2017.07.27
GitHub フリオ・アバロス氏が語る、キャリアの掛け算。元弁護士がビジネスソリューションを担う理由

GitHub フリオ・アバロス氏が語る、キャリアの掛け算。元弁護士がビジネスソリューションを担う理由

GitHubのCBOであるフリオ・アバロス氏は、かつてFacebookの顧問弁護士を務めた法律家だ。彼は現在「法律」という枠を越え、ビジネス全般における問題解決を仕事にしている。アバロス氏の生き方は、伝統や慣例にとらわれず、新しいチャレンジを楽しむ者に、キャリアの限界はないことを教えてくれた。

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▼前編はコチラ
GitHubを牽引するCBO フリオ・アバロス。元Facebookの顧問弁護士が選んだ道

専門領域にとらわれず、社員の一員として課題に取り組む

― 現在、GitHubではCBOという役職につかれていますが、一体どのような役割を担っているのですか?


基本的にはCEOのクリスと協力しながら仕事を進めています。CEOが社内の管理体制やオペレーションを重点的に考えるのに対し、CBOは主に、ビジネスの戦略や会社の将来について考える比重が高いです。具体的には、法務、人事、採用、PR、社内コミュニケーション、マーケティングなど、さまざまな領域を担当しています。


― 法律の専門家として声がかかったのに、かなり多岐にわたった仕事ですね。


ちょうど私が入社したころ、GitHubはビジネスの過渡期を迎えていました。もともと個人の開発者向けだったサービスが多くの事業者に活用されるようになり、事業はもちろん組織自体も徐々に大きくスケールしている最中。業務の領域を問わず、さまざま側面で変革が必要でした。そのなかで私は、法律に関するアドバイスからはじまり、徐々にその枠組を越えて問題解決を行う役割になっていったのです。


― 法律というご自身の専門分野を越えることに、困難や問題はなかったのでしょうか?


特になかったと考えています。問題が法的なものであろうとなかろうとGitHubが抱えている問題であるということに変わりはありませんから。

法律に関わるリスクを回避して、問題が起こったら対処するというのが一般的な弁護士の仕事です。ただ、私のアプローチはそれをは少し違います。自分は法律家である前に、GitHubの社員なのだという意識を持っていたのです。だから、専門分野以外の領域についてもしっかり理解しようと努めていました。社内の法務のポリシーを作るときも、エンジニアやデザイナーなど、周囲の社員から意見を募りました。

私は自分のことを法律の専門家ではなく、ほかの人より問題解決のスキルが優れているのだと認識しています。だから領域の枠を越えビジネスアドバイザーのような立場にもなれたのだと思います。


― そういった一般的ではないアプローチは顧問弁護士時代からされていた?


そうですね。ただ、GitHubに入社してから、より明確になったと思います。

ひとつ事例を紹介しましょう。企業の顧問弁護士をしていたとき、秘密保持契約書を用意して来社した人すべてにサインしてもらうよう指示していました。すると一般的な企業は「弁護士が危険性を指摘しているから」という理由ですぐに書類を用意するのです。

しかしGitHubはまったく違っていました。ただ「危険性がある」というだけで、わざわざ書類を作る必要性があるとは判断できないと。形式的な仕事では通用しなかったわけです。

そこで私は、約1週間かけて、秘密保持契約書がなぜ必要なのか、ビジネスにとってどれだけ重要な意味を持つのかをGitHubの社員に説明してまわりました。すると、社員にとっての秘密保持契約書は、弁護士や法務部が要求する”無駄な書類”から、”自分たちの会社にとって必要なものだ”という認識に変わったのです。

そこからが面白いのですが、エンジニアからアプリを作ったら楽なのではないかという意見が出てきたり、デザイナーからより見やすくわかりやすい書式の提案があったりと、法務について当事者意識を持って考えてくれるようになりました。

これは私自身が弁護士という肩書や形式的な仕事のやり方にとらわれていたら実現し得なかったことです。GitHubの一員として問題解決に取り組んだからこそ得られた価値だと考えています。

少しの独創性があれば、法律家が活躍する場は広がっていく

アバロス氏


― アメリカでは、アバロスさんのように弁護士がIT企業のCBOとして働くというのは一般的なキャリアなのですか?


CBOという職種自体、アメリカでもメジャーなものではありません。法律家が顧問弁護士としてではなく、IT企業に社員として入社することも滅多にないのではないでしょうか。

そもそも、IT企業のなかには顧問弁護士の必要性にすら懐疑的なところもあります。弁護士に支払う料金は高すぎる、無駄だと感じている人も多いです。そのギャップを埋めたいとは思いながらも、あまりうまくいっていないのが現状です。


― そういった状況のなかで、弁護士がIT企業に興味をもったりIT企業が弁護士に価値を感じるようになったり。よりよい関係を築くために、どんなことが必要だと思いますか?


私を含め多くの弁護士は、決して億万長者になりたいから弁護士になったわけではありません。根本にある動機は、問題解決のスキルを使って社会貢献をしたいという思いだったはず。

先ほど述べた料金が高すぎるという問題も、ただ伝統や慣例に従ってしまっているから生まれているのだと思います。何世代にもわたって受け継がれてきた伝統も、常に正しいとは限りません。私がいま、IT企業のCBOとして会社に貢献できているのは、直面した問題に対して、前例にとらわれることなく解決策を提示してきたからです。次々に新しいテクノロジーが生み出される現代においては、弁護士などのトラディショナルな人たちが伝統を疑い、独創的な視点を持つことが重要なのではないでしょうか。それが自身のキャリアにとってもプラスにつながると思います。


弁護士をはじめとする専門性の高い職種は、それゆえ内向きに閉じてしまいがち。しかし、次々と新しいテクノロジーが生み出され、刻一刻と状況が変化していく現代においては、むしろ専門性を強みにして外の世界に挑戦していくべきなのではないだろうか。

アバロス氏のように、自分自身を「法律の専門家」という閉じた存在にせず、ほかの人より優れた問題解決のスキルを持っているのだと捉えることができれば、キャリアの可能性は限りなく広がっていくはずだ。

(おわり)


文 = 近藤世菜
編集 = 大塚康平


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