2019.07.30
「ポップな作風」で挑む。知名度ゼロから、写真家 クロカワリュートがとった作戦

「ポップな作風」で挑む。知名度ゼロから、写真家 クロカワリュートがとった作戦

カワイイ女子とスニーカー、ポップな色合いの写真がSNSで注目されるクロカワリュートさん。写真を仕事にして2年、独立1ヶ月。著名人のポートレートから大手企業の広告撮影まで依頼がぞくぞくと舞い込む。写真で食べていくと決め、実行したのは作品のSNS投稿。彼らしいポップな作風、立ち位置はどう生まれた?

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SNS時代の広告フォトグラファー、クロカワリュート

フリーランスの写真家「クロカワリュート」さんが、SNSを中心にじわじわと人気を集めている。

ゆうこすさん、くつざわさんなど著名人のポートレートを撮影。スタートアップBasecampのメンバー写真から、マイクロソフト社といった大手企業の商品広告まで、活躍の場は広い。

一貫しているのはポップでキュートな作風だ。ぱっと目をひくカラフルなシリーズ『#SugarMePop』。タイムラインに流れれば、つい目をとめ、思わず「みてみて!」とシェアしたくなってしまうかわいさがある。

そんなクロカワさん、じつはフォトグラファーとして本腰を入れて活動を始めたのはつい1年前のこと。

もともとプログラマ、ディレクター、プロデューサーなど仕事の幅を広げながら、IT企業やWeb制作会社で20代のキャリアを歩んできた。

「本格的に写真で食べていこうと思ったのは、つい最近で。どうすれば自分の作品が受け入れられるか。たくさんの人に知ってもらえるか。試行錯誤してようやく、自分なりの戦い方が見えてきたところです」

クロカワリュートは、いかにしてSNS時代の注目フォトグラファーに?その奮闘の日々に迫った──。

【プロフィール】クロカワリュート(34)
専門学校を卒業後、ジュエリー職人としてアトリエに就職。その後IT業界に飛び込み、制作会社や事業会社、広告代理店数社にてプログラマ、Webディレクター、コンテンツディレクター、そして事業の立ち上げなど多彩な経験を積む。2017年から副業でフォトグラファーの活動をスタートし、2019年6月に独立。人物やスニーカーの撮影を中心に幅広く活躍しており、特に『#SugarMePop』や『動きだす写真』は大きな支持を集めている。

31歳、僕は「空っぽ」になってしまった

─ もともとはウェブのディレクター、プロデューサーだったと伺いました。

そうですね。ただ、ちょうど3年くらい前に転機があって。ものすごく仕事で悩んでいた。当時は友人と一緒に立ち上げた会社で働いていたのですが、突然会社を離れることになってしまったんです。

それまで、目の前の仕事にすごく熱を注いでやってきました。でもそれが続けられなくなって。なんだろう、空っぽというか、ゼロになった気がしたんですよね。気持ちが一気に落ち込んでしまって。

そのあとも転職して、他社で仕事はいくつかしていました。でも、身が入らなくて。どこかこなしている感じ。そういったスタンスだと一緒に働く方々にも申し訳ない、「自分何してんだろう」って気持ちでいっぱいでした。

多分そこにあった喪失感って、もちろん友人との事業がうまくいかなかった悲しさはあるのですが、何よりも「自分自身が前に進むことができていない」ということだったのかもしれません。目標も、志も、何もかもなくなってしまったんです。

─ そんな悩みが…。では、最初からフォトグラファーになりたかったわけではなかった?

そうですね。もともとカメラは趣味のひとつで。ただ、ディレクターとして仕事をしているときに、自分でも撮れるとすごく重宝してもらえたんですよね。副業としてお手伝いしたり、依頼してもらって撮影したり。少しずつ仕事でも撮影はするようになっていきました。

それでも「カメラ一本でやっていく」ということは考えられなくて。自分の写真が世の中にどこまで受け入れられるのか自信がなかったし、発注費の相場などもなんとなく分かっていたので、今の自分じゃ稼げないなと。

単価がいくらで稼働日はこのくらいで…いやムリムリって、皮算用ばかりしていたんです。もう僕は20代じゃないんですよ。生活もあるし、これまで築いてきたキャリアを捨てる勇気もない。無鉄砲になれなくて、どうしても一歩を踏み出せない。

そんな時期が、2年くらい続きましたね。

 暗闇の先に見えた光。助けてくれたのは「写真」だった

─ どのような気持ちの変化があり、写真で食べていこうと?

いま思うと、どこかで「カメラを本業にできたらいいな」と思っていたのかもしれない。自分にとって仕事の一番のガソリンは、多分「好き」の気持ちで。いま何より自分の気持ちが向くのは、カメラだと気づいたんです。

─ どうやってそれに気づいたんでしょう。

一度自分が「何に悩んでいるのか?」をちゃんと整理してみようと思ったんですね。思いつく限り悩み、現状をわーっと紙に書き出した。将来が見えないとか、今の仕事のこれが上手くいかないとか。

そこで分かったのって、「頑張れていない状況」が何よりも自分を苦しめていること。じゃあ、もう一番情熱を注ぎたいと思っている“カメラ”を仕事にするしかないのかもしれないと。自分が100%の力で頑張れる状態をつくりたかったんです。

正直、悩むのにも飽きていた(笑)「もう腹くくるか」って思った部分もありましたね。半ば強引に「俺はもうフォトグラファーになるぞ」と決めて。あれこれ言い訳していたけど、そこでようやく「やってみなきゃ分からない」と思えたんです。

できないと決めつけてモヤモヤしたって何も変わらない。動かないとゼロだけど、動いたら何か変わるかもしれない。正解なんてないんだから、覚悟決めて動くしかない、って。

予算によっては、企画段階から案件を任されることも多いクロカワさん。提案書を何十ページもつくり、絵コンテや配色コンテを書き、スタッフのアサインやスケジュール組まですべて一人でやるという。ここまでするフォトグラファーは珍しい。ディレクターの経験が、写真家としての彼にとっても大きな強みとなっている。

競争相手が少ない「テイスト」で勝負する

─『#SugarMePop』のシリーズが生まれたのは、そこから?

そうですね、「カメラで食っていく」となったら、絶対的に“勝ち筋”を見つける必要がある。最終的に辿り着いたのが、スタジオで撮影して、かつ色がはっきりしている今のテイストでした。

ジャンルとしては存在しましたが、今のSNSの世界にはあまりないテイストで。「この写真はクロカワだ」という認知をとれるかもしれないと。

結局、「クロカワじゃないと撮れない写真」じゃないとお金をもらえないんですよね。じゃあどうしようと思ったときに、僕がやったのは、自分が好きで、かつ需要があるテイストを探っていくこと。やっぱり、自分の「好き」に素直じゃないと続かないから。

ただ困ったことに、モノクロ写真、動物の写真、人情味あふれる写真、スタジオで撮るような広告っぽい写真・・・どれも好きなんです(笑)

じゃあそのなかで、どこが一番稼げるのか?

たとえば、日常を切り取ったフィルムっぽい写真って僕も好きなんですけど、人気ありますよね。好きな人も多いし、撮れる人も多い。ハードルが低いということは、他のフォトグラファーと価格競争になる可能性があるってことで。発注側の視点で考えると、確かにそう。似たクオリティで頼める人の選択肢がたくさんあれば、価格が安い人に発注したくなりますよね。

まずはそういった懸念や業界のを現状を書き出したり、いろいろな写真を見たり、SNSに張りついて傾向をリサーチしたり。こういった洗い出しをしていくうちに「このジャンルはちょっと稼げなさなそうだな」とか、「需要はあるけど撮れる人が多すぎるな」とかが見えてきました。

「#SugarMePop」は、写っている人が可愛いだけじゃなく、絵として可愛い。女性に「可愛い」「シェアしたい」と思ってもらうことを狙っています、とクロカワさん。女性はシェアの文化が強いため、SNSを通してバズを起こせるのではないか?と考えたと話す。背景に鮮やかな赤や黄色を使っているのも、タイムラインで目にとめてもらえるようにとのこと。

好きなことで自活できるって、カッコいい

─ すごく考えた上で、自身の作品をSNSで発信されていったんですね。

そうですね。ただ、それも「作っているだけ」ではダメで。知り合いの受け売りではあるんですが、「知られていないと何も始まらない」と。ホントにそうだなと思っていて。そういった意味でも、Twitterやインスタなどはきちんと運用しています。

たとえば、「SNSのフォロワー数は基準にならない」という意見もありますが、単純に、存在すら知らない人に仕事をお願いできないじゃないですか。

僕はいま企業さんからの依頼しか受けていなのですが、半分がSNS経由なんです。最近は企業の担当者さんも、SNSを使ってクリエイターを探すのが当たり前になっているみたいで。

大前提にあるのは、「自活する」ということ。僕は創作活動を楽しみたいわけではなく、自分で作ったもので食べていけるクリエイターでありたいんです。そのためには発注が来る存在でなければいけないし、発注されるためには知られていないといけない。

最近よく「好きなことで生きる」と言われていますが、これって少し危うい言葉で。単に好きなことをやるって話じゃないと僕は思っています。

「好き」も満たしつつ、世の中に受け入れられるものを提供する。だから、SNSは自分の「広告」としても正しく機能させたいなと。

じつは、SNSのタイムラインに流す写真も、発注主目線で「仕事に使えそう」とか「デザインを入れてみたい」と思ってもらえるように工夫していて。「この構図なら雑誌の表紙っぽく上に大きく文字を入れられそう」とか、このあたりは結構意図的にやっています。

もちろん、僕の写真を好きだと言ってくれるファンの方に「かわいい」と思ってもらうことも大切ですし、もっと多くの人に見てほしいですけどね。

企業の担当者にも、純粋にSNSを楽しんでいる人にも見てもらえる“際”を攻めている感じです。ポートフォリオ的でありつつ、みんなが見て楽しめる方法を模索していく。そんなふうにして、たくさんの人に楽しんでもらえるような作品をこれからも追求していければと思います。


編集 = 白石勝也
取材 / 文 = 長谷川純菜


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