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CAREER HACK

takram 田川欣哉に学ぶ、《デザインエンジニア》の仕事と思想。[前編]

2012-07-17

takram 田川欣哉に学ぶ、《デザインエンジニア》の仕事と思想。[前編]

「デザインエンジニア」が中心となって活動しているデザインエンジニアリングファーム《takram design engineering》。デザインとエンジニアリングを分けず、両方を一人が行なうことでモノづくりのレベルを高める、という彼らのスタイルを深く理解すべく、代表の田川欣哉さんの考えに迫った。

デザインとエンジニアリングの境界を超える、異能のクリエイター集団。

《企む》という言葉を冠した“takram design enginieering”という会社が、いま注目を集めている。まず目を引くのがその仕事の幅広さ。無印良品のiPhoneアプリ「MUJI NOTEBOOK」やクラウド名刺管理アプリ「Eight」といったアプリケーションから、NTTdocomoの「iコンシェル」や「iウィジェット」のUI開発、さらには2009年のミラノサローネに出展された東芝のインスタレーション「Overture」まで、ジャンルの枠に制約されない活動を続けている。

直近の仕事は、今年のドクメンタ(ドイツの現代美術展。美術界では今後のトレンドを占う重要な展覧会の一つとされている)に出展されたアート作品「Shenu: Hydrolemic System」。“100年後の未来で使われる水筒とは?”というお題に対して、“ごく少量の水分摂取で生命を保てる人工臓器システム”とい う人体を水筒化するアイデアを導き出し、形にしたものだ。

Shenu

人工臓器システム「Shenu: Hydrolemic System」
(Photograph by Naohiro Tsukada)
(Artwork by Bryan Christie, with organ rendering by takram design engineering)


こうしたアウトプットもさることながら、takram最大の特徴は制作プロセスにある。takramではいかなる仕事においても、デザインとエンジニアリングの工程を分断しない。両方を一人のスタッフが行ない、プロダクトを完成まで導いていくのだ。彼らが名乗っている肩書きは「デザインエンジニア」。デザイナーでもエンジニアでもない、takramが提唱するモノづくりにおける新たな職域だ。今回は、そのtakram代表の田川欣哉さんにお話を伺い、デザインエンジニアの仕事やご自身のものづくり観を探った。

デザインエンジニアとは、何か?

田川さん左1

― takramでは皆さん「デザインエンジニア」という肩書きで仕事をされていますよね。デザインエンジニアの定義について教えていただけますか?

デザインエンジニアとは、エンジニアとしてもデザイナーとしてもきちんとアウトプットができる人のことです。例えばソフトウェアのデザインエンジニアだったら、ソースコードも当然書けるし、UIデザインも普通にやる。Photoshopも使うし、開発環境でプログラムも書く。そのアウトプットの力が両方揃っているのがデザインエンジニアです。

エンジニアとしてもデザイナーとしても手を動かせると、現場でちょっと試作を作る必要が出てきたときに他の人との違いが出ます。自分の頭の中で作らなければならないものをデザインとエンジニアリングの要素に分解し、ぱっと作って出せる。そのプロセスに複数人が関わるのか、それとも一人である程度やれるのかで、スピードと質の両面に大きな差が生まれます。

今の世の中、抱えている問題が非常に複雑になっているので、いきなり正解にたどり着ける確率はゼロに近い。僕らがいかに専門家で慣れているテーマだったとしても、最初に出す答えはたいてい間違っているんです。そういう複雑な状況の中でどうモノづくりを前に進めていくかという時、プロトタイプを作って実際にユーザーに使ってもらったり、それを見ながらみんなで議論をすることはとても有効なんですね。

MUJI NOTE

「MUJI NOTEBOOK」

プロトタイプといっても単なる試作品では意味がありません。試作だと思って使われると、僕らは正しい情報をキャッチできません。だからデザイン的にもエンジニアリング的にも、ユーザーがぱっと手に取った瞬間に本当の製品だと思うものを作る必要があります。正解にたどり着くためには、そのレベルのプロトタイプを、プロジェクト期間中にとにかくたくさん作らなければいけません。

テストユーザーにプロトタイプを使ってもらって、フィードバックをもとに議論して、そこで出たアイデアを、次の会議までに新しいプロトタイプに反映して持ってくる。それをデザインとエンジニア両方できる人がやると、とにかくスピードが速いんです。速いぶん、プロジェクトの期間中に出すプロトタイプの数も必然的に多くなり、結果的にアウトプットの質は高くなります。

それに何か問題にぶつかった時、それがデザインで解くべき問題なのか、エンジニアリングで解くべき問題なのかを見極められるかどうかの差も大きいと思います。自分で手を動かして、デザインとエンジニアリング両方のことをよく知っている人の判断はとても正確なんです。

プロジェクトを通じてたくさん試作をつくり、議論をみんなでシェアして、限りなく正解に近いモノを生み出していく。それが僕らが目指すデザインエンジニアの姿であり、いろんな企業の方と仕事をしていてちょっと他とは違うんじゃないかと思ってもらえる一番大きな理由だと思います。


メーカーの設計現場で気づいた、エンジニアという仕事の限界。

田川さん左2

― 田川さんがデザインとエンジニアリングの両方を一人でやろうと思い立ったのは?

大学時代ですね。昔から「ものを作る仕事がしたい」と考えていて、大学では工学部の機械科に進んだんです。機械工学って非常にベーシックな学問だから、モノづくりの基本を学ぶには一番いいだろうと。工学部に行けば、自分で発想したものを自分で具現化して世に問うていくことができると思っていました。

でも、あるメーカーでインターンをした時に現実はそうじゃないんだと気づきました。まず企業のものづくりの現場にはデザイナーやマーケッター、プランナーが必ずいて、そのチームの一員としてエンジニアがいる。それでモノやサービスの根っこの部分を考えているのは、実はプランナーとかマーケッターだったりする。ユーザーとはなんだろうかとか、モノがどういう風に社会で機能していくんだろうかといった、モノの抽象レベルでの価値についてはエンジニアよりもデザイナーのほうに発言権があったりする。

エンジニアがやれる領域とやれない領域が存在していて、やれない領域については自分の知らなかった職種の人たちが活躍してるという事実に、すごくショックを受けたんですね。そこから「自分で考えて自分で作る」職業に就くためにはどうすればいいか考え、試しにデザインのことも勉強してみようかなと思ったんです。

それでイギリスの大学院に留学してプロダクトデザインを学びました。デザインとエンジニアリングというをかけ持つ方法を一回突き詰めてやってみようと。以来、ずっとその立ち位置で仕事をやっている感じです。

仕事をするうちに分かってきたのは、どうもイノベーションが起こっている現場では「テクノロジー」「クリエイティビティ」「ビジネス」の3つが有機的に連動しながら、物事が動いている。そういうところに身を置いてやっている人たちは、楽しそうに仕事をしている。シリコンバレーがそうであるように、面白い仕事をやっているところには大体その3要素が揃っているようで、僕らの向かっている方向も間違ってはいないんじゃないかと思っています。

どうすれば「デザインエンジニア」に近づけるのか?

― デザインエンジニア的な仕事をしようと思ったら、まず何から始めればいいのでしょうか?

まずは自分の職域とは違う領域でモノを考えられるようになること。エンジニアだったらデザイン的な視点、デザイナーだったらエンジニアリング的な視点を身につけることから始まると思います。その上で、もし可能であればちょっと時間はかかるかもしれないけど、自分で手を動かして何かをつくってみる。そこまでやってみたら、仕事における行動原理が変わってくると思います。

もちろん根気も必要だし時間もかかることですから、皆ができることではないかもしれません。できるようになったとして、既存の会社の枠組みの中ではフィットしないかもしれない。「自分の仕事を取らないで」っていう人もいるかもしれませんしね。

でも仮に何か一緒にやったプロジェクトが成功したとすれば、周りの目も変わってくると思うんです。その成功事例をもとに、少しずつですけど間口を広げていくことはできると思う。

僕らもtakramをはじめた当初は、クライアントの目は懐疑的でした。「うちにはエンジニアもデザイナーもいるし、それで問題なくモノが作れているから特にニーズはないかな」と、そういう話もすごく多かった。でも一回仕事をしてみると、質がちょっと違うというのを感じてくれるみたいで。アウトプットが冴えてる冴えてないのレベルではなくて、そもそも仕事のプロセスが全然違うという部分で驚かれるんですね。エンジニアが図面を描いて、図面をもとに最後にデザイナーが好きに仕上げるというような、いわゆる一般的なモノづくりのプロセスとは全く違うやり方で仕事が進むのが、企業の人たちから見ると新鮮なんだと思います。

僕はどちらかというとモノづくりの現場は常に進化していく必要があると思っているので、デザインもエンジニアリングも両方一緒にやるっていう方法論は1つ仕事の進化の方向性として可能性があると考えています。チャレンジする価値は十分あると思いますよ。


[後編につづく]

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