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ソフトとハードの融合はここまで来た―インターネット・オブ・シングスがもたらすエンジニアの未来[1]

2013-03-21

ソフトとハードの融合はここまで来た―インターネット・オブ・シングスがもたらすエンジニアの未来[1]

MAKERムーブメントによって最近ますます注目を集めるハードウェアベンチャー。中でも、ソフトウェアとの融合を数年前から実践しているのが、株式会社Sassorだ。「消費電力の見える化」に取り組む中で見えてきたのは、映画のような世界の入り口である。

「モノ」と「ネット」の融合は、我々に何をもらたすか。

2012年に、日本でも盛り上がりを見せ始めた「MAKERムーブメント」2013年はいよいよ、ハードウェアベンチャーにスポットが当たるだろう。ただその前に、一体MAKERムーブメントとは何者なのか、ハッキリさせておきたくはないだろうか。

「オープンソースのデザインツールと3Dプリンタがあれば、デスクトップ上で誰もが製造業を始められる」というのは本当なのか。

数年前からハードとソフトの融合に取り組み、「消費電力の見える化」という注目のサービスを手がけるSassor(サッソー)の代表 石橋秀一さんに、ハードウェアベンチャーの可能性を聞く今回のインタビュー。

そこでは、モノづくりの現実と、ワクワクするような未来が見えてきた。キーワードとなるのは、「インターネット・オブ・シングス」。埋め込み型のセンサ、高度な画像認識技術、近距離無線通信技術などによって、身の回りに存在するさまざまなモノ・場所にインテリジェント性が与えられる。集まった膨大なセンサデータが解析され、画像認識や無線通信などの技術によりその活用の幅が広がっていく。モノとインターネットとがシームレスに繋がる世界だ。

製品一つひとつの消費電力を、リアルタイムで。

― Sassorといえば、「消費電力の見える化」ということで、震災以降とくにメディアでも取り上げられることが多かったように思います。まずはこの「電力の見える化」について、詳しく教えていただけますか?


Sassorでは、「電力の見える化」を『ELP(Energy Literacy Platform)』というツールを用いて実現しようとしています。



たとえば一般家庭において、自分たちがどれぐらいの電力を消費しているのかを知る術って、電力会社から届く請求書ぐらいしかないですよね。

ですが請求書では、冷蔵庫がどのくらい、エアコンがどのくらいの電力を使ったのか、ということは分かりません。しかも後から、1ヶ月分まとめてしか分からない。

私たちの提案するELPツールを使うと、どの電気製品がどれだけの電力を消費しているのかが、個別に、リアルタイムで把握できます。日常的に使っている電気の消費量を見える化することで、無駄な電力消費を抑え、エネルギー効率を高めることが実現可能になるわけです。


― 具体的にはどんなツールを使うんですか?


一般家庭用のものだと、電気製品とコンセントの間に挟む計測器です。店舗などの商用では、分電盤に取り付けるタイプの計測器を使用します。

どちらも無線が備わっていて、そこから計測データをルータに飛ばし、サーバを経由してWEBサイトにデータをアップします。利用者は専用サイトにログインして、電力使用状況を確認できる、という流れです。



― ハードウェアとソフトウェア両方で“ワンパッケージ”というわけですね。ソフトとハードの融合にいち早く取り組んでこられたという印象ですが、もともと、どういうきっかけでSassorを立ち上げたのでしょうか。


もともと私は、デザインの仕事をしたいと思っていたんです。広告グラフィックとかWEBデザインとか。それで武蔵野美術大学に入りまして。2Dデザインや、Flash、WEBプログラミングといったことをひと通り勉強しました。

でも次第に、物理的なモノ、形のあるモノをデザインしたいと思うようになって、そこから慶応義塾大学SFCの大学院に入り直したんです。共同経営者の宮内も、私が入って3年後に同じ大学院に入学してきました。

学んでいるうちに、物理空間とインターネットをくっつけた何かを生み出せないかと考え始めて、ちょうどその頃に行われていた『E-Idea コンペティション』(イギリスの国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシル主催)に、今のELPの原型となるようなアイデアで応募したんですよね。

そしたら2位に入選して、その後も起業家支援の『オープンネットワークラボ』の審査も通過してしまって。まだ在学中だったんですが、退学して起業したわけなんです。


― それがSassorなんですね。ところで気になっていたんですが、Sassorという社名の由来って何なんですか?


それを訊かれると心苦しいといいますか、非常にくだらない理由で恐縮なんですけど…。

宮内と二人で社名をどうしようと考えあぐねていたときに、Appleの社名が、創業者の出身地の特産品に由来する、という一説があることを思い出しまして。

私と宮内は千葉県銚子市の出身で、特産といえば「刺身」と「醤油」なんです。醤油はソイソースなので、刺身とソイソースで、サッソー、と。すみません…。



― (笑)肩に力が入っていなくて、むしろお洒落な感じがしますね。話を戻しまして、ELPツールについて。今どれぐらいの実導入が進んでいるのでしょうか。


最初は一般家庭向けのものからスタートしたのですが、現在のところ、商用の導入のほうが進んでいます。チェーン展開する飲食店や居酒屋などから引き合いを受けている状態ですね。まだまだ営業活動を頑張らないとと思っているんですが。

でも立ち上げ当初は、商用利用というのは全然考えていなかったんですよね。特に理由があったわけじゃなく、とにかく商用というのがなぜか思いつかなくて、一般家庭向けに製品開発を進めていました。

ですが一般向けとなると、コストの問題とか規格適合の問題とか、いろいろと大変なことが出てきまして。苦戦しているうちに、我々の取り組みをたまたまメディアで知った企業の担当者の方から、「店舗用に利用できないか」と問い合わせをいただいたんです。それが、『Soup Stock Tokyo』を運営されている株式会社スマイルズさんでした。

スマイルズさんのお話を聞いたところ、「同規模の店舗なのに店によって消費電力に大きなバラつきがあり、その解消をしたい。機器ごとの使用電力を把握する術がなく、困っている」とのことでした。まさに我々のツールが必要とされる状況だったんですよね。それで私たち自身も、商用の可能性に気づいたというわけなんです。


― 確かに、店舗になると一日の消費電力だけでも相当な金額になりますよね。


店の規模にもよりますが、一般的な飲食店で月に数十万円、スーパーなどになると、月に2、300万円ぐらいになりますから。頑張って売上を伸ばすよりも、無駄なコストを削減するほうが早いケースもあると思います。

それで、商用のサービスというものを始めてみたんです。一般家庭向けと違って、分電盤に取り付けるタイプですからデザイン性は関係ないですし、コンシューマ向けほどの厳しい規格もなくて、割とスムーズに進んでいきました。

電力データから、人の動きが見える。

― 実際、効果のほどはどうだったのでしょう。


ELPでは使用機器ごとに電力消費量を計測でき、しかも数秒おきにデータがアップされていきます。常に最新の状況が把握できるようになって、細かな改善がなされるようになりました。

店舗の節電を主導するのは、いわゆる「本部」であることが多いのですが、本部と現場の認識のズレというのはどうしても生じてしまうんですよね。それはお互いに数値が見えていないからなんです。それをグラフと数字で確認すると、説得力が増すというか、裏付けができる。店長会議などでも、同じ基準で報告内容の精査ができます。

面白いのは、機器ごと、時間ごとの把握が細かくできるようになったことで、電力消費の状態が掴めるだけでなく、店舗のオペレーション状態まで浮き彫りになってきたことですね。

同じような売上の店舗を比較しているにも関わらず、機器の使われ方が大きく違っていたりと、普通に眺めているだけでは分からないさまざまなことが定量的な数字を見ることによって分かってきたんです。

それによって、店ごとにスタッフのオペレーションが微妙に異なっていることが明確になり、店舗運営の最適化にまで繋げられるようになりました。スマイルズさんでは今後、電気機器の使用パターンを分析して、最適なオペレーションマニュアルの作成を検討しているそうです。


― それはすごい。当初の狙い以上の成果が出ているわけですね。


そうなんです。

私たちのサービスも当初に比べると進化していて、実は今は、「見える化」というのはオプションみたいなものなんですよ。得られた電力データをもとにいろんな角度から分析してレポートを上げたり、節電案のご提案をしたりと、店舗運営に役立てるようなアドバイスをさせてもらうことが、より重要になっています。


― データマイニングをして、店舗運営のコンサルティングをしているわけですね。


格好良くいえば、そうなりますね。現代の人々の行動や生活って、電気機器と密接に関わっていますから、電力の使用データを解析することで、いろいろなことが見えてきます。生活そのものを記録する“ライフログ”と呼べるものにも、今後はなりうると思いますね。

最近では「インターネット・オブ・シングス」と呼ばれたりしますが、今後、あらゆるものがインターネットとつながるようになり、データがとれるようになっていくと考えられます。

ハードからとったデータを取り込んでいくと、今インターネットの世界に流通しているデータとは比較にならないほどの量になる。それをどうマイニングして役立て、どんな世界をつくっていくか。生活空間にイノベーションを起こすようなサービスを生みだせるか。ブラウザの中で得るデータではなく、実世界から得るデータを活かしていく世の中が、これからやってくると思います。映画の『マイノリティ・リポート』みたいな世界です。



(つづく)
インタビュー第2回はこちら
▼MAKERムーブメントは明日を拓くか―インターネット・オブ・シングスがもたらすエンジニアの未来[2]



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