2013.08.05
ハッカーになるための具体的方法―《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏からの提言。

ハッカーになるための具体的方法―《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏からの提言。

シリコンバレーに渡り、『Oracle8』の開発に従事するなど、自らハッカーマインドの体現者として活躍してきた吉岡弘隆氏は、今なお現役だ。「ハッカーになるには?」という問いに、「学び方をハックすべし」「迷ったらワクワクするほうへ」「英語に親しむ」等々、誰にでも実践しうる具体的方法論が次々に飛び出した。

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▼《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏へのインタビュー第1弾
ハッカーマインドを育てなければ、企業もエンジニアも生き残れない―《楽天》技術理事 吉岡弘隆氏に訊く。

ハッカーになるための、具体的方法論。

オープンソースの先駆者的存在であり、エンジニア歴30年にして、今もなお技術の最前線に立ち続けている人物。それが、楽天株式会社 技術理事の吉岡弘隆氏だ。

吉岡氏いわく、時代の流れが速い業界にあって、技術者としてあり続けるために必要なことは、「ハッカーマインド」を持つこと。「ハッカー」たること。

ではハッカーになるためにはどうすればいいのか。ハッカーとは、我々にも目指せる存在なのか。身につけるべきこと、歩むべきキャリアについて、具体的方法論を訊いた。

学び方を、学ぶ。

― ハッカーマインドの重要性についてお伺いしてきましたが、もう少し具体的な話も聞かせてください。ハッカーに近づくためには、何をすればいいのでしょうか。


こうすればいい、というHow toを求めるというのは、ちょっとハッカー的ではない発想だと思いますが(笑)そう言ってしまうと話が終わってしまうので、私なりに思うことをお答えします。

失敗してもいいんだという前提で、好奇心の赴くままに次々にチャレンジをすること。そのチャレンジを可能にするためにベースとなるスキルを学習し続けること。そしてそれを一生懸命に仕事に注ぎ込むこと。ここまではすでにお話しした通りです。

加えて私が重要だと思うのは、“学び方を学ぶ”ことですね。学び方もハックしていく、ということ。


吉岡弘隆氏


たとえばプログラミング言語を学ぶというと、定番的には参考書を見ながらプログラムを組んでみて、「あー動かないなー」なんて言いながらやっていくわけです。そういう学び方は誰にでもできるし、大学でも教えてくれます。でも、ソースコードをどう読むかとか、どうデバッグするか、どうテストするか、といったことは学校では教えてくれません。

教科書にないことをどう学びとるか。そこで成長度合いに大きな差が出るんです。

一つの答えとしては、上手な人から盗むということ。職人などの世界でよく言われることです。

たとえば超一流の料理人などもそうなんじゃないですかね。ある程度のところまではレシピを学べば作れるようになるけれども、そこから一流になるためには、一流の技を持った人に弟子入りして盗んでいく。その人が作った料理を食べて、たくさん試行錯誤して味を再現していく、と。

そうした学び方さえ分かれば、新しい技術が出てきても身につけられるんですよ。基本は同じなので。

学び方を学ぶためには、できれば優れたお手本がいる環境で働いたほうがいいでしょうね。ただ、良し悪しは別として、日本ではシリコンバレーのように人材流動が活発ではないので、優れた人と一緒に働くのはなかなか難しいかもしれません。

それでも、さまざまな勉強会がいたるところで行なわれていますし、その中では日本におけるトップ企業でのベストプラクティスや暗黙知が共有されたりしています。積極的に足を運んで勉強するとか、そこで人脈を作るといったことが大事でしょうね。

今以上に、ワクワクできそうな道を選ぶ。

― ハッカーマインドを醸成するために自由度のあるスタートアップで働くべきか、学びとなる優れた人材が多く在籍していそうな大手・有名企業で働くべきか、吉岡さんはどう思われますか?


これもですね、“べき論”というのはないですよ。人生に正解なんてないですし、思い描いた通りになることなんてない。そもそも50過ぎのおじさんが「こっちがいい」と言っていたから行く、なんていうのはハッカーじゃありません。全然ダメです(笑)。自分なりに一生懸命に考えて、自分がいいと思ったところに行けばいいと思います。

マネジメントに進むべきか、プレイヤーであり続けるべきか、という議論についても同じです。私自身、これまでにさまざまな岐路がありましたが、選んだ道というのは“たまたま”でした。そのときの好奇心が赴くまま、面白いことができるほう、新しい挑戦ができるほうに行った。「今やっている以上にワクワクできそうな道を選ぶ」、それだけです。結果、自分には合わなかったということもありましたが、それも全部経験です。

成長というのは仕事を通じてしかできないので、チャレンジできる環境を常に探していくことは一つのポイントですね。同じ職場で同じ仕事をずーっとしていれば、成長が止まってしまう。日本の企業では、新卒で採用されてから割と長いこと同じ職場で働くというのが典型だったと思いますが、最近はそれが徐々に崩れてきているんじゃないでしょうか。

一定期間、その仕事に一生懸命に打ち込んで学んだら、次にチャレンジする。社内で、でもいいし、会社そのものを変えてもいいと思いますが、とにかく自分で考えて環境を選んでいくことです。「主体性を持って職場を選んでいくという職業観」。シリコンバレーなんかでは、そういう観点で環境を選んでいく人が多いですね。結果、プロ意識の高い人が多いです。


― 自ら望まずとも、チャレンジングな環境がやってくる、というケースもありますよね。そういうときに心がけておくべきことはなんでしょう?


環境の変化はいつ訪れるか分からないので、いざというときに自分がどれだけ対応できるか、適応できるか、ということは常に考えておくべきでしょうね。

エンジニアに関していえば、やっておくべき準備の一つとして明確に分かっているのは、語学です。特に英語。

ペラペラに話せなくてもいいと思いますが、抵抗がないぐらいには、慣らしておくことは大事だと思いますよ。


吉岡弘隆氏


グローバル化が進んでいることはもう確実で、楽天に応募してくるエンジニアも、すでにその多くは日本籍じゃないんです。彼らは技術力が高かったり、ハングリーだったりするわけで、そういう中で日本のエンジニアが存在価値を示していくには、これまで通りではしんどいと思います。だからこそ彼らと同じ条件のもと、一緒に働いて経験を積むことが重要。まずはそこからですよね。

3年前ぐらいに、楽天が社内の公用語を英語にすると言ったときは、いろんなメディアに面白おかしく扱われて「日本人同士でバカじゃないの」なんて言われたものですが(笑)それはさておき、3年経った今、みんなヘタクソでも使えるようになってきていますよ。

こういう話をするとよく、ネイティブな発音がどうのこうの、ということを言う人がいたりしますが、全然ネイティブじゃなくていいんです。それに、他の外国人エンジニアだって別に英語が得意なわけではないですからね。フランス人にしろスペイン人にしろインド人にしろ、大半の外国人にとって英語は第二外国語であって、日本人と条件は同じです。確かに彼らの多くは英語を話せますが、その習得過程は我々と変わりません。


― これらも、前提として踏まえておくべき“ゲームのルール”ということですね。それを理解した上で、あとは自分で考えていく。


その通りです。ただ、エンジニアにとっての“あるべき姿”というのが、日本ではあまりにも言語化されていないな、とは思います。最近、大学でWEBプログラミングを教えているのですが、技術的な面もさることながら、キャリアアップしていくための道しるべみたいなものが全く言語化されていない。

結局、経験とか勘とか、キャリアアップを図るための方法論がそういう話に終始してしまうのは良くないですよね。MBAみたいに、ある程度は形式知となっているべきだと思います。そしてそれは、業界全体で考えていくべきことだと感じますね。


― 我々も“IT・WEB業界でのキャリアを考えるメディア”として、尽力していきたいと思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました!


(おわり)


[取材] 上田恭平 [文] 重久夏樹 [撮影]松尾彰大


編集 = CAREER HACK


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