2017.09.20
『クラシル』大ヒットの秘密は、検索UXの改善にあった!dely奥原拓也が明かす一大プロジェクトの裏側

『クラシル』大ヒットの秘密は、検索UXの改善にあった!dely奥原拓也が明かす一大プロジェクトの裏側

世界最大*レシピ動画サイト「クラシル」大ヒット、成功の鍵は「検索UXの改善」にあった! 当初よりずっと開発を支えてきたエンジニア、奥原拓也さんが語る一大プロジェクトのウラ側に迫る!

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( * )2017年8月23日時点 Appliv調べ 料理レシピ動画掲載アプリ内レシピ動画数

クラシル大ヒット、最大の要因は「検索」にあった

2017年5月に月間動画再生回数、1億7000万回を突破。

さらに同年8月にレシピ動画数で世界最大となったレシピ動画アプリ「クラシル」。今、もっとも人気のある動画レシピサービスといって過言ではないだろう。同サービスを開発し、運営しているのが大型の資金調達でも話題となった「dely」だ。

「クラシル」のアプリダウンロード数が飛躍的に伸びた時期と、TVCMを実施した時期は重なっている。しかし、ヒットの理由はそれだけではない。そう語ってくれたのが、今回取材したdelyのエンジニア、奥原拓也さんだ。


「たしかにアプリのダウンロード数が増えたのはCMやメディア露出が増えたことが要因として大きいです。ただ、ダウンロードして使ってみてくれても、期待はずれなものだったらユーザーは離れていってしまいます。

来訪してくれた人が、ユーザーとして定着する。離脱率を下げる。そのための最も重要なキーファクターは“検索UXの改善”だったと思います」


この「検索UXの改善」の内容とは?そしてその効果とは?すべての施策に携わり、一大プロジェクトを遂行している奥原さんに伺った。


[プロフィール] dely株式会社 エンジニア 奥原拓也
大学の研究室は微生物を用いたバイオテクノロジー研究に専念。在学中はRuby on Railsを主にした受託会社で4年勤務。大学院時代にdelyの誘いを受け、即日退学を決意し、入社。dely社では、クラシルのサーバーサイド全般/web版クラシル/管理サイトやカスタマーサポートツールなど社内ツールを開発している。

ユーザーの期待に応える検索エンジンが必要だった

dely 奥原拓也


クラシルのヒット要因に「検索体験の改善」とは、どういうことだろう。

奥原さんが入社したのは、2016年9月ごろ。リリース直後のクラシルの検索は一言でいえば「イケてなかった」と語る。


「インターネットネイティブにとって“よしなに”検索ができるって当たり前ですよね。でも、それが当時のクラシルには全くできていませんでした」


たとえば、唐揚げのレシピをみようとしたとき、「からあげ」「カラアゲ」のように、ひらがなやカタカナで検索すると、別々の検索結果が出てしまっていたという。

ほかにも「なす」と「なすび」や、「ホワイトソース」と「ベシャメルソース」など、地域によって呼び名が異なったり、厳密には違うけどほぼ同義で認識されている言葉(これらをIT用語では「シノニム」と呼ぶ)があったりも。つまり同じ検索結果が出て欲しいワードはさまざまにある。それが実現されないのは大問題だ。


「当たり前が当たり前にできない。そこにユーザーは最も強い不快を感じるもの。特定のワードで検索されたときの検索結果は、ユーザーが心地いいものじゃないといけないと思ったんです」


運用を考え抜いた導入へ。料理スタッフも使う社内管理ツールを開発

では、この「当たり前の検索」を可能にするために、奥原さんは何をやったのだろう。


「例えば『なす』と『なすび』のような言葉と言葉を関連付け、あらかじめ検索エンジンに登録していく。そうすることで、言葉の“ブレ”を吸収し、同じ結果を出してくれます」


同時に、システムの「導入」だけではなく、いかに「運用」していくか。たとえば、料理スタッフにしかわからない「用語」もある。さらには動画撮影&登録するスタッフにも「タグ」の付け方などルール統一が必要だった。


「検索エンジン、そのものの導入はエンジニアチームで完結しますが、その後の運用となるとどうしてもリソースが足りません。エンジニアは必ずしも料理の専門家ではないので、用語の細かいところにはどうしても不明点が出てきます。エンジニアだけが踏ん張ればいいというわけにもいかない。他メンバーの協力無くして改善を進めて行いくことは困難でした」


こうして「検索改善」は、全社横断チームを発足させた一大プロジェクトに。レシピを開発する料理人メンバーなどのエンジニア以外のメンバーも改善に参画しやすいよう、「シノニム管理画面」を自社内で開発した。


管理画面キャプチャ


※delyの社内で実際に使われている管理画面キャプチャ


また、ユニークなのは、検証用に本番とまったく同じ環境を再現。実際のアプリに影響を及ぼさないカタチで、「言葉の関連付け」を簡単に行える仕組みにしていったそうだ。驚くべきことに奥原さんは、検索エンジン未経験だった。


「じつは検索エンジンの開発経験がまったくなかったんです。知らないことばかりで…さまざまな記事を読み漁って調査しました。

そこから検索エンジンの構築、インフラの整備、社内でその良し悪についてヒアリングしながらカタチにしていったんです。ユーザー公開まで3週間くらい。公開するまで、まさに激動でしたね(笑)」


dely 奥原拓也

離脱率は76%減!?驚きの成果が!

続いて見ていくのが、自社開発した検索エンジンの導入で得られた結果について。驚くべき成果、数値が現れていた。


直帰率の推移


※8/23~8/30の離脱率を100%基準にして、8/30~9/6の数値と比較


シノニムの紐付けが運用体制の構築によって加速した結果だ。そう奥原さんは分析する。それぞれのクエリ検索数は異なるが、トラフィックは数十万単位で増加していった。

非エンジニアもデータドリブンに

奥原さんプロジェクトを振り返り、苦労した点についてこう語る。


「プロジェクトを立ち上げ、ワークさせることにはかなり苦労しました」


もっとも重要だったポイントが、エンジニア以外のスタッフにおける協力だ。


「マーケ部、調理部、編集部、それぞれリソースに充分な余裕があるわけではありませんでした。ただ、彼らの協力なくしてプロジェクトの成功はあり得ない。そこで検索改善がどうして大切なのか、クラシルの検索アルゴリズムはどういう仕組みなのか。地道に勉強会を開き、コミュニケーションをしながら、理解を深めてもらうように努めました」


こうしたプロセスを経て、社内にも大きな変化があったそうだ。

もともと調理部に所属する料理スタッフはデータに関する知識はなかったという。インターネット事業会社とは無縁だった主婦のメンバーもおり、当然といえば当然だろう。

しかし、同プロジェクトを通じて彼女たちの口から自然と「離脱率」というワードが。自分のレシピがどれくらいサービスに貢献しているのか、数値を気にするようになったという。つまり「データドリブンな文化」がdely社に浸透していったのだという。


dely 奥原拓也


奥原さんは最後に「共通の価値観」をもとに、コミュニケーションすることの重要性について語ってくれた。


「レシピ開発のために作った料理を、社内のメンバーで食べるんです。エンジニアも調理スタッフも他のメンバーも、その料理を囲んで食事しているときは、すごくフラットな関係になる。『食』を中心にして、自然とコミュニケーションが生まれるんですよ。

そこでは、料理をする人ならではの意見があったりして。『機能改善に活かせるんじゃないか』『このデータが使えるんじゃないか』と、たくさんのヒントが出てくるんですよね。

みんながユーザーであり、企画者でもある。そして開発者にもなり得ていくのだと考えています」


クラシルを開発するメンバーは、社内でユーザー体験を味わう機会を作り、それがメンバー内に浸透している。この企業カルチャーも、クラシルの成長に大きく寄与しているといえそうだ。

(おわり)


文 = 大塚康平


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