インターネットテレビ局AbemaTVが本開局したのは2016年4月。常に「オリジナルヒットコンテンツ」にこだわってきた彼ら。若者たちが虜(とりこ)になるオリジナルコンテンツ制作、ヒットの裏側とは?
【プロフィール】谷口 達彦
株式会社サイバーエージェント 執行役員。株式会社AbemaTV 制作局長。2006年に新卒でサイバーエージェントに入社。社長室を経て、「Ameba」の宣伝担当に就任。2011年にアメーバ事業本部マーケティング・プロモーションDiv ゼネラルマネージャーに就任。2013年に株式会社アメスタを設立し、代表取締役社長に就任。現在は株式会社AbemaTV 編成制作本部局長として、「AbemaTV」オリジナル番組制作の責任者を務める。
※2019年11月13日に開催された【Product Manager Conference 2019】よりレポート記事をお届けします。(Twitterハッシュタグ #pmconfjp)
AbemaTVのおけるコンテンツ製作は、下記のようなフェーズを経て進化してきたと谷口さんは解説してくれた。
「もともとはオリジナルコンテンツは”リニア”、つまり生放送番組の製作からスタートしました。そこから著名人を抜擢したゴールデンタイムの番組、さらに独自の『恋愛リアリティショー』、『特番』、格闘技のドリームマッチなどの『リアリティー』と進化させていきました」
そして2019年以降へ
「現在は「パッケージ化」のフェーズを迎えています。リニア視聴だけでなく、オンデマンドでも楽しめるような作品としてオリジナルドラマの制作にも力を入れています。ほかにも制作委員会での共同制作などに取り組むなど、大規模なチャレンジを行なっています。現在放送中のオリジナルドラマ『フォローされたら終わり』の制作もその一つです」
リニア:「The NIGHT」「妄想マンデー」など数多くのレギュラー生放送番組を放送。
Golden9:「恋するサイテー男総選挙」「GENERATIONSの高校TV」など著名人の抜擢。
恋愛リアリティーショー:「オオカミ君には騙されない」「今日、好きになりました。」などを放送。
特番:「72時間ホンネテレビ」「亀田興毅に勝ったら1000万円」などを放送。
リアリティー:「格闘代理戦争」「Popteenカバーガール戦争」など、Z世代を巻き込んだ番組の放送。
パッケージ化:「フォローされたら終わり」などオリジナルドラマ製作への取り組み。
AbemaTVのオリジナル番組制作の責任者を務める谷口氏は、コンテンツの製作を積み重ねる中で見えてきた「ユーザーを熱狂させるクリエイションの秘訣」を語ってくれた。
「Z世代に向けたコンテンツに重要なのは、夢、友情、金、恋愛…など、若者たちの根底にある“欲”や“時流”の中心を的確に捉え、心をつかむような企画や、思わず口にしたくなる話題として昇華させていくことだと思います」
「また、私たちはいきなり"マス”を狙うのではなく、ニッチな企画からはじめて、少しずつ規模を大きくしていくことを意識的にやっていますね。まずはZ世代がいま本質的に求めている方向性を射抜く。メガニッチコンテンツを誕生させる。それが重要なファクターになります。決して、単に過激でエロい内容、グロい方向性がウケるわけではありません」
共感=誰が何を言っているという思想に対して違和感なく、誠実に共感できること
リアリティ=作られたモノよりも、リアリティーに溢れていること
眼福=下品ではなく、夢や憧れなど美しくキレイな企画に
つづけて、より具体的な番組をもとにこう説明してくれた。
「『格闘代理戦争』は格闘家を目指す若者たちが名格闘家に弟子入りし、直接学びながら“夢”を叶えていくコンテンツになっているんですよね。また、『Popteenカバーガール戦争』は中高生の女性たちが、人気雑誌の表紙を目指して戦う物語となっていて。彼女たちの自己実現を叶えつつ、リアリティーを追求するコンテンツになっています」
このように、話題を集めるコンテンツには、「共感」「リアリティー」「眼福」という要素が散りばめられていることにより、人気を得ると分析する。
また、谷口さんは若者にヒットするコンテンツを製作するためには、潮流や現象を掴むことが前提になると語る。
「やはり若者たちのニーズを掴むことは欠かせません。先ほど紹介した『Popteenカバーガール戦争』は、そもそもAbemaTVの若い女性メンバーの何気ない意見から生まれたものでした」
「Popteenにでている若いモデルさん達は、ファンと交流しながらSNSなどで人気投票を行なったり、アイドルさながらの競争関係が作られていて面白い」
「いかに若者の潮流や現象を察知していけるか。当然ですが、アンテナを張っていないと入ってこない情報なんですよね」
そして重要になるのが、ユーザーを熱狂させるための3つのコアだ。
【1】番組ではなく、話題を企画する
「企画において常に大切にしているのが、番組ではなく、話題を企画しようということ。たとえば、オリジナルドラマ『御曹司ボーイズ』には、過去の恋愛リアリティーショーに出演してくれたキャストを出演者に抜擢しました。そうすることで「タレントへの道」があると思ってもらえる。成長ストーリーが追体験でき、話題につながりました」
「また、現在配信中の『フォローされたら終わり』は、若者の生活と密接する「SNSとネットストーキング」に焦点を当てていて。そもそも題材として、若者にしか理解できないようなニッチで共感性の高いコンテンツに仕立てています」
【2】「つくる」と「届ける」を分断させない
「もうひとつ意識しているのが、今はもう「つくると届けるを分断させない時代」ということです。正直、AbemaTVは、InstagramやTwitterのように「インスタントに共有する」が難しい側面があって。ただ、だからこそと言ってもいいのですが、番組放送前に、どれだけ話題づくりができるかが勝負。その上で重要なのがコンテンツを「つくる人」と「宣伝する人」を分断しないことを突き詰めています」
【3】「鮮度と強度のハイブリッド」
3つ目のポイントは「鮮度と強度のハイブリッド」だ。
「これはONE MEDIAの明石ガクトさんが仰っていた言葉をお借りしているのですが、「鮮度と強度のハイブリッド」は非常に重要だと考えています。たとえば、AbemaTVの中で最も人気が高い『オオカミ』シリーズ。これは恋愛リアリティーショーですが、キャストの1人に“絶対に恋愛をしない嘘つき”を忍ばせています。何を狙ったかというと、SNS上で“オオカミは誰か”と考察が生まれ、感想を思わずつぶやきたくなること。そしてその話題を中心に議論が巻き起こる。ここが“強度”ですよね。そして配信がスタートしたその瞬間からまた新しい考察や読みがシェアされ、目まぐるしく展開していく。情報の“鮮度”もこういった形で生み出されているように思います」
そして最後に谷口さんが語ってくれたのが、AbemaTVの未来について
ようやく1000万WAUを超えるようになってきましたが、まだまだこれから。国内での影響力も強めつつ、海外への進出も視野に入れています。私たちが掲げているのは「AbemaTVを世界に誇れる新メディアに」というもの。ぜひこれからも進化したオリジナルコンテンツを楽しみにしていただければと思います」
取材 / 文 = うすいよしき
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