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エンジニアがクリエイティブ業界で働くべき最大の理由|バスキュール 古川亨のキャリア論

2014-05-20

エンジニアがクリエイティブ業界で働くべき最大の理由|バスキュール 古川亨のキャリア論

なぜ、広告・クリエイティブの業界はエンジニアに人気が無いのか?デジタルを駆使したインタラクティブな広告が盛り上がっているし、ニーズも高まっている…が、エンジニアが圧倒的に足りていない。この問題の根本とは?解決の糸口はあるのか?バスキュールのテクニカルアーキテクト、古川亨さんと共に考えてみた。

若いエンジニアにとって「クリエイティブ業界」は選択肢になるか?

WEB制作の枠に収まらず、「面白い仕掛け」を生み出すクリエイティブカンパニーが今、注目されている。CAREERHACKでは「次世代クリエイターの理想像」を追うべく、さまざまな会社を取材してきた。そこで感じたのが、この業界全体の盛り上がりと、つくり手となる人材(特にエンジニア)が不足している点だ。

スタートアップ、フリーランス、自社プロダクトの開発など、キャリアの選択肢が広がっていくなかで、エンジニアにとって「クリエイティブ業界」は選択肢になり得るのか?

この問題の根本と、解決の糸口を探るべく、「テレビ×インタラクティブ」で注目されるバスキュールを訪ねた。今回、取材したのは、バスキュールのテクニカルアーキテクトである古川亨さん。クリエイティブ業界が抱えるエンジニア採用の問題点、そしてこの業界だからこそ得られるエンジニアのスキルについて伺った。

古川亨

[プロフィール] 古川亨 Toru Furukawa
大学・大学院で流体の画像計測を研究。アメリカに留学し、原子力工学分野で修士取得。その後、日本に戻って計測器メーカーで勤務。35歳で「WEBでモノを作る側へ」とPythonでの開発で有名なビープラウドに入社。2011年にバスキュールとミクシィの合弁会社『バスキュール号』に加わった。現在は、バスキュール本体においてバックエンドを支えるテクニカルアーキテクトとして活躍中。


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「歯がゆさ」を解消するためにクリエイティブの世界へ

― 本日は、クリエイティブ業界で働くエンジニアについて伺いたいのですが…古川さんご自身も変わったキャリアを歩まれていますよね。


最初に就職したのは、計測器メーカーだったのですが、大学院にいったり、留学したり、ぶらぶらしてたので、29歳の時だったんですよね。ソフトウェアのサポートをして、そこから「つくる側に行きたい」とPythonで有名な開発会社に35歳で転職しました。で、その会社で初めてWEBのプログラミングを仕事にした感じですね。


― 普通、35歳だと開発者の道は諦めてしまいそうですが…。


実務経験もゼロでしたし、ただ、その前から「誰でも出来る◯◯入門」とか本を読んだり、ネットをみたり、プログラミングの勉強会に出たりは細々と続けていて。今思うと、どこかで諦めてなかったんだと思います。で、実際にWEBの開発に携わってみたのですが…「要件ってこんなにも曖昧なのか」というところにすごく驚きましたね。

計測器メーカーだとお客さんもエンジニアだから要件が明確だったんですよね。たとえば、「何ボルトから何ボルトで計測しなければいけない」とか。それが、エンジニアではない方もお客さんになるので「仲のいい友達とたくさんやり取りしているユーザーには、Aという機能をつける」といった要件が上がってきたりして。「“仲のいい友達”って何?“たくさんやり取り”はどう測る?」となるわけです(笑)


― それはそれでイライラしないですか?


イライラしますよ(笑)。

ただ、少なくとも自分で解決すべき課題は自分で定義できるんですよね。その解決策も提案ができる。さっきの「仲のいい友達とたくさんやり取りしているユーザー」だったら、Twitterでメンションの回数を見ていくのはどうか?とか提案できるわけで。ここが仕事の面白さの分かれ目なんだと思います。

バスキュール号に参加したのも、それが出来そうだったからで…しかも会社のお金でやらせてもらえる(笑)。ちょっと変わった企画とか、誰もやったことのないものをやるから「こう解決すべき」という前例がない。だからこそ技術者から「こういう風にやろう」が言えると思ったし、実際できる環境がありました。

クリエイティブの業界は、いい噂を聞かない!?

― 「課題解決」という部分でやり甲斐がありそうですね。ただ、エンジニアにとって「クリエイティブ業界」ってキャリアの選択肢になりにくい気もして。なぜでしょう?


古川亨


「しんどそう」が一番だと思います(笑)

夜遅くまで仕事して、やり取りする相手が思いつきで仕様を変更して…みたいなイメージがある。情報システムでも相当モメるのに、業界人が相手だったら…そう考えるとゾッとするんじゃないですかね。

エンジニアからすると無理難題でも、エンジニア以外は「なぜそれができないのか?」と理解できなかったり。コミュニケーションにギャップが起こりそうな印象はありますよね。

そもそも、エンジニアはクリエイティブの世界で自分が必要とされると思っていないし、そこに自分の仕事があるとも思っていない。

クリエイティブの業界側としても「どんな人がほしいか」を明確に出せていない問題があります。常に新しいことをやるから、どんなスキルが次のプロジェクトに必要かわからない。定義することもできず、伝えることもできず…ここは私たちの課題でもあって。


― どうすれば「業界」と「エンジニア」の距離を縮めることができるのでしょう?


エンジニアとしては「実際、何をやっているのか見てみないと、分からない」って話なんですけど…。バスキュールのような会社が「こういう仕事をやりました」と発表する時は、いつも企画のほうにフォーカスしてしまうんですよね。「面白い」とか「斬新」とか。


― 技術的にどう実現したか?あまり語られていないと。それはなぜですか?


表に出しづらい部分もあって。ユーザーに「体験」を届けていくコンテンツがほとんどなので、演出が加わっていたり。たとえば、テレビと連携するアプリがあって「番組を見ながらどれだけの人がスマホでタップしたか?盛り上がる様子を視覚的に伝える」という演出があったとしますよね。

スマホからサーバへの通信、サーバ内部での集計、それをテレビに出力するまでの経路、映像による演出と合成…と、目に見えるまでの工程が長くて、さらっと伝えにくいんですよね。

もう一つ、企画であれば事前のプレゼン資料があるから、そのまま外向けのコミュニケーションでも「私達はこういうことをやりました」と言いやすい。でも、エンジニアリングの場合は、突然の仕様変更もあるし、表に出せない情報もあるし…。だから対外的にアピールする時には改めてドキュメントを作らないといけないんですが、そこにリソースを割けていないんです。本当はそれを必要なコストとして負担しないといけないんだろうな、と。


― それでは、クリエイティブ業界ならではの面白さでいうと?


技術者同士の勉強会で発表すると、かなり食いつきがいいのは、急激なトラフィック変動にどう対応するか?という話。理論上はできそうとわかるのですが、やれる機会は少ない…というか、実際にそういう状況を作り出すのが難しい。

たとえば、視聴者がテレビを見ながら連携アプリでスマホをタップして、一瞬で数十万人が一斉にアクセスしてくる。システムのことを考えれば、数十万人を同時にアクセスさせないようにすればいいんです。でも、テレビ番組という特性上、リアルタイムでその瞬間にやってくる。普段体験できない話ってそれだけでも面白いですよね。

あとは「作り方」を開発できること。たくさんの案件が同時に走った時、ゼロから全部つくっていたら死んでしまう。いつも作るところ、たとえば、スマホアプリのタップをひたすらカウントアップし、テレビと連動させられるシステムは、別製品として立ち上げてみたり(マッシブ・インタラクティブ・エンターテインメント・システム※M.I.E.S.)。

製品を管理するエンジニアと、プロジェクトに入るエンジニアで、ほぼコミュニケーションを取らなくても開発できるようにすれば、会議も減らせて、作る時間は増えていって。そんな風に「作り方」の開発に、注目する人もいるようです。

エンジニアがヒーローになれる環境へ

― 当たり前ですが、「答えありきの仕事」ってほぼないんですよね。道なき道をいかに切り拓けるか?業界に限らず共通して必要とされてくるスキルだと感じます。


古川亨



WEBでも「何が正解かわからない」っていうところに放り込まれることのほうが多いですよね。無数に作り方のライブラリや言語があって「どれがいいんですか?」って聞いている人では多分フラストレーションがたまるだけだと思います。目的のための手段やツールを自ら選べて、プロジェクトの状況やコンテクストを踏まえて、仮説を立てて実行し、フィードバックし…それが出来ないと、しんどい。

技術にしても、数年ですぐに入れ替わっていく。だから漠然と「今、何の技術をやったらいいですか?」とか聞いているようではダメで、そういう職種なんだと思います。パソコンがあれば誰でもサービスの開発ができるし。未経験だったけど、本気で1年くらいやってるうちに、すごいエンジニアになったとかいう話も、よく聞きます。


― では最後に「何が正解かわからない仕事」のなかで、「正解を導き出すスキル」はどうすれば磨けるのでしょうか?


うーん、むずかしいですね…それこそ答えはないというか、私が教えて欲しいですねぇ(笑)

ただ、個人的に意識しているのは、自分と違う分野の人と話ができたほうがいいということ。

たとえば、計測器メーカーにいた時、自動車ダッシュボードを検査する会社もあれば、薬やラベルの検査をする会社もあって。業界としては別ですが、照明や検査対象を制御して、画像認識というのは共通です。だから、一方で課題になっていることのヒントが、片方にあったりするのです。同じように、高速にカウントアップする技術は、バスキュール以外でも需要と供給があります。

特にソフトウェアは知識の可搬性が高いと思います。違う分野の知識を、うちの分野に持ち込めますし、逆もまたしかり。つぶしがきくということでもあり、同時に、潜在的なライバルが多いということでもあります。機会とみるか脅威とみるかは、その人の状況によりますね。私は機会と捉えています。

だから、ちょっと動いてみると、そこには自分の立場が逆転する世界がある、ということ。バスキュールに来た時も、私自身、いわゆるクリエイティブとは違う分野から来たから、「おぉ!そんなことができるのか!」とヒーロー扱いされていた気がするんですよねぇ。今では「あのチームが勝手にやっといてくれるだろう」みたいな扱いになっていて…もっとありがたみを感じてほしいんですけどね(笑)


― 「キャリア」に正解はありませんが、さまざまな分野の技術や考え方を応用していく、というのはヒントになるのかもしれません。本日はありがとうございました!


[取材・文]白石勝也




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