売りたいモノの写真をスマホで撮るだけで査定・現金化ができる買取アプリ『CASH』。ユーザーが売るモノをちゃんと送ってくれて初めて成り立つサービス。もし送ってくれなかったら? 「人を疑わず、信頼する」と光本勇介さんは語った。その真意に『VALU』仕掛け人、中村洋基さんが切り込んだ。
他人を信用することは難しい。お金をやり取りしたり、相手が顔の見えない誰かであったりするのならなおさらだ。
「人を疑うことなくサービスをつくりたかった」
こう語るのは買取アプリ『CASH』の運営元であるバンク社の代表 光本勇介さん。
『CASH』はスマホで売りたいモノの写真を撮るだけで査定・現金化できる。あとからユーザーがバンク社に売れたモノを送る仕組み。たとえば「ユーザーがモノを送らなかった」という事態が起これば、バンク社の損失は免れない。そのリスクとどう向き合うか。
『VALU』を仕掛けた一人、クリエイティブディレクター中村洋基さんが切り込んだ。
※2018年3月に開催された『パイオニア名鑑Vol.1』のトークセッションを抜粋したものです。
中村:
そもそも『Airbnb』や『Uber』って、思ったより「人を信頼できるから」新たにビジネスとして成立したと考えています。光本さんは、ビジネスアイデアとしての「信頼」について何か考えていますか?
光本:
とても考えています。もう最近は「信頼」にしか興味がないですね(笑)
別の言い方をすると、「信用」や「与信」。インターネット業界のあらゆるWebサービスを見ているんですが、共通しているのは「人を疑うことを前提に」つくられていること。
たとえば「ログインしてください」とか「本人確認書類を提出してください」とか……要は、悪い人を排除するための仕組みがありますよね。
でも、もっと客観的に考えると、統計的に悪い人ってごく一部だと思うんです。ごく一部の人を排除するために、大半の人に作業させるってすごいムダで理不尽だと思って。
僕が『CASH』で実験したかったのは、とりあえず「悪い人はいない」を前提にすること。全員全力で信じてみて、取引してみる。大半が圧倒的にいい人たちならば、ごく一部の悪い人との取引でコストが生じてしまってもカバーできるだけの収益を上げられるはず。そうすれば、今後事業において「人を疑う」という行為自体が必要なくなると思ったんです。
中村:
すごく考えられた設計だと思います。たとえばコミュニティーやSNSのようなWebサービスとなると、「他ユーザーが信頼できない」状態は、利用者保護に反する、サービスの価値を下げること。ところが『CASH』の場合は、アイテムが送って来なかった損失を被るのはCASHだけで、他のユーザーに迷惑をかけないしくみになっていますね。
光本:
そうなんです。別の言い方をすると「信頼」ってコストなんですよね。企業対企業から個人対個人まで、どんな単位での取引でも、「人を疑う」という行為が発生しています。要は、与信を取ってる。たとえば、中村さんに「1万円貸して」と言われたら「ちゃんと返してくれるかな」って1回疑う。その行為そのものがコストなんです。
中村:
というと?
光本:
以前、消費者金融の業界について調べたんです。消費者金融のビジネスって、全ては与信なんです。疑うか、信用するかのどちらか。
消費者金融が貸し付けている平均金額単価は1人あたり50万円。結構高額だと思いませんか? なぜこんなに貸しているのかを調べてみると、消費者金融のシステムそのものに原因があって。
消費者金融でお金を借りるときって、いろんな情報を取るんですね。「本人確認提出してください」とか、「年収いくらですか?」とか、「家族構成は?」とか。街中にある無人のボックスみたいなところで手続きしたとしても、確認するのは人なんです。人が取った情報をデータベースで参照して、要は与信を取って、お金を貸す流れになっています。
人が介在しているということは、与信を取ることにコストがかかっているということ。すると、1人あたり50万円くらい貸さないと儲からないんですよ。
でも、僕は世の中には少額の資金ニーズがあると思っています。消費者金融は儲からないからやらない。唯一、少額の資金を提供できる手段があるとしたら、それは与信を取らないこと。要は、人を信用するってことなんです。人を疑わなければ、与信のコストがカットできるわけです。
中村:
たとえば消費者金融にあてはめると、ノールック・与信なしで「1万円貸してやるよ」っていうようなことが成立するかもしれないですね?
光本:
それが『CASH』なんです。僕が実験したかったのは「人を疑わないで、全力で信頼して取引してみる」サービス。
よくメディアの方に取材していただくときには「性善説に基づいたサービスをつくりたい」と話すんです。僕が知る限り、性善説に基づいて成り立っているマスの事業ってないんじゃないんじゃないかなと思っていて。「これまでで初めて成り立たせたい」というのが、今の僕の一番の興味です。
中村:
めちゃめちゃおもしろいですね。ところで、消費者金融の貸し倒れ率ってどのくらいなんですか?
光本:
上場企業は公開していますけど、だいたい2〜4%ぐらいですね。
中村:
それは、ウシジマくんみたいな方たちが出動した結果の貸し倒れ率なんですか?
光本:
ウシジマくんみたいな取り立ては捕まっちゃうんでできないです(笑)
中村:
てことは、「96〜98%の人はちゃんと取引する」というわけですね。
光本:
日本人っていい人がすごく多いんです。だから、グローバルに展開するとワークする国とワークしない国があるんじゃないかと思いますね。
光本:
性善説とは別のテーマかもしれないのですが、この間ZOZOTOWNが行なった「送料自由」のキャンペーンもおもしろかったですね。結局やめちゃったけど。
送料って、一律500円のところもあるし、実費を請求しているところもある。大きなサイトは送料0円を謳っていますよね。でも、実態は本当に0円なわけではなく、販売者が負担している。ZOZOTOWNも相当な金額を割いていて、宅配業者の値上げもあって、負担額が増えたんでしょうね。
このときの結果も確か公開してましたけれど、平均96円ぐらいだったのかな。結構高いですよね。ちょっとうろ覚えなんですが。ただ、全員が0を選んでいないんです。
中村:
僕の想像だとみんな送料ゼロ円を選びそう……と思ったら意外ですね。
ZOZOTOWNはムチャクチャ儲けてるから「送料0円でいいじゃないか」って考えるのがユーザー心理かと思いきや……。日本人ってすごいな。
光本:
ここ最近の流れだと、あらゆるものに価値がつく世の中になってきていると思ってまして。今までって「お金」が圧倒的な価値の指標だったんですよね。でも、2017年ぐらいから一気にお金以外にも価値がつくようになって。VALUさんなら人に価値、タイムバンクさんなら時間に価値がついているわけです。あとは、目に見えないお金、仮想通貨ですよね。
それで、モノに価値をつけたのがある意味『CASH』だと思っていて。今はモノしか対象にしていないんですけど、いずれはあらゆるものを対象にしたいと思っています。今はカメラを通してモノに価値をつけているんですけど、将来的には価値のスカウター、価値の翻訳アプリみたいになりたい。いろんなものに価値がつく流れって加速されていくと思うんで。
要は、いろんなものに価値がつきすぎちゃうと、適正かどうかを判断する必要が出てくる。そして、判断するためにはリテラシーが必要です。でも、一般の人には判断できませんよね。
中村:
わかってきたぞ。価値の可視化というか、民主化みたいなことかもしれないですね。
アジアや中東のローカルなお土産屋ってプライスタグがついていないんですよね。「いくら?」って聞いて価格交渉しながら、値段が決まる。そういうのが民主的。
「あのやり取り、意味ないな」と思っていたら、最近はなくなってきたそうです。初めから金額を明記したほうが効率的だし、売上にもつながる、と。でも、実は売り手が勝手に決めた数字なんですよね。
今、CASHで出してる金額は、二次流通に乗ったときに「この金額だったら買うだろう」と客観的に見直した金額。、つまり「市場の真実」に近いんじゃないか。言い換えれば、民主的に決められた金額に近いんじゃないかと思います。
光本:
そうなんです。でも、みんな正しいかどうかってわからないんですよね。だからなんとなく「このくらいの価格帯だよ」って翻訳する。そこに需要が出てくると思っています。
中村:
それで言うと、善悪の判断も実は結構適当に決めてるなって感覚がありますね。そのあたりを可視化したり民主化したりすると、サービスにつながるのかもしれませんね。
光本:
一概に悪い人を「悪い人」って言えないんですよ。うちのケースで言うと、お金を渡したのに物を送ってこない人たちもいます。僕たちからすると詐欺師なんですよ。でも、細かく見てみると、100人送ってこない人たちがいたら50人は1度集荷依頼をしているんです。つまり、モノを送ろうとしているんですよ。でも、たまたま家にいなかったから送れなかった。そういう人たちを一概に「悪い人」とは言えないんですよね。まだまだ難しいテーマですね。
特に印象的だったのが「実験」という光本さんの言葉。『CASH』も描く未来のための足がかり。「価値のスカウターになった」その先が楽しみとなるトークセッションだった。
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