2021.07.21
数字だけでは、ユーザーを捉えられない時代へ。UXリサーチ入門|メルペイ 草野孔希

数字だけでは、ユーザーを捉えられない時代へ。UXリサーチ入門|メルペイ 草野孔希

新刊『はじめてのUXリサーチ』著者であり、メルペイでUXリサーチャーとして働く草野孔希さんを取材。なぜUXリサーチは重要に?どんな効能がある?前後編の2本立てで、UXリサーチについて解説いただきました。

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【プロフィール】
メルペイ UXリサーチャー 草野孔希(くさの・こうき)
電気通信大学大学院修士課程修了後、通信事業会社の研究所に入社し、デザイン方法論の研究および研究知見を活用したコンサルティングに従事。同時に社会人博士として慶應義塾大学院大学システムデザイン・マネジメント研究科にて博士後期課程を修了 博士(SDM学)。2018年11月にUXリサーチャーの一人目としてメルペイに入社し、UXリサーチを活用したサービスデザインに取り組む。

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▼ 草野孔希さんが共同執筆した新刊『はじめてのUXリサーチ』はこちら!

はじめてのUXリサーチ ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために

なぜ今、「UXリサーチ」は重要に?

ー ここ最近「UXリサーチ」に関する記事や本を目にする機会が増えた気がします。なぜいま「UXリサーチ」の注目度が高まっているのでしょうか?

そうですね、まさにおっしゃる通りで、日本国内で「UXリサーチ」の重要性はより一層加速しています。

理由としては、大きく2つ。ひとつ目が、「時代変化の激しさ」です。

2021年現在、ユーザーが一生かけても使いきれないほど、たくさんのサービスが存在しています。似た機能をもつプロダクトも多い。さらには、iPhoneやAndroidなどシステムが、どんどん高性能化・複雑化しています。

こうした激しい変化にともなって、ユーザーがプロダクトを選ぶ基準も変わってきています。昔は機能が充実していて性能が高いプロダクトが喜ばれました。しかし、今は他と比べて使いやすいことや使っている時の体験の品質が高いことが重要になってきています。つまり、より一層UXが重要になってきているのです。

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もうひとつ、時代背景として「多様性の高まり」があります。

たとえば、「日本人・30代・女性」といっても、人によってライフスタイルは全く異なりますよね。自分が同世代・同性だったとしても、ほかの人のライフスタイルを想像するのは難しくなっています。

そういったところから「UXリサーチ、ちゃんとやろう」という流れがでてきているのだと思います。

多様性が高まっているなかで、数字だけを見てユーザーを捉えるのはリスクです。サービス提供者がユーザーと向き合い、「どういう人がどういう事情で使っているのか」をキャッチアップしていくことが必要です。だからこそ、UXリサーチの必要性は高まってきているのです。

「UXリサーチ」で得られる3つの効能

ー UXリサーチ、大事だと分かっていても、なかなかやる意義や効果を見出せず、一歩踏み出せないという声もよく聞きます。

そうですね。UXリサーチをしなくても、開発自体進めることはできてしまうので...。とくにPM(プロダクトマネージャー)がUXリサーチを兼務している場合、忙しくて後回しにしてしまうケースあるあるだと思います。

でも、UXリサーチで得られる効能って、じつはたくさんあるんです。

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大きく分けて、3つあります。

【1】ユーザーから学びを得て、大きな失敗を避けられる

たとえば、新しい機能のリリースを検討しているとき。アイデアの段階で、ユーザーに触ってもらえたら、「なるほど、ユーザーはこういう風に使うのか」とか「思ったよりも喜ばれなかった」とか、リアルな反応から気づきを得られますよね。

ネガティブなリアクションがあったら、その時点で改善していけば、リリースした後の大きな失敗を避けることもできます。いまだと、優れたプロトタイプツールもたくさん出てきているので、そういったものを活用すると効率的に学べます。

そもそもユーザーから学ぶことって、脳の刺激になって、新しい発想の起点にもなる。アイデアに煮詰まっていた状況から、ブレイクスルーのきっかけになることも多々あるんです。考えたアイデアを触ってもらうだけでなく、そもそもユーザーの人となりを深く理解することもおすすめします。

【2】データ解釈の解像度が上がる

今の時代、量的データはたくさんあるので、取ろうと思えばいくらでも取り扱えます。ただ、数字だけみていても、「なぜ起きたのか」はわかりにくいものですよね。

たとえば、ある施策について事業目標的には良い数値がでていても、ユーザーインタビューしてみたら「ユーザーは嫌だなと思いながら仕方なく操作していた」という結果が得られることもあります。

数字が良いから、と意思決定を続けていると、中長期的には大きな損失につながることも。質的データと上手く組み合わせることで、よりよい意志決定に導くことができます。

【3】組織づくりに役立つ

実際にユーザーの声を聞くことで、「誰のためにつくっているのか」が手ごたえをもって感じられるようになります。

プロダクトの作り手としても、「誰のためにつくっているんだっけ?」って分からなくなることありますよね。そのままの状態が続くのは、フラストレーションになります。たとえ数値的にはよくても、ユーザーは本当に幸せになってるのかな...と不安が残ってしまう。

ユーザーに会って、お話を聞く。この取り組み自体が、作り手のモチベーションにつながります。こんなユーザーが実在するんだとか、問題なく操作できていてよかったなとか。UXリサーチそのものが、大きな活力になる。組織全体としても、ユーザーの認識がすり合うことで、より建設的な議論がしやすくなります。

手法を決める前に、まず「状況理解」から。

ー ここからは、「UXリサーチ」のプロセス、進め方についても伺いたいです。

プロセスの全体像としては、このようなイメージです。UXリサーチには7つのプロセスがあると考えています。

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UXリサーチに慣れていないとよく起こりがちなのが、いきなり手法に飛びついちゃうケース。「ユーザーインタビューしよう!」とか、「ユーザビリティテストしよう!」とか。残念ながら、それだと深い洞察は得にくいものです。データを得られたものの、結果をうまく活かせないままお蔵入りすることもあります。

リサーチを無駄にしないためにも、手法を決める前の3つのステップ」を重視しています。

【1】状況理解

まず最初に、自分たちはどういう状況にいるのか、ここを把握することが大切です。

・事業はいまどういった状況なのか?
・事業に対してそのプロジェクトはどういう位置づけなのか?
・どういった課題を抱えているのか?
・使える時間、予算、人員、機材は?

このあたりは、PMやデザイナーからリサーチの相談をもらった段階で、必ずすり合わせるようにしています。

【2】問い立案

状況理解で得た情報をもとにして「問い」を立てて、関係者と合意します。問いを立てるというのは、言い換えるとそのUXリサーチの目的を明確にすることです。状況にあった問いを立てて、関係者と認識を合わせられなければ、結果の活用は難しくなります。

また、身の丈に合わせるために「明らかにしないこと」も明確にしておきましょう。ある問いに焦点を当ててUXリサーチを設計すると、その設計では明らかにしにくくなるからです。調べたいことはたくさんあるかもしれません、調べることが増えるほど時間も手間もかかるので注意しましょう。

【3】手順設計

ここにきて、はじめてUXリサーチの手法や具体的な手順について考えます。

・明らかにしたい問いに答えるためには、どんな手法が効果的か。
・データ分析するときにはどういったデータを扱うのか。
・どのくらいのスケジュールで、誰が実行するか。

このあたりを整理した上で、UXリサーチを実施していきます。

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海外で確立されている「UXリサーチャー」

ー「UXリサーチャー」という職種についても伺いたいです。まだまだポジションとしてきちんと置く企業も少ないと思うのですが、メルペイではどんな役割を担われているんですか?

そうですね、国内では「UXリサーチャー」はまだまだ少ないですが、海外ではGoogleをはじめ多くのテック企業で採用されていて、職種として確立されています。

メルペイの場合、UXリサーチャーの役割は、あらゆるリサーチ手法を使いこなし、UXに関する鋭い洞察を得ること。そして、得られた洞察を事業の意思決定にコミットすることです。

「UXリサーチャー」は、「調査して、レポート提出して、終わり!」ではありません。事業会社のなかで深く入り込んでリサーチしているからこそ、さまざまステークホルダーと連携しながら、お客さまに豊かな体験を届けるところまで一緒に考えていきます。

メルペイの「UXリサーチチーム」は、基本的にプロダクトチームのプロジェクトに横断的に入っています。他にも、マーケティングチームとCMやキャンペーンのリサーチをしたり、BizDevと一緒に新規事業のリサーチをしたり。さまざまな部署と連携しながら、動いています。

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ー 多くの企業ではPMが「UXリサーチ」を兼務する形だと思うのですが、専任の「UXリサーチャー」を組織に置くメリットって、どんなところにありますか?

多様な状況に合わせて、UXリサーチをより効率的に企画・実行できることだと思います。

もともとメルペイでは、会社設立当初からPMが毎週のペースでUXリサーチを行っていました。ただ、新規事業フェーズでPMが担当する業務は多岐にわたっていたので、UXリサーチを兼務で行うことは大きな負荷になってしまいました。

PMの負荷を減らすと同時に、今まで大事にしてきたリサーチ文化を守り、発展させる。その役割をUXリサーチャーが担えているのではないかと思います。

ー どういったバックグラウンドをもった方が、UXリサーチャーになられているんですか?

メルペイの場合、メンバーがそれぞれ違うバックグラウンドを持っています。

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私はもともと研究職出身で、デザイン手法に関する研究をしていて、研究で得た知見を生かしてデザインコンサルティングもしていました。ただ、研究者としてキャリアを重ねるにつれて、「もっと実務の中で、学術的に学んだ手法や知見を活かしたい」という気持ちがだんだん強まってきたんです。

たまたま前職の知り合いにメルペイで働いている人がいたので、ラフに今後のキャリアを相談して。それをきっかけに、メルペイの事業内容や「信用創造し、滑らかな社会を実現する」というビジョンに興味をもって入社しました。

一方、大学で文化人類学を学んだあと、HR領域でデジタルマーケティング、プロダクトマネージャーをしていたメンバーもいます。4年以上現場で経験を積んできている、実践に強いUXリサーチャーです。

メルカリでもUXリサーチチームが立ち上がっていて、PMからUXリサーチャーに転向するケースも出てきています。


草野孔希さんが共同執筆した新刊『はじめてのUXリサーチ』はこちら!

2021年8月5日発売予定。現在、予約受付中です!

はじめてのUXリサーチ ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために

>>> 後編につづく: PM1年目で知っておきたい「UXリサーチ」のはじめ方(※近日公開予定)


取材 / 文 = 野村愛


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