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ハッカーマインドを育てなければ、企業もエンジニアも生き残れない―《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏に訊く。

2013-08-02

ハッカーマインドを育てなければ、企業もエンジニアも生き残れない―《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏に訊く。

オラクル、ミラクル・リナックス等を経て、楽天(株)の技術理事を務める吉岡弘隆氏。オープンソースの先駆者であり、エンジニア歴30年にして今なお現役の技術者だ。「時代を超えて活躍するには“ハッカーマインド”が欠かせない」「企業側にも、エンジニアの失敗を許容し、好き勝手させる度量が求められる」と語る。

エンジニアも企業も、ハッカーマインドを育てよ。

現在、楽天株式会社で技術理事を務める吉岡弘隆氏は、日本におけるオープンソースの先駆者である。約30年前に日本DEC研究開発センターでそのキャリアをスタートさせた後、日本オラクルへ。36歳のときには米オラクルにて『Oracle8』を開発、2000年にはミラクル・リナックス創業に取締役CTOとして参加した。自らが主宰する、Linuxカーネルのソースコードを読む会合『カーネル読書会』は、1999年のスタートから現在も続いている。

驚くべきは、エンジニア歴30年にして技術の最前線に立ち続けていること。そして、今もなお技術者として成長し続けている点である。

秘訣は、吉岡氏が常々口にしている『ハッカーマインド』にあるようだ。ハッカー文化の聖地ともいうべきシリコンバレーにて3年半に渡って開発に従事したこともあり、いわば本場仕込みである。

「キャリアパスのロールモデルが少ない」といわれるエンジニア稼業において、吉岡氏の生き方、考え方が一つの参考になることは間違いない。

時代を超えて活躍し続けるベテランが後進に贈る、数々の金言とは。

ハッカーマインドとは何か。

― 吉岡さんは『ハッカーマインド』の重要性についてさまざまな場所で語っておられますが、改めて、ハッカーマインドのなんたるかを教えていただけますか?


もともとは、1960~70年代頃にMITをはじめとして活躍するプログラマたちが共通に持っていた価値観に由来しています。彼らは、コンピュータで社会を良くできるとか、芸術を生み出すことができるといったことを、本気で考えていた。既成概念に捉われず過去を否定し、好奇心の赴くままにモノやテクノロジーを追求して、今までと異なる価値を創造していく。それがハッカーマインドです。


吉岡弘隆氏


現実に、インターネットの世界では計画的にモノが作られるというよりも、プログラマ個人の「こういうものが作りたい」「こういうものがあったら面白いんじゃないか」という純粋な想いが先立ってモノが生まれたりしますよね。イノベーションを起こそう、と狙ってやっているのではなくて、結果としてイノベーションが起こる。そんなふうにモノやサービスを生み出せる人たちがハッカーです。

日本でもこのマインドを持つ人を増やしていければ、結果として企業や社会に貢献できるんじゃないか、というのが、私がハッカーマインドの重要性を唱える理由の1つでもあります。

その意味ではプログラマに限らず、政治家でも芸術家でも、イノベーションを生み出す人は全てハッカーと呼べるかもしれません。

たとえば当社の三木谷浩史も、ハッカーと呼べるんじゃないでしょうか。今からほんの十数年前は、「ネットでモノを売ろう」なんて言ったら皆から「クレイジー」と呼ばれる時代でした。「そんなもの成功するわけがない」と誰もが言っていた。それでもサービスを作り、イノベーションを起こしていったわけです。


― やはりハッカーマインドというのは、生まれもった資質なのでしょうか?


後天的に身につけられるものだと私は思っています。よく“Failure earlier”と表現したりするんですが、「早く失敗して、そこからどんどん学び改善していくこと」。そういうスタイルが実践できれば、ハッカーマインドは醸成されるでしょう。

どんどん学んで改善していくためには当然、自らが成長していかなければなりません。エンジニアの成長というのは基本的には仕事の中で実現されるものなので、まずは一生懸命に良い仕事を追求すること。そこに加えて、ベースとなるテクノロジーを学ぶことが不可欠です。

ベース・テクノロジーについては今やあらゆることがオープンになっているので、学びを邪魔するものは何もない状態なんですよね。これはある意味では非常にシンドイ話でもあります。ボトルネックがあるとすれば自分自身。リミッターとなるのも自分自身。やりたいならやればいいし、やるしかない。言い訳がきかないんですよ。こうした“ゲームのルール”を理解しておくことが、まずは求められます。

その上で、単に「技術を勉強しています」っていうだけではダメで、学んだ技術をつかってどう良い仕事をしていくか、というところが重要です。まあ、一生懸命に勉強し仕事をして成長していくというのは、どんな職業でも同じなんですけれども。

エンジニアを“人月計算”でしかはかれない企業に、未来はない。

― “早く失敗して学び、改善していく”ということを実現するためには、それを許容する環境も必要だと思うのですが。


その通りです。上司が難しい顔をしていたら、現場の社員は挑戦心を削がれてしまいますよね。上司は、「もっとやれ」と煽るぐらいがいい。

でもどちらかといえば日本の企業は、現場の挑戦にブレーキをかけがちというか、慎重にテストをして根回しをして、石橋を叩きまくって、それでも結局やらない、という感じがありますよね。

そういうことをしていると、企業としての競争力はつかないですよ。スピードというのはビジネスにおいて重要で、ハッカーマインドはまさにそれを体現するもの。ですから、企業とハッカーとは本来Win-Winの関係なんです。一見“やんちゃ”なハッカーをどうやって雇用し、活用していくかというのは、企業にとっての経営課題といえます。


― 確かに、「日本のIT産業は競争力がない」みたいなことをよく耳にします。


その要因は、「ソフトウェアは人が作っている」というごく当たり前のことを分かっていない経営者が多いせいじゃないか、と思いますね。

「誰が作るか」が大事なのに、エンジニアを“何人月”というふうにアタマ数でカウントしてしまう。そうなると人材をコストとしてしか見ず、利益を出そうとすると人件費を下げるという選択肢しか出てこないわけです。


吉岡弘隆氏


だから少々給与が高いからといって優秀なエンジニアを外し、シロウト同然の若手にすげかえてしまう。そんなことで競争力のある良いモノが作れるわけがないですよね。

プロ野球チームに置き換えてみれば簡単な話だと思います。どこの世界に、選手をアタマ数として見て、スタープレーヤーの代わりに草野球チームの兄ちゃんを連れてくる監督がいますか。本来は、先々チームを強くしていくためにどうやって優秀な選手を雇うか、同時にどうやって若手を育てていくかを考える。今年はピッチャーを補強して、来年は野手を強化して…みたいに、先々をみてポートフォリオを組んでいくものです。

そういうことが分からないのはシロウト経営者と呼ばざるをえないし、競争力が高まらないのも当然です。IT産業に限らず、モノを生み出す企業の経営者はそこを理解しないといけない。WEB系の経営者は割とそこは理解しているとは思いますけれどもね。ネットの世界は“やったもん勝ち”ということがハッキリしているので。


(つづく)


▼《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏へのインタビュー第2弾
誰にでも実践できる、ハッカーになるための具体的方法―《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏からの提言。


[取材] 上田恭平 [文] 重久夏樹 [撮影]松尾彰大



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