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役職を捨て、プレイヤーとしての道を選んだ男― クックパッド元・技術部長 井原正博氏の企て

2013-05-07

役職を捨て、プレイヤーとしての道を選んだ男― クックパッド元・技術部長 井原正博氏の企て

クックパッドが新たに立ち上げた部署「新規事業開発室」。そこでは“起業を志す”というコンセプトのもと、新しいサービスが開発されているという。現場ではいったい何が行われているのか。それはどんな意味を持つのか。新規事業開発室の第一号社員、井原正博氏に伺った。

▼クックパッド取材レポート第1弾
“一人一サービス”がルール!起業志向の人材を求める、クックパッドの新組織体制。その狙いとは?  から読む

大抵のことは、やらせてもらえる。

― 井原さんは『新規事業開発室』の第一号社員ということですが、それ以前は技術部長をされていたんですよね?どうしてまた、サービス開発の現場に戻られたんですか?


クックパッドにはもともと、サービスを作りたいと思って転職してきたんですよね。その前はYahoo! Japanでサービス開発をしていたんですが、キャリアの最後のほうはマネジメント業務に専従していて。一年のうち2/3ぐらいは、メンバーの目標設定をして、評価して、また目標設定をして…というのをぐるぐると回す日々でした。おかげでエクセルとパワポの使い方はどんどん上手になりましたが(笑)、ちょっとツライな、と。それで、もう一度サービス作りがしたいと、クックパッドにやってきたんです。



ですがクックパッドでもちょうどサービスが拡大期だったこともあり、エンジニアの採用や育成が急務になっていました。結局、技術部長を約2年半、人事副部長を半年ほど勤めましたが、どちらも採用業務や制度づくりがメインだったんです。

で、もういい加減、そろそろサービスが作りたいぞ、と(笑)


― 社長に直談判されたんですよね。


直談判というか、やりたいと思っているサービス案を50個ほど持っていたんですよね。もちろん、クックパッドに関連するもの、という範囲で。でもやりたいものしか持って行ってないので、どれになっても良かったんです。

で、いろいろ話し合って「これがいいんじゃない?」と決まったのが、いま手がけている『みんなのカフェ』というコミュニティサービスです。


みんなのカフェ


クックパッドには2000万人のユーザーがいるわけですが、そういったユーザーが繋がれる場所というのがなかったんですよね。それってもったいないなーと思っていたのが、アイデアの背景にあります。


― いきなり案を持って行って、採用される勝算というのはどれぐらいあったんですか?


基本的には、言えば大抵のことは何でもできる、というふうに思ってました(笑)

本当、そんな社風なんですよ。実際、スムーズに話が進みましたし。いざサービスを立ち上げるとなったとき、組織図上、私の身の置き所がなかったので、社長室という受け皿もわざわざ作ってもらったんです。

その社長室はその後5月1日付で名称変更し、新規事業開発室という部署になりました。私自身も異動をし、現在は「コミュニティ推進室」という部署に所属しています。これも新たに生まれた組織で、在籍しているのは私一人。新規事業開発室と同様、自分の作りたいものを作っていくことを前提に、よりクックパッド本体とのサービス連携を意識した部署になっていますね。


― 「自分の作りたいものを作る」という部署が続々と生まれているわけですね。そこには、初めから何か狙いがあったようにも思えるのですが…。


(笑)どうなんでしょうね。もともとは私から持ちかけたことでもありますし、あまりハッキリとその意図を尋ねたことはないんです。

でも一つには、エンジニアに対する社長の考え方は表れていると思います。自分でモノを作れる人は自分自身で作ったほうがいい、という考えがあるんです。アイデアはあるけど自分でモノは作れない、という人がサービスを開発するよりも、自己完結できる人が作ったほうがいいと。そのほうがコスト的にも、意志決定のスピード的にも、スタートアップのサービス開発には適していますよね

そうやってスピーディにPDCAを回していって、良いサービスになっていけば、社内ベンチャーとして事業化するとか、子会社化するといった道が生まれます。あるいはそのまま独立してもいいと、当社では考えているんです。


― クックパッドにとって、それはどういう意味を持つんですか?


新規事業や子会社が増えればメリットになる、というのは言うまでもないと思います。また、仮に独立していったとしても、クックパッドとの関係は残るわけです。クックパッドを起点とした人やモノの繋がりが広がることで、相互扶助やシナジー、イノベーションなど、得られるメリットというのは多様にあると思いますね。

それから、エンジニア一人ひとりがサービス開発の経験や知識を身につけ、スキルアップしていくという狙いもあると思います。キャリア形成の在り方の一つなのではないかと。

喜びもつらさも、全部味わえる。

― 新規事業開発室では“一人一サービス”という暗黙のルールが決まっていますが、井原さんも企画から開発までを独力でなさっているんですよね?


運用も一人でやっていますね。


― 一人でやるというのは、やはり学びが多いですか。


それはもう。ほとんど上手くいかないことばかりですから(笑)

まず、何が問題なのか、どういう打ち手を打てばいいのか、というところを見極めるのが非常に難しいです。これじゃないかと思って試してみても、なかなか予想した反応が得られない。ユーザーの反応がダイレクトにわかる分、上手くいったときの喜びも大きいですが、そうじゃないときは結構キツイですよ。何をやるにせよ自分の責任、喜びもツラさも全部一人、という孤独な世界でもあります。でもそういった経験を重ねることが重要なんです。



― やはり相当苦労が多いんですね。


とは言っても、サービスを開発するにあたっては、ものすごく恵まれた環境が与えられていますけどね。プライベート開発することに比べたら、本当にあり得ないぐらい恵まれていますよ。

たとえば全て一人で作るといっても、クックバッドにはWEBページ作成に関する優れたフレームワークがあるので、それっぽいデザインをすぐ作れるんです。ブラウザ互換とか、そういうことをあまり考えなくていい。それから、アイコンのデザインといった専門性の高い部分については、社内のデザイナーにお願いできる環境ですし。

クックパッド2000万人のユーザーに対してサービスをプレゼンテーションできる、というのも、ものすごく恵まれた状況ですよね。

こういう環境を活用しながら、自分のやりたいサービスを作らせてもらって、なおかつ給料まで貰えるっていうのは、本当にありえないです。自分としては、新規事業の立ち上げをする機会があれば、何回でもやりたいですね。

世の中を良くするために、サービスを作る。

― 井原さんとしては、サービス開発をすることは、やはりエンジニアにとって重要なファクターになるとお考えですか?


昔に比べて、サービスを作るハードルというのは、格段に下がってきていますよね。大人数で集まって、上流から下流へ開発工程を流していって…という時代ではなくなっている。だからこそ、エンジニアはサービス作りにどんどんチャレンジすべきだし、どれだけそういった経験・スキルを身につけているか、ということがこれからのエンジニアに求められる素養の一つになるんじゃないかなとは思います。


― チャレンジするにあたって、必要となるものってなんでしょう?


やはり、技術的な下地というのは、あるにこしたことはないですよね。そのほうがラクというか、サービス作りのほうに集中できる。両方学びながらやっていく、というのはかなりしんどいと思います。

でも、最も重要なのは情熱でしょうね。「俺はこういうサービスを作りたいんだ」という情熱。「絶対世の中に必要とされるはずだ」という根拠のない自信。そういうものを持っている人っていうのは強いですよ。どんな大変なことでも乗り越えられてしまいますから。


― 明確な目的意識を持つことが大切だと。


やりたいことをやって生きていけるのが一番いいですよね。それがコーディングなのかマネジメントなのか、といったところは人それぞれ違うとは思いますが。

ただこの業界はまだ、キャリアパスの理想像というものが明確に存在していないので、なかなか難しい部分がありますよね。こうなれば幸せになれるよ、というものがない。

でも個人的には、せっかくモノを作るスキルを持っているのだから、その力を少しでも、世の中を良くしたり誰かを幸せにすることに活かすのがいいんじゃないかな、とは思います。そういうエンジニアがもっと増えたらいいなと。

そしてそのためには、やっぱりサービスをまるごと一つ作ってみるというのが大事だと思うんですよね。


― では最後に、今後の目標を聞かせてください。


まずは『みんなのカフェ』を月間100万UUに持っていくことです。サイトを成功させることで、自分がクックパッドの起業家育成のモデルケースになれればいいなとも思いますね。こういうときはこうすればいいんだ、とか、後に続く人がつまらないところで躓かなくてもいいように、ノウハウを溜められたら、ひとまず新規事業開発室の第一号社員としての面目は保てるかなと(笑)


― なるほど。『みんなのカフェ』、今後も注目させていただきます。本日はありがとうございました!


(つづく)
▼エンジニアリング未経験から《漢方デスク》をひとりで立ち上げた、葉山茂一氏へのインタビューはこちら
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