2019.06.11
A.T.カーニー出身の25歳、最速昇進の元コンサルが選んだ「無駄なコスト」との戦い

A.T.カーニー出身の25歳、最速昇進の元コンサルが選んだ「無駄なコスト」との戦い

あらゆる企業のコスト削減の救世主となるか。経費のコスト管理サービス『Leaner(リーナー)』がBtoB SaaSとして注目される。仕掛けるのは、A.T.カーニー出身の25歳、大平裕介さん。「企業の“ムダ”と戦う」彼の熱い思いに迫った。

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『Leaner』は、誰もが経費の「適正」を知れるサービス

Leaner(リーナー)

あらゆる経費を見える化し、コスト管理を一元化できるクラウドサービスだ。

一聴すると「既存の業務システムで事足りるのでは?」と思うかもしれない。

「『Leaner』は、「どの費用」が「どのくらい」コスト削減可能か分析し、「どのように実施すべきか」を可視化してくれるもの。既存の財務・購買データをアップロードするだけで、AIが同業他社や業界水準との比較し、削減余地を算出してくれます。私たちが調べた範囲でこういったクラウドサービスは国内初だと思います」

こう語ってくれたのが、大平裕介さん。『Leaner』を仕掛けるLeaner TechnologiesのCEOだ。

もともとA.T.カーニー出身のコンサルタントだった大平さん。日本オフィス史上最速で昇進した経歴を持つ逸材だ。その強みもプロダクトへと反映される。

「改善プランはコンサルタントチームが作成し、顧客ごとにテクノロジーでマッチングする。パッケージをミニマム月額10万円で提供しており、ざっと算出しても既存コンサルの約1/10の価格です」

ヘタをすればコンサルティング会社の売上にとってマイナスにも受け取られかねないプロダクト。そんな『Leaner』誕生の裏側には、彼が「コスト削減」に対して抱いたコンサルティングの限界、そして「あらゆる企業の“ムダ”と戦う」という使命感にも似た決意があった。

【プロフィール】大平裕介(おおひらゆうすけ)
1993年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、外資系コンサルファームA.T.カーニーに入社。3年間大手企業向けのコスト改革などに従事し、史上最年少での昇格を果たす。2019年2月に株式会社Leaner Technologiesを創業。5月にはプロダクトローンチに合わせ、インキュベイトファンドから5000万円の資金調達を実施した。同社にはクラウドワークスCOO 成田氏、Vapes創業者の野口氏、OYO事業開発責任者菊川氏などが創業メンバー兼アドバイザーとして参画している。

必要なのは、コンサルじゃなくプロダクトだ

コンサルだった大平さんですが、なぜ起業して、プロダクトを作るという発想に至ったのか伺わせてください。

元コンサルの私が言うのもおかしな話かもしれませんが…経費の削減に必要なのは「プロダクト」だと思ったからです。

コンサルタントに巨額のお金を払って管理やコスト削減を依頼するのではなく、誰もが簡単に使えるプロダクトを安価で提供することに価値がある。

そう感じたのは、コンサル時代のあるジレンマがきっかけでした。

私が担当していたのは、経営者を対象としたコスト削減のサポート。私1人がコンサルに入るだけで、かかる費用は1社につき3ヶ月で4000万円~5000万円。そうなると削減ポテンシャルが1億円を超えるような大企業にしか発注いただけません。

日本の企業は99%が中小企業なのに、このまま日本のトップ層だけの課題を解決していて良いのだろうか...。

中小企業にも、当然コスト削減のニーズはあるはず。むしろ資金の少ない企業のほうが、何をするにもジリ貧な戦いを強いられている。

自社の無駄なコストが当たり前に可視化されていく。そんなプロダクトを生み出せたら、経営者はもっと攻めの事業ができるはず。そこに必要なのはマンパワーではなく、”どの企業にも使える”プロダクトだと確信したんです。

+++『Leaner』の画面デモ。既存の財務・購買データとの連携もスムーズ。AIが同業他社や業界水準との比較、削減余地を算出が特徴となっている。

「総務」は、事業にインパクトを与える存在

「世の中の課題」に目をつけ、ゼロから事業を起こす。大平さんを突き動かしたものとは?

コンサル時代の仕事は、やりがいがあって、早い段階で成果もついてきて、とても充実していたんです。このままコンサルとしてキャリアップして行く道も良いと思っていました。

ただ、もどかしさ、無力感を感じることも少なくありませんでした。現場でコスト削減を担う総務や調達の方々の声を聞いていると、それはもうあまりにも不遇な環境に置かれていたんです。

たとえば経営者に命じられて総務が一生懸命コスト削減をしても、削減できた金額が大きいほど「今まで何してたんだ」と指摘されてしまう。

備品を低価格なものに替えれば、現場から「使いづらい」と文句を言われる。

「コスト管理」は、言ってしまえば地味で光の当たらない領域。軽視され続けた結果、不遇な人が生まれていると私は思います。

また、彼らがやっている仕事のインパクトがいかに大きいかも、皆知らないですよね。

私がある施設を運営する企業にコンサルで入っていたとき。総務の方と二人三脚で、3ヶ月で2000万円ほどのコストを削減したことがありました。その企業の利益率から考えると、約3~4億円を売り上げるのと同じなんですよね。

後日、その企業の表彰式に招待されたとき。8000万円の売上をあげた営業マンが、全社のMVPみたいなものを受賞していて。

もちろん成果を上げた営業マンが評価されるのは自然なこと。私と一緒にコスト削減に励んだ総務の方自身も、何も感じていないように見えました。

血の滲むような努力をして、成果も出ている。なのに、評価されないなんておかしいじゃないですか。総務が評価されない、そういう組織風土を変えなければ、本当のコスト削減はできない。

正直、状況を変えてくれなんて誰にも頼まれていません。でも、この違和感を見過ごしたら、自分はもう誰の役にも立てない気がしたんです。

+++『Leaner』は導入して終わりのサービスではない。半期ごとにカスタマーサクセスチームとの振り返りを実施。「振り返りを通して、経営者の方に総務や調達の頑張りを感じてほしいからです」と大平さん。導入を通して経営者の意識を変え、総務が正しく評価される企業を増やしていきたいと語る。

自信はある。だから今はリスクを負う。

実際にサービスをリリースして、反響はいかがでしたか?

サービスへのニーズが非常に高いことはローンチ後すぐに実感しました。発表当日の問い合わせも多数。メイン顧客と想定していた中小企業だけでなく、大手企業の経営者からも注目いただけています。

もともと経営者も、手探り状態のまま調達やコスト削減に追われている。いくらで購入するのが適正なのか、他社がどのくらいの費用で調達しているのか。業務の煩雑さはもちろん、適正値の分かりづらさがあったのだと思います。

それらを競合他社や業界水準と比較して、自社はどうか、どのコストを抑えられそうか。これらがまるっと分かる『Leaner』に価値を感じてもらえている。

そして、この先、5年10年と中長期スパンで考え、『Leaner』を"会社経営に不可欠なツール”にすることが目標です。

「今すぐ稼ごう」と思っていては、市場にインパクトを与える変革は起こせません。

『Leaner』を通して日本中の企業の経費を見える化し、最適な調達・コスト削減を行なえる状態をつくる。変化を起こすことに前向きになれる経営者を増やす。そして、「総務が花形」と言われるような社会を実現できたら最高だと思っています。

日々の仕事がちゃんと評価されるようになって、総務の方のモチベーションが上がっていく。総務をやりたいと思う人が増える。働く人の「仕事の価値」を見える化することにつながっていくと信じています。

+++まずは「コスト管理」と「最適な改善施策のレコメンド」を軸にプロダクトを磨いていく、と大平さん。『Leaner』はサプライヤー推薦機能も備えているため、業者からもかなりの反響があるそうだ。将来的には、プロダクト内にコマース機能を組み込み間接材全体のマーケットプレイスを担う構想もあると語ってくれた。


編集 = 野村愛
取材 / 文 = 長谷川純菜


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