ヤフーが発表した、音声検索と3Dプリンタを組み合わせ、検索した物を立体物として生成する『さわれる検索』というプロジェクト。自社のプロモーションとCSR活動という側面を併せ持つアウトプットが誕生した。「検索」と「3D」のイノベーションは、どのような背景から起きたのかを探る。
9月17日にヤフーが発表したイノベーション、『さわれる検索』をご存知だろうか。
音声入力によって認識したキーワードを、3Dプリンターで立体物として生成するマシンだ。
公開された試作機に向かって「キリン」などの音声を認識させると、樹脂製の立体がプリントアウトされる。
見るもの・聞くものだったインターネットに、「さわれる」概念を持ち込んだことで注目を浴びた。
検索と3Dプリンタを融合させたコンセプトモデル『さわれる検索』は、いかにして生まれたのか。
プロジェクト責任者である内田伸哉氏へのインタビュー第一弾は、『さわれる検索』誕生の背景を伺う。
検索の新しい未来として、生まれるべくして生まれたイノベーションなのか?
― ニュースを見て注目していたのですが、そもそも、どういう背景で『さわれる検索』が生まれたのでしょうか。
実は、プロモーション的観点が始まりだったんです。
私見ではあるのですが、ヤフーって、何かやってくれそうなイメージがない。たとえばグーグルであれば、やってくれそう感があるんですけど。ヤフーについては期待感が薄いという印象がありました。
毎日多くの方々に利用いただいているのに、使っている感があまりない。
もっと世の中が、ヤフーに対して期待感を持って欲しいと思ったのがきっかけです。
役員からは「Art & Technology」という言葉が出てきました。実際、テクノロジーについては、一生懸命取り組んでいるんです。Yahoo! JAPANの一番凄いところって何かを尋ねたときに、「アクセスが急に集中しても、ほとんどサイトが落ちない」と聞きました。
これだけ大きなサイトなのに、落ちたことがない。見た目は地味ですが、バックエンドは強固なんだと感じたんです。
そういった意味でも、テクノロジーは確かなものがある。でもArtに関しては、まだまだだと思うんですよね。そこを強化していこうと、プロモーション的に始まったわけです。
― 期待感を醸成する方法は、他にもいくらでもあると思います。その中で『さわれる検索』がカタチになった理由は?
プロジェクトの管轄が広告部門でしたので、広告の未来を語ればいいのでは?という話になりました。さらに言えば、インターネットの未来。ここを探っていけないかと考えながら、企画を立てていったんです。
企画自体は山のように出しましたよ。それこそ、ボツになったのを含めて100や200はあります。Tech系からエモーショナルなものまで幅広く。多くのアイデアを検討する中でカタチになったのが、『さわれる検索』だったということです。
― プロモーション要素がきっかけということでしたが、CSR的な意味合いも強いように思うのですが。
正直、当初はまったく意識してませんでした。プロジェクトをカタチにしていくなかで、結果的にそっちの側面も生まれてきたというところです。
「Art & Technology」というテーマのもとで、広告・インターネットの未来ってなんだろうと考えて出した結論が、触れるだった。
見る・聞くだけだった検索に、触れるという未来を示すことができたら、期待という感情が芽生えるんじゃないかという。
結果的に、BtoBとBtoCそれぞれの側面が生まれたんですね。BtoBでは、例えば車のプロモーション。自動車のディーラーにマシンを置いて、新車の試乗などでいらしたお客さんが持ち帰って触るといったことを想定しています。BtoC的に見ると、CSR的要素が大きいんですが、内側の目的としては、もっと奥の方にありました。共通しているのは、広告・インターネットの未来です。
― 『さわれる検索』のビジネス的な展開は考えていらっしゃらないのですか?
まったく考えていません。あくまでプロモーションですね。
ですが、これだけ反響があったのと、今後3Dプリンターは否応なく普及していくでしょう。そういった部分では、社内でも何か新しいことをしたいという話が出ていないこともありません。
新しいビジネスのきっかけというか、起爆剤のような機能は果たせたんじゃないでしょうかね。
― 3Dデータがなくても、WEB上にある画像の検索結果から、立体を生成できるようにするとか?
企画の段階では、すでに考えていたんですよ。ただ高度な画像処理だとか生成時間の問題があるので。
今回は試作機ですから、データを借りてでもオールインワンで出すことに注力しました。
本来なら、iPhone撮った画像から差分取得して3D出力ができたら楽しいんでしょうけどね。
― では、『さわれる検索』のプロジェクトは一旦おわりということですか?
そうですね。
筑波大学附属視覚特別支援学校という盲学校にまずは置いていました。その後、現段階で送り先は未定ですが、寄贈予定です。
― 盲学校に置いてある、寄贈するという部分に、とても大きな意義や意味を感じます。
実際に私も学校へ行ったのですが、子どもたちが本当に楽しそうに、心を動かされている様子を見ました。すごく嬉しかったですね。
結果的にCSRへつながったとお話しましたが、狙わなかったことが奏功したんだろうと思います。
― CSRを狙わなかったことが、結果的にCSR面でも奏功したということですか?
そうです。
盲学校に置くとなったとき、怖かったんですよね。真意に反して、偽善だと取られるリスクがあるので。でも結果的に、とても良い反応をいただけました。
先日、校長先生のインタビュー記事を読んだのですが、本当に教育現場で重宝しているという旨の内容でして。言わされたんじゃないか?ってくらいに(笑)
こちらがしていたポジティブな予想より遥かに学校や先生、生徒さんに喜んでいただけたみたいです。
― 狙わないでも、本業の延長にある未来を真剣に考えれば、それ自体が社会の役に立つという好例ですね。
例えばIT企業なのに木を植えるとか、事業と関連のみえないCSR活動ってあるじゃないですか。
そうじゃなくて、ヤフーの考えは本業を通して、社会を良くしていくことなんです。
「Links for Good~クリックで、世界を変える~」という、NPOや非営利団体に、5億PV相当の広告枠を無償で供与するという取り組みもそう。
NPO団体さんの行なっている内容を、当社で活動することだって不可能ではありません。
それよりも、当社の広告の技術や本業部分を活かして支援させていただくことの方が、効果が最大化すると思うんです。
― なるほど。ニュースを見たときには、完全にCSR目的だと思っていたのですが、そのような考えがあるんですね。あくまで『さわれる検索』は、ヤフーに期待感を持ってもらうためのもの。培ったテクノロジーや蓄積してきたアイデアをカタチにした結果ということなんですね。
はい。広告の未来、インターネットの未来を考えた結果、アウトプットのひとつとして生まれたものが、注目いただいた『さわれる検索』なんです。
― ありがとうございました。ここから先は、イノベーションを起こすための考え方をお伺いしたいです。内田さんの哲学というか、アイデアの出し方みたいな。
(つづく)▼ヤフー株式会社 内田伸哉氏へのインタビュー第2弾
Yahoo! JAPANが誇る“起爆屋”内田伸哉氏の思考―飽和状態でのイノベーション。
[取材・文]城戸内 大介 [撮影]松尾 彰大
編集 = CAREER HACK
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