2013.02.12
日本のWEB業界で、誰がグロースハッカーになり得るか?―グロースハッカー徹底解明[3]

日本のWEB業界で、誰がグロースハッカーになり得るか?―グロースハッカー徹底解明[3]

シリコンバレーから生まれた、WEB業界の新たなキャリア“グロースハッカー”。米国ではすでにグロースハッカーをめる求人が700以上もあるという。この流れは、遠からず日本へもやってくる。日本のWEB業界において、グロースハッカーとしての素養を持つ人材はどこにいるのか?

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インタビュー第1回はこちら
▽グロースハッカーとは何か?―シリコンバレーで急増する、WEB業界の新たなキャリアを定義する[1]  から読む

インタビュー第2回はこちら
▼Twitter、Instagramを導いたグロースハッカーの仕事とは―グロースハッカー徹底解明[2]  から読む

グロースハッカーのニーズは、間違いなく日本でも過熱する

― グロースハッカーが担う役割、アメリカでの実績を聞いた限りでは、間違いなく日本企業の間でもグロースハッカーのニーズは過熱しそうですね。


歴史的に見て、現在の状況を学問分野が形成されていくプロセスに照らしあわせてみると、まだまだ初期の段階です。

(新しい概念の提唱→賛否両論の議論→情報の増加→雇用の創造→教科書の出版や学校・学科の創出、というプロセスで分野が確立していく)

グロースハッキングのノウハウも、限られた一部の人だけが有する属人的なものであるのが実情。グロースハッカーというキャリア・役割が明確に定義され、確立するまでにはもう少し時間がかかるかもしれません。

ただ、FacebookやTwitterといった著名な企業でグロースを実現したグロースチームのメンバーや、成功を収めたスタートアップの創業メンバーが新たに起業したり、企業のアドバイザリーボードに招かれたりしていることで、彼らのノウハウが市場に流出し、経験が共有されはじめています。

このような人材の流動性や、経験の積極的なシェアというのはシリコンバレー特有のカルチャーであるとは思うのですが、徐々にではありますが、日本にもこの波がくるのではないかと思います。



― 日本ではまだ「プロダクトの出来さえ良ければマーケティング的にも成功する」という考え方が根強く残っているような印象もあります。


必ずしも日本が遅れているということもないとは思いますけどね。ただ、質問の回答になっているかは分かりませんが、グロースハッカーの観点でみると、プロダクトを作ることとマーケティングとを分けて考えること自体が間違っている、ということになるのです。むしろ、良いプロダクトを作ることとそれを使ってもらうことを、できる限り一つのこととして実現するのが、グロースハッカーの仕事なんです。

今の時代に限らず、仮に良いプロダクト・サービスをつくったとしても誰も使ってくれない、あるいはマーケティングの戦略が良くても製品がよくなっていかないということが大いにあり得ます。商品を売るにしてもサービスを使ってもらうにしても、ユーザーを獲得し、売上をあげ、事業をドライブさせていく上でインターネットやモバイルを上手く活用していくことが間違いなく求められています。

これまでは、UI・UXまわりはWEBデザイナー、開発工程はエンジニア、キャンペーンやプロモーションを考えるのはマーケティングと、各々の役割が明確に分かれ、開発とマーケティングの工程は分断されていました。各々が認識している、サービスを改善・成長させるための方法論や考えも当然違っています。

そこにグロースハッカーが入る、あるいはグロースを専従にするチームを構成することによって、プロダクト・サービスをグロースさせるために見るべき方向を正しく定めることができますし、また、製品自体をターゲットに対してどう訴求していくかも明確になると思います。適切なファネルを設定して見つめなおせば、プロモーション方法の再考はもちろん、顧客セグメントのピボットが必要なこともありますし、プライシングを変更していく必要性が見つかることもあるでしょう。

Twitterのグロースチームもそうです。WEBに強みを持つ人、モバイルの分野に強みを持つ人といったように、それぞれに異なる強みを持つ人材が30人ほど集まり、各自がプロダクト・サービスのグロースに対する“共通認識”を持ったところから、サービス自体の改善やマーケティング方法の再考を行ない、あの成功を導けたわけです。

日本のWEB業界で、誰がグロースハッカーとなり得るか?

― 日本でグロースハッカーとなりうる人材というのは、どのような方々なのでしょうか?


たとえば神田卓也さんのようなソーシャルゲームプロデューサーの皆さんでしょうか。

現在のソーシャルゲームは、ゲーム自体のクオリティもそうですが、いかにその認知度を高められるか、上手くマネタイズできるか、という点も重要です。ゲーム自体の機能の中にバイラルする仕組みを組み込んだり、ユーザーを獲得するためのマーケティングやプロモーションを考えている方々もグロースハッカーに近い存在だと言えると思います。

今日ゲームプロデューサーが不足していると言われていますが、グロースハッカー的な、横断的で、かつスピードが要求される役割が比較的新しいものである、ということが理由の一つではないかと思っています。

また、“ハッカー”というとエンジニアリングに長けた存在をイメージされるかもしれませんが、グロースハッカーは、なにもエンジニアだけが務められる役割ではありません。

アメリカに、『Voxer』というスマートフォンをトランシーバーのように使うことのできる音声メッセージアプリがあるのですが、そのグロースを成功させた著名なグロースハッカーは、技術的なことはタッチしていません。どちらかというとマーケティングよりで、技術的な部分はエンジニアに任せつつ、ユーザーのインタビューや製品自体の改変などをチームを組んでやっているそうです。


― 他にはどんな方が当てはまるでしょう?


以前にCAREER HACKのインタビューにも出ていたVASILYの金山裕樹さんや、nanapiの古川健介さんは、グロースハッカーの範疇に入るんじゃないかと思います。

例えば、金山さんについて言えば、Yahoo!JAPAN でファッション事業を成長させて、そこから独立して、ファッションSNS《iQON》を立ち上げましたよね。ZOZOTOWNなど40以上のECサイトと連携して、月間アクセスは100万も突破するなど、自らが立ち上げたWEBサービスを成功させる中で得られた知見は、まさにグロースハッカーとしてのノウハウだと言えます。



それから、DeNAやGREE、クックパッドなど、大きく伸びている企業の中で、そのグロースに関わる仕事をやってこられた方も当てはまる可能性があります。ユーザーデータやUI・UX等を見ながら、プロダクト・サービスをグロースをさせてきた方、またはそのチームの一員としてノウハウを一緒に学んできた方です。

スタートアップを立ち上げ、事業を推進してきた方も当てはまると思います。 スタートアップを上手く軌道に乗せるというのは本当に難しいことで、成功してメディアなどで取り上げられている企業もほんのひと握り。上手くいかない企業がほとんどです。

そんな中、起業家は少ない資金で上手にやりくりしたり、横の人脈を駆使したりして、いろんな方法でユーザーの獲得を目指してきたわけですから。

ボストンに、「来週までに0円のバジェットから、ここまで資金を増やせ」というようなクリエイティブな発想なしでは解決できない課題を与える経営塾などもあるそうですが、そういった経験を通じて得られる知見は、グロースハッカーのノウハウに近いかもしれません。

ですので、大企業のみならず、スタートアップ等の創業者として研鑽した元起業家などが、彼らの経験を必要とする新たな場所でポジションを得て、グロースハッカーとして活躍する日も近いのではないかと期待しています。

WEB業界人が、グロースハックを学ぶ意義

― そもそも論になってしまうかもしれませんが、何か特定のWEBサービスやプロダクトを成長させるためのノウハウというのは、汎用性のあるものだと言えるのでしょうか?


例えば、コトラーの本を読んでマーケティングを学んだとしても、それだけで上手くマーケティングを実践できるようになるわけではありませんよね。あくまで重要なのは、自分たちのプロダクトやサービスにあわせて、実際に顧客の声を聞き、状況に応じて自分のアタマで考えることです。

そして、その際に、考えたり実験をしたりする際の指針として、“AARRR”のようなフレームワークや成功した他社の事例を知っているというのは、ものすごく強力な武器になると思います。

他の会社で上手くいった事例や個別のノウハウを積極的に取り入れつつも、それが自社に応用可能なものなのか、素早く検証するのもグロースハッカーの重要な役割なのです。

僕自身、自社のプロダクトで実践しつつ、まだまだ皆さんから勉強させて頂いている段階ではありますが、“グロースをハックする”という考え方は、多くの方々にとって有用なものだと確信しています。とはいえ、まだまだ確立しきっていない概念であり、今まさに成長している分野です。今、グロースハッカーに関するケーススタディをまとめた書籍を執筆中なのですが、今後もさまざまな形で、実績のあるグロースハッカーから学んだことや彼らが実践してきたフレームワーク、基本的な考え方、歴史的な経緯など、現在進行形の情報を伝えていければと思っています。



(おわり)


編集 = CAREER HACK


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