Notion1人目の日本担当CSとして入社した濵岡瑞希さん。エンタープライズ向けのCSM、コンテンツ作成、コミュニティサポートなど、CSを一手に担う。営業からキャリアをスタートし、他SaaS企業でのCSM経験を経てNotionにジョインした彼女。「社内の誰よりも顧客視点に立ち続ける」彼女のブレない信念があった。
※記事内では職種として「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」のことを「カスタマーサクセス(CS)」と表記しています。
ー 2021年6月に、日本で2人目の社員としてNotionに入社したと伺っています。まず最初にその経緯から伺いたいです。
最初のきっかけは、日本第1号社員であり、ゼネラルマネージャーを務めている西との間に共通の知り合いがいて、話をきいたことでした。当時は、まだ日本語ベータ版リリースの発表前で、「これから日本でNotionを普及していくために、カスタマーサクセスを担う人を探している」と話を聞き、0→1でカスタマーサクセスを立ち上げていくフェーズに関われることにワクワクしました。
また、Notionの掲げるミッション「Making software toolmaking ubiquitous.(誰もが思い描いたソフトウェアを自由自在に組み立てることができれば、世界はより多くを実現できる)」にも、すごく共感できたことが大きかったですね。
ー 日本では1人目のカスタマーサクセス担当とのことですが、どういった組織体制になっているんですか?
Notion全体でカスタマーサクセスチームがあり、その中で日本、アメリカ、ヨーロッパと大きく3つの地域にそれぞれカスタマーサクセスマネージャーが数名ずついます。
日本にはいま私1人だけなので、CSプロセスや組織の構築、カスタマーサクセス業務もオンボーディングからサポートコンテンツ、コミュニティサポートまで幅広く担当しています。
ー カスタマーサクセスを1人でやられているとは驚きでした...!ユーザーが増えているなかで、業務範囲も幅広くて大変じゃないですか?
そうですね、チャレンジできることがたくさんあって、大変というよりもむしろとても楽しく感じています。CSの組織が構築されていくと、オンボーディング担当、CSM、更新担当...と担当領域が細分化されていくことが多いです。NotionではゼロからCSのプロセスや組織の構築にも携われるので、大きなチャレンジでもありますが、とてもやりがいを感じています。
ただ、現状は日本のカスタマーサクセス担当は私1人なので、直接お客様にタッチできる数は限られます。いまはエンタープライズ向けプランをご利用いただいているお客様を中心に日々サポートさせていただいています。
ありがたいことにお客様の企業の中には「Notionが好き!社内に広めたい!」とアンバサダーのような存在の方が多くて。その方々のチカラになれるように、日々サポートさせていただいています。
個人利用のお客様や、少人数で利用しているお客様に関しても、ご自身でNotionを活用していただけるようなサポートコンテンツももっと充実させていければと考えています。
ー 濵岡さんは、もともとは営業からキャリアをスタートされていたとのことですが、当時はどんなお仕事をされていたんですか?
新卒では、セールスプロモーションの代理店に企画営業職として入社しました。主に販促物やプロモーションイベントの企画・提案をしていて、よく飲料食品に付いてくるノベルティを企画していました。
当時の仕事はやりがいがあって楽しく働いていたのですが、納品した先に実際にどんなインパクトがあったのか見てみたい、お客様の課題解決やビジネスゴールに向けて一緒に伴走したい、という気持ちがだんだん強くなっていきました。
その後、ECに特化したネット広告代理店にメディアプランナーとして入社しました。お客様から広告費をお預かりし、製品の特製や売上目標を把握しながら、それが達成できるよう広告プランニングをしていくお仕事です。実際のお客様のROASに貢献できたかまで伴走するのでとてもやりがいを感じられる環境でした。
ー 営業、メディアプランナーとキャリアを重ねられていて、次に「カスタマーサクセス」を選ばれたのはどうしてだったんですか?
もともと大学時代に留学していたこともあり、いつかグローバルな環境で働いてみたいという気持ちがどこかにあって。漠然と今後のキャリアについて考えていたとき、ちょうど外資系SaaSの会社からカスタマーサクセスのポジションでオファーをいただいたんです。
当時はまだ「カスタマーサクセス」という職種を知らなくて。調べていくなかで、「顧客のビジネス課題の解決や、ゴールの達成のために伴走する役割」だと知り、チャレンジしてみたいなと思ったんです。
ーここからはカスタマーサクセスになられてみて、チャレンジングだったことを伺っていきたいと思います。いままでとは役割も進め方も大きく変わったと思うのですが、実際にどうでしたか?
営業やメディアプランナーと大きく違ったのは、自分が手を動かすのではなく、お客様に手を動かしていただき、プロダクトを活用したくなってもらうことでした。SaaSプロダクトは、導入しただけで成果の出るものではありません。お客様が上手く活用できて、はじめて成果の出るものです。
お客様に一緒に動いていただくためには、どんなサポートがあるといいのか、どう伝えるといいのか。まったくの未知の挑戦だったので、最初は苦戦した記憶があります。
ー 最初はなかなかお客様に動いてもらえなかったんですね。
そうですね...。お客様とマイルストーンを立てて、スケジュールを引いて、定期的にフォローアップをして...CSとして自分がやるべき目の前のことだけで、最初は頭がいっぱいになっていました。
ある時、お客様と打ち合わせしているときに、サラッとこう言われたんです。「濵岡さん、私たちの事業についてどこまで知っていますか?」って。最初はなんでそんなことを聞かれたんだろう?と呆然としてしまったのですが、後から冷静になってみたとき、私はお客様のことを「分かったつもり」になっていただけだったんだ、とハッとしました。
私の知っているお客様の情報はインターネットの情報がほとんど。お客様の口から、事業の現状や戦略、プランニングについて深堀りして話を伺えてなかったのです。ただの“進行係”になっていました。
ーそんな経験から日々意識していることはどんなことでしょう?
初歩的なところかもしれませんが、「お客様に聞く」ことですね。そもそも当時の自分には、「聞く=分かっていない」というイメージが強くあって。カスタマーサクセスとしてお客様に信頼してもらうためには、なんでも知ってないといけない。分からないことがあっても聞けない!と思い込んでしまってたんです。だから、お客様の事業のこともインターネットを中心に調べていて。お客様の前で、知ったかぶりをしてしまっていたんだと思います。
ちょうど同じくらいの時期に、上司から「質問することを恐れちゃいけない。楽しちゃだめだよ」とフィードバックをもらい、自分は質問をしないことで楽な道に逃げてしまってたんだなと思ったんです。自分の中でストンと腑に落ちた瞬間でした。
最初は質問するにも勇気がいりましたが、実際に聞いてみると想像以上にお客様が快く答えてくれて衝撃でした。聞くことで初めて知ることもたくさんあって、聞くことを恐れていた自分を恥じました。他のカスタマーサクセスの打ち合わせに同席させてもらって見て学んだり、コーチングを勉強してみたりして、自分だと何がうまくいくのか学んだインプットを試していきました。
あともうひとつ、「お客様と自分の見え方が違う」(視点を合わせる)という前提を意識しています。当たり前のことではあるのですが、プロダクトに対する知識はカスタマーサクセスが持っていますし、お客様の事業に関してはお客様が一番理解しています。
私の場合、最初はその「差」を認識できていないまま、「こう進めていきましょう」「次のマイルストーンはこれで」と自分の視点からお客様とコミュニケーションを取ってしまっていました。お客様からしたら、なぜこの進め方なのか納得ができていない。その先にどんな効果やメリットがあるのか掴めない。その「差」を正しく理解した上で、ゴールに向けてお客様と視点を合わせていくことが重要と感じています。
ー そのほか、濵岡さんがカスタマーサクセスの業務を遂行するなかで、「この経験が自分を大きく成長させてくれた」という転機になった経験はなにかありますか?
「課題の本質を見極める」ことは、日々カスタマーサクセスとして重視していることのひとつなのですが、そのことを学んだきっかけとなった出来事があります。
CSMになりたての頃、あるお客様から「解約したいが、自動更新されてしまったので返金してほしい」とご連絡をいただいて、対応したことがありました。当時、規約としては返金不可だったので、シンプルな答えでいえば「返金できません」で終わってしまいます。でも、お客様はきっと納得いかないだろうなと思って、社内で交渉して返金できるようにしたんですね。
お客様とお打ち合わせの時間を設けて、「返金できるように対応しました」とご報告したのですが、お客様の表情は全然スッキリしてなくて...。詳しくお話を伺っていくと、「プロダクトを使って課題を解決したい、成功したい。」という思いがありました。「返金してほしい」というお客様のリクエストを言葉のまま受け取り、思考停止していた自分にハッと気づかされました。
ー なるほど...「プロダクトを使って成功したい」がお客様の本望だったんですね。
当たり前のことですよね、そのためにCSがいるのに私はお客様の要望の裏側にある本質を捉えないまま、言われた通りの対応を進めてしまっていました。改めてお客様の課題をヒアリングし、プロダクトを使って成果につなげるためのサポートを組み立てていったことで、結果お客様が解約も返金もせずにそのまま使いつづけていただけるようになりました。
お客様の「こうしたい」という要望だったり、「こうできませんか?」と質問をいただいたときに、「できる/できません」で答えるのは簡単です。でも、その要望や質問の背景には、必ずお客様が抱えているビジネス上の課題やワークフローがあります。お客様の抱えている本質的な課題を捉える。この経験を通じて、いまでもカスタマーサクセスをする上で常に大切にしているところです。
ー ここまでお話を伺っていて、「お客様を知ること、理解すること」の大切さがひしひしと伝わってきました。
「お客様を理解する」って、言葉にするとシンプルに聞こえますよね。
でも、お客様に「課題はなんですか?」と聞いて「これが課題です」と答えてもらったこと以外にも、お客様が気づいていないこと、言語化できていないことも含めて探究し、常に「本質的な課題を捉えて、ゴールへの最短距離でサポートできているか」を自分に問いつづけることが重要なのではないかと思うんです。
いま事業がどういう状況なのか。その人が社内でどんな立場に置かれているのか。プロダクトを導入して「成功」をどう定義するのか。ひとつとして決まった解はなく、お客様それぞれによって正解は変わるものです。
社内のプロダクトチームとやり取りをするときも、お客様の代弁者として意見を伝えることとを大切にしています。社内の誰よりも、最後までお客様の視点に立つ人である。その自覚をCSとして持って、社内のチームとコミュニケーションを取るようにしています。
ー最後に、これからカスタマーサクセスをやってみたい方に向けてメッセージをいただけると嬉しいです。
お客様のビジネスとか組織に変化やビジネスインパクトが出たときは、この仕事に関わっていて一番やりがいを感じるところです。また、お客様の声を聞く役割でもあるので、お客様とプロダクトチームをつなぐ重要な存在でもあります。プロダクトチームに「日本独自の課題はこういうところがある」「こういうところに価値を感じてもらえる」というのを共有しながら、プロダクト開発に携わることができています。
私自身、もともとのキャリアは営業やメディアプランナーという職種でしたが、過去の職種はそこまで関係ないと思っていて、むしろ強みになることも多いです。カスタマーサクセスって職種でもありますが、考え方だと思うのです。お客様にとってベストなものはなにか。そこにどれだけ寄り添って考えられるか。決まった業務や正解のない仕事だからこそ、お客様のサクセスに情熱を持てる方であれば、どの職種からでもチャレンジできるのではと思います。
(終わり)
取材 / 文 = 野村愛
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