「プログラミングをビジネスの手段だと捉えるエンジニア」こそ優秀だと定義するけんすう氏。その代表格としてCrocosのCTO Sotarok氏を挙げ、「いまの時代、最も投資すべきは自らのスキル」と語る。近い将来、技術の価値は下がる。その時カギになるのは、自分の仕事の幅をどこまで広げられるかー。
「優秀なエンジニアの定義とは?」ー nanapi けんすうに訊く![1] から読む
― 「優秀なエンジニア」と言われて、パッと頭に浮かぶ方っていますか?
他社でいうと、Crocos の Sotarok(株式会社クロコス CTO 柄沢聡太郎 氏)はずば抜けて優秀ですね。
以前ブログにも書いたんですけど、もともと僕のサイトを彼がハックしてきたのがきっかけで友達になったんです。その後 GREE に入社して、Crocos を立ち上げて1年半で Yahoo! JAPAN に M&A されて。
彼は非常に高い技術力を持ちながら、経営・マネジメントもできるし、ビジネスセンスもある。それでまだ27歳。
― マルチスキルなところが優秀だと?
それもそうですが、やっぱり学習意欲が高くて、ものすごく勉強しています。エンジニアだからといってマネジメントや経営の領域を遠ざけるのではなくて、組織についてどうしたら良くなるかとか、いろんな人に聞いたり悩みながらやっている。
自分の得意分野を限定することなく、あらゆる領域をちゃんと押さえている感じですね。
― そういう方って、多方面のスキルを必要に応じて身につけていくものなのでしょうか?あるいは、何がきてもいいように、予め準備しておくのでしょうか?
僕は「遅延評価勉強法」と言ったりしているんですけど、必要になってから必要な部分だけを学ぶほうが有効だと思います。
プログラミングも、最初から足し算とか掛け算を学ばせるテキストが多いんですけど、でも実際の業務の場面では掛け算ってそんなに使わないんですよね。だからそういうのはすっ飛ばして、必要なことだけを必要なだけ学ぶ。
優秀な人は、そうしたアプローチをする人のほうが多いイメージがありますね。
― 古川さんが自分の部下を Sotarok さんのように育てようとするならば、どういうやり方をすると思いますか?
その人ができる範囲の中で、権限を与えて、各論を突っ込まないで自由にやらせてみると思います。施策を考えられる人だったら、「会員数1万人増やしたいからあとよろしく」って任せて、その中で自由に考えてもらいます。
― そうした経験をどれだけ踏んでいるかが、その人の能力に影響すると思いますか?
「チャレンジの数」と「優秀さ」はわりと比例していると思います。会社の中で言われた仕事だけしている人はチャレンジの数が少なくなるので、成長速度が遅くなる。
エンジニアの中でも優秀な人間って、「これやりたいです」「こういうの思いつきました」とガンガン社内で提案したりします。
さらに家に帰っても個人でサービスを作ったり、技術を磨いたりしています。言われたことだけをやっているのとは圧倒的な差がでてきますね。
― ある意味、領域を限定しない幅広い能力というのも、そういう状況にアジャストしようとする中で身についていくものなのかもしれませんね。
チャレンジし続けるとやらなきゃいけないことも増えますからね。そのつど必要になる部分を学んでいけば、必然的に成長するだろうと思います。
― とはいえ、それなりの規模の会社だと、エンジニア個人個人の仕事がどうしても歯車化してしまう部分はありますよね。そういう環境にいながら、能力開発を行なうことは難しいのでしょうか?
そうですね…月並みですが、会社外で活動するというのは一つのアプローチですよね。オープンソースに携わるのもいいでしょうし、自分でサービスを作ってもいいし、ブログを書いてもいいし。今はそういう機会も多いので、自分の意志でやるようにすればいいんじゃないかと思います。もちろん、チャンスが得られない会社は辞めてしまうのも一つの手ですけど…(笑)
僕が以前勤めていたリクルートでは、常に「リクルートで偉くなっても仕方なかったりして」みたいなことを言われ続けるんですね。リクルートの中だけで通用するスキルは全否定されるんですよ。会社にとって都合のいい歯車になるな、リクルートから出てもバリバリ通用するものだけを磨きなさいって。そういうマインドは必要だと思いますね。
― 個人的に感じるのは、エンジニアの方って自分がエンジニアであることに対するプライドが強い方が多いですよね?
確かに「技術だけやってるエンジニアのほうがいい」みたいな固定観念を持ってしまっている場合も少なくないですよね。ただ、先程いったように、今の時代では、その技術だけでは役に立たなくなる時期というのがすぐに来る可能性が高いのですね。
そうなった時に、技術だけを磨こうとするよりも、技術の上に別の何かを掛けあわせるかで、エンジニアとしての価値を大きくあげられると思います。
― 先ほど、チャレンジの数はその人の能力に比例すると仰いましたよね。チャレンジが許容されない環境は、むしろ飛び出したほうがいいと。とすると、優秀なエンジニアの定義に、「リスクをとれる」という条件もあるのではと感じたのですが?
短期的なリスクをとるという意味ではそうかもしれませんが、長期的にみれば、大企業に勤め続ける気でいるほうがリスキーだと思いますね。大企業は効率的なので、仕事が分断されていたりします。すると、特定の仕事しかできなくなる可能性が高いんです。
僕自身の話をすると、自分はかなり安定志向だと思っているんです。だからリクルートにいた頃、このまま会社に残って10年後にどうなるか考えたとき、このままじゃ多分、食っていけないなと感じた。どんどんチャレンジしつづけないと、自分のような凡人は埋没していくから、とにかく挑戦して、勉強しつづけなきゃいけないという危機意識が強かったんです。
だから、本当に安定志向の方であれば、むしろャレンジして自分を追い込む方向にいくだろうと思います。
― 本当の意味でのリスクをきちんと考えられているか、ということですね。
いまの時代、投資するべきは自分のスキルです。以前だと30歳くらいまで勉強していた分の貯金ターンで60歳までいけたのかもしれませんが、今だとそうはいきません。
何歳になっても勉強をつづけて、自分のスキルに投資しつづけないと、60歳までもたない世の中になっている気がします。
たとえば最近、ランサーズというクラウドソーシングのサービスでロゴを依頼してみたのですね。すると3万円くらいで、ロゴの提案が100件以上返ってくる。そこからコンペ形式で選ぶことができるんです。
昔だったら同じコンペに出る人は数人だったのが、今や100人近くの人と競争しないといけない。さらに金額も安くなっている。つまり、ロゴが作れるデザイナーというだけでは、食べていくのが大変になっているのですね。
一方で、今シリコンバレーで価値が高いといわれているUIデザイナーなどは、相当イケてるプログラマがUIを学んでジョブチェンジしているケースが多い。質の高いプログラムを書けることが前提で、その上で、使っていて気持ちのいいUIを作れる。そこまで一人でできる人は少ないので、そのぶん価値が高い。スキルを掛け算で持っている人の価値は上がり続けているんです。
― 日本も徐々にそうなってきていますよね。
「知の高速道路」という言葉もありますが、いま「学習コスト」がどんどん下がっています。誰もがすぐに、ある程度のレベルに達することができるんです。
プログラムなんてまさにそう。《ドットインストール》があって、タダで質が高い授業が受けられる。オープンソースも充実しているので、ちょっとしたプログラムなら100時間くらい勉強すればできてしまう。本気を出して1ヶ月くらい勉強すれば、それこそ簡単な仕事くらい出来るようになる。
昔は習熟にかかる時間が1万時間だなんて言われてましたけど、いまはそんなに必要ない。そういう時代だと思います。
(つづく)
「エンジニアは技術以外の武器を持て」ー nanapi けんすうに訊く![3]はこちら
編集 = CAREER HACK
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