元サイバーエージェント、紫竹佑騎さんが福岡で新たな仮想通貨取引所『Mr. Exchange』立ち上げに参画、CTOに就任した。『Mr. Exchange』は現時点で日本唯一DEX(*1)取引に対応した仮想通貨取引所だ(*2)。なぜ、エンタメから仮想通貨を主戦場に? 紫竹さん、何に熱狂してるんですか?
[プロフィール] 紫竹佑騎|Mr. Exchange CTO
サイバーエージェントではエンジニアとして、芸能人ブログポータル運用、AmebaのAndroidアプリマーケット開発を担当した後、ソーシャルゲームのプロダクトマネージャーを経て、Node.jsでフレームワーク開発や育成、ゲーム開発、動画メディア開発を行い2017年に退職し独立。仮想通貨取引所 Mr. Exchange をCTOとして設立。現在に至る。プライベートではウェブサイトやフライヤー制作等のデザイン・開発を行っている。BaPA1期生。著書には「Web制作者のためのGitHubの教科書」がある。
*1…DEXとは、英語で Decentralized Exchange 、非中央集権な取引所の略。分散型取引所と言われている。個人が資金を管理し、取引所の様な機能を持つがそこに中央管理者がおらず、買いたいユーザーと売りたいユーザー同士がDEXのシステム上だけで取引ができる。またDEXへの参加に制限は無く、どんな人でも取引が可能。( Mr. Exchange ではこのDEX 上で通貨を取り扱えるようにするゲートウェイ業務も行っている。 )
*2…2017年10月31日時点
― もともとサイバーエージェントではゲームなどエンタメ領域のエンジニアだったと伺いました。なぜ、仮想通貨に?
「非中央集権」というビットコインの特性を活かし、新しいビジネスがたくさん生まれている。この状況を目の前にして、おもしろがらずにはいられないですよね。なによりも「非中央集権な世界通貨」という概念、そのものがおもしろい。
つまり中央集権な銀行、国にとらわれていないということ。これまで「お金」って「国のもの」でしたよね。ただ、インターネットという誰にも支配されない場所に、金融として「お金」が流れるようになった。世界規模の金融が、特定の機関や組織に管理されることなく民主化されていくんです。
「仮想通貨」を使えば、世界中の誰もが金融に参加できるということでもあります。その恩恵とは「国際間での決済が便利になる」ということにとどまりません。お金の流動性がもっと滑らかになっていく。結果的に世界規模の資本主義社会が生まれようとしています。その先の世界はまだ誰も体験したことがありません。
すでに、世界中の人たちがビットコインを使ったビジネスを始めています。日本だと「VALU」はビットコインを使って誰かのバリューが買えたり。「coincheck donations」というビットコインを使って寄付ができるプラットフォームができたり。クラウドファンディングの「CAMPFIRE」がビットコイン決済に対応したり。次々とビットコイン決済を導入するサービスがでてきた。まだまだこれから、新しいビジネスが生まれてくるはずです。
― 仮想通貨もですが、「ブロックチェーン」という仕組みにも注目が集まっています。
そうですね。簡単にお伝えすると、価値の移動をインターネット上で可能にした仕組みがすごい。インターネット誕生以来の革命的なことだと思うんです。…というよりも、僕は「インターネットがもう1回できた」といった考え方をしていて。インターネットが誕生し、グーグルとかフェイスブックとか、世界トップレベルの企業が生まれました。
インターネットができたおかげで、国が管理できないところが民営化され、「インターネット企業」が大きな力を持ち、世の中をすごく便利にしてきた。
そして仮想通貨が誕生したことによって、国が管理していた金融が民営化され、インターネットが出来たころと同じように大きい会社が生まれると思います。
仮想通貨ができたことによって生まれる、新しいグーグルのような存在が今後でてくるはず。誰も見たことないようなアイデアがたくさん出てくる。そう思うと、仮想通貨誕生によって創られるこれからの世界が、楽しみでしょうがないんですよね。
― そんな世界が創られるとき、Mr. Exchange など「仮想通貨取引所」が果たす役目についてどう考えていますか?
僕たちは新たに生まれてくるビジネスの金融プラットフォームを作ろうとしています。少し具体的に言うと、インターネット上にまだ存在していない仮想通貨の銀行機能を作っていく。仮想通貨が流れていくところの取引所として、お金の流れを管理する。現在日本国内にある銀行とか証券取引所のような、仮想通貨のプラットフォームを作ろうとしています。
そのために Mr. Exchange ではこのインターネットが再び誕生する規模の変革期に、DEX という仮想通貨のコンテキストに合わせた次の仮想通貨のパラダイムを取り入れています。DEX によって仮想通貨取引はもっと民主化され、自由になっていきます。僕たちは仮想通貨が創る新しい金融の世界をもっと身近にしていきたいんです。
― なんかめちゃくちゃ可能性を秘めていそうということはわかりました。ただ、仮想通貨を扱う仕事は難しそうですよね…。
結論から言うと…誰にでもできると思っています(笑)たしかに仮想通貨交換業というのは金融業になるので、専門知識が必要ではあります。それでも「ユーザーが熱狂するポイントをつくる」の考え方は変わらないはず。
前職のサイバーエージェントでは、「ユーザーの熱狂するポイントを設計する」というのがエンタメサービスやゲームを作る上で大事なことだと考えていたんですよね。
たとえば、アイドルファンが使うようなメディアだったら「アイドルファンはどういうときにお金を払ってまでそのアイドルを応援したくなるのか」を考えていく。
「ここがめちゃくちゃ面白い」とハマるポイントを作るとか、「勝ちたい」と思う場面を作って課金してもらうとか。そういう「熱狂するポイント」はちゃんとユーザーさんの目線で物事をみて、同じ気持ちになってみると、見えてくるものです。
もし、自分がアイドルオタクじゃなくても、サービスをつくろうと思ったら、アイドルのことを研究しますよね。ライブに行ってみたりして。
だったら金融業でも同じことをすればいい。しかも今ならまだまだ競争相手は多くない。お金の成り立ちとか、FXの仕組み、銀行における機能やサービスについて勉強したり。仮想通貨にしても、FXや株にしても、自分でやってみたら、案外すぐに理解できるもの。体験して、カラダで理解していけばいいんです。
― 技術的な観点だといかがでしょうか。セキュリティやアルゴリズムなど難易度は低くなさそうです。
仮想通貨だからといってエンジニアとして扱う技術は、エンタメとかゲームとかと特に変わらないですね。たとえば、ブロックチェーンの仕組みってものすごく画期的ではあるんですけど、2008年ぐらいからあるもの。特に技術的に使っている言語が新しいとか、そういうのは全くない。なので、メディアでも、ゲームでも、金融でも、その他の何を作るにしても。作るという技術さえあればできます。本当に興味次第ですよ。
― ただ、まだ仮想通貨やビットコインって…ぶっちゃけ怪しがっている人が多いのが現実かな、と思います。
そうなんですよね。仮想通貨ってとにかく怪しいと思われやすい(笑)。ただ、インターネットができたときも同じような雰囲気があったんだと思います。「インターネットビジネスなんてあり得ないでしょ」って。
でも、その頃にサイバーエージェントの藤田晋社長とか、ホリエモンだとか、チャンスがあると思って事業を始めた人たちがいる。これって現在の仮想通貨の状況とほとんど同じなのではないかと思うんです。
たしかに未来がどうなるか、誰にもわからない。ただ僕は確実に仮想通貨で世界が変わると信じていて。「先行者メリット」という観点では、めちゃくちゃチャンスがあると考えています。
たとえば、うちの会社でカスタマーサポートを募集してるんですけど、入社前から仮想通貨にめちゃくちゃ詳しいカスタマーサポートの人なんているわけがない。仮想通貨という業界そのものがまだまだ確立されていない。だからこそ、誰でも挑戦ができる。
怖がってる場合じゃないんですよ。「先行者メリットがある。ラッキー!」としか僕は思わないですね。
そもそも大多数が流れていくほうに流されるほうがリスクだと考えていて。「仮想通貨の事業なんて怖いし危ないからやめなよ」って言われたら、逆に絶対にやったほうがいい。
これは僕の経験談なんですけど、2010年に新卒でサイバーエージェントに入ったとき、親に止められたんですよ。某大手通信会社を例にして、ちゃんとした大きな会社で働けって。
当時のサイバーエージェント…めちゃくちゃ親から怪しまれていました(笑)インターネットの市場規模も大きくなりはじめたばかり。まだメディア企業としてアメブロが流行ってきたりした時代でした。「インターネット広告」は業界で最大手といっていい規模だったのですが、ちょっと親世代には信用をしてもらいづらくて。
でも、入社してから、会社はどんどん大きくなっていった。この前、はじめて知ったのですが、僕の親…サイバーエージェントの株買ってたんですよ!「ダメだ」って反対してた人たちが平気で手のひら返しをする。だから、結果が全てだ、と。
そう思うと「親にとめられたらチャンス」だと思ったほうがいいのかもしれません。一般的には「ビットコインの会社で働きたい」といったら止めてくる親のほうが多いはず。そういったなかでも「チャレンジしてみなさい」と言ってくれた僕の親は理解がありますね(笑)。逆張りこそ、変化の大きい時代に必要な力だとも思っています。
― 同時に「仮想通貨」がもっとメジャーな存在になるよう、引き上げていくということも大事になりそうですね。
そうですね。だから自分で仮想通貨に関連するサービスをやるというのもあります。自分が面白いと信じているのであれば、自分が熱狂している姿を見せないといけない。それが仮想通貨やビットコインへの理解を深めることにつながっていく。いくら言葉で説明しても、日本人のお金に対するネガティブな印象を根本から変えるのは難しいことだと知っているので。
だからこそ、「こんな怪しいと思われている業界なのに、楽しそうに仕事しているな」とか、「時代の流れを自分が作るって、めちゃくちゃ楽しそう」とか、そう見てほしいし、実際めちゃくちゃエキサイティングなんですよ。
ぼくは幸いにもサイバーエージェントで、インターネットが世の中にインパクトを与えて、世の中の流れが大きく変わる瞬間に立ち会ってきました。仮想通貨でも同じようなことを人にみせられるように頑張りたいですね。
(おわり)
文 = 大塚康平
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