2021.08.02
売上9億円から200億円超へ。『Anker』躍進の立役者、猿渡歩が雑居ビルから切り拓いた先に見る景色

売上9億円から200億円超へ。『Anker』躍進の立役者、猿渡歩が雑居ビルから切り拓いた先に見る景色

“充電”のグローバル・リーディングブランド『Anker』などを展開するハードウェアメーカー「アンカー・ジャパン」の勢いが止まらない。2013年には約9億円だった売上も、2020年には約212億円へ。その立役者が、取締役COOの猿渡歩(えんどあゆむ)さんだ。彼とアンカー・ジャパンの歩みを追った。

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アンカー・ジャパン株式会社
“充電”のグローバル・リーディングブランド『Anker』などを展開するハードウェアメーカー、Ankerグループの日本法人。2013年1月創業。モバイルバッテリー、充電器などのチャージング関連製品に始まり、オーディオ製品やスマートプロジェクターなどでも次々と国内のオンライン販売シェア1位を獲得。2013年には約9億円だった売上は、2020年には約212億円へ。さらなる成長を続けている。

勝負の分かれ目は「0.9%」の差

2020年は売上200億円超だったと拝見しました。すごい成長ですね。とくにAmazon.co.jpなどオンラインでAnkerグループ製品は軒並みカテゴリ1位に。そのポジションを築けている理由とは?

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よく聞かれるのですが、特別なウルトラCがあるわけではありません。いわゆる「4P分析」を正しく行い、セオリー通りに戦う。ここに尽きると思います。

ECは非常にわかりやすく、価格を上げれば販売数は低減し、プロダクトが良くなければレビューの評価が下がり、売れなくなる。負けているところさえわかれば、そこに打ち手を打つ。プロダクトとコミュニケーションを磨き、適正な価格で提供していく。理論はそうですが、それらを高いレベルでやり抜く「人」と「組織」が、アンカー・ジャパンの強さだと思います。

私たちが中心に扱うモバイルバッテリーや充電器などは、いわばコモディティ化が進んでいるカテゴリー。純粋な機能面での差別化が難しく、価格勝負に陥りやすい。

検索順位もすぐに変化し、2位以下のプレイヤーがどんどん入れ替わる、競争が激しい領域でもあります。そういったなか、多くのAnkerグループ製品でカテゴリ1位を獲得できているのは「小さな違い」の積み重ねだと捉えています。

たとえば、レビューを細かく分析して開発や品質管理部門にフィードバックし、素早くプロダクトに反映する。購入後のフォロー、カスタマーサポートを充実させる。広告運用などテクニカルなところも含めて、分析、改善のレベルはとても高いと思います。

当然、なかなか「100%」の完璧なものは作れません。あらゆるメーカーが改善を繰り返し、そこを目指している。多くのメーカーが「99%」のものを提供できているなか、Ankerグループは「99.9%」を目指す。この「0.9%」の差が、価格競争に陥らず、購入いただけるブランドの差につながっていくのだと思っています。

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アンカー・ジャパン株式会社 取締役COO / アンカー・ストア株式会社 代表取締役CEO
猿渡歩(えんど・あゆむ)@endoayumu

Deloitteにてコンサルティング業務やIPO支援に従事後、PEファンド日本産業パートナーズにてプライベート・エクイティ投資業務に携わる。アンカー・ジャパンの事業部門創設より参画し、同部門を統括。参入したほぼ全ての製品カテゴリでオンラインシェア1位を実現し、創業8年目で売上200億円を達成。現在は取締役COO兼アンカー・ストアの代表取締役CEO。他多くのEC / D2C運営企業の顧問も務める。

27歳でファンドからスタートアップへ。PL責任を負わせてもらえる環境を求めて。

ここからは猿渡さんご自身のキャリアについて伺わせてください。前職はPEファンドで働いていたと伺いました。なぜ、そこからアンカー・ジャパンへ?

端的に言うと「自ら手を動かす経験」「ビジネスをイチからつくる経験」がしたかったからです。前職のコンサルや投資ファンドの仕事も裁量権のある仕事でした。一方で、事業会社のオペレーションなどについて、肌感が十分ではないなと思う瞬間もありました。そういった部分にも携わりつつ、かつPL責任を負えて若いうちに事業を任される、そういったポジションを求めていました。

そのなかでもアンカー・ジャパンだった理由とは?

当時27歳だったのですが、その年齢で事業を任せてもらえるところ、となると、スタートアップが選択肢に。そのなかでもAnkerが取り扱うハードウェアは興味のあるプロダクトであり、かつ自分の中でもビジネスの成長モデルを想像がしやすかった。ここは大きかったですね。

2013年当時のアンカー・ジャパンの売上は約9億円。事前にプロダクトを見て、価格、品質を見た上で素晴らしいと感じていましたし、そして優秀な経営陣が揃っていたので、市場をしっかりと分析し、必要なマーケティング施策を行えば事業は伸ばせると思っていました。そこを自分が着実に実施していけば売上100億円規模までは伸ばしていける。そういった「画」を想像することができました。

そして実際にそうなっていった、と。

当然タイミングや運もありますが、日本の事業責任者の一人目を探していた。非常にレアな機会だったと思っています。

少し突っ込んだところを聞いてしまうのですが、年収も下がったのではないですか?

ファンドでいえば売却益を得た時のボーナスが非常に大きく、単純な比較はできないですが、確かに年収は下がりました。ただ、生活できるレベルではあり、目先の年収より、得られる経験を選んだ。ただそれだけだと思います。

雑居ビルから始まった、アンカー・ジャパンでのキャリア

そこから実際に入社されたのは2014年。アンカー・ジャパンには何人目のメンバーとして参画されたのでしょうか?

私が入社した時点で当時は代表、カスタマーサポート担当、物流のアシスタントのみの体制だったので、その他のビジネス全般を私が担うことになりました。

実は入社を決めた後、初めてオフィスを見にいったのですが、想像以上の「雑居ビル」でしたね(笑)トイレも男女で1つだけ。ビルのオーナーが上の階に住んでいるビルでした。いわゆるスタートアップ感がある環境でした。ただ、オフィス環境が働く上で一番重要ではないので、大きな懸念はありませんでした。

その頃、業務としては何を?

ビジネスに関わるほとんど全ての業務をやっていました。たとえば、新商品を発表するとなれば、商品コード、型番などの商品情報の登録はもちろん、Amazonページの準備、公式Twitterでの告知、プレスリリースも自分も書いていました。

オフラインでいえば、量販店向けに商品情報をまとめた資料や、梱包材で包んだ製品サンプルをひたすら送付するなども行なっていました。その合間合間でアライアンスに向けた商談、数字の分析をし、戦略を組み立てていく。正直、ファンド時代と同じか、それ以上に忙しかった時期もありました。

余談ですが、自社サイトのメジャーアップデートも当時私とインターンで担当していました。英語のページをインターン生が翻訳し、反映していく。中国にいるウェブエンジニアとやり取りしていたのですが、彼は英語が苦手だったこともあり、最後は現地まで行って隣の席に座ってジェスチャー混じりで調整していました。

その時の経験で活きていることとは?

現場を一通り見ることができた、という部分ですね。業務をデリゲーションして、一般化していく、という経験も大きかったです。用語集やガイドラインをつくり、作業をインターン生にわたしていく。そして、自分はできるだけ戦略を考える仕事に注力していく。今でもデータ抽出など基礎的なところは全て仕組み化してインターン生でもやれるようにし、分析や打ち手の判断は社員が担っています。

+++Amazonでの製品ページ準備、量販店などリテール販路の開拓、試供品の梱包・配送、伝票作成…立ち上げ時は現場の細かい業務も含めて担っていたという猿渡さん。「工場もコロナ禍以前はよく見学に行きました。高い品質で提供している、というtoB向けの説明にしても、自分の目で見ているかどうかで説得力が違うと思っています」

業績を軸とした、合理的な採用戦略

その後、2015年頃から2019年は、どういったフェーズだったのでしょうか?

売上でいえば、2013年が約9億円、2015年は20億円ほどにできました。そこから100億円規模へと成長していったフェーズかと思います。事業として大きかったのが、販売のチャネルが増えたこと。

特にKDDIさんとのアライアンスは非常にインパクトが大きかったです。「au」が提供するモバイルバッテリーを全てAnkerとのダブルネームで提供していく、というもの。

売上はもちろん、企業としてのレピュテーションや信用力が向上し、toCにも認知が拡大しました。人員としてはセールス、カスタマーサポートはそれまでも増やしていたのですが、2017年にはPRマネージャーも採用して段々と整っていきました。2019年には初めてブランドマネージャーの採用も行ないました。

そう考えると、PRやブランドマネージャーの方が加わったのは、比較的遅いタイミングだったのでしょうか?

PRをして「いいな」と思ってもらっても、買えるところがない、在庫がない、となれば本末転倒ですよね。プロジェクト自体のROIが悪くなってしまう。

それ故に、まずは販路をしっかり作る。そしてオンラインであれば分析の精度を上げ、オフラインならば店舗の売上増のためにやれることをやる。いかに業績を伸ばせるか。合理的に考えて進めてきたところだと思います。

ブランドマーケティングに関しては、2018年頃から重要性が高まった部分です。本格的にロボット掃除機をはじめとした高価格帯の商品を積極展開するようになり、多ブランドでの事業展開をスタートしたタイミングでした。

たとえば、数千円のモバイルバッテリー、充電器であれば、価格帯としても比較的Amazonで買いやすい。ただ、数万円の製品を買うとなるとブランドへの信頼を高めたほうがいい。こういった背景があり、2019年よりブランドマネージャー職の採用をスタートしました。

+++ 世界で見たときにも、製品への安全性はもちろん、梱包、カスタマーサポートなどに高い品質が求められるのが日本市場だと解説してくれた猿渡さん。「アンカー・ジャパンが他の外資と違うのは、非常に裁量権があり、本社が信頼してくれているということ。KDDIさんとコラボさせていただいた際は、いわゆる高い法定基準をクリアするために品質改善を含めて本社と交渉し、実現に至りました。この取り組みは結果的にAnkerグループ全体の品質向上にもつながっていったと思います」

売上200億円を突破。取締役COOとして次なるフェーズへ。

そして2020年には売上高200億円超へと飛躍的な成長を遂げます。猿渡さんご自身も取締役COOに就任しましたが、何か変化はありましたか?

業務上の変化は大きくはなく、日本事業の全体統括という役割は引き続き同じです。ただし、実務を任せられるメンバーが育ってきているので、自分の名刺だからできることを増やしていきたいと思っています。例えば、アンカー・ジャパンは業界のなかでも先進企業という自負はあるものの、まだまだ知られていない。もっとアピールし、採用につなげたい。Ankerグループのことをより知ってもらえるひとつのチャネルになればと、Twitterも1年半ほど前から始めたところです。

Anker独自技術の「Anker GaN ll」を搭載したAnker Nano IIシリーズ。「Ankerグループが掲げているのは『Empowering Smarter Lives』です。充電器がより小さく、また持ち運ぶ数が少なくなれば、生活の一部がスマートになります。かさばる荷物を減らせて、一台の充電器で幅広い機器をチャージができることが理想形。微力でも地球環境への貢献につながっていくと思っています」と猿渡さん。

「共に成長していく」が、仕事の喜び

アンカー・ジャパンでのキャリアについて伺って来たのですが、事業のさまざまなフェーズで壁もあったと思います。最後に、そこを乗り越えていけるモチベーション、猿渡さんにとっての「仕事」とは何か、教えてください。

企業にしても、人にしても、「成長」に携わるのがシンプルに好きなんですよね。どんどん成長しているアンカー・ジャパンを見ていることがすごく楽しい。そして一緒に働いているメンバーも成長し、高いレベル仕事ができるようになるのもうれしい。

もうひとつ、性格的に負けず嫌いなので、やるからには1番を目指す。売上にしても200億円に到達してうれしかったですが、その次の瞬間、もう1000億円のことしか考えていない。

当然、経営者にしても、自分が一生を頑張っても追いつけないような人たちが世界中にいます。上には上がいる。まだまだ超えていきたい壁があって、それはすごく恵まれていること。もっと上を目指し、そういった方々に少しでも近づけたらと思っています。


取材 / 文 = 白石勝也


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