2019.05.31
東大出身エンジニアの挫折。ベンチャー CTOに駆け上がるまで

東大出身エンジニアの挫折。ベンチャー CTOに駆け上がるまで

挫折知らずだった、東大出身エンジニアがはじめてぶつかった壁とはーー。テレビCMもスタートした『バンドルカード』で知られるFinTechベンチャー『カンム』。そのCTOに29歳で駆け上がった伊藤友気さんが歩んできた道のりに迫った。

「自分は本物じゃない」と悩み続けた。カンムCTO 伊藤友気

東京大学工学部に在籍し、大学2年生でプログラミングを始め、すぐに頭角を現した伊藤友気さん。在学中より、フリーランスのソフトウェアエンジニアとして活躍してきた。

「どう活動すれば業界に認めてもらえるのか。ひたすらオープンソースの改善に取り組んで、エンジニアのコミュニティに顔を出していました。…ただ、たまたま要領良く自己プロデュースできただけ。評価が上がれば上がるほど、自分の実際のレベルとの差を感じていました。外で活動する僕よりもずっと優秀な同級生が大学でプログラミングなどの技術をさらに高めている。彼らのほうがずっとレベルが高い。“本当に評価されるべきは自分じゃない”と思っていました」

当時を振り返り「コンプレックスの塊だった」と語る。

「技術を突き詰める彼らこそが『本物』。仮にいま自分が評価されていても、彼らが世に出たら、いつか自分が『偽物』と露呈するのではないか。ずっと心のどこかで意識していました」

大学院には「本物」たちがいた。彼らに追いつこうと努力をした伊藤さん。しかし、その「壁」は想像以上のものだった。

「彼らは『プログラムを書く』みたいなところでは飽き足らず、コンピューターを一から設計するようなことを当然のようにこなしていた。とんでもないレベルのことをやっているわけです。しかも、レベルの高さに本人たちは気づいていない。それまで自分が技術者であると自認していたし、彼らと同じ土俵の上で戦えると思っていました。でも僕は、土俵にすら上がれていなかったんです」

あらためて「現実を知った」と当時を振り返る。

「彼らと戦うことはもう無理だ、と打ちのめされました。絶対に勝てない。まわりの実力を知った気になって、勝手に本物だとか、偽物だとか優劣を決めようとしていたことさえおこがましいし、恥ずかしい。悔しいとさえ思えない。人生で初めての挫折といってもいいですね」

この時、伊藤さんは「エンジニアである以上、技術を極めていかねばならない」と自分にかけていた呪いに気づいたという。

「打ち砕かれて、これからどう生きたいのかを真剣に考えるようになりました。研究室の仲間たちと出会うまでは、最先端の技術を追うことが正義であり、優れた技術を手にしていることがエンジニアとして『勝ち』だと思っていた。自信がなかったからこそ、技術を追い求めることに躍起になっていたんでしょうね。追いつけない自分を受け入れ、本物になれないなら、なれないなりに、どうするか。自分がつくりあげたしがらみから解放されていく感覚がありました」

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自分の実力を知ったとき、初めて「チーム」に目を向けた

コンプレックスとの闘いの幕引きは、初めて「チーム」に目を向けた瞬間でもあった。

「僕は一人で圧倒的な価値を生み出せる人材じゃない。一人のエンジニアとして認められることを目的するのはやめよう、と考えるようになりました。エンジニアとして世の中に何を提供できるのか。技術的にしょぼいと言われようが、どうでもいい。個人の技術を極めるより、チーム全員でどう強くなって、どんな価値を生み出していくのかを考える。すっごく普通のことですが、一人では何もできない現実を受け入れたから、チームが必要だって気づけたんですよね。当時働いていた会社の他の職種の人たちに初めて興味を持つようになったんです。正直、それまでは自分のスキルのことだけを考えていたので、チームのことなんて全く興味がなかった」

伊藤さんは2年通った大学院を中退。データマネジメント事業を展開する会社に居場所を移した。

「実力を知った後のほうが、素直に努力できるようになったかもしれません。できるようになるためには、勉強するだけ。できない自分を正直に認めることが一番重要なんだなってようやく気づきました。たとえば、本をたくさん読むようになった気がします。新しいことをやろうとしたら、わからないことしかない。採用もチームづくりも売り上げがどうだとかも。できないんだから、勉強するしかない。Twitterでフォローしている方がおすすめしている本は、すぐに買って読む。先人の試行錯誤を知った上で何をやるのか、知識を持っていることは重要なのだと思っています」

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全てはチームのために。CTOとして、最前線でコードを書く努力を

そして2018年7月、『バンドルカード』などを手がけるカンムに転職。半年後に、最高技術責任者であるCTOに就任した。そしてまた、彼はあらためて事業において「技術」を追求する覚悟を決めるーー。

「僕の理想は、社内のエンジニアからもそうでない職種の人からも一番信頼される技術者であること。技術でもチームづくりにおいても、この人がいれば大丈夫だって思われる存在でありたいです。そのためにも技術を高める努力は続けていく。人を採用するポジションに就いた以上、最先端の技術に追いつけないなんてことは絶対ないようにしたい。だって『技術は諦めた』と言う人がCTOを務めている会社で、エンジニアが働きたいと思うわけがないんですよね。僕が最も価値を発揮できるのは最先端の技術ではないけれど、だからこそ最前線でコードを書くための努力を続けていきます」

挫折を経験する前の伊藤さんに聞いたら、きっと全く違う答えが返ってきたのではないだろうか。今の伊藤さんは、肩書きどころか職種にもこだわっていない。

「もはやエンジニアじゃなくてもいい。ソフトウェアエンジニア以外の職種をやれって言われたとしても、僕は喜んで引き受けます。だって自分の技術を高めることじゃなくて、カンムのチームで世の中に何を届けられるのかが、今の僕にとって一番重要ですから」

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【プロフィール】伊藤友気(いとう ゆうき)|株式会社カンム CTO
1989年愛知県生まれ。東京大学工学部に在籍中にプログラミングを始め、大学在学中からフリーランスのソフトウェアエンジニアとして技術を磨く。2015年に東京大学大学院情報理工学系研究科へ進学。2年間在籍したのちに中退し、データマネジメント事業で知られるTreasure Data inc.に入社。2018年7月に株式会社カンムに転職し、2019年3月にCTOに着任。

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文 = 菊池百合子
編集 = 大塚康平


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