メルカリは最高のUXを提供するために独自のフレームワークを開発。UXリサーチャーのジャスパーさんの解説をお届けする。
2018年11月現在、世界で1億人超がダウンロードし、1,133万人のMAUを誇る『メルカリ』。
サービス開始から約5年。現在、彼らは「デザイン思考」の実践を志向する。そもそも「デザイン思考」とは何か。捉え方からジャスパーさんは解説をしてくれた。
「デザイン思考は、正しく問題を解決する考え方のことです。重要なのは、いかにお客さまに向き合い、その考えや課題を理解、共感していくか。そこから得られた問題を定義し、解決できるプロダクトをつくっていくか」
続けて、メルカリによるデザイン思考の実践手法について。
「通常、デザイン思考は「ダブルダイヤモンド(*)」というフレームワークが用いられることが多いです。ただ、このフレームワークはどんなプロダクトにも当てはまるわけではないので、メルカリでは、3つの手法にカスタマイズして実践しています」
1.Understandeing:お客さまへの理解・共感
2.Team work:チームで情報を共有
3.Fail Fast:デザインスプリントを活用して、コンセプトが上手くいくかを高速で検証
この3つの手法をどのようにプロダクト開発に落とし込んでいるのか。Jasper Wuさんはひとつずつ実例を用いて解説してくれた。
[プロフィール] ジャスパー ウ (Jasper Wu)
スタンフォード大学による「d.school」でデザイン思考を学び、デザイン思考のワークショップファシリテーターとしてキャリアをスタート。Samsung Strategy and Innovation Centerでデザインエンジニアとして活躍した後、メルカリに参画。
1. Understanding:お客さまへの理解・共感
2. Team work:チームで情報を共有
3. Fail Fast:デザインスプリントを活用して、コンセプトが上手くいくかを高速で検証
まず重要なのが、いかにお客さまを深く理解し、共感していくか。
メルカリではお客さまを4つのカテゴリに分類。それぞれから解決すべき問題を抽出し、プロダクト開発に活かしているという。
1:Target User/ Customer - ターゲットのお客さま
「当然ながら、プロダクトを使うターゲットのお客さまを理解することは非常に重要です。お客さまがどういった体験をしているのか、マーケット視点から確認する必要があります。
基本的に、ターゲット層は市場調査とカスタマー調査の結果から選定しています。すばやくかつ簡単な方法は、自分のお客さまに直接話しかけること。メルカリでは、ターゲットとなりうるお客さまと、潜在的にお客さまになりうる人へのインタビューとヒアリングを行なっています。場合によっては、細かな情報を得るためにサーベイを送ったり、NPS調査を行なったりしていますね」
2:Indirect User - 間接的なお客さま
「お客さまは利用している人だけにとどまりません。その周辺にいる人を理解することで、プロダクト開発に活かすことができます。たとえば、任天堂の『見守りスイッチ』というアプリは、間接的なお客さまである親に注目してつくられたプロダクトです。単に子供のプレイ時間をコントロールできるだけでなく、その先の親子間の関係をどう形つくったらいいかに着目しています」
3:Extreme User - 極端なお客さま
「大好き、さらには大嫌いなど、プロダクトに極端な考え方を持っているお客さまです。メルカリではとくにこのカテゴリのお客さま理解を大切にしています。なぜなら、このカテゴリのお客さまからプロダクト改善への多くの気付きを得ることができるからです。
たとえば、私たちは『Mercari FANS MEETUP』などのイベントを開催し、彼らとの接点をつくっていて。なぜ自分たちのプロダクトは愛されているのか、その中で彼らはどういう行動をとっているのか。同時に、どういうところに面倒くささや使いづらさを感じているのか、いわゆるプロダクトのペインポイントも探っていきます。
バーコード出品はこのペインポイントから考案された機能です。モノを売るときに情報を入力する面倒くささを感じる人がいる。その出品時の苦痛をどうすれば軽減できるか考えた結果が、バーコードをスキャンするだけで商品が出品できるという方法でした」
4:Descendant User - 未来・後続のお客さま
「メルカリでは、目の前のお客さまだけでなく、その先にいる未来のお客さまのことを考えた取り組みも行なっています。たとえば、梱包・包装の素材をリデザイン。リユースされるデザイン、梱包作業をより簡単にするデザインを目指しました。
また、子供向けフリーマーケット(キッズフリマ)を開催していて。お金の使い方や価値観、「捨てるをなくす」というリユースの取り組みがどういうものなのかを伝えています」
1. Understanding:お客さまへの理解・共感
2. Team work:チームで情報を共有
3. Fail Fast:デザインスプリントを活用して、コンセプトが上手くいくかを高速で検証
続けて語られたのが、デザイン思考におけるチームワークの重要性について。
「良いアイデアはひとりの人間から生まれるものではなく、多くの人のブレインパワーにより生まれるものだと考えています。ここで重要なのが、多様な人材からアイデアが集まるチームをつくることです」
メルカリでは、開発部署にとどまらず、職種を横断したチームづくりを行なっているという。
「数ヶ月前、CS、デザイナー、PM、エンジニアなどさまざまなバックグラウンドの人たちに集まってもらい、メルカリのお客さまについて話し合う機会をつくりました。
そこでは、メルカリのカスタマージャーニーマップを制作しました。私たちのお客さまを理解し、分析をする。そして、彼らの満足度を最大化することを考えます。最終的に複数のアイデアを得ることができました。そこから生まれた新たな施策については、現在リリースへ向けて進めています」
こうした取り組みには、当然社内の協力は欠かせないといえるだろう。
「メルカリには『All for One - 全ては成功のために』という考え方があります。これは全員が成功というひとつの目標に向けて、いかに貢献できるかを考えているということ。つまり、成功のために必要であれば、協力を得られる環境があります。この考え方は、デザイン思考に必要な『人とアイデア』を集めるという観点で欠かせないものであると考えています」
1. Understanding:お客さまへの理解・共感
2. Team work:チームで情報を共有
3. Fail Fast:デザインスプリントを活用して、コンセプトが上手くいくかを高速で検証
最後に、デザイン思考の実践における「早めに失敗する」ことの重要性について語られた。メルカリではデザインスプリントを活用しているという。
デザインスプリントは、以下のステップを踏んで取り組む。
1. UNDERSTAND:対象を理解する
2. DEFINE:課題を明らかにする
3. SKETCH:スケッチをしていろいろアイデアを出す
4. DECIDE:出てきたアイデアからどれに絞るか決める
5. PROTOTYPE:プロトタイプをつくる
6. VALIDATE:検証する
メルカリではデザインスプリントをどのように活用しているのか。
ジャスパーさんは、新たな視点を得るための機会を用意したいと考えていた。プロダクトに直結しないものも含め、さまざまなテーマでデザインスプリントを実施したそうだ。その一例である「工場廃棄物をどのように活用できるか」をテーマにしたデザインスプリントを紹介してくれた。
「興味のある人なら誰でもウェルカムという形で、デザイナー、エンジニア、人事などさまざまな職種の人に集まってもらいました。通常は5日間で実施されることが多いですが、今回は3日間で実施しました。
一般的にデザインスプリントは5日間で行なうのですが、今回は3日間で設定しました。5日間という期間は、新しいスタートアップや大きな施策を考えるときに設定されるもの。メルカリでは、解決したい問題の大きさに基づいて期間を3日間に設定しました。
日本では、多くの人がデザインスプリントやデザインシンキングを教科書に基づいて行なっていますが、本来はスプリントごとにカスタマイズする必要があります」
ジャスパーさんが仕掛けたデザインスプリントは、よい効果をもたらしているそうだ。
「デザインスプリントにおいては、短期間でアイデアを形にし、どのように機能するのか、検証できれば成功だと言えます。メルカリでは、このフレームワークを使って短期間でアイデアを検証できるという姿勢でみんなが働いている。そういう環境が新しいアイデアを形にする上でとても役立っていると感じています」
(*)ダブルダイヤモンド
以下4つのプロセスにより、プロダクト開発を行なっていくデザイン思考のフレームワーク。
Understand:対象を理解
Define:課題を明らかにする
Ideation:新たなコンセプトを考案
Validation:検証
↓ダブルダイヤモンドの図
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