最近、新規事業の立ち上げを加速させているクックパッド。[[DQ]]起業を志す人のための組織[[DQ]]というコンセプトで、少数精鋭の社員が新サービスの開発に挑んでいるという。その新組織体制の狙いはどこにあるのか。全3回にわたり、インタビューする。
クックパッドが最近、新規事業の立ち上げを加速させている。“起業を志す人のための組織”というコンセプトで『新規事業開発室』を設立、少数精鋭の社員が新サービスの開発に挑んでいるという。しかも現在“一人一サービス”というテーマを掲げ、企画から開発まで、ほぼ一人の社員が独力で行なったりもしているらしい。
クックパッドといえば、海外からも一目置かれる、日本を代表するWEBサービスの雄。新たな取り組みを始めた、と聞けば、放っておくわけにはいかない。しかもそれが、エンジニア個人の発想力や開発力を促進するような取り組みとあれば、なおさらである。
そこにはどんな意図や狙いがあるのか。全3回、3名へのインタビューの中で、クックパッドが考える「これからのエンジニア像」や「エンジニアが歩むべきキャリアイメージ」を解き明かしたい。
まず第一弾は、クックパッド人事部の鷲見美緒さん。新組織体制となった経緯から伺う。
― クックパッドでは昨年、組織を大きく変更されたそうですが、新たに設置された組織には“起業を志す方たち”が多くいらっしゃるそうですね?まずはその組織変更について詳しく教えてください。
昨年9月に社長直下で新サービスを開発する組織「社長室」を設立し、5月1日付で名称を「新規事業開発室」に改めました。現在、4名の社員が在籍しています。現在のところ“一人一サービス”、つまり社員が一人で一つのサービスを、企画から開発、運用まで行なうというのがテーマです。
― “一人一サービス”とは、チャレンジングな取り組みですね。そこにはどんな狙いがあるんでしょう?
社長室が生まれたそもそもの背景には、明確な設立意図があったわけではないんです。もともと、当社の技術部長を務め、それから人事副部長を担当していた井原という者が、「こういうサービスを作りたい」と、社長に直接アイデアを持ち込んだのがきっかけだったんですね。
じゃあやってみようか、ということになって、後から社長室という“入れモノ”を作った、という経緯があります。
ただ、もともと当社には、社員一人ひとりの「やりたい」という想いを大事にする社風があって、それが今回の井原の提案をきっかけに具体的な一つの形になった、とは言えますね。エンジニアにとっての新しいキャリアパスを実現する場所、になっていると思います。
― マネジメントをされていた方が、いきなり「サービスを作りたい」と直談判されたんですか?
私たちからすると、それほど意外なことではないんですが…社外の方から見ればけっこう突拍子もない話ですよね(笑)
当社では人材を採用する際にも、自ら何かをやりたいと考えているような人を求めています。いわゆる起業家タイプといいますか。“起業か、クックパッドか”というメッセージで採用活動をすることもあります。
― 起業か、クックパッドか。分かりやすいメッセージですね。ですがそもそもこれまで、新規事業部門というのは無かったんでしょうか?
いえ、新規事業のための事業部門は別にあります。それらの部署は、“事業領域の拡大”という明確な目的のもとに新規事業を創出して行こうとする部署ですが、新規事業開発室のほうはもっと自由な感じといいますか。社員がやりたいと思うことを、思うままにやってみよう、という部署なんです。
また、今は当社にとって、ちょうど第二創業期というべき時期なんですよね。これまでは、レシピサービスとしての『クックパッド』を磨き上げるフェーズだったわけですが、今度は“食のインフラを目指す”という大きなテーマに取り組んでいきます。
当然、新しいサービスの開発というのが必要になってくるんですが、そのとき、「主幹事業たりうるか」ということを一つひとつ吟味していくのではなく、さまざまな可能性をカタチにして試していくというやり方も必要です。その意味で、新規事業開発室には大きな期待が寄せられていますね。
― “食のインフラ”、クックパッドらしいテーマです。
食べ物が生産されて消費者の口に入るまでの間には、さまざまな課題が存在しますよね。たとえば、スーパーで買い物をするという行為一つを見ても、不便に感じることってたくさんあると思うんです。外で働いている人であれば、帰りが遅くなって店に行くといつも品切ればかりだとか、独身の方であれば、野菜をまるごと一つ買ってもいつも余らせてしまうとか。
そういった課題を解決していくというのが、我々が次に目指すところです。昨年7月に事業化された『やさい便』や、料理教室検索サービス『cookstep』も、食のインフラを目指す上でのサービスといえます。
『やさい便』では、一日5箱しか出荷できないような小さな農家さんでも、開かれた市場に参加できます。生産量は少ないけれど良質な野菜を、消費者はラクに、適正な価格で手に入れることができるようになるわけです。
― それはまさにインフラとしての役割を果たしていますね。お伺いしていると、クックパッドにおけるエンジニアのあるべき姿というのは、“サービスを生み出せること”だと感じたのですが。
サービスを生み出せる、といっても、経験しなければなかなか簡単にできるものでもありませんし、最初からそれを備えた人というのはいないですよね。
ただ、課題を発見できること、そして課題を解決するための思考ができることは、サービス開発のための素地として重要だと考えています。サービスを新たに生み出すにしても改良するにしても、課題の発見とその解決、というのが基本になると思うので。
逆にいうとそういう課題意識がないままに、「なんとなくこんなことができたらいいな」というだけでは、難しいかもしれませんね。
― 今のお話しにも関連するのですが、クックパッドが考えるエンジニアのキャリアというのは、どんなものなんでしょうか。キャリア形成の在り方といいましょうか。
少し前までの当社は、若手エンジニアがメインボリュームでした。ですがこのところ、30代~40代ぐらいのいわゆるベテラン層も中途採用によって増えてきています。
― 30代~40代といえば、特にキャリアパスを考えるようになる年代ですね。
非常に活躍しているんです。技術力の高い人、マネジメント力のある人、さまざまですが、進んで若手のメンター役を買って出てくれたりもします。テクノロジーの話だけではなくて、仕事人として、ひとりの人として、といった話も職場の内外でしてくれる。そういうのはこれまでのクックパッドにはあまり無かったことで、非常に良い効果を生んでいるんですね。
当社に限らずいえることですが、業界自体が若いですから、キャリアのロールモデルとなる人がなかなかいないですよね。だからこそ若手にとって、目指すべきモデルのようなものができて、自分のキャリアステップをイメージしやすくなっているんだと思います。
― ですがこれまで若手が占めていたということは、若い人の下にベテランが入る、といったこともあるわけですよね?
はい。ですが非常に上手くいっていると思います。その要因は、本人の人柄や性格にもありますが、そもそも役職と給与が紐づいているわけではない、という点にもあると思います。当社では、必ずしもマネージャーの給料が高いとは限らない。あくまでも得意領域の違い、という捉え方です。
マネジメントが得意なもの、プレイヤーとしてスペシャリティを磨くもの、それぞれに能力を発揮する場所が違うだけで、どちらが偉いという考えは最初からしないんですね。
― エンジニアのキャリアパスといえば、マネジメントラインを登っていく、というのが王道です。でもクックパッドには良い意味でそれがない。
そうですね。それは当社の良さだと言えると思います。事実、冒頭でもお話ししたように、新規事業開発室の第一号社員であった井原は、技術部長、人事副部長というポジションから一人のプレイヤーに戻っているわけですし。
その自由度があるからこそ、新しくてとがったサービスが生まれ得ると思いますし、組織自体も活性化していく。結果として、エンジニア自身が能力を伸ばしたり、給与を上げたり、新しいポジションが生まれたり、ということに繋がっていきますよね。
― 新規事業開発室の取り組みは一見すると奇抜に見えますが、クックパッドが持つ強みと深く繋がっているのかもしれませんね。井原さんたちのお話をますます伺いたくなりました。
この後、ぜひ本人たちから話を聞いてみてください。
― ありがとうございます!
(つづく)
▼新規事業開発室の第一号社員、元技術部長・井原氏へのインタビューはこちら
役職を捨て、プレイヤーとしての道を選んだ男― クックパッド元・技術部長 井原正博氏の企て
編集 = CAREER HACK
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