Tableauなど、数値を可視化するツールの活用がディレクターに求められている。GMOペパボの『minne』事業部でのマーケティングツールの使い分け。ディレクターに必要なマーケティングスキルとは?
ディレクターに求められているマーケティングスキルとはなにか?なぜ必要なのか?
GMOペパボの『minne』事業部でディレクターを束ねる廣崎圭さんに伺った。
――本日は「ディレクターに必要なマーケティングスキルとは?」といったテーマなのですが、まず『minne』事業部のディレクター陣における「マーケティング」の捉え方を伺いたいです。
「マーケティング」という言葉はディレクターにとって「ひとつの素養」のようなものだと捉えています。
マーケティングファネルに応じてPR、メディア、販売促進、CRM、プロダクトの5つに役割を分けてディレクターが存在していて。
minne事業部には特にマーケターという職種・位置づけの人はいない。ディレクターは「マーケティング領域でも役割を担う人たち」というような位置づけで活動・活躍をしてもらっています。
――ツールごとの使い分けどうされていますか?
『Google Analytics』『Google Spreadsheet』『GitHub』は全社的にみんなが使っています。
販売促進、CRM、プロダクトの領域においては、データを根拠に施策を考えるなど、データの重要性が高い。ここでは『Tableau』や『Repro』使いながら動いています。
マーケティングツールについては主に『Tableau』ですね。
『Tableau』は複数人で利用始めたのはつい最近のことなんです。それまでは私含めて2人がローカルで作業をするcreatorライセンスを利用していました。
社内でもデータドリブンな環境を作っていきたいと考え、Tableau Japanが提供している3カ月のトレーニング「Tableau Jedi Boot Camp」(タブロージェダイブートキャンプ)を受講。2019年5月に私がTableau Jediに認定され、組織内のディレクター達に『Tableau』を導入しはじめました。
――『Tableau』は、どんな使い方を?
データドリブン環境を作り始めている段階なので、まずはカジュアルな気持ちで触って欲しいと考えています。現在は特に細かなルールなどは決めていません。ただ、”サマリがみれるダッシュボードをつくって定点観測するだけ”という使い方はしないようにしています。
『Tableau』の強みはやっぱりデータを深堀っていくこと。どんどん情報の階層を深めながらインサイトを集めて、一つのものに集約しながら仮説を導き出し、課題をどう解決するかを意識しています。
たとえば、「今年の7月は、何を主力カテゴリ・アイテムとして販売促進していけばいいか」といったことを課題とする場合、いつ何が売れているのか?を知るためのデータを組み合わせていくことからスタートしていきます。決して複雑なことをしているわけではなくて。
『Tableau』上では「minneの作品カテゴリにおける注文推移」と「継続率」などを前年と比較しながら見ていったり。
わかりやすく「昨年はこのアクセサリーが7月に売れてる傾向があったので、今年もアクセサリーにフォーカスしましょう」ということが言えるかもしれない。
また逆に「この時期はこの作品カテゴリが売れていないので、販売促進して押し上げていきましょう」といった提案につながっていく。こういった土台となるデータを集めて、ダッシュボード化し、いつでも見れるようにしています。
使い方としては、全体のサマリー状況を定点観測してアラートを発見したりポジティブな要素を発見することも大事ですが、それよりも「いかにアクションを生み出すか」を前提にしています。
たとえば、「ユーザーの年齢層」を見るときもそうですよね。
「30代でみていくと、2月ぐらいからベビーキッズのカテゴリー売れている」ということがわかったとします。点の情報だけではなく、そこからは「線」で見ていく。
「じゃあ、ベビーキッズを買った人たちの“現在”のRFM(最近の購入日、来店頻度、購入金額ボリューム)ではどうなってるのか」と深めていく。こうした分析結果を、メール配信やクーポン配布など施策の根拠にしています。
――それらはすべて『Tableau』でやられているのでしょうか?
ビジュアル化や表現力を求める時の美しさは『Tableau』がやっぱり最強だと思っています。なので、分析のベースは『Tableau』を中心に行なっています。
また、使いやすくて楽しいツールは学びたいなって思いますしモチベーションも上がりますよね。しかし、他のツールにも長所があるので、それぞれの特徴を活かしながら業務を進めています。
オープンソースのBIツールとしては『Redash』も使用しています。『Redash』はスポットでデータをちょっと見てみたいときや定型処理の集計をするときに使っています。
まずは『Redash』で試してみて、今後も継続してみていきたいデータだと決めたら『Tableau』に移行していくというアプローチもしています。
『GoogleDataStudio』は、注文金額の推移やUUやDAUの推移のようなサマリーのデータウォッチしていくのに使っています。
しかし、『Tableau』の利用推進も行なっているので、今後はデータ整備を行い、『Tableau』の方にどんどん吸収させて一本化していけたらいいと考えています。
『Repro』に関しては、アプリマーケティングが強いので施策の検証用で活用していますね。プッシュ通知やポップアップなど、実際に打ったアクションの成果がどうだったかの数値情報が『Repro』の管理画面ですぐに見れるのが特徴です。
もちろん『Repro』上でも購入何回目とか、初回購入後のユーザーの継続状況などが見れるので、そこでデータ分析することもあります。アプリに強いツールなので、iOSとAndroidの差をより細かく見るときに重宝しています。
――ここまでツールの使い分けを伺ってきました。ただ、ツールがわかっても本質なスキルとは言えないと考えていて。『minne』チームで大切にしている、ディレクターに必要なマーケティングスキルがあれば教えてください。
マーケティングは「人の心を動かすことができる力」と感じており、その上で「マインドセット」としてもすごく重要な要素だと考えています。
また、ディレクターはデータを扱う人間なので、数値の状態を正しく伝えていくことが欠かせません。
たとえば、「”すごく”売れた」とか「”たくさん”来た」ではなく、前年に比べてどのように成長したのか、数値が表す状態が何であるのか、伝えられなくてはいけない。
一緒に働くディレクター同士、タスクを共有し合うエンジニアやデザイナーとの間でも同じこと。「ユーザーにどう伝えるか」と考えるときにも同じことが言えるはず。
だからこそ、「マインドセット」を上位概念として持って置くべきだと思います。
――「マインドセット」の図を見ると、そこに紐づく概念も明文化されているんですね。
そうですね。ディレクターがデータに向き合うとき、【探求】【アクション】【継続】という大きく分けて3つの力が必要だと考えています。
【探求】の部分でいえば、観察、記録、分析、仮説の構造になっていて。まずはデータに触れてみる。でも、データをただ見るだけだと頭でっかちになっちゃうので、世の中のトレンドや感性、体験に基づいたリサーチを日々行なう。どのようにアクションとするか、こういった視点を持ちながら観察をして記録、分析、仮説に落とし込んでいきます。
そして次は、そのデータをもとに【アクション】すること。アクションしないと良いも悪いもわからない。まずは動いてみよう、と。実際に動くことでチームや個人のコンフォートゾーンを突破できると思っているので。
あとは【継続】すること。「超売れた企画」なんてそうめったにできるものじゃない。
日々トレーニングとしてアクションをする。小さな成功体験を自分の中やチームとして作っていくことが大事かなと考えています。継続していれば、アプローチする確度や精度も上がってくるはずです。
たとえば「メルマガ」にしても、何百万人の会員全員にメールを一斉に送る方法もあれば、特定のセグメント、特定のターゲットに対してメールを送ってみることもできます。先ほどの探求のプロセスを踏むことで、現状のマーケットの課題が見えてくるはず。ですので、その課題に対してどういう向き合い方をするか、ここがアクションになってくると思います。
――実際にアクションに移す時、重要なポイントがあれば教えてください。
施策・アクションを考えるとき、
「ターゲット」「タイミング」「コンテンツ」
この3つを切り分けるように考えています。3つが揃ってはじめて、ユーザーさんに伝えるメッセージになるという捉え方です。
ターゲット(セグメント)については、Tableauにおけるデータ構造の「メジャー」と「ディメンション」の概念をきちんと理解しておく。そうすることでデータを見る角度や視点を複数持つことができ、インサイトを発見する手立てになると思います。
また、課題に対して網羅的に考えたい場合は、たとえば、単に「年齢」などで切るのでなく、取得できる情報は全部見てみる。思考の発散をし、その中からどれが一番最適なのかを並べて比べていくこともしています。
その他の例ですと、アカウント登録したタイミングや経路なども見るべき。あるユーザーは初回購入後、動きがなく、2回目のリピート購入を促したかったとします。その時、リピートの購入を促進するために、クーポンがひとつの手段として考えられる。ただ「どのタイミングで送ると最適なのか?」というのがむずかしい。
ひとつの考え方としては、過去のデータから、初めて買ったユーザーが2回目に購入に至るまでの「日数」を「平均値」と「中央値」で表したグラフを見てみる。実際に見てみると、「2018年の第1四半期に購入したユーザーは2回目の購入までに特定日数経過している」ということがわかりました。
「発見した日数までの期間はアクティブになってる可能性が高い状態」です。その期間には頑張って施策を打たなくてもいいかもしれない。もっとあとに施策を打つべきかもしれない。テストマーケティングでもっと早く買っていただくことができそうなら、その日数の早い段階ににクーポンを送ってみる、ということも考えられます。
ターゲットを設定する時には「日にちの経過」や「ユーザーが受けとるタイミング」はよく見るようにしています。
いまのはシンプルなパターンですが、タイミングに加えて、購入金額合計や購入された作品カテゴリから次に興味を持つのは何か?複数の要素をフィルターにかけるといいかと思います。
――データドリブンといいますか、データをもとに、「1人ひとりのユーザー」とどこまで向き合えるか。チームとしてそこに挑まれているように感じました。
そうですね。何よりも『minne』のマーケット課題において、CRMパートをもっと深く見ていく必要があることを再認識していて。サービスの特徴としても、個人の作家によって作られた唯一無二のユニークなアイテムが集まってる場所。個人規模で考えた「1to1」のマーケティングが必要なんです。
ユーザーひとりひとりに向きあい、精度を高めるためには、ふわっとしたイメージで語る状態ではなく、ちゃんとデータで基づいた会話が必要。そこはユーザーと向き合ってるメンバーが一番感じているところだと思います。
「たくさん」とか「かなり」っていう言葉は使わない。何か一つの施策に対して因数分解し、本当にやる理由になっているのか、というのはよく発信しているメッセージですね。
とはいっても、頭でっかちにデータがこうだからって言っちゃうと、周りとのコミュニケーションにも納得感が得られない状況はある。感情で人が動く部分もあるので、触れる部分の情報にはフィーリングもちゃんと乗っけた上で施策を打つことが大事だと考えています。
ユーザーとちゃんと向き合っていかないと継続的なマーケットとしての信頼がなくなってしまう。マーケットの課題が何か、その課題にどうフォーカスするか、ここは突き詰めていければと思います。
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