2015.05.27
STANDARD inc 鈴木健一が語るUIデザインの本質|「サービスの価値」を考えることが存在意義

STANDARD inc 鈴木健一が語るUIデザインの本質|「サービスの価値」を考えることが存在意義

UIデザインに特化したプロダクションは日本だとまだ珍しい。そんな中で注目されるのが「STANDARD inc」だ。彼らが掲げる「社会における課題を解決するためのデザインの本質」とは?代表の鈴木健一さんに立ち上げの背景、デザインの本質に迫るに対する考え方を伺った。

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「デザイン」がビジネス戦略の核となる時代

革新的なUIデザインなどでも話題になった「SmartNews」だが、そのウォークスルーとコーチマーク(操作性ガイド)のデザイン等を手がけたのが「STANDARD inc(スタンダード)」だ。UIデザインに特化したプロダクションとして設立。UI専門家集団として注目を集めている。


STANDARD inc(スタンダード)_SmartNews_ウォークスルー

SmartNews
Walkthrough & Coachmark


日本でもユニクロやセブン&アイなど大企業においてデザイナーやクリエイティブディレクターが顧問・相談役を務めるケースが増加。海外では、世界大手のコンサルティングファームであるアクセンチュアがデザイン会社のFjord社を、マッキンゼーがLUNAR社を傘下に収めたことも記憶に新しい。

ビジネスにおける課題解決の武器として「デザイン」が注目を集めており、この流れは今後さらに加速していくであろう。

そのような中で「優れたUIデザインはユーザーが持つ課題の解決とビジネスゴール達成を両立し、関わった双方に対して便益を与えることができる」と考えているというスタンダード代表の鈴木健一さん。今回はUIデザインが果たす役割、デザインの本質に対する考え方を伺った。


【プロフィール】鈴木健一
イマジカデジタルスケープ、IADI、FICC inc.にてデザイン/ディレクション業務に従事した後、2014年にアプリやサービスのUIデザインを専門に行うスタンダード.を設立。マーケティングエージェンシーで培ったノウハウを基に、ユーザーの課題解決とビジネスゴール達成を両立するUIデザインを提供する。

「デザイナー」がビジネスサイドに立つ重要性

― UIデザインに特化したプロダクションって日本ではまだ珍しいですよね。スタンダードを設立されたキッカケから伺ってもよろしいでしょうか?


ユーザーに直接使ってもらえるサービスやアプリに関わりたい、こういった思いがきっかけとしてありました。前職で、JAYPEGというクリエイターが自分の作品を投稿できるソーシャルサービスのデザインを手掛けたのですが、そのサービスを通じて転職を実現したクリエイターさんがいて。こんな風に役に立つことができるんだ…という感動があったんですよね。

それまでの仕事だと、クライアントの製品やサービスを「どう見せるか?」ということをメインに考える、いわば販売促進・広告のためのデザインに関わっていて。JAYPEGではサービスそのもののデザインに関わることができたので、この経験は大きかったと思います。


― 同じ「デザイン」でも、そこには大きな違いがあるのでしょうか。


はい。いわゆる販売促進、広告的な役割を目的としたWEBのデザインだと、どういった文言で伝え、どんなビジュアルで見せるか。いかに商品・サービスに興味を持ってもらうか。そして買ってもらうか。ここを集中して考えるものだと思います。

ただ、サービスやアプリのUIデザインを考える時は、その商品・サービスが「どんな人のどんな課題を解決するのか?」ということを追求します。なので、Photoshopで直接的に手を動かす時間より、ユーザー調査やストーリー設計、ユーザーテスト等に割くウェイトのほうが大きい。

ビジュアル的にキレイで使いやすい、触って気持ちいいインターフェイスは大切ですが、それで使い続けてくれるわけではありません。UIデザインの本質を考えていくと、いかに使い続けてもらうか?というところにたどり着くのだと思います。


― よりビジネスサイドに立つべきである、と?


はい。たとえば、既に世に出ているサービスで、デザインサイドとビジネスサイドで意見が対立することってありますよね。デザインサイドとしては、ビジュアルを思い切って変える方が、インパクトのあるサービスになるはずだ、と。でも、いま使ってくれているユーザーが離れてしまうかもしれない。サービスを使わなくなったユーザーが困るかもしれない。だったら、表層的なデザインを変えるより、別の道を探したほうがいい。社会に対して提供している「事業の仕組み」を回し続ける方が重要ですよね。

私たちの仕事の本質は「誰のどんな課題を解決するか?」という視点を核に、ビジネスの成長に貢献するサービスやアプリへ落とし込むところ。極端な話をすると、ビジュアルデザインが好きで、良いデザインを生み出せる人がいたら、ビジュアルに関してその人たちに全部まかせてもいい。「ユーザーの理解」と「サービスの価値」を考え抜くことが、私たちの存在意義だと思っています。

STANDARD inc(スタンダード)_鈴木健一さん

ケーキ職人からWEBの世界へ。コーディングの独学から開けたキャリア

― なぜそういった考えに行き着いたのか。鈴木さんのルーツを探りたいと思うのですが…過去には一度WEB業界をあきらめ、ケーキ職人をしていたとか。


そうなんですよ。最初にWEBに触れたのは高校時代で、カメラが好きだったので、撮影した写真を公開するWEBサイトを独学で制作しました。大学には進学せず、パソコンと写真のスキルを活かせる広告系やWEB系の仕事に就きたいと思っていたのですが…当時はFlashサイト全盛の時代。ActionScriptが書けなくて挫折をしました。

その後、「何か手に職をつけなくては…」と偶然見つけた地元のケーキ屋さんで働かせてもらえることになって。料理も好きでしたし、ケーキ作りもすごく楽しくて、自分に合っていると思いましたね。パティシエのおじいさんがやっている新規オープンのお店だったので、「下積みだから皿洗いだけ」ということも無く、いろいろと任せてもらうことができました。

特にオーダーケーキっておもしろくて、フルーツをカスタマイズしたり、デコレーションにこだわったり。もらったお題に表現で応えて形にして、アウトプットする。もともと「作ったもので誰かに喜んでもらう」ということが好きだったのかもしれませんね。


― デザインと共通する部分がありそうですね。その後ですが、WEB業界への想いが再燃したのは、理由があったのでしょうか?


1年くらいケーキ屋さんで働いたのですが、そのお店のサイトを作ることになったんです。「あれ、鈴木くんホームページつくれたよね?」みたいな感じで。そこから仕事と並行してWeb Designingを読んだり、WEBで調べたり、CSSも独学で勉強していって。もともと写真も好きだったので画像にもこだわったりして…地方のケーキ屋さんにしては相当イケてるサイトが作れたと思います(笑)

で、感じたのが、挫折した学生時代に比べて、使いやすい技術も出ていたし、WEBに関する情報も多くて、勉強の障壁が下がったということ。個人でWEB制作は続けていたので「やはりこの道でやりたい」と思うようになりました。

そこからケーキ屋さんをやめて、とりあえず派遣会社に登録して。なので、派遣のHTML/CSSコーダーがWEB業界での最初のキャリアですね。

なぜ、コーダーからUIの専門家になれたのか。

― …勝手な思い込みで、初めからデザインやUIをかなり体系的・専門的に学ばれたと思っていました。


いえいえ、最初は本当に「いちコーダー」でしたね。


― そこから、どのようにデザイナーになったのでしょう?


きっかけとしては派遣先の会社の人に「デザイナーとして正社員で働いてみませんか?」と声をかけてもらえたこと。当時、地元の茨城から渋谷まで毎日往復3時間くらいかけて通っていたので、正社員として働けるのはうれしかったです(笑)


― 正直、派遣からスタートして声をかけられる人は多くないですよね。何が認められたのでしょう?


どうなんでしょう…単に人が足りなかっただけかもしれません(笑)ただ、その会社はコードに対するクオリティが求められる環境で「改行の仕方」「タグのつけ方」「ファイルの名前のつけ方」など凄く細かいんですよね。他の人でもコーディングしやすいよう、ルール化されていました。独学との違いを学びつつ、そういうところは気をつけていたかもしれません。あ、あとケーキ屋さん時代から自分なりに写真の個人サイトはつくっていて、デザイナー志向はあったので、そこは見てもらえたと思います。


― その後、鈴木さんご本人としてはどのようにUIの知見を深めていったのでしょうか。


UIをどう定義するかによるのですが、私は情報設計を含む、「どう導くか」からデザイナーが担当することが重要だと考えています。

よくディレクターが情報設計をし、デザイナーがビジュアルデザインとコーディングを…と、分業するケースもありますよね。でも、当時いた会社で、学習塾や美術館の企画展など小さなWEBサイトではありますが、情報設計から挑戦させてもらうことができました。そこで「目的のためのデザイン」という視点を磨くことができたと思います。やはり「デザインは困っていることを解決するもの」という軸は変わらない。必要なことに対して、提供するもの、やり方が変わるだけなんですよね。

じつは前職で新人デザイナーの教育プログラムづくりに集中した時期があって。社内の文化やドキュメントの重要性などに加えて、「色合い」「要素」「文字詰め」…それら全てがお客さんの目的を達成するためにある、そんな風に目的に落ちるような勉強用の資料にしたんです。100ページ以上の資料ですが、勉強してから実務に参加してもらうと腹落ちがしやすくなる。そういう意味でも、デザインって「相手のためになること」そのものなのかもしれませんね。


― たとえば、デザインで行き詰まっている人、どんなデザイナーを目指そうか、キャリアで悩んでいる人にとっても参考になるお話だったと思います。本日はありがとうございました!


【取材・文】鈴木健介


文 = 鈴木健介


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