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イギリス政府の大変革はGitHubが引き金だった? 巨大組織が「実験する自由」を手にできたワケ

2017-02-21

イギリス政府の大変革はGitHubが引き金だった? 巨大組織が「実験する自由」を手にできたワケ

イギリス政府におけるデジタル政策について語ったのはGDS(UK Government Digital Service)のジェームズ・スチュワート氏。イギリス政府内に起こった大きな変革とは?

イギリス|専門機関におけるGitHub活用事例

※サンフランシスコにて2016年9月に開催された「GitHub Universe 2016」よりレポート記事をお届けします。

GDS(UK Government Digital Service)は、エンジニアやデザイナー、アナリストなどさまざまな専門家によって編成されている機関だ。現在、このGDSが主導し、イギリス政府内に大きな変革が起こっているという。

GDSが設立されたのは、2010年のこと。その背景には、当時のイギリス政府のポータルサイトが、あまりにも使いにくいものだったいう問題がある。


「当時、イギリス政府のポータルサイトには数え切れないほどのリンクが貼られていました。だから、ユーザーはどこを見ていいのかわからず混乱してしまったのです。実際、政府内部の人間さえ混乱していたのです。一般市民が混乱しないはずがありません。使用しているソフトウェアが時代遅れだったこともありえませんが、最悪だったのは、ユーザーニーズを完全に無視していたことです(ジェームズ氏)」


しかし、2010年に行われた選挙によって新しい内閣が組閣され、状況は一変する。新しく選ばれた大臣フランシス・モード(Francis Maude)氏は、さっそくイギリスで有名な起業家のマーサ・レーン・フォックス(Martha Lane Fox)女史に政府のポータルサイトに関する意見を求めたところ、「進化ではなく改革」というタイトルの4ページにもわたる提案書が示された。

そこで彼女は、政府のデジタル分野における改革を訴えた。これは政府のポータルサイトだけの問題ではなく、今の時代にあわせて、政府がどのように機能していくべきかを抜本的に見直すきっかけになると綴ったのだ。

そして、それを受けた大臣は異例のスピードで改革にGoサインを出した。

14名の小さなチームが政府を変えた

そういった異例の経緯で設立されたのがGDSである。はじめはジェームズ氏を含めて14人の小さなチーム。構成員の半数がイギリス政府から派遣された人員で、残りの半分がIT業界のフリーランスやテクノロジーメディアの分野から選ばれた人材だった。


「私たちは、コードを書いては実装し、また書いては実装し……ということを何度も繰り返しました。そして3ヶ月後ようやくローンチにこぎつけたのです。開発にあたって、私たちのチームが何よりも重要視したのはユーザーニーズでした。オリンピックスタジアムの写真をトップに表示させたのもそのためです。当時イギリス市民にとって、もっとも印象的なものでした(ジェームズ氏)」


gov.uk

使用されたスライドより

GDSが手掛けた政府ポータルサイトの改革は予想以上の高評価を得、ローンチから2週間後にはさらなるグレードアップが決まっていたという。チームはユーザーニーズに応えることを最重要視して、さらなる開発をすすめた。そして1年の歳月を経て現在の「gov.uk」が公開され、改良が続けられている。


「私たちが幸運だったのは、間違いを恐れず実験する自由が与えられていたことです。もちろん、これはIT業界では最善の方法だと考えられています。でも、政府というものはリスクを毛嫌いするものです。組織に根付いた、そういう古い文化や慣習から離れたところで開発することができたからこそ、ユーザーニーズを最優先することができたのです(ジェームズ氏)」


成功の要因はリスクを恐れる古い体質との決別

そして、GDSが政府の機関でありながら、リスクを恐れる古い体制と一線を引いた組織であったことが、ソースコードの公開に踏み出す要因でもあったという。


「GDSがオープンソース化に踏み切ったのは2011年の夏頃のことでした。でもそれは、とても自然なことだったと思います。人々のためのサービスを作っているのだから、そのコードをGitHub上に公開することは当たり前のこと。そして、コードに触れた人たちは、サイトをよりよくする手助けまでしてくれるかもしれないのです。みなさんは、私たちがどのようにコードを公開する許可をとったか不思議に思われるかもしれませんね。でも実は、許可は取っていない。というより、必要だと思いませんでした(ジェームズ氏)」


国家機関であり政府のポータルサイト、そのソースコードを一機関の独断で公開するなど、ありえないことのように思えるが、実際それを咎めたり、辞めるように言ってきたりする者はいなかったという。このことから、イギリス政府がGDSにどれだけの信頼をおき、その成果に期待をかけているかがわかる。


「実は、すでに政府のなかにはオープンソース化されているパーツがいくつもありました。しかし、リスクマネジメントの観点からチーム同士の横断的な協力ができない現状だったのです。ユーザーニーズに応えるためには、多くの人材やチームが協力する必要があります。その意識を浸透させるため組織内部に向けて「Look Sideways(=横を見よう)」というステッカーを作ったくらいです(ジェームズ氏)」


LOOK SIDEWAYS

使用されたスライドより

イギリス政府全体のオープンソース化を進めるため、GDSは8つの政府機関と協力し25の改革プロジェクトをスタートさせた。そして、イギリス政府の多くの機関や分野にデジタル戦略を導入することができたという。こういった動きは、世界中に広がっているそうで、アメリカをはじめ韓国やニュージーランドでもGDSと同様のチームが作られている。そしてイギリス政府が公開したソースコードを使って、他の国家がデジタル化を推進していくのだ。ジェームズ氏はこういった動きこそ、デジタル時代における真のグローバリゼーションであると語った。


「私たちのオープンソース化への道のりはまだ始まったばかりです。とはいえ、この数年間でイギリス政府は大きな変革を遂げたと思います。今後も、オープンソース化を推進していくことが、多くの人やチーム同士の協力体制につながり、人々にとってより便利で本当に必要なものを作りあげていくことにつながると信じています。

“Makes things open, makes things better, cuz it really does.” -物事をオープンにすることが、物事を良くする。なぜなら、本当にそうだから-(ジェームズ氏)」


デジタル全盛期のいま、オープンソース化がもたらす影響ははかりしれない。もちろんリスクマネジメントの必要もあるが、国家レベルでの革新が必要とされている時代なのかもしれない。

(おわり)


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