2018.10.30
「ZOZOの構想に血が沸いた」金山裕樹、VASILY売却を決めた夜

「ZOZOの構想に血が沸いた」金山裕樹、VASILY売却を決めた夜

ZOZO 代表取締役社長の前澤友作さんに口説かれ、ZOZOグループの一員となったZOZOテクノロジーズ 代表取締役CINO 金山裕樹さん。金山さんにとって前澤さんは「いつかは勝ちたい経営者の先輩だった」という。なぜ、共に道を歩むことになったのか。決定打は、前澤さんと過ごした”ある一夜”にあったーー。

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「ZOZOSUIT」の構想に触れた衝撃

「僕にとって“前澤友作”は、いつかは勝つべき相手、超えるべきライバルだと勝手に思っていたんです」

そう語ってくれたのが、金山裕樹さんだ。

金山さんといえば、ファッションコーディネートアプリ「IQON」で知られるVASILY創業者。2017年10月、ZOZOグループにバイアウト。現在は、ZOZOテクノロジーズの代表の一人を務めている。

アントレプレナーとして戦ってきた金山さんは、なぜ、ZOZOグループの一員になることを決めたのか。それは“前澤さんとのある一夜にあった”と振り返る。

「前澤さんの家で飲み会をしていた時、まだ構想段階だったZOZOSUITについて教えてもらったんですよね。もうね。革命だと思ったし、これは勝てないなって」

金山さんがこだわり続けてきた「ファッションTechの領域で圧倒的に突き抜ける」という道。その夢のつづきを、ZOZOグループで。

彼がアントレプレナーとして歩んできた軌跡と同時に、これまでに大切にしてきた「決断のルール」に迫る。

株式会社ZOZOテクノロジーズ代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)|金山 裕樹

株式会社ZOZOテクノロジーズ代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)|金山 裕樹
ヤフー株式会社にてX BRANDなどのライフスタイルメディアの立ち上げを行った後、2008年に株式会社VASILYを設立、CEOに。「IQON」はファッションコーディネートアプリとして世界で唯一AppleとGoogle、両社のベストアプリに選出。会員数は200万人を超え、ファッション感度の高い女性ユーザーに支持されている。

ファッションTech革命前夜、ZOZOSUITに震えた夜

“ 服のサイズがS・M・Lっておかしいよね ”

2017年某日、前澤友作さんは、金山さんにこう切り出したそうだ。

気心の知れた仲間が前澤さんの家に集い、お酒を飲み交わしていた夜。部屋にはちょうどアメリカのロックバンド『Weezer』のファーストアルバムがアナログレコードで流れていた。

「こっそりと“ZOZOは服を作る”って前澤さんが僕に教えてくれたんです。誰でもジャストサイズで着られる、一人ひとりにあった服をつくる。それをテクノロジーで実現するって」

当時、発表前のZOZOSUIT、ZOZOプライベートブランドの構想。

金山さんは、稲妻に打たれたような衝撃が走ったと振り返る。

「この話を聞いた時、“勝てない”と決定的に思いました。まず最初に衝撃を受けたのはプライベートブランド『ZOZO』のコンセプト。一部の限られたファッション好きのためのブランドではなく、全人類が着るようなブランドにする、ファッションを『インフラ』にする、と。そしてそれを『ZOZOSUIT』という最高にクールな形でテクノロジーを使っている。ZOZOと一緒にやるしかないと思いました」

このようにして決まったZOZOグループ入り。VASILYの社員たちに一体どのようにして伝えたのだろう。

「みんなのために絶対に良い意思決定になる。信じてついてきてほしいと伝えました。もちろん数名は話し合った結果、別々の道を歩むことになりましたが、多くが今も一緒に働いています。まだまだ始まったばかりですが、かなりモチベーション高くやってもらえていると感じていて。…僕も人生で今が一番楽しく働いているし、毎日刺激しかないですね」

「社長をやめるべき」を無視しつづけた、VASILY時代

まわりから見れば、ここに至る道も決して平坦ではなかったはず。ZOZOグループの一員となる以前、VASILY時代にぶつかった「壁」について伺った。

「VASILYおよびファッションコーディネートアプリ『IQON』は会社規模・サービスともに、緩やかながら成長をしていました。ただ、黒字を出そうと何回トライしても利益が出ない。約2年間ほど苦しい時期が続きましたね。そういった状況のなか“社長を降りたほうがいい”と取締役たちからたびたび告げられていました」

そういった言葉に内心では、どのように思っていたのだろう。

「なんというか、ショックですよね。好調な時ほど“金山くんなら成功するよ”とか“ガンガンいこうよ”と言ってくれる。でも、うまくいかなくなった途端に見離されてしまったというか。もちろん、結果が出せないのは全て僕に責任がある。信じてくれていた人たちにそう言わせてしまっていることが悔しかったですね」

しかし、金山さんの中に「社長をやめる」という選択肢はなかった。

「めちゃくちゃ考えたのですが…どう考えても、責任をとる方法は僕が辞めることじゃない。僕が辞めないことだと思ったんですね。だから“とにかく辞めたくない”といきなり押しかけて伝えたこともありました。税金差し引いて給料ゼロの期間も1年弱くらいあったかな。それでも、辞めようと思ったことは1回もないですね」

そして、この経験から得たものも大きかったという。

「ひとつ、真実に気づかされました。本当の仲間って、調子に乗って浮かれている時にこそ“ちゃんとやらなきゃダメだぞ”と厳しく言ってくれる。本当に辛い時には逆にサポートしてくれるもんだなって」

手のひらを返さず、信頼できるのは誰か?金山さんにとって前澤さんもその一人だった。当時、VASILYが運営していたファッションアプリ『IQON』にとっての最大のクライアントはファッション通販サイト『ZOZOTOWN』だった。

「“金山くん、最近しんどいらしいじゃん”と辛いときにサポートしてくれる。調子に乗っている時には“調子こいてるんじゃない?”と引き締めてくれる。めちゃくちゃ苦しい時に、ちょっとイタズラに笑いながらサポートしてくれたのが、“前澤友作”その人だったんですよね」

株式会社ZOZOテクノロジーズ代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)|金山 裕樹

ファッションアプリ戦争での敗因

ファッションコーディネートアプリ『IQON』といえば、2010年~2017年にかけ、ユーザー数を飛躍的に伸ばした注目のファッションコーディネートアプリだ。

ただ、その成長は鈍化していく。突き抜けられなかった要因について、金山さんはこう分析する。

「『IQON』はファッションアプリ戦争に負けたと思っています。最大の誤算は、未来からの逆算ができていなかったこと。ここまでセルフィー文化が浸透すると思っていませんでした。IQONを立ち上げた2010年当時、“日本人はシャイなので自撮りなんてしない”と思っていた。だから、ファッション版Pinterestのようなコラージュサービスに振ったんです。しかし結果的に今の状況を振り返ると、もっとユーザー投稿型で盛り上がるようにするためには、ファッションコーディネートアプリ『WEAR』のように自分で撮った自分の服をアップするカタチでよかったはず。ここが全ての別れ道だったと思います」

メディアビジネスとしても苦境にあったと赤裸々に語ってくれた。

「メディアビジネスは、旬に乗れるか乗れないかが重要なキーになります。その勝負でも僕は負けたと思っています。“20代でスマホをよく使うファッション感度の高い女性”にリーチできるメディアとして『IQON』がありました。ただ、同時期にInstagramの広告がスタートし、MERYなどのキュレーションメディアが出てきた。そこから始まったのが資本力を武器にした叩き合い。僕らは広告宣伝、マーケティング、ブランディング、セールス、いずれも中途半端になってしまった。もっと徹底的にやるべきでした」

株式会社ZOZOテクノロジーズ代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)|金山 裕樹

すべては「GOOD THINGS」に変えられる

金山さんが過去の失敗について語る時、どこか振り切れたような清々しさに似たものがあった。そこには悲壮感は微塵もない。

「生きていれば、苦しいことや辛いことなんていくらでもありますよ。ただ、どれも僕という人生にとっては、あまり大したことではないのかもしれません」

彼がそう語るのには、大きな理由がある。

「2008年11月にVASILYを創業。翌年4月、稼働1日目。いよいよ始めるぞというタイミング。今でも覚えているのですが、渋谷の神泉町の交差点で信号待ちをしている時に突然携帯が鳴りました。身内が脳梗塞で倒れて、いつ死ぬかわからない状態で病院に運ばれた、と。その身内も会社を経営していた。運ばれた病院のベッドで“絶対に自分のビジネスをやめたくない”と言い張るもんで、業務をまるっと引き継いだんですよね」

直面したのは「人生の理不尽さ」だった。

「経営の素人が、同時に2社を経営していく。さらに病院にも毎日行く。もう記憶がおぼろげなくらい、肉体的にも精神的にもしんどかったです。“なんでこんな理不尽なことが自分の人生に圧し掛かってくるんだろう”って思ったし、大事なものがすべて無くなるかもしれないプレッシャーもあって、押し潰されそうになっていた。信じて付いてきてくれた共同創業者の人生、家族の命。全部を守るために必死に働きました」

結果的には、家族も少しずつ快方に向かい、VASILYの経営に専念していく。わずか1ヶ月ほどで起こった出来事だが、「経営者 金山裕樹」の人生を決定づけるものになった。

株式会社ZOZOテクノロジーズ代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)|金山 裕樹

「起こったことを変えることは不可能ですよね。それを『不幸だ』『最悪だ』で終わることもできるし、『このままじゃ人生終われない』と乗り越え、強くなることもできる。価値ある経験だったとすることもできる。自分で決められることなんですよ」

つまり、過去が持つ「意味の解釈」は変えられるということだ。

「僕は毎日起きるたびに幸せな気分で朝を迎えられる。それは過去の出来事を乗り越えたおかげと“解釈”できたから。過去に起きたことを悩むのではなく、どう捉えて前に進むか。それはコントロールができるし、していくべきだと思っています。だから、客観的に見て『HARD THINGS』だと思われることも、僕にとっては『GOOD THINGS』なんです」

そして最後に伺えた「これから」について。

「ファッションの領域でテクノロジーを使って世界を驚かす何かを起こすのは、この会社しかないと思っています。ファッションTechで圧倒的に駆け抜けたい。とにかくこの領域が好きなんです。だから、それをやれていることが一番幸せです」

「ZOZOグループに買収されたことでイヤな質問があって。“おめでとう。金山くん、次何やるの?”って聞かれるんです。いや、次ってなんだよ?と。確かにバイアウトはゴールの形としてあるかもしれない。でも『自分がやりたいことはここにあるから』と思っています。まだまだサプライズも用意しているし、ぜひ驚いて楽しんでいただきたいですね」

株式会社ZOZOテクノロジーズ代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)|金山 裕樹


文 = 大塚康平
編集 = 白石勝也


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