2013.11.27
失敗続きの窓際エンジニアが掴んだ最後のチャンス|iOSアプリ開発者 堤修一に訊く

失敗続きの窓際エンジニアが掴んだ最後のチャンス|iOSアプリ開発者 堤修一に訊く

150万ユーザー以上を獲得した「バウンドモンスターズ」や「Domino's App」などを手掛け、iOSアプリ開発者として世界で活躍する堤修一さん。31歳でWEB業界に転職した彼は、プログラミングも満足にできない状態から、いかにして世界で活躍するiOSエンジニアになったのか?

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スキルも実績もない30歳OVERのエンジニアが世界で活躍するまで

WEB・IT業界は若さ故、活躍する人々のキャリアパスは未だ不透明だ。

そこで、エンジニアのキャリア形成に関して、第一線で活躍する様々なエンジニア・クリエイターに直球でインタビューを行なう本企画。

今回、話を伺ったのはiOSデベロッパとして世界で活躍する堤修一さん。ブログ「Over&Out その後」の著者でもある彼は、これまでにiOSアプリを30本以上をフルスクラッチで開発しているという。

まずは彼の経歴をざっとご紹介。京都大学大学院・情報学研究科を卒業し、NTTデータ、キヤノンで音声認識と画像処理の研究・開発に携わった後、ディレクターとして面白法人カヤックに応募するも落選。しかし、プログラマとして再応募し入社を果たしている。

当時31歳だった堤さん、実はプログラミングも満足にできない状態での転職だったという。しかし、iOSアプリ開発者としてメキメキと頭角を現し、150万ユーザー以上を獲得した対戦RPG「バウンドモンスターズ」や数々の賞を受賞した「Domino's App」などを開発。

「iOSアプリ開発 達人のレシピ100 ― 開発現場で実証された実用コード集 」を執筆後、活躍の場を海外に移し、CAREER HACKで「グロースハッカー」について取材を行なった高橋雄介氏らとともに、グロースハックプラットフォーム《AppSocially》のLead iOS Developerとして活躍。シードアクセラレータ・プログラム『500Startups』に参加した実績を持つ人物だ。

いかにして堤さんは、プログラミング素人状態から世界で活躍するiOSエンジニアになったのか?彼のキャリア観とその軌跡を伺ったロングインタビュー第1弾。

30歳にして一流メーカー研究員から素人WEBエンジニアへの転身

― 堤さんのキャリアを振り返ると、一流メーカーからWEB業界・カヤックへの転職が一つのターニングポイントであると思います。なぜこの業界に目を向けたのでしょうか?


プログラミングができるようになって、モノづくりをしたいという思いがあったのは確かですが、“WEB業界”というよりは、まずカヤックという会社に興味をもったんです。

代表の柳澤さんが書いた「面白法人カヤック会社案内」という本をたまたま手にとったのですが、経営理念いついての考え方とか、ほとんど全ページにすごく共感しちゃって。

たとえば、「それって漫画っぽい?」がカヤックでの判断基準だ、ということが書かれてるんですけど、これはほんとにそうだと思って。メーカーにいた時は、多少なりとも“つまらなさ”を感じていたんです。みんないい人だしすごく優秀だけど、どこか大人的な考えで。漫画っぽい…一見、幼稚とも思える価値観を共有できなかったんです。そんな中で「漫画っぽい価値観いいよね!」というカヤックのメッセージが自分に飛び込んできて、業界云々の前に、この会社入りたいって思ったんです。



でもまだ現実的な“転職先”としては考えてなかったんですね。自分に能力がないのはわかってて、カヤックに入るということがあまり現実的には思えなくて。ところが、あるイベントでカヤックのFlasherの方と出会い、その方の家に泊まることになって「一緒に働きたいですね」と言ってもらえて。

そこで初めて、カヤックにディレクター職で応募してみたんですが、不合格。憧れにも近い感情を抱いてたので、諦めがつかず「この歳でも企画等の勉強をして再挑戦したら、ディレクターとして採用される可能性はありますか?」とメールを送ってみると、柳澤さんから直々に「その年齢で業界未経験者をディレクターとして採用するのは難しい。プログラマとしてなら、可能性はあるかも…」と返信が。そこで、Flash/ActionScriptの勉強をはじめたんです。

このタイミングで、WEB業界の面白さに気づきました。メーカーは、製品を作るのに3年位かけるけど、WEBはすごいスピード。今日思いついて、今日出すことだってできる。Flashを使えばすごくリッチな表現も可能で、めちゃくちゃすごいって。


― そして無事に、2度目の応募でカヤックに開発者として入社されたと。


いや全然無事じゃなかったです(笑)Flasherになるつもりで受けて、内定を頂いたのは良かったのですが、配属はサーバーサイドエンジニア。全く触ったこともないし正直なところあまり興味がない分野でした。

それでも、入社してからずっと楽しかったですね。つくってるサービス自体はおもしろいものだったし、自分で手を動かしてつくるということにずっと憧れがあったので。

少し話はそれますが、メーカーでは8時半~17時くらいまでが定時だったんですけど、それが本当に長く感じてたんです。残業代もすべて出る超ホワイト企業だけど、僕にとってはかなりツラかった。一方で、カヤックでは入社初日から深夜1時まで働いて。しかもそれが一番早く帰った日だったんですよ(笑)でも毎日楽しかったし、時間はあっという間に過ぎていって、長く働いているという感覚はまったくなかった。そういうのがあって、僕としては、“ブラック”とか“ホワイト”っていう言い方には違和感を覚えるんですよね。僕は17時に終わって残業代が出る会社のほうが辛かった。人もいいし、環境もいいけど、「つまらないと感じながら、時間を使うことほどつらいものはない」。

失敗の繰り返しの中で掴んだ最後のチャンス

― 堤さんの得意なフィールドはiOSの開発ですよね?サーバーサイドエンジニアとして、実績を積まれた後、アプリ開発者に?


その表現で間違いではないのですが…、実は、サーバーサイドでは全く使い物にならなかったんです。深夜まで頑張ってやるんですけど一向に成果が出せず、入社2ヶ月すると、ぼくから仕事がどんどん剥がされていくんです。自分より若いエンジニアが、横で活躍している中、自分は、「これでも読んどいてください」ってプログラミングの入門書を渡されて…



― もう散々ですね…数年後に開発者として著書まで出す人でも、最初は全く戦力にならなかったと。


まさに窓際エンジニアでした。後から聞くともうクビになる寸前だったらしいんです。そんなに甘い業界・会社でないことは理解していましたが、あの時期はかなり堪えましたね。

そこから、まるでリハビリのように簡単な実装をやりながら、すごく簡単なiPhoneの時計アプリの開発を任されたんです。しかしリリース時には必要な機能がなくてレビューが1点になり、急いで改修をするとアプリが起動と同時にクラッシュする始末…。クライアントがカンカンに怒って、役員が謝りに行く事態を起こしてしまいまして…。

興味のあったiPhoneアプリの開発でも大失敗してしまい、本当に何をやってもダメな状況でしたが、めげずに社内日報などで週末作ったiPhoneアプリのことをアピールしていたんです。すると、入社3ヶ月目くらいにカヤックの新規事業ラボ(BMチーム)から声が掛かったんです。そこで業務時間外・ゴールデンウィークをまるまる使ってアプリをつくりました。

そんな活動を続けていると、「Domino's App」の案件が回ってきたんです。もう最後のチャンスだと思って必死にやり込みました。結果、そこでは良い仕事ができ、評価もして頂けたのですが、実はDomino's Appって当時の様々なアプリのエッセンスをひととおり兼ね備えていたんですね。基本的なところから応用まで、実装の勉強にもなりました。アプリも成功したことに加え、スキルも自信もつき、開発者としての信用もあがったんです。

そのときはまだ、苦手なサーバーサイドと兼任でアプリをやっていたのですが、Domino案件での働きを見た上司が、アプリ専任でやってみないかと声をかけてくれました。当時はまだFlashも全盛で、WEB制作会社でiPhoneアプリを専任で制作するエンジニアはあまりいなかったと思うのですが、そんな中で専任でやるからには日本一目指せって言われて。そこから頑張って今に至っていますね。


― カヤックに入社してからは、かなり厳しい環境だったと思います。そんな中で、踏ん張ってチャンスをモノに出来たワケは?


モノにできなかったチャンスもたくさんありますけどね(笑)カヤックで心が折れたとして、大企業には戻れないだろうし、他のベンチャーもそんな32歳はいらないだろうし、もう前向いてやるしかなかったんです。

「何をやるか」という点も僕にとってすごく重要でした。4ヶ月ぐらいやったサーバーサイドエンジニアとしてはまったく芽が出ず、iOSエンジニアとして大成できたのは、やはりこの分野に興味があって、楽しかったからだと思います。



※修正:誤解を招く表現がございましたので、掲載時からタイトルを一部変更しております。
前)「iOS開発者」→後)「iOSアプリ開発者」
(2013/11/28 CAREER HACK編集部)



(つづく)
▼iOSアプリ開発者 堤修一さんへのインタビュー第2弾
友だちが減っても、とにかく手を動かし続けた|iOSアプリ開発者 堤修一のスキルアップ術



[取材・文] 松尾彰大 [撮影] 城戸内大介



編集 = 松尾彰大


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