自らを起爆屋と称する内田伸哉氏。これまで、数々のエンターテイメント性に富んだ企画を具現化してきた。その発想の原点はどこにあるのか。幼少期から培った知識と経験に基づく、イノベーション方法を聞く。アイデア創出方法と価値の生み方にまで迫った、インタビュー第2弾。
▼ヤフー株式会社 内田伸哉氏へのインタビュー第1弾「さわれる検索」誕生の秘密―Yahoo! JAPAN発 イノベーションの背景を探る。
ヤフーという企業へ期待感を持ってもらうために、「Art & Technology」というテーマに挑んだ内田伸哉氏(※)。
テーマへのアプローチとして、「広告の未来」「インターネットの未来」を考えぬいたという。
結果、『さわれる検索』というイノベーションを生み出した。
プロモーションとしてのインパクトは充分。想定外の効果としてCSRへも波及した。
―イノベーション。
WEB・IT業界で頻繁に耳にする言葉だが、一体、どのようにして起こされるものなのか。
自らの役割を「起爆屋」と表現する内田氏。インタビュー第二弾では、彼の哲学や思考に迫る。
イノベーションの起こし方はもとより、内田氏の考える「広告の未来」について紐解く。
※慶應義塾大学大学院で電子工学を専攻。 2000年よりマジシャン(iPadマジックが有名) としてメディアに登場する。 2007年、電通でコピーライターとして活躍。 2012年よりヤフー株式会社の広告部門に勤務。
― 『さわれる検索』のプロジェクトはもうすぐ終了ということですが、個人的にはもったいないというか、この先の展開に注目したい思いがあるのですが。
もともとプロモーションが一番の目的でしたので、一応、役割は果たせたかと思っています。
もちろん、これだけ取り上げてもらえているので、今後はどんな展開をみせるかっていうのはありますけど。
社内の誰かが引き継いでくれて、もっと膨らませてくれたらいいと思います。
僕自身は、「起爆屋」なんですよ。何か新しいことやものを、先陣きってやってみるというか。起爆できたら、その後が得意な人にお願いする。
社長の宮坂が新生ヤフー誕生のときに「脱皮しない蛇は死ぬ」と言ったんですが、その言葉を借りるなら、僕は脱皮系。一旦、皮は剥いたので、次の皮を剥きにいきます。
― そもそも、内田さんが起爆屋に目覚めたきっかけは?
原点は幼稚園の頃ですね。とにかく負けず嫌いだったんですが、わからないことが気にいらなかったんでしょうね。いろんな物を分解していました。自転車とか時計とか。
自転車なら、幼稚園児でも構造がわかるじゃないですか。これを回せばギアが動いて、チェーンに伝わって、タイヤが回って…と。
― いや…普通はわからないと思いますけどね。
そういう仕組みを生み出す人ってすげぇ!って。
一番興味を持ったのは、テレビでした。どうしてこんな薄い箱の中に人が入ってるんだ?って不思議に思って、母親に聞くわけですよ。
理系へ進めって意味だったんでしょうけど、「算数ができればつくれるようになるよ」って。
そこから公文式の算数にハマって。大学は電気電子工学なんですけど、テレビも電気電子信号処理ですからね。
そのうちに、古典力学や物理の相対性理論。次は量子力学があるじゃないですか。
そうやって仮説レベルですが、人類がわかっている限界まで接してみて、自転車の仕組み程度には理解できた。
そこまでに学んだことを俯瞰したとき、一番複雑なのは人間の感情なんじゃないかって思い、結果、広告の道に進んだんです。
― 広告で人の心に触れて動かそう、と。
実は、どうしても広告とは思っていなくてですね。とにかく、いかに人の感情を動かすか、に興味があるんです。結果的に広告が一番近かったというだけのこと。
数学とか物理とかを学んだ結果、一番難しく、かつ究極のところにるのが、人の心を動かす心理的行為を生むための仕掛けとか、取っ掛かりの部分。そこに僕は関わっていたいんです。
― 面白いものを企画するにあたって、発想の原点みたいなものはどこにあるのでしょうか。
新しいものって、組み合わせから生まれるものだと思うんです。本当に新しいものなんて、ほとんどなくて。
基本的にインターネットだって、究極的に新しいことは何もやってない。情報の伝え方が、大昔で言えば狼煙(のろし)であって、それが紙になってネットになっただけのこと。
何をリプレースすると新しくなるか、新しく見えるかというのが大事だと思います。
「さわれる検索」の場合だと…
一番最初は、検索結果が3Dになったら面白いんじゃないかって、検索結果を見る・聞くではなく、触るにリプレースした。検索結果に触れるなら、盲学校に置けるね、という案が出て、タイピングより音声入力の方がいいんじゃないかと考えて、検索方法をリプレースしました。
目的と手段の両方をリプレースしたということです。
― 「さわれる検索」に限らず、イノベーションを成立させるにあたって、どんな発想や経験が重要と考えていますか?
3点ありますね。
まず、「すごい」と思うことにたくさん接する。それに対して、「悔しい」と思う。悔しさは重要ですね。
2点目が、「冷たい視線」を自分自身に向けること。大体、自分のつくったものって可愛いんですよ。すごくいいなって思う。でも、世間なんて冷たいですよね(笑)客観的視点っていうと聞こえがいいですけど、一人よがりにならないことって大事だと思います。
最後に、「自分に嘘をつかない」ことでしょうか。妥協の末のアウトプットなんて、見透かされますし、そもそも自分が面白くない。
― 内田さんの企画術について知りたいんですが、例えば「Art & Technology」というお題に対して、まず何から取り組んだんでしょうか。
その言葉から想像するものを、全部アウトプットする。自分の中のアイデアを、全部絞り出しますね。
僕はプロジェクトを始めるときに、新しいノートを一冊用意するんです。それを埋めることからスタートですね。あまり厚いのを買うと苦労するんで、最近は薄めのノートを探すようにしてますけど(笑)
そこから出てきた言葉なりアイデアを、いろいろ組み合わせたり繋ぎあわせたりして、新しいものを生み出しています。
でも、自分がいいなと思ったアイデアなんて、世界中で1万人くらいが思いついてるハズですから、その先にどうするかってのが、一番大変なんですけど。
― 同じアイデアを1万人が考えている中で、そこを勝ち抜くための秘訣ってありますか?
気合ですね(笑)
というか、1万人が思いついて、実際に行動する人が1000人だとして、ゴールまで辿り着くのが100人で、その中でトップになればいいんです。
「さわれる検索」についても、3Dプリンターによるプロモーションを、誰か先にやってしまわないかって恐怖はありました。
― アイデアを出すための蓄積とカタチにするまでの継続力とスピードが大事なんですね。
そうですね。アイデア自体には何の価値もありませんから。アウトプットして、初めて価値が生まれるわけです。
大事なのは、実行力、可能にする力のほうだと思ってます。アウトプットされないアイデアなんて、アイデアとも呼べませんから。
― 「さわれる検索」プロジェクトをカタチにする中で、人の心を動かして、改めてわかったことってありますか?
テクノロジーだけで人の心を動かすのは難しくなってきていると感じました。テクノロジーが飽和してきているのかなって。PCからスマホ、3Dデータから3Dプリンターって、次々と新しいテクノロジーが出てきていますが、この次がかなり難しいだろうなと思っています。
ARコンタクトレンズなのか、曲がる有機ディスプレイなのか、その辺かもしれないですけど、テクノロジーが飽和してくると、新しいこと自体が大事ではなくなるんじゃないかと。
より重要なのは、その組み合わせかただと思います。
― アイデアのハイブリッドが、人の心に刺さると感じた?
それはありましたし、昔から思っていたことですね。リプレース精度の高さが発明になってくるんじゃないかな。エジソンの電球だって、ロウソクのリプレースですし。
それも時代や場所、運や技術的要素の歯車が噛み合ったときに、大きなジャンプになるんでしょうね。
ただしそこには、必ずアイデアが介在しています。自分が故意にコントロールできるのって、アイデアを出してカタチにする部分だけであって、それを世間が受け取るか無視するかは水物。アイデアを出し続けるしかないですよね。
同時にアイデア自体は誰でも出せるので、どうやるかのほうが重要。何をやるか以上に、どうやるかなんですよ。アイデアの価値はどんどん下がっていて、どうやるかという手法の価値が高まっているのかなって。
最終的に帰結するのは、やっぱり人の感情部分。学問では理解しきれない、もっとも奥深いことですよね。その瀬戸際でせめぎ合う戦いを、僕はやっていきたいです。
アイデアと技術がガッチャンコして面白いものを生み出せたら。そういう意味では、ヤフーはラッキーですね。優秀な技術者がたくさんいますので。
― なるほど。アイデアを出して起爆し続ける内田さんがいて、実現していく優秀なエンジニアがたくさんいる、と。今後のヤフーには期待していいということですね。
ご期待ください(笑)
(おわり)
[取材・文]城戸内大介 [撮影]松尾彰大
編集 = CAREER HACK
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