伝説の音楽ゲーム『ビートマニア』の作曲・企画者にして、スマートフォンアプリ『斉藤さん』(約930万DL)を仕掛けた人物―それがユードーの南雲玲生氏だ。同氏は「誰も追いつけないくらいエッジの効いたことをやる」と語る。その企画はどのようにして生まれるのか。奇抜かつ独創的な南雲流の企画術を紐解く。
▼ユードー南雲玲生氏のインタビュー第1弾
中毒者を生み出す。ビートマニアの父にして、930万DLアプリの仕掛け人『南雲玲生』の発想。
南雲玲生は「直感を大事にするアーティスト性」と「鋭いマーケット感覚」を併せ持つ希有なクリエイターといえるかもしれない。
大手ゲームメーカー在籍時代には音楽ゲームの元祖『ビートマニア』を生み出した。その後、自身が代表を務めるユードーでは、無料テレビ電話アプリ『斉藤さん』をつくり、約930万ダウンロードを達成。全く異なるジャンルだが、両作品とも爆発的な大ヒットを記録している。
南雲氏が語るところによれば、「自分たち発信で“これヤバくない?”と思ったものを出して、まわりを惹きつける」というスタイルだという。
いかにして南雲氏は「これヤバくない?」という企画を生み出すのか。時代、そしてメディアを超えていく企画の方法論は存在するのか。奇抜であり、かつ独創的な南雲流の企画術を紐解く。
― 南雲さんが手掛けた『ビートマニア』も『斉藤さん』も大ヒットしましたが、音楽ゲームと無料テレビ電話アプリ…全然ジャンルが違いますよね。共通点はあるのでしょうか。
『ビートマニア』も『斉藤さん』も、ぼくらが発信したものに対して、みんなが「これヤバい!」と集まってくれたことだと思います。
「皆さん、どういうものが欲しいですか?」と御用聞きでやるのではなく、ぼくたちが「おかしい」とか「狂っている」と思うものを出して世に問う。そこに衝撃を受けた人たち同士がつながってくれて、コミュニティみたいなものができたと思います。
その「これヤバい!」と思って遊んでくれる人同士の共感やつながりって、ポジティブだし、強固になると思っていて。
というのも、マーケットインの発想で作っても「俺たちがほしいものをリサーチして出したんでしょ?」といった受け取られ方をするんですよね。「物足りない」とか「ここを改善しろ」とか、“御用聞き”が前提になる。だからぼくらはプロダクトアウトの発想でいこうと考えているんです。
― プロダクトアウトが理想的…とよく聞きますが、実践できるケースは少ない気がします。
そうですよね。「今までにないものをつくろう」「新しいことをやろう」って言うだけなら別に誰でもできるんですよ。「自由な発想で…」とか言葉にする前に、病的なくらい考え抜かないと失敗します。
よく「自由な発想」とか「イノベーション」とか、そういったことを掲げている会社は多いですが、じつはそういった会社ほど頭がカタイ(笑)
コンプレックスの裏返しが会社のスローガンになると思っているのですが…もし本当に新しいものを生み出そうと思うなら、徹底的に“遊び方を知る”ことが欠かせない。ここを極めないとダメだと思います。
― 徹底的に“遊び方を知る”というのは、どういうことでしょうか?
遊んでいる人はどんな生活をしているか。尾行するくらい追跡しないとダメ、ということですね。机上で推測するのではなく、本当にコミュニティに溶け込んでみる。ちゃんと体感して、ユーザーの感覚を体に叩き込むんです。
コナミにいた時、視察とロケテストで日本全国のゲームセンターによく行ったのですが、毎日張り付いてユーザーの動向を病的なくらい見るんですよ。
ユーザーが住む世界の文化、考え方、価値観を知り、自分のなかに染み込ませていく。やはり突然何かが「0」から生まれるわけではありません。インプットをどう消化し、アウトプットに結び付けるか。子どもの時に習った「原材料を仕入れて新しい価値を出す“加工貿易”」に近いと思っています。
― 原材料=インプットをどこから仕入れるか?ここもポイントになりそうですね。
そうなんですよ。みんな渋谷とか六本木とか、流行の発信地みたいなところに注目するけど、違うんですよ。よく言うのは、深夜のドン・キホーテを見ろ、と。軽自動車に乗って、EXILEを聴きながらやってくるカップルとか、深夜に子どもを連れて来店する夫婦とか。その人たちは何を美しいと思い、何をカッコ悪いと思うか。何を目指しているのか。
別にドンキじゃなくても、ゲームセンターとか、ガストとか、マクドナルドとか、その世界に入り込んでいく。もしかしたら、マーケティングでいうペルソナを分析しているのかもしれないけど、もっと抽象化して自分がその人たちになりきるくらいやらないとダメだと思います。そこまでやってはじめて企画が立ち上がってくる。絶対的に言えるのは、自分とは全く違う世界の人を知るということだと思います。
WEB系の仕事をしていると、普通に生活をしていても、テック系の情報ばかりが入ってくる。もう嫌になりますよね。たとえば、シリコンバレーのトレンドをウォッチして「次は何がくる?」みたいに考えても…別にいいんですけど、結局みんなと変わらないことをやっているだけだから、逆に日本人的な発想だなぁと思いますね。
― どうしてもWEBやテクノロジー系のスタートアップだと、海外のトレンドを見ようという風潮はありますよね。
ぼくも10年くらい前にシリコンバレーをまわり、ベンチャーキャピタルを探したことがあるんですよ。資金調達してイグジットするためなんですけど…あまり上手くいかなかった。失敗を経験したから言うんですけど、本質を見失っていたのかもしれません。
いい作品を作り、マーケットを獲りにいくことが本質。その足元を固めないと息の長いビジネスはできないと気がつきました。だから、日本に戻ってドンキに行ったんでしょうね(笑)
アメリカで感じたのは、日本人が海外にいくと現地の文化や考え方に自分を合わせようとすること。本当は「あなたは何者で、何がしたいのか」が問われているのに…農耕民族の気質なのかもしれませんね。
結局、アメリカはいろいろな民族の集まりで、それぞれの特性やファミリーを引きずっている。だから、「個」のアイデンティティが重要なわけです。だから、日本人も合わせるのではなく、自分に何ができるか?と考えないとダメなんですよね。
― あくまでも確固たる自分が大事であるし、それが企画やアウトプット、生き方につながっていくということですよね。
子どもの頃にムカついたこと、カッコいいと思ったこと、こだわっていたこと、根っこに立ち戻れば「自分」はあるはずですよね。それは一生崩れないものだと思います。本とか、グーグルとか、自己啓発とかに頼らず、自らが美学とすること、そして欠点とも向き合っていく。
ググればたくさんの情報が出てくるけど、どんなにたくさん情報があっても「根っこ」はみんな違うから最適化されないし、当てはめることもできません。本質的な自分は検索しても見つからない。
会社が何と言おうが「これがいい」と決めるのは自分ですよね。たとえ、まわりが「理解できない」と言っても、こういうスタイルで自分は生きてきた、自分はこういう存在だ、と明確に打ち出したほうがいい。
ただ、今ってブログやSNSを使った自己発信の時代なんて言われていますよね。でも、セルフプロデュースって自分を偽れてしまう。カッコいい自分を演出するとか。そういった偽りではなく、「素の自分」が大切だと思います。素のぼくを知ってくれている人、ユードーの本当の価値をわかってくれる人と仕事ができればいいんです。
― 自分達の価値をわかってくれる人と仕事をする…といえば、ホームページに「受託開発をやめた」という話も書かれていましたね。
受託で開発すると、だいたいがケンカになるんですよ。たとえば、ある企業さんから「ソーシャルゲームをつくりたい」と話がきて。「やっても無駄です」と単刀直入に言ってしまう。流行に乗ったところで、もう資本勝負になるからやめたほうがいい。ブーストをかけてPRしないと基本的にはダメなわけで。2000万円、3000万円と大金がもらえたとしてもそんな負け戦は断りますよ。
本質的なところをわかってもらって、末長いお付き合いがしたいんです。一時的にキャッシュがもらえても、長く続かないならやらない。それで一時期ものすごく仲が悪くなった企業さんもあったんです。でも、数年後に「やっぱり大変でした。南雲さんはホントに正直ですね」と言ってくれて、仲直りしたことがあるんです。
こういった経験もあるから、自分を偽らない。…それに偽ると疲れちゃいますよね。エンジニアやクリエイターにしても、欠点をさらけ出したほうがいい。この分野なら負けないという部分さえあれば、きっと周りの人だって少しくらいの欠点は「しょうがないな」って助けてくれるはずです。
仕事はしょっちゅうは来ないかもしれないし、トラブルだってあるかもしれない。でも、「素の自分」を打ち出している人、正直な人には必ず最終的にいい話がやってくる。そんな長い視点が大事なのかもしれません。
― 「企画」と一言でいっても、そこに紐づく生き方や考え方、そして確固たる自分を持つことが大切なんですね。エンジニアやクリエイターにとって訓辞となったと思います。本日はありがとうございました。
(おわり)
[取材・文]白石勝也
編集 = 白石勝也
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