2018.09.19
DeNA全社で取り組む「デザイン経営」戦略

DeNA全社で取り組む「デザイン経営」戦略

世界から注目されているプロダクトのように新しい価値や顧客体験を生み出すこと。その鍵は「デザイン思考」や「UXデザイン」を組織に浸透させるところにあるのかもしれない。創業20周年を目前にし、経営戦略における重要指針として「ものづくり」強化を掲げる、DeNAを取材した。

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【連載】「デザイン経営」の実践
2018年5月に特許庁より発表された『「デザイン経営」宣言』。そこには「デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである。(中略)その価値や意志を徹底させ、それが⼀貫したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が⽣まれる。さらに、デザインは、イノベーションを実現する⼒になる。」と記載されている。実際の現場で、どのように進めていけばいいのか。そのヒントを探るべく、デザインの視点や思考を経営に取り入れ、実践している企業に学ぶ、シリーズ連載企画です。

目次
・DeNAの未来はデザインにある
・シリコンバレーや中国の企業と戦うために「ものづくり」強化が必須
・「UX」に特化した人材を配置する
・「UXデザイン」の重要性は、トップダウンでは落とせないーープロダクトマネージャーをハブに
・「経営」と「デザイン」の言語を翻訳する

DeNAの未来はデザインにある

「DeNAの未来はデザインにある」

2015年、現会長の南場智子氏がこう語った。

そこからデザインに関わる人員は増え、ゲーム事業のみならず、ヘルスケアやオートモーティブ、スポーツといった事業においてもその力を発揮し続けている。

必要なのは見た目の美しさだけではない。顧客視点に立って、深く考え抜く思考を含めた「デザインの力」。

世界で評価され、世界中の顧客を笑顔に出来るような“新しい価値と顧客体験”を持ったプロダクトを生み出していきたい。

そのために、南場氏を含めた経営陣や現場が一丸となって注力している取り組みの1つに、ビジネスサイド、テクノロジーサイド、そしてデザインサイドが三位一体となった「ものづくり」強化がある。

具体的には、UIデザイナーとは別に専任のUXデザイナーをプロジェクトにアサインし、顧客体験の見直しや可視化を徹底する。さらには、他の事業本部と並んで、新たにデザイン本部を設立。デザイナー出身でプロダクトマネージャーでもある増田真也さんが本部長となり、執行役員にも就任した。

組織を上げて「ものづくり」強化に注力するーーその実践について増田さんに話を伺った。

DeNA デザイン本部長 執行役員 / 増田真也 【DeNA デザイン本部長 執行役員 / 増田真也】多摩美術大学 環境デザイン学科 卒 2008年デザイナーとして中途入社。mobageのマネージャー、スマホ版mobageなどの立ち上げを経て、音楽ストリーミング配信サービスや地域SNSなど新規事業のプロダクトマネージャーを経験。大手ゲーム会社とのプラットフォーム開発におけるプロダクトマネージャー、デザイン戦略室の副室長を兼務後、2018年4月からデザイン本部本部長に就任。

シリコンバレーや中国の企業と戦うために「ものづくり」強化が必須

会長の南場が常にいっているのは、規模が大きくなっても常にチャレンジの姿勢を忘れないということ、ゲーム事業にとどまらず大きなデライト(*)とインパクトをもたらしていくということ。

(*)...  デライトはDeNAが掲げるミッション。サービスを通じて世界中の人を喜ばせたい、驚きを持って楽しませたいという意味。

新たに始めたオートモーティブやヘルスケアなどの事業でも世界を見据えてチャレンジしていく。この思いは、経営陣の全員が持っています。

世界に目を向けるとけてみると、『Uber』や『Airbnb』などのシリコンバレーの企業や、『中国平安保険』や『盒馬鮮生(Hema:フーマ)』といった中国の企業が市場を牽引している。多くのお客さまを獲得し、高い評価を得ています。

彼らがこれまでにない顧客体験を生み出せたのは、お客様が感じている課題や本当に求めているものに目を向け、ものづくり出来ているから。

そして、あたりまえにデザイン組織があり、デザイン責任者がいる。なにより事業戦略やプロダクト設計の上流から、「UXデザイン」を取り入れながらものづくりを行っているといいます。

DeNAでも一定プロダクト開発の現場においては行うことができていましたが、全社で漏れなく徹底できているかというとそうではない。どのくらいのパワーをかけて取り組むかという水準は、主体性を大切にする社風なこともありサービスやメンバー個人に委ねられていました。

「UXデザイン」を活かしたものづくりをさらに強化し、デザインを経営の1つの重要なピースとして捉えていく。着実に組織に浸透させていく。そのために体制も含めどう進めていくべきか経営メンバーと去年から議論を重ね、デザイン本部を他の本部と対等に独立して立ち上げるに至りました。

「UX」に特化した人材を配置する

DeNA デザイン本部長 執行役員 / 増田真也

本部を立ち上げ、組織全体でUXを強化していくためにまず取り組んだのは、人員の再配置です。プロジェクトメンバー全員に「UXデザイン」の重要性を意識させるため、UXデザイナーを専任でアサインし現状の課題感や役割などを説明していきました。

人員配置は本人のWill(意思)やCan(スキル)ももちろん考慮しますが、基本的にはUIやグラフィックなどインタフェースデザイナーと、UXデザイナーとを明確に分けていく。役割を明確にすることで、それぞれに集中して責任を持って推進してもらえるようにしています。

ただ、「UXデザイン」はアカデミックな要素も多く含んでおり、突き詰めると想像以上に専門的な知識や経験やスキルが求められます。私たちもすぐUXデザイナーをプロジェクトの数だけ配置できるかというと、そうではありませんでした。まずは注力サービスの改善に力を入れています。合わせて採用や社内教育も取り組み始めています。

UXデザイナーの主な仕事は、プロダクトマネージャー達と協力しインタビューや観察を通してサービスのコアバリューを突き止める。それを元に顧客体験のストーリー化や可視化などにより、チームにとっても目指す価値がありブレることのない北極星を作り上げることです。特に重視しているのは「インサイトを深ぼる」という部分。

ターゲットとなりうるお客さまはどこに存在しているのか、その方が潜在的に感じている課題と徹底的に向き合い、何が原因で何が起こっているのか・起こっていないのかを探り当てる。これらは展開する市場やビジネスモデルを左右し「ビジネスの上段」とも言われています。

具体的な取り組みは次のとおりです。

・インタビューや観察手法の模索
・インサイトを引き出す効果的な質問の確立
・インサイトからの顧客体験の設計/可視化
・設計した顧客体験を定量的に測定して分析する手法の研究(UX Analytics)
・それらにかかる予算の確保や人員体制の構築

一部ではありますが、これらをトライアルアンドエラーしながら進めていて、これからは組織として一般化できるようナレッジを積み上げていく予定です。

「UXデザイン」の重要性は、トップダウンで落とせないーープロダクトマネージャーをハブに

「UXデザイン」の重要性をトップダウンで叫ぶだけでは現場への浸透は難しいですよね。人数や、作っているプロダクトが少ない会社では、経営陣の一声で物事が進むこともありますが、これがうまくいくのは「社長=プロダクトマネージャー」に近い構図になっているから。

DeNAのような人数も運営サービスも多い会社で自走して実践できるようになるためには、あらゆるステークホルダーと向き合いハブとなるプロダクトマネージャーの存在が不可欠。彼らにその重要性を理解してもらうことが大事になってくる。

UXデザイナーのアサインもそうですが、現場の人員配置やプロダクトをどうしていくかを決めているのはプロダクトマネージャーです。彼らは、営業・マーケティング・アナリスト・CS・QA・エンジニア・デザイナーなどの意見を統合的に判断して、事業目標と顧客体験のバランスをとっていく仕事ですよね。会社によってはディレクターやプロデューサーがそれを担うこともあるでしょう。

そういったハブのような存在を合わせて育てていくことにも力をいれる。究極的にはUXデザイナーもプロダクトマネージャーも職種に関係なくチーム全体でUXを考え抜き、判断できるようにしていきたい。プロダクトマネージャーの育成や強化はそのための一歩にすぎません。

「経営」と「デザイン」の言語を翻訳する

DeNA デザイン本部長 執行役員 / 増田真也

デザイン本部の立ち上げや、デザインの強化戦略は私が中心となって経営陣やデザイン本部のメンバーも巻き込みながら進めていきました。

私はデザイナーからプロダクトマネージャーというバックグラウンド。ですが開発サイドの知見のみで、「デザイン」の強化をただ叫んでも、全社として一丸となって取り組む大きなうねりには至らなかったと思っています。

会社が抱える課題は、経営という視点から見れば、デザイナーや開発チームから見た時に見える課題と必ずしも同じとは限りません。取り組むべき優先度もあります。私自身、DeNAの次世代リーダー育成プログラム(*)を通じて「経営」を学んだことで、デザインと経営両方の側面から物事を考え意思決定できるようになっていったと感じています。

(*)... DeNAが用意する次世代リーダーを育成するための社内プログラム。経営陣と共に、1年間かけて経営課題のエグゼキューションなどを通して、経営視点での意思決定やリーダーシップを実践し身につけていく。

経営の言語をデザイナーの言語に、デザイナーの言語を経営言語に、それぞれを置き換えて翻訳しデザイナーや経営陣に伝える。デザインの強化はあくまでもイノベーティブな事業の創造のためであるとしっかり説明していく。デザインと経営のバランスを取るにはそういう翻訳家のような存在が必要で、いままでもこれからもそれが自分の大きな役割の1つだと思っています。

DeNAはこれまでの10年、ゲーム事業を中心に業績を伸ばしてきました。今後の10年はビジネスサイド、テクノロジーサイド、そしてデザインサイドが三位一体となってよりイノベーションを加速させていく。今後のDeNAにぜひご注目いただければと思います。


文 = まっさん


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