シリコンバレーにおいて、現在進行形で需要が急騰している職種《グロースハッカー》。米国での求人数は、大手・ベンチャーを問わずすでに700以上にのぼるという。果たして、グロースハッカーとは何なのか?これからのWEBビジネスを牽引する存在とも言われる、その仕事の定義に迫る。
シリコンバレーを中心に「グロースハッカー(Growth Hacker)」と呼ばれる、新しいキャリアが注目を集めている。
実は、昨年11月のアメリカ大統領選でも、あるグロースハッカーの存在が話題となった。当選したオバマ氏と最後まで大統領のイスを争った共和党ミット・ロムニー候補陣営、そこで、WEBサイトやメール、ソーシャルメディアなどを用いたマーケティングを実行。様々な支持者との接点から得られたデータを分析、数時間単位で施策の改善を重ね、結果として、1億8000万ドル(約140億円)もの個人献金を集めたというのだ。
これはあくまで特異なケースの一つだが、グロースハッカーへの注目度が日増しに高まっているのは間違いないだろう。シリコンバレーのトレンドが数年後には世界のトレンドとなっている現状から鑑みるに、近い将来、日本においても同様の流れが生まれてくるはずだ。
しかし、グロースハッカーに関するリソースは、未だほとんどが英文のもの。”百式”の田口元氏や”Six Apart”の関信浩氏がブログでその重要性、価値に言及しているが、情報は、まだまだ圧倒的に不足している。
そこで今回、“グロースハッカー”の存在を積極的に日本に紹介するWEBサイト《GrowthHacker.jp》を運営する高橋雄介さんに、グロースハッカーの定義、そして彼らが日本のWEB業界をどのように変えうるか、伺った。
高橋さんは元々、慶応義塾大学SFCで博士号を取得後、大学講師等を勤めていた人物。同時に、Open Network Labによる起業家志向のエンジニアを支援するプロジェクト「Seed Accelerator」で第1期ファイナリストに選ばれた、気鋭の起業家でもある。
アドバイザリーボードにアメリカ有数のグロースハッカーを招聘し、今年からは、活躍の舞台を本場シリコンバレーに移すという高橋さん。 まさしく、グロースハッカーについて、国内では最も造詣の深い人物の一人だ。果たして、高橋さんが語るグロースハッカーの定義とは?
― 最近、シリコンバレーを中心に「グロースハッカー」というキャリアへの注目度が高まっているそうですね。日本のWEB業界においても少しずつ認知され始めているように思うのですが、一方で、まだまだ具体性のある定義がなされていない印象も受けます。一体、グロースハッカーとは何なのでしょうか?
そうですね、まず僕が「グロースハッカー」という言葉に出会った経緯からお話させていただければと思います。
僕自身、テック系のスタートアップを運営しているのですが、その関係で、昨年の4月から約2ヵ月間、アメリカのシリコンバレーを訪問してきました。事前に用意していた、モバイルアプリ開発支援のプロダクト等をブラッシュアップする上でリアルな意見が欲しいと思い、現地の方々にヒアリングをかけたんです。それこそ、多くの企業のマーケティングディレクターやCEO、CTOなどにアポをとって。
そこで、多くの方々にこう指摘されました。自社でエンジニアを囲えば、プロダクトをつくるためのサービスなんて必要ない。それよりも、自分たちが持つプロダクトをいかに成長させていけるか。そこを担える機能や手法、人材が必要なんだ、と。
確かに、アプリを開発する際、一番に優先されるのはより早くアプリをつくりあげること。その後、不具合などが発生し、スピーディにアップデートしていくとなると、マーケティングの部分はどうしても後回しになってしまう。
今の時代に限らず、どれだけ良いものをつくったとしても認知されないということが、シリコンバレーのみならず、世界中の企業がぶつかり得る課題となっています。
そこで重要視されているのが、“顧客開発(カスタマ・ディベロップメント)”という手法です。プロダクト開発の初期段階から、顧客になってくれそうな人たちや業界のオピニオンリーダーと呼ばれる人たちに直接ヒアリングをかける。そのフィードバックの内容に合わせて、プロダクトの改善はもちろん、時にはそのアイデア自体をもピボットさせていく。起業プロセスの方法論を説くリーン・スタートアップにおいても、重要なプロセスの一つとされていますよね。
事業家の思い込みで顧客にとって無価値な製品やサービスを開発してしまえば、時間、労力、資源、情熱をフイにしてしまう結果になりかねません。最低限のコストと短いサイクルで仮説の構築と検証を繰り返しながら、市場やユーザーのニーズを探り当てていくために、何より重要なのが“顧客開発”なんです。
プロダクトやサービスのグロース(成長)を実現するためには、開発後ではなく開発段階、もしくはアイデアの段階からマーケティングのことまで考える必要がある。
顧客開発やリーンスタートアップの浸透という歴史的な経緯があって、その必要性が明らかになってきたことによって、プロダクトそのものをハックしながら、マーケティングの課題を解決する存在である“グロースハッカー”が求められるようになっているのだと思います。
― つまり、顧客開発の段階から実際の開発、プロモーションの各工程を見据え、“グロースさせる”という軸で課題を解決するのが、グロースハッカーであると?
そうです。プロダクトやサービスのグロースにフォーカスし、製品のマーケティングや全社的な戦略の課題をクリエイティブに解決する人物それこそがグロースハッカーです。
ですから、グロースハッカーは必ずしもエンジニアである必要はありません。マーケティング的なこと、製品の問題などをしっかりと認識した上で製品自体の改変を推進できる人なんです。もちろん、コードまでかければベストではありますけどね。
グロースハッカーという言葉を初めて使ったのは、Qualarooの創業者であるショーン・エリス。2010年のことです。
そして2012年4月に、起業家でありブロガーとしても有名なアンドリュー・チェンが書いた、“グロースハッカーは新しい形のマーケティング・バイスプレジデントである”という記事をきっかけに、一つの複合的なスキル・人材要件を持つ職種として定義されはじめています。
それから、2012年8月には僕の書いた記事を通じて『TechCrunch Japan』で紹介させて頂き、10月には『500 Startups』がグロースにフォーカスしたプログラムをスタート。そして同月に、シリコンバレーにて初の『Growth Hackers Conference』が開催されました。
顧客開発のプロセスで、僕はシリコンバレーの素晴らしいグロースハッカーたちに出会いましたが、エンジニア出身の人もいれば、セールス出身の人もいて、バックグラウンドはみんなバラバラです。
ただ、彼らに共通する特徴は、サービス、プロダクトのグロースに対する責任感と、起業家精神を持っているということ。グロースハッカーは、対象としているマーケットと、自社の提供するソリューションを結びつけることに並々ならぬ執念を持っています。成長・成功を実現するためのユニークな方法を見つけ出し、それに加えて、他社の成功事例もテストしながら、それをさらに進化させる方法を考えだす能力も持ち合わせています。
実行すべきアイデアに優先順位をつけ、十分に検証・分析をしながら、どの方法を継続してどれを辞めるのかを、素早く決断する。そして、そのプロセスをスピーディに繰り返していく。グロースハッカーは、ある意味、最もクリエイティビティに富んだ人材と言えるかもしれません。
▼インタビュー第2回はこちらTwitter、Instagramを導いたグロースハッカーの仕事とは―グロースハッカー徹底解明[2]
編集 = CAREER HACK
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。