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会社を辞めずに夢を追う方法―Zaim 閑歳孝子“プライベート開発のすすめ”[1]

2012-12-25

会社を辞めずに夢を追う方法―Zaim 閑歳孝子“プライベート開発のすすめ”[1]

公開後すぐiOS版が国内外のランキング上位となり、1年が経過したいま、ダウンロード数が30万を超えているオンライン家計簿サービス『Zaim』。企業に勤めながらも、完全なるプライベート開発によって大ヒットアプリを生み出した閑歳孝子さんに学ぶ、正しいプライベートプロジェクトの進め方。

プライベートプロジェクトで自分を変えよう。


プライベートで開発したアプリが多くのユーザーを集め、起業。その可能性に着目した企業から4000万円超の大規模な出資を受ける――

いささか“出来過ぎ“ともいえるストーリーを1年足らずで実現したのが、閑歳(かんさい)孝子さんだ。

そもそもインターネットは、大企業に依存せずともエンジニア個人が 自分の力でサービスを生み出し、社会に対して価値を提示していける世界。だがそうしたWEBならではのダイナミズムは、ともすれば日々の業務に追われる中で、忘れられがちでもある。

「起業することは全く考えていなかった」「コードを書くことには今も自信がない」など自然体で語る閑歳さんからは、プライベートプロジェクトの楽しさや難しさ、やり切るためのコツ、得られるモノなど、実に多くの学びが飛び出した。

明日の自分を変えてくれるかもしれない、 閑歳流“プライベートプロジェクトのすすめ”とは。

29歳からのエンジニアデビュー。

― 閑歳さんが歩んで来られた経歴を聞くと、そもそもエンジニアとしての出来が違うのでは…などと思ってしまいます(笑)基本的な話で恐縮ですが、閑歳さんのご経歴からお聞かせいただけますか。

私、開発を始めたのが遅かったんですよ。大学卒業後に入った会社は出版社で、記者として3年ぐらい働いていました。その後にWEB業界に入ったんですけど、そこでも基本的にはディレクター職で。ただ、簡単な修正は自分でやったほうがエンジニアがラクになるかなと思って、少しずつプログラミングを覚えていった感じです。



29歳のとき、ユーザーローカルという会社に一人目の社員として入社してから、初めてお金をもらってプログラムを書くようになりました。

社長はよく私を採用したなぁと思います。4年経った今でもちゃんと書けている自信がありません。ただ、ずっと一緒にやっているエンジニアからは、「ばりばりやってきた人には及ばないけど、とにかく動くものを作るという意味ではけっこうすごい」と言われたことがあります(笑)


― エンジニアとしては遅咲きだったと。意外です。それまではプログラミングのスキルって全く無かったんですか?


WEB業界に入る前は、HTMLとCGIが書けるくらいでした。お問合せフォームは何とか作れるっていうレベルですね。

でも、書けるようになりたいという気持ちはすごく強かったです。作ってみたいものがたくさんあるのに、実現するにはエンジニアの人にお願いしなきゃいけない。自分で書けたらどんなに楽か、エンジニアの人が羨ましい、とずっと思っていました。

そこで、ディレクター職だったときに社内のエンジニアに「煩わしいことは私がやるので、何をしているか教えてください」と言ってついて回ることにしたんです。

例えばサーバーの設定などを書いて残すのって手間じゃないですか。その業務は私が巻きとるから、分からないことがあれば質問してもいいですか、とお願いしていました。

それで次は自分で実際にやってみて、というのを繰り返すことで、基本的な部分は覚えられましたね。

普段の仕事とプライベート開発は両立できる。

― 日常の業務とは別に、完全にプライベートで『Zaim』 を作っていたんですよね?通常業務と並行しても作れると、最初から思っていらしゃったんですか?


それは思っていました、周りにそういう人が多かったので。例えばユーザーローカル社長の伊藤将雄さんは、大学院在学中に「なかのひと」というヒットサービスを生み出したり、会社に勤めながら「みんなの就職活動日記」を運営したりしていました。その頃のエピソードをよく聞いていて、会社員でもヤル気さえあればできないことはないんだな、と。

あとは先にイベントに出ることを決めちゃっていた、というのもあるかもしれないです。家計簿サービスを出そうかなと思い始めた矢先に、友達に勧められて『Teclosion2011』というイベントでのプレゼンに申し込みまして。そしたら出ることに決まってしまって、もうやるしかないでしょう、という。ちなみにその頃はまだ一行もコードを書いていませんでした(笑)



― なるほど。いわゆる締め切り効果ですね。で、どれぐらいの開発期間だったんでしょうか。

『Zaim』は、開発を始めてからリリースまで大体4~5ヶ月ぐらいです。

平日に仕事が終わるのが大体20時位で、そこから家の近所のカフェに行って2~3時間ほど開発、土日はほぼずっと作業という生活でした。あとは通勤時間の電車の中でも開発していましたね。これは今でもあまり変わっていないですが。


― 多くのユーザーを獲得されたわけですが、しばらくは個人でサービス運用をされていたんですよね?いつ頃起業しようと思われたんですか?きっかけは?


家計簿データの投稿件数が1,000万件を超えることが見えてきた、今年の5月あたりからです。

個人の趣味で運用するには多すぎるデータ量ですし、やはりお金の情報を扱う以上、きちんと管理しなくてはいけない。それに長く使ってもらいたいですから、責任を持って運用していくには個人よりも会社の方が望ましいのではと思うようになりました。

電車の隣に座った人が、普通に使ってくれている“すごさ”。

― 平日も土日も開発に当てるって、決して簡単なことではないですよね。そこまでやり切るモチベーションって、なんなんでしょう。


うーん、なんでしょう。やっぱり"多くの人に使ってもらえるもの"を作りたいという気持ちが強かったからですかね。



ユーザーローカルでは法人向けのアクセス解析ツールを開発していて、自社ツールを作るのはとても面白かったんです。私はユーザーインタフェースを考えるのがすごく好きなんですが、解析ツールはとてもいい題材でした。解析について詳しくない人が見ても理解でき、改善ポイントがすぐ見つけられるようにするには、どう表現したらいいか。それを考えながらレイアウトを考えたり、機能を絞ったり。お客さんから「すごく分かりやすい」と反応をもらえるのも嬉しかったですね。

でも、やっているうちにだんだんと欲が出てきて、いわゆるネットの人じゃない、たとえば自分の母や姉、電車で隣り合わせた人でも普通に使う可能性があるものを作りたい、という気持ちが大きくなっていって。

それで、もし個人向けにサービスをリリースするならテーマは何がいいんだろう、としばらく悩みました。ずっと自分が当事者として接せられるくらい大きなものがよくて、しかも、どうせなら瞬間的にバズって終わりみたいな一過性のサービスじゃなく、長く使ってもらえるもの。

例えばクックパッドの「料理」というテーマは一生ものですよね。絶対に人は食べるし、そのために料理をする。そう考えたときに、「お金」っていうのはいいなと。誰にとっても大事なことですし、日々接するものだし、ないと死んじゃうし(笑)それに、家計簿はいわゆる個人を対象とした解析ツールとも捉えられるので、今ならうまく設計できるんじゃないかという想いもありました。

そういえば少し前に友達が教えてくれたんですけど、フィリピンに遊びにいったとき、『Zaim』を使っている人がいたんですって。それを聞いてめちゃくちゃ嬉しくて。自分はそういうのを求めているんだなぁって。


― そう思うようになった、なにか原体験みたいなものはあったんですか?


大学生のとき友達4人と一緒に、今でいうSNSみたいなのを作ってたんです。その頃はネット回線も常時接続じゃなくて、パソコンも大学生がひとり一台持っていないような時代でした。

そのサービスは大学のキャンパス内の人同士だけで使えて、ツイッターでいう一言メッセージやDMのような機能や、ミクシィの友達みたいな機能もありました。



― それってスゴいじゃないですか。まさにFacebook。


そのときは「こんなサービスがあったらいいね」というのを手探りで付け足しているような状況で、自分たちが何を作っていたのかも分かっていませんでした。それで、サービスを開始してすぐくらいに、教室でみんなでミーティングをしていたら、後ろの席の人が「こんな便利なサービスがあるんだよ、お前も使ってみなよ」って友達に薦めていたのを目撃したんです。このできごとが、本当に嬉しくて。

誰が作ったかすら分からないモノを良いと言って使ってくれる。しかも勝手に広めてくれる。これってすごいことだなと。こういう体験を、ずっと追い求めてるんだと思います。

明確なキャリアパスの無いWEB業界。

あと、原体験とは違うんですけど、危機感みたいなものもあったかなと。


― といいますと?


先ほど話したとおり、私はマイノリティなキャリアで、新卒から所属している人などと比べると、ずっと遅れてWEB業界に入ってきています。だから人一倍努力していないと、この先どうにもならないんじゃないかという気持ちが常にあるんです。



でもそもそも、この業界ってキャリアパスが不透明ですよね。まだできて20年くらいしか経ってないので、無理ないのですが。そして20年後に業界自体があるのかどうかすら、まったく分からない。そうなると安心して信じられるロールモデルが存在しないわけですから、ひとりひとりが自分で考えて判断するしかないかなと。

私としては、「やりたいこと」と「やれること」に「やったことないこと」を必ずプラスして、できることを増やしていこうと考えて行動してきました。


― なるほど。うーん、考えさせられますね。


あと私、ものすごく運がいいんですよ。本当に出会いやタイミングに恵まれていて、正直それだけで生きてるんじゃないかと。常にいろんな人が良くしてくれてお世話になっているので、“これで頑張らなかったら人としてどうなの?” という気持ちが強いです。後から「あのときもっと頑張れたんじゃないか」「恩を返せてないんじゃないか」と後悔しないように、自分にできることを頑張りたいと思っています。


(後編へつづく)□作るだけでもトクになる―Zaim 閑歳孝子“プライベート開発のすすめ”[2]はこちら



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