ZOZOテクノロジーズのPM採用について、代表の金山裕樹さんが語った。新規事業の成功に欠かせないPMが圧倒的に不足している状態ーー。採用専任者、不在。自分は多忙で動けない。そんな窮地をどのように乗り越えたのか?
※2018年11月6日に開催された「プロダクトマネージャー・カンファレンス2018」よりレポート記事をお届けします。
ファッションコーディネートアプリ「IQON」を生み出したVASILYの創業者として知られる金山裕樹さん。2017年10月、ZOZO 代表取締役社長の前澤友作さんからのオファーを受け、VASILY売却を決意。以来、ZOZOテクノロジーズ代表取締役CINOとしてZOZOのテクノロジー躍進を担っている。
ZOZOテクノロジーズの一員になった当時、PM(プロダクトマネージャー)は金山さんのみ。親会社ZOZOと合わせてもプロダクトの意思決定者は前澤さんを筆頭に3名だけ。それに対し、3つのプロダクトと新規事業が動いていた。周知のとおり、それもプライベートブランド「ZOZO」など大規模なものも含まれていた。
「VASILYは30名の組織だったんです。1プロダクトに対し、PMは僕ひとり。ZOZOテクノロジーズに入ると、社員は230名で3プロダクトもある。さらに新規事業もやらないといけない。それに対し、PM的な動きをしていたのは僕を含めて2名と、ZOZOの前澤だけ。実質3名で意思決定をしていました。そんな状況でしたので、“このままではまずい。グロースできない”と思い、PMチームを結成することにしました。そこからやることはシンプルでした。人を集めて、なじませて、成長を加速させていく、ということです」
しかし、いきなり壁にぶち当たることになる。
「とは言え、採用専任者はいませんでした。1年以内に新規事業の目標の数字を達成しなければいけないので、時間もない。社内を見渡しても、ロールモデルとなるPMもいない。これでは、エージェントや求人広告で採用することは難しい。そこで、自分でダイレクトリクルーティングをするしかないと思いました」
金山さんはこの窮地をどう切り抜け、事業をグロースさせたのか。PMチーム結成のウラ側について明かしてくれた。
▼ZOZOグループへの参画を決めた背景はこちらのインタビュー記事で。
「ZOZOの構想に血が沸いた」金山裕樹、VASILY売却を決めた夜
多忙を極める中、応募者一人ひとりに会っている時間はない。そんな状況を金山さんはどう打破していったのか。
「VASILYの選考では、応募から内定までたどり着く確率が0.5%。応募者が200名いたとしたら1名内定が決まるような状況でした。このペースではプロダクトの成長スピードに追いつかない。そこで、”プロダクトマネージャーとしてこれだけは譲れない”という条件を言語化して、スクリーニングをかけることにしました」
ダイレクトリクルーティングを行なう際、金山さんがMUSTで設定した条件は以下3つだ。
1, 失敗を恐れずに挑戦できる人
「マインドセットとして絶対必要だと思います。プロダクトの成功はほとんどの場合、施策の数だと思っています。100個実施して1個当たれば、その1個が99個を帳消しにするもの。失敗を恐れて意思決定できない人はマズイ」
2, 行動から学びを得ることができる人
「たくさん失敗するわけですから、いつかは成功してほしい。そうなると失敗から何を学びとるかが重要になってきます。もちろん失敗は許容しますが、いつか成功することが前提ですよね」
3, チームから尊敬を勝ち取れる人
「エンジニアやデザイナーと気持ちよく働けるか。プロダクトマネージャーは上流工程にいるので、色々指示を出さないといけない。“なんだよ、あいつ”と思われないためにも、プロダクトマネージャーはエンジニアやデザイナーから尊敬を勝ち取る必要があるんです」
1〜3を具体的なスペックに落とし込むと以下のような条件になるという。
1, U-30
「まず、失敗を恐れず挑戦できる、というのは若い人だろうなと。もちろん、40代、50代でも失敗を恐れない人もいると思うんですが、数は多くないと思うんです。なので、30歳までに絞ろうと考えました」
2, 教育的バックグラウンド
「行動から学べる人かどうかを判断する際に、応募者の出身高校をチェックしていました。VASILYで活躍した人材を見ていると、失敗を学びにできる方は一定の教育バックグラウンドを持っている方が多い傾向にありました」
3, ネット業界在籍
「開発チームから尊敬を勝ち取れるかどうかは、インターネット業界に在籍していたかどうかで判断しました。やはり、実務経験がないとエンジニアやデザイナーと話が合わなかったりするので」
上記の条件でスクリーニングをかけたとしても、金山さんが全ての選考フローに関われるわけではない。そこで、金山さんはアシスタントを立てて選考フローの一部を任せた。
「アシスタントから候補者リストが月曜に届いて、僕が月曜中にメールするかどうか判断する。火曜日にアシスタントが半テンプレに沿ってメールを作成して、メールを送信する前に僕が内容を確認・修正する。そのあとアシスタントにメールで面談アポをとってもらう。通常だと面談を1時間くらいやると思うんですけど、30分で見極めていました」
こうした選考フローを採用した結果、忙しい中でも自社にマッチするPMが採用できたのだ。
しかし、PMチームビルディングの本番はここからだという。
「どんなに優秀な人材でも“あとは現場でよろしく”では活躍することは難しい。入社してくれた人のオンボーディングが最も大事だと思っています。“誰をバスに乗せるか”ということは大事ですが、その方たちが活躍して組織に馴染めるかは、3〜6ヶ月のオンボーディングが全て。そう経験則から感じています」
金山さんがオンボーディングを大切にする背景にはVASILY時代の経験があるから。VASILYでは応募者のステータスをフェーズごとに入社確率を算出しているようなミームがあり、チームの気が緩まないように管理していたという。
「“この人、入社してくれそう”という人がいると、これがslackで飛んでくるんです(笑)。例えば、“辞めることが決まりました”と採用候補者が言ったら入社確率70%くらい。
ここで大事なのは、内定者が出社してもまだ99%だと捉えること。僕らはまだ採用できていない気持ちでいました。採用しても辞められてしまったり、上手く活躍の場を提供できなかったような失敗もあった。“活躍するまでが採用”だと決めていたんです。このVASILYに代々受け継がれてきた入社確率の考え方を、ZOZOテクノロジーズにも適用しています」
では、新しく出社した人が活躍するにはどうすればいいのか。
「とにかく入った方には“花を持たせる”ことを意識しています。花を持って入社いただければ、必ず愛されるプロダクトマネージャーになれます。のちに活躍して、会社に定着してくれるだろうと思い、この行為をマントラのように唱えてやっています」
では、花を持たせるとは具体的にどのようなことなのか。金山さんは以下の3つであるという。
「まず、入社する方は部門のマネージャーやPMと、3ヶ月以内に達成する定量的な成果を明確にする。約束した仕事は“あとはよろしく”ではなく、マネージャーの仕事としてその人と並走してやっていきます。そして、3ヶ月以内に達成できたものは、社内にアナウンスする。これをやるのとやらないのでは、全く愛され方が違いますね」
しかし、なぜ花を持たせる必要があるのだろうか。
「PMの仕事は成果でしか評価されないので、成果が出るまでは周りから理解されない。PMの役割として意思決定や部門間の調整が多いので、“仕事をしてない”と思われがち。警戒されやすいんですよね。それを防ぎ、信頼を得るためには、まず花を持たせることが大切なんです。
これをやればメンバーの動きは変わります。そう信じていますし、実際にVASILYでもZOZOテクノロジーズでも同じような効果が得られています。
入社してすぐにやるのがベストですが、今からでも遅くないと思います。いつでも効果がありますので、ぜひ実践してみてください」
こうした取り組みの結果、ZOZOテクノロジーズのとあるセグメントでは大きな成果が出た。2018年10月の売上は2018年4月に比べ183倍になったという。愛されるプロダクトマネージャーを生み出すことこそが、プロダクトをグロースさせる近道なのかもしれない。
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