングの分野で強みのある人間です。だからこそ、生粋のエンジニアやデザイナーの方とチームを組むことが必須だと思っています。
― フリーランスになって変わったことは?
「仕事は当たり前にあるものではない」ということです。現在は受託という形で、継続的にお仕事をもらっている状況ですが、前の会社を辞めたすぐ後は大変でした。
― 企業に属して働いている人にはなかなか想像できない不安もあるのではないかと思います。その不安とどう向き合ってこられましたか?
いま僕は25歳なんですが、若くて一番働き盛りの時にこのブランクって相当やばいという不安は現在でもあります。
あと、自分自身の精神管理はとても重要ですね(笑)。僕の場合で言えば、生活のために受託の仕事をフリーランスとしていただけてるのは幸運ですが、起業準備中にも関わらず受託業務が忙しくなってくると、なかなか自分のサービスに時間を割けなくなってくる。そのジレンマの状態をどう定義して消化するかとか。「この1ヶ月で自分のサービスの開発は進捗良く進んでるのか?ほんともう何やってんだ俺…大丈夫か?」っていうのはもう毎度で。それとはずっと向き合って行かなきゃいけないです。
― やっぱりかなりの不安がありますよね…。
そうですね。そんな中で、どうモチベーションを保っていくか。これも会社を辞めて気づいたことなんですが、モチベーションって達成感から得られるものなんです。
会社を辞めると、仕事が勝手に降ってくるわけでもないし、ヘタすると一日何もやることがないなんてこともあります。そうなると達成感も得られないし、負のスパイラルに陥ってしまう。
― それはどうやって解消するんですか?
ランニングです。単に達成感を得るためだけのランニング。「この距離をこのタイムで走り切れない自分なんかが起業出来るわけない!」とか言って。自分で定めた小さなタスクでも達成しないと心のモヤモヤと不安が消えない。
― ぶっちゃけ、生活はサラリーマン時代と変わりましたか?
それはもう。贅沢言ってる余裕はないですから。生活も意識的に切り詰めています。新しい服も1年くらいまともに買ってないんじゃないかな。可愛い女の子をディナーに誘うこともないし。起業のための自己資金も、少しずつですが貯めているところなので。
― 今の自分に必要なスキルや考え方は何だと感じていますか?
夢のあるサービスや事業を、具体性を持った形で語れるようになることですね。これは投資家の方に説明する場面だけでなく、仲間を集める上でも非常に重要だと感じています。「この事業はこういう計画でスタートして、いつまでにここまでユーザを獲得してこんなモデルで収益化する」という事業計画レベルの話をすることで、事業の成功を想起させ、巻き込んでいく。これまではどうしても「コレで世界は変わる。一緒にやろう」と抽象的にしか話せてなかった。
僕自身は、今のフリーランスでの仕事を“自分のブランドを高めるためのアクション”と捉えるようにしています。優秀な仲間との出会いを実現するためにも、自分に必要な物は何よりも実績。「~を成功させた金城」「~を仕掛けた金城」のような成功体験を他者から認められる形で持たなければいけないと考えています。
冒頭にもお話したソーシャルテレビの実験番組は是非とも成功させて、新しい分野での実績を残したいですね。
そしてもうひとつ、僕の好きな高城剛さんのおっしゃってるハイブリッドスタイルの重要性を痛感しています。「ふたつの仕事やふたつのライフスタイルを持つ」ということなんですが、一つのことだけのプロフェッショナルになるのではなく、80%、セミプロレベルのスキルでいいから、できる限り多くの分野のスキルを修得すること。それも似通った分野ではなく、例えば僕だったら、マーケティングと音楽、営業、プログラミング…のように。かけ離れた分野のスキルを掛け合わせる必要がある。それがひいては視野の広さやオリジナリティのある着想につながるんじゃないかと強く感じているんです。
― これから作っていくサービスはどのようなものを想定していますか?
イベントの集客問題を解決する”Extension of experience”をテーマにしたサービスを構想しているところです。もはや今の時代、モノや情報に価値はなくなり今後人々は体験にしかお金を払わなくなってくるのでは?と常々考えているのですが、いま取り組もうとしている事業も現場での体験価値をWEBを絡ませることによってより向上させるというものです。
本格的に取り組もうとしたきっかけは、仲の良いDJの友人がイベント集客で本当に困っている事実を知ったこと。よって具体的には、集客問題を解決するサービスですね。僕はイベントにお客としていく立場だったけど、この問題は自分にも関わっているし、まさに自分事化できる課題だった。自分事化することがそのサービスを開発して運用する動機となるし、自分にしかできないことだという自信にもなります。自分事化することで、その事業に信念をかけるモチベーションや着火剤になる。
大規模に成功しているサービスもいきなり万人に受け入れられたわけではないですよね。最初のイノベーターやアーリーアダプターを獲得しないと始まらなかった。最初に使ってもらいたい人は、自分の身近な人であるべきなんじゃないかと。
― 最後に、金城さんにとって起業とはなんですか?
「一回しかない人生をめちゃくちゃ楽しいものにするひとつの方法」ですかね。僕は根本的にせこいんですよ。損したくなくて。後悔するなら、やらない後悔よりやった後悔です。事業をやっていく中で課題解決はもちろん最重要ですが、何より自分がコアの部分でワクワクできるか。誰よりも楽しめているか。
時代のサイクルはどんどん早くなっている。IBMからマイクロソフト、Google、Facebook…ほんとにすごい時代に生きてるなと思いますよ。今この分野に入れてワクワクしてます。本当に自分も早く起業して自分のプロダクト持って挑戦して世界を変えていきたいですね。
金城辰一郎 [Shinichiro Kinjo]
沖縄出身の25歳。大学卒業後、ネット広告代理店クラッチに入社し、ソーシャルマーケティング事業を牽引するフロントマンとして活躍。現在はソーシャルを活用したプランニングを各種クライアントへ行なう傍ら、近い将来の起業を前提に共同経営者となるパートナーを探しつつWEBサービスの開発を進めている。
ブログ(http://www.shinkinjo.com/)
編集 = 松尾彰大
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