「もうクラウドファンディングは食傷気味…」という人も多いだろう。それだけ多くのサービスが乱立するなか、異彩を放つのが『zenmono』だ。モノづくりに特化し、町工場やメイカーズを支援。驚くことに全プロジェクトで資金調達を実現。「資金調達はゴールではない」と語る彼らのサービス哲学に迫った。
グーグルにおけるロボット企業買収のニュースは記憶に新しい。そこまでの規模ではないにせよ、WEB・ITと製造業の距離が縮まっていることは確かだ。
そんな中、CAREER HACKが注目したのは『zenmono』。モノづくりに特化し、町工場や個人でモノづくりをする人々(以下、メイカーズ)を支援するクラウドファンディングだ。プロジェクト数は少ないものの、成功率は100%を誇る(2014年1月現在)。「日本のコ・クリエーション アワード2013」においてベストケーススタディにも選出され、注目されつつある。
『CAMPFIRE』をはじめ、無数に存在するクラウドファンディングだが、彼らが異色なのは「お金以外の支援も集められるmakers’ platform」を目指していることだ。町工場やメイカーズが、企画から製造、販売まで行なえる「場」をつくる。WEB・IT業界に身を置く人でも、モノづくりに興味があれば、切り口次第で活用できるはずだ。
そんな『zenmono』を立ち上げたのが富士通出身の三木康司氏と、スズキ出身の宇都宮茂氏。『メイカ―ズムーブメント』というワードさえなかった2009年に起業。WEB・IT業界でも参考にできる、彼らのサービス哲学に迫った。
― クラウドファンディングが流行り、多くのサービスが立ちあがりました。
そのなかでも『zenmono』の大きな特徴とは?
三木:
プロジェクトのオーナーさんと仲間になる、ということだと思います。どんなモノを作るか、どう出資者を募るか、どう販売するか、全てのプロセスに私たちが入っています。
じつは私たちがメインで手掛けているビジネスは、町工場の経営者向けセミナーなんです。自動車や家電など日本の大手メーカーが海外に進出し、どんどん下請けの町工場は仕事が無くなっています。多くの工場経営者は指をくわえて見ているしかない。だったら、下請けの町工場が「自分たちで商品を企画し、販売できるようにしよう」とセミナーを始めました。
2ヶ月間みっちりと商品開発や販促などを学び、最終発表会でどんな商品をつくるか発表してもらう。高いクオリティのアウトプットも出てきたのですが、実現するための予算が足りなかったり、町工場の経営者が日々の仕事に追われたり、なかなか商品化に至っていなかったんです。
宇都宮:
そこで目をつけたのがクラウドファンディング、ということですね。クラウドファンディングで資金が調達できれば、商品化せざる得ない状況になる。教育のツールにちょうどいい、と。だから『zenmono』の目的は資金調達ではなく、経営者の自立なんです。クラウドファンディングの先にビジネスが待っているわけですから。
三木:
パッと出てきたアイデアだけでファンディングを行なうわけではなく、約2ヶ月間、私たちも一緒に勉強して「どうすれば上手くいくか」を必死で考えています。だから、私たち自身がオーナーさんの仲間みたいになる。仲間がプロジェクトを立ち上げたら、手伝わないわけにいかないですよね(笑)
どんな写真を掲載すればいいか。動画で何を紹介するか。イベントは開催できないか。WEBマーケティングも…と実践するのは、オーナーさんですが、全力でお手伝いします。
― 他のクラウドファンディングだと、オーナーとのパートナーシップや関係構築にコストはかけられないですよね。
三木:
私たちの場合、『zenmono』での成功実績がセミナーへの集客にもなりますし、商品化できたら私たちが運営するECサイトでも販売しているんです。だから、ファンディングの成功よりも、プロジェクト全体が成功しないと損をする。明確なゴールがあるわけでもないですから、ずっとご縁が続くイメージですね。
― 先ほど『zenmono』の目的は経営者の自立というお話がありました。
具体的に、なぜ、経営者が自立するのでしょうか。
三木:
私たちも発見だったのですが…クラウドファンディングをいかに成功させるか、ここを努力をすると、プロジェクトオーナーさんって経営者としてレベルアップするんですよ。アイデアはもちろん、緻密に原価計算をしたり、イベントをやってみたり、WEBマーケティングまで覚えたり。それができれば、もう普通の製造業じゃない。
もっといえば、商品をつくることで何を実現したいか、深く考えるようになるんです。経営理念のなかった会社が理念を作ったりもする。久しぶりに会ったらそれが名刺に印刷されていて(笑)
経営者の修業の場として『zenmono』を使ってもらう。それでもしプロジェクトが成功したら、経験を活かして『CAMPFIRE』さんに出してもいいし、海外など大舞台に挑戦してもらってもいいと思っているんです。
― ただ、プロジェクトの数が増えていくと、
オーナー全員と密な関係をつくるのは難しくなりそうですね。
三木:
確かに私たちのキャパシティーの問題もありますし、セミナーは受講せず、プロジェクトだけ掲載したい、という方も出てくると思います。ただ、『zenmono』に掲載いただく場合、必ず面談はしようと思っています。書類のチェックで済ますのではなくて。
― 手軽さとは対極の発想ですね。なぜ、面談をするのでしょうか。
三木:
情熱を知りたい、というのが大きいですね。以前、ある会社さんから「他のクラウドファンディングでお金は集まったけど、モノができない」と相談されたことがあったんです。アイデア、お金、能力だけじゃモノはできない。場所も人も必要ですし…やり遂げることは容易じゃない。情熱がなければ、とてもじゃないですが、成功させられないんですよ。
宇都宮:
プロジェクト全体の成功に、「相性の良し悪し」が大きく関係する、という部分もあるかもしれません。僕らや他の工場さんと相性が悪ければ、ビジネスにならないんです。
三木:
あるメイカ―ズさんに「すぐ見積がほしい」と依頼されて、知り合いの工場に無理を言ってお願いしたことがあるのですが…ドタキャンされたことがありまして。「あっちのほうが安いから」と。こういったトラブルがあると、私たちが工場から信頼を失ってしまうんです。
宇都宮:
メイカ―ズさんと工場を引き合わせるサービスをやっているのですが、それも機能ではなく、気が合いそうか、相性で工場を紹介していますね。モノづくりって人情商売的なところがあって、工場とのやり取りも「ちょっと安くしてほしい」「納期を融通してほしい」「プロトタイプを一緒につくりたい」など、人間味が欠かせない商売なんですよ。
― 人と人の縁や感情でビジネスがつながっていく。合理性や効率化とは逆ですね。
宇都宮:
効率を求めたら、先進国でビジネスはできないんじゃないですかね。それなら海外で起業したほうがいい。一人で商品を企画して、安いところにアウトソーシングする、という話になりますよね。ただ、それって何のためにやるのでしょう。
僕らは日本の町工場やメイカ―ズさんをつないで、モノづくりの流れが加速し、草の根的にすごいものが生まれていく。ここにすごくワクワクするんですよ。
宇都宮:
人間ってそもそも合理的じゃないですよね。モノを買う時もすごく感情的じゃないですか。理屈では説明できないけど、コレはいい!と思って買うとか。
そういえば、先日、新潟にある爪切りをつくっている会社に行ったのですが…
その爪切り、6000円もするんですよ。
― 6000円ですか!?100円ショップでも買えるのに…
その工場はスタイリッシュなショールームになっていて、刃を研ぐ職人さんが姿が目の前で見れるんです。とにかく職人技がすごい。感動ものです。それで見学し終わったところに販売ブースがある(笑)職人技を見てしまったものだから「これはほしい!」となるんです。
ストーリーとセットで買う商品は、SNSでシェアしたくなったり、誰かに話したくなったりする。材料費、加工費、マージンとは違うプライスですよね。
三木:
たとえば、大量生産のファストファッションは必需品ではありますが、特別な価値は感じられなくなってきます。水や空気みたいなもので。ただ、ストーリーに価値が感じられれば、多少高くてもほしくなる。
― 先ほどの「工場をショーケース化する」という話もそうですが、
“ストーリーを可視化”するということも大事になりそうですね。
宇都宮:
それが僕らの役目でもあるのかもしれませんね。ただ、脚本家が考えたストーリーじゃダメなんです。作り手が丹念に作っていれば、それがもうストーリーになる。工場にしても見せ方だったり、そこにある物語だったり、いろいろな価値が見出せるはず。
三木:
もちろん、演出は必要かもしれませんが、無いストーリーをつくることはできません。一方で、良いストーリーを持っているけど、語れない作り手さんもいる。ちゃんとした見せ方ができれば、価値は伝わると思うんです。
三木:
あと…私たちが製造業出身ということが関係しているのかもしれませんが、
単純に工場が好きなんですよね。工場にいる人たちが好きだし。
宇都宮:
ある意味、工場萌え…かな。
― 最近だと工場の写真集が出たりしていますね(笑)
一般の方はもちろん、WEB・IT業界でもモノづくりに対する関心は
すごく高まっていると感じます。
三木:
私たちが企画したモノづくりのイベントにも、デザイナーさんやWEB系のエンジニアさんが遊びに来てくれることが増えた気がしますね。なんとなく「触れられるもの」に回帰している印象はあって、忘れていた「モノ」の良さってあるのかもしれません。
宇都宮:
僕らも『発電会議』という交流会をやっていて、学生さん、コンサルタント、デザイナー、もちろん町工場の経営者や技術者もいて。お題を出して「町工場でおもしろいモノが作れないか」とブレストしていく会をやっているんです。どうしても町工場の人だけではアイデアがでないので、もっといろいろな人を巻き込んでいきたいですね。
僕らが目指しているのはmakers’ platformで、クラウドファンディングはあくまで機能の一つ。ヒト・モノ・カネというリソースで「カネ」が注目されがちですが、お金だけが集まってもダメだし、人だけがいてもダメでモノはつくれません。「人」がつながってこそ、ビジネスになるんじゃないですかね。
― 町工場、メイカ―ズ、デザイナー、WEBエンジニアなどつながりが増えれば、どんどん新しいモノが生まれそうですね。次にどんなモノが『zenmono』で誕生するか楽しみにしています!
(つづく)
▼zenmono 宇都宮茂氏へのインタビュー第2弾
44歳からのスタートアップ。サラリーマンを辞めて見つけた、仕事と遊びを分けない生き方。
[取材・文] 白石 勝也
編集 = 白石勝也
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