技術のコモディティ化が進むにつれ、エンジニアにはプラスαの価値が問われるようになると語るけんすう氏。そのプラスαとして最適なものがマーケティングスキルだと言う。目指すは、エンジニアリング×マーケティングの掛け合わせで拓かれる“ビジネスプロデューサー”としてのキャリアだー。
「優秀なエンジニアの定義とは?」ー nanapi けんすうに訊く![1] から読む
「大企業に身を置くことが、致命的なリスクになる」ー nanapiけんすうに訊く![2]から読む
― 少し具体的な話を。古川さんがエンジニアの面接をする際、どの部分で優秀か否かを見極めていますか?
僕は結構みんな良いと思っちゃうんですよね…(笑)
あえていうなら、目線の高さは見ていますね。その人が、どうなりたいと思っているか。この会社でマネージャーになりたいです、というレベルなのか、この会社の成長の先にはこういう世界があるはずなので、こういうことがしたいですと、そこまで語れるレベルなのか。
― ビジョナリーかどうか?
そうですね、ビジョンって戦略の最上位だと思うんですけど、そこまで目線がいっていて、その下にある各論まで話せるかどうか。
― でも、それってある種パーフェクトな人材じゃないですか?
もちろん、その人の年齢やスキルによって求めるレベルは変わります。全員が経営者視点になる必要はないわけです。ただし、人生レベルで何をどう見ているのか、という目線の高さや、自分のキャリアを考えた上で今どういう決断をしているのか、などは必要かなあと。
よくウチの投資家から、「投資家の役目は経営者の目線を上げることだ」と言われて、実際にすごく鍛えてもらったのですが、同じように経営者は社員の目線を上げることが重要だなと考えています。
― 目線を上げるにはどうすればいいですか?
何事も決めつけずにやってみること、ですかね。「自分はこうだから」というように限界を決めつけてしまうと、いつまでたってもその目線でしか話ができなくなります。
重要なのは、思考ではなく、行動を変えることです。たとえば小さなことですが、人に勧められた本は、マンガでも小説でも必ず読むようにする、などです。
「自分は推理小説は読まないから」などと決めつけてしまうと、いつまでたっても世界が広がらない。食わず嫌いをやめて、人が面白いと言ったものはとにかく挑戦してみよう、と思える人は、仕事に対しても同じ思考で取り組めるんです。プライベートでの行動は、仕事にもトレースされるものなので。
― 特定の物事にこだわらないことが、優秀さの一つの要素なのかもしれませんね。極端な話、明日からプログラミング以外の仕事をして欲しいと言ったときに、喜んでやれるか。
その点も、もしかしたら目線の高さの違いはあるのかもしれません。
よく冗談のように言うんですけど、「Java と JavaScript の違いは?」と聞かれた時に、細かい違いをいう人より、「同じです」と言えちゃう人のほうがイケてたりするイメージはあります。もちろん細かいところはかなり違うのですが、プログラミング言語そのものより、それを使って何を成し遂げるのか、という目線の人は優秀だと思っています。
ウチのCTOも、もともとインフラエンジニアなんですけど、アプリは書いたことがなくて、nanapiを作るときに初めてPHPをやったんですね。それでも、さほど問題なくできた。
それはPHPを書くのが目的ではなくて、会社を経営する上で必要だから学んで実行した、というスタンスだったからなのではないかと思っています。
― エンジニアがエンジニアリング以外のプラスアルファを学ぼうとしたとき、いま、どういうことにチャレンジしてみたらいいのでしょう?
エンジニアが自分のスキルに掛け算するものとして、何を選べば“おいしい”のかという話ですね。
ものすごく短期的に言えば、統計学をベースにしたマーケティングの知識。その知識があってエンジニアリングもできる人は、今後2~3年は価値が高騰すると思います。
― ある意味、確度の高い施策を自分で立てて、自分で打てる人。
そうですね。先日とある会社の統計の専門家に会ったんですけど、優秀な人の電話のトークを全部テキストに落として、形態素解析して分析をしたという話がありました。
成果をあげている人は、どんな話の流れをしていて、どんな単語をどう使えば効果が上がるか分析したという話があって、それは面白いなと。
仮説をもとに施策を考えて実行できるというのはいつの時代でも極めてニーズが高いビジネススキルなのですね。いわゆるビジネスプロデューサーのような仕事ができる。
ビッグデータじゃないですけど、今は大量のデータから、精度の高い仮説を立てて、確度が高い施策を打つことが必要な時代です。その時に、プログラミングと統計的なマーケティングスキルがあるとめちゃくちゃ強い。両方を押さえてビジネスプロデューサー的な存在になると、市場価値はものすごく高いと思います。
プログラミング × マーケティングで、ビジネスプロデューサーになる。GREE さんや DeNA さんにはこういうタイプの方が非常に多いんですが、このパターンが今後10年は強いでしょう。
― GREE さんは、そういうタイプの学生を採用したりしているんですよね。むしろ学生のほうが、ゼネラリストを志向するようにになってきているのでしょうか?
確かに、若い人のほうが様々なことを学んでいるイメージがありますね。最近の起業系のプレゼン大会などにいっても、ほとんどの社長がエンジニアかつプレゼンの質も非常に高い。技術もわかりつつ、人前でわかりやすく伝える技術も身に着けています。
逆に、35歳を超えた人は、どちらかというとプロフェッショナル志向が強いイメージがあります。危機感の違いなんですかねえ…?やっぱり、30代以上の方が危機感を持たなきゃいけない。仕事がなくなっちゃうかもしれないぞって。
僕もそうなんです。年下すごいなって。早いうちに芽を摘まなきゃ…というのは冗談だとしても、戦えるようにしておかないと。若い人のほうが優秀なのは、確実なので。年をとればとるほど、努力しないと勝てません。
今までは年齢を重ねると経験が身について、その経験こそが貴重だったりしたのですが、その差を差を縮めるスピードが、技術の進化によってものすごく早くなる。我々が1年かけてやったことを、若い人は1ヶ月で学べるようになる。さらに、その経験自体が無意味になる可能性があります。
…やばいですよね、常にやばいと思ってます。
― 古川さんは学生時代に起業をしたり、数々のチャレンジをなさっています。それも危機感からくる行動だったんですか?
そうですね。若い頃の経験が、あとあとどんどん取り返しのつかないボトルネックになっていくな、という意識が昔からあって。
高校時代なんてすごく成績悪かったんですね。ただその時に危機感としてあったのが、いい大学に入らないと、学歴は60歳までついてくるし、就職の時にチャンスの量も減ってしまうかもしれない、と非常に危機感がありました。なので浪人してがんばって勉強したりしました。
大学に入ってからも同じで、このまま遊んでいると、就活のときに自分は絶対に困ると。面接がうまいタイプではないから、いろんなことやって経験を積まないと、いい会社に入れない。いい会社にいけないと、そこでの経験が低くなって、次のステップにいけない。
そんな感じで、いま努力しないと、どんどん取り返しのつかないことになるという危機感みたいなものは、強烈にありました。
― 見ているところが、常に“先”ですよね。
多分ビビりなんですよ。優秀な人が周りに多かったので、頑張らないと負けるのが目に見えてたんです。普通にやってたら確実に底辺クラスだなという意識がありました。
でも、一旦入っちゃえばこっちのもんだという楽天的な気持ちもあって。大学も周りのレベルが高いので、引っ張られて自分のレベルも上がる。リクルートも一度入ったら、優秀な人が多くて厳しいので、良い経験になる。だから、滑り込みでもいいからとにかく入れるように…(笑)
当時はそこまで言語化できてはいなかったですけどね。ビハインドを背負うことに対する恐怖感はありました。
― でも、その恐怖感ってそうそう感じられるものではないと思いますよ?
優秀な人と出会うことが、意外と大事なのかもしれません。リクルート出身で活躍されている方が多いのも、求人営業などで、中小企業の経営者に営業する機会がめちゃくちゃ多いからだと思っていて。
要は、周囲の優秀な人たちに、自分の目線を引き上げてもらうと。そういうことも効果的だと思いますね。
― なるほど…。いま危機意識を感じていないのだとしたら、それは優秀な人との出会いが足りていないんだと考えることもできそうですね。刺激的なお話を、ありがとうございました!
(おわり)
編集 = CAREER HACK
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