ヤフー、はてな、ピクシブ、GMOペパボ…10年以上サービス運営を続けているWEB企業(10年選手)が大集結。スタートアップとはまた違う「大人ゆえの悩み」と、その解決に向けた動きとは?
・Yahoo! JAPAN(22年目)
・はてなブックマーク(13年目)
・pixiv(11年目)
・ロリポップ!(17年目)
各サービスの担当者が大集結! メンバーが入れ替わる中でのナレッジ共有、開発言語のバージョンアップ、変わりゆく時代にマッチしたブランディング…10年以上続くWebサービス、「大人」ゆえの悩みとは?
今回、担当者たちにぶつけられたのは、6つの質問。
・サービス立ち上げからいるメンバーって残っていますか?
・過去の遺産的なシステム、どういうタイミングで発掘して改修する?
・新しい言語、技術の導入をどう進めている?(ブランディング、UX含む)
・直面した最大の辛いこと、危機的なこと、心が折れたこととは?
・一番楽しかった、嬉しかったこと
・これからのサービスの目標を聞かせてください!
それぞれ「長いサービスあるある」をどう解決する?語られた内容をお届けします!
※2017年11月13日に開催された『WEBサービス10年選手のあるある座談会』イベントよりレポート記事としてお届けいたします。
ヤフー株式会社 サービスマネージャー 伊藤 雄哉/2009年ヤフー入社。現在はYahoo! JAPAN IDのプロダクト責任者を担当。入社以来ほぼずっとID関連のプロダクトに携わっている。
― 過去の遺産的なシステム、どういうタイミングで発掘して改修する?
いっぱいありますね…遺産(笑)私たちが改修に向けてやっているのは「ちょっと改修が必要かも」という課題があったら、その都度、すべてドキュメント化していて。結構ズラッと並ぶのですが、3ヶ月、半年くらいに1回、「棚卸し」をしています。やること/やらないことを決めて、解消する。主体となっているのは、チームリーダー的なポジションの人たちです。
同時に課題になるのは、些細なことほど忘れるし、残っていく。チケットが残っていく。やっぱりインパクトがある改修が優先されちゃうんですよね。これは長くやっているサービスの「あるある」だと思います。たとえば、1年くらい放置された小さな改修も「よしやろう」と判断して改修していることはありますね。
― 新しい言語、技術の導入をどう進めている?(ブランディング、UX含む)
新しいもの導入したいときには…めっちゃ頑張っています(笑)。というのも、「Yahoo! JAPAN」ってとにかくサービスが多い。たとえば、「ID」に関して何か新しいことをやろうとした時、社内の各サービスにおけるプラットフォームでもあるので、「こういうロードマップで進めたい」「中継ぎとしてこういうのをつくる」といったプランを持っていくようにしていて。大変なところは正直ありますが、実際に変えたときに「すごく良くなったよね」といったフィードバックが社内の各所からもらえるのはうれしいですよね。
― 直面した最大の辛いこと、危機的なこと、心が折れたこととは?
日々起きていて、つねに向き合っているところではあるのですが、「詰んじゃうユーザー」が多いこと。IDも、パスワードも、メールアドレスも忘れてしまうユーザーさんがいて。昔から使ってくれているユーザーさんなのに、継続利用が難しくなってしまうことあるんですよね。どう手が打てるか。何かしら手が打てないか。「ID・パスワード」の問題は、どんな長寿企業にも「あるある」ではないでしょうか。
― これからのサービスの目標を聞かせてください!
Yahoo! JAPANではログインしてサービスを使ってもらいたいと考えています。そうすれば、お客様がどういうものが好きか、どういうものがキライか、趣味嗜好がわかります。それによって、パーソナライズして、そのお客様にあったサービス提供をやっていく。そのために使いやすくて安心な「ID」を提供するのがミッションだと思っています。パスワード忘れてしまうといった問題も、iOSのアプリではパスワードなしでログインできる機能を提供することで解決できてきています。こういった積み重ねで長く使ってもらえるサービス、より良い体験を作っていきたいです。
株式会社はてな ディレクター 森口 貴之/2012年はてな入社。現在は、はてなブックマークアプリのディレクションを担当。
― 過去の遺産的なシステム、どういうタイミングで発掘して改修する?
じつは、今まさに取り掛かっているところなんですよね。
これまで何度かフルスクラッチ的につくり変えるということを行なってきて。前回の大改修から、もう8~9年くらい経っています。さすがに当時採用した技術も古くなっている。新卒のエンジニアだったり、若手が「いろいろなところを調べてまわっても、まだわかりません」というお手上げな状況があったりもして(笑)
この状態はイケてないよね、と。開発チームのモチベーションとしても「そろそろ作り直したい」と声があがり、取り組みはじめたというところ。『はてなブックマーク』をこれからもずっと快適に使ってもらえるように、いまいろいろと手を入れています。
はてなのユーザーさんって、まぁ…少々辛口なところがあったりもして(笑)。同時にすぐサービスへのフィードバックがいただけるのは、助かっている面もあり、ありがたいと思っています。想定していなかったバグや不具合など、ユーザーさんの反応から知れる。真摯に受けとめて、取り入れ、ユーザーさんと一緒にサービスをつくれるといいかなと思います。
― 直面した最大の辛いこと、危機的なこと、心が折れたこととは?
チームメンバーからの反応があまりよくないまま開発を進めてしまい、さらにユーザーさんにも「なんだこれ?」と反応がわるかったときかもしれません。
やっぱりチームで議論ができないと良いものが生まれてこないんですよね。チーム内で「これ良いよね」と議論をしてメンバーを巻き込むように心がけています。開発チーム内で、やろうとしていることの価値共有は必須なんですよね。
たとえば、上司との間では何をつくるか、合意があっても、いざチームメンバーに説明したときに共感が得られないと、どうなるか。メンバーのモチベーションが低いまま、しぶしぶ開発することに。結果的に良いものが作れたとは言い切れず、リリースしたとき、ユーザーさんの反応がもイマひとつで。
新しい機能やリリース物はメンバーに納得してもらってから開発する。そうすると、つくっているときも楽しいし、本気で良いものを世に出したいと思える。結果的にユーザーに喜んでもらえるものがつくれるのだと思います。
― 一番楽しかった、嬉しかったことは?
数年前に、はてなブログのiOSアプリをリニューアルしたのですが、ネガティブな反応を少なく留めつつサービスの改善を行えたことです。
もともと素朴なつくりだったものを、ガラッとUIや雰囲気も変えました。大きめのリニューアルは賛否両論が生まれるし、ネガティブな意見も当然でてくるはず。と、思っていたのですが、とくにネガティブな声もなくて。ちょっと不安になるくらい(笑)。
数字で見てはじめて、ユーザーにとって使いやすくなっていることがわかりました。Google Analyticsなどデータ上でみると、狙い通りにユーザーは機能を使ってくれていて。定着率もあがっていました。
使い慣れたものから変わるっていうのは、ユーザーにとって基本的にはネガティブなもの。それを覆すくらい良いものができたのだと思っています。自然に受けれてもらえるものを作れたことはめちゃくちゃ嬉しかったです。
― これからのサービスの目標を聞かせてください!
サービス単位というより、ネットリテラシーを必要としない、誰もが楽しめるインターネットの世界をつくっていきたいですね。『はてなブックマーク』は、サービス内だけでは完結しません。ブログやニュースメディアさん、その他、インターネット上にある、すべてのおもしろいコンテンツがサービスの根幹にあります。なので、「インターネットをより良くするためにはどうすればいいか?」それを起点に『はてなブックマーク』を考えていきたいと思います。
ピクシブ株式会社 プロダクトマネージャー 重松 裕三/2012年にピクシブ入社。 イラスト投稿サービス「pixiv」のディレクター、広告などを扱うアカウントプランナーを経て、クリエイター向けCtoCマーケットプレイス「BOOTH」、イラスト1枚でグッズが作成できる「pixivFACTORY」、イベント専用決済アプリ「pixiv PAY」などを担当。
― サービス立ち上げメンバーって残っている?
pixivは11年目ですが、じつはサービスを立ち上げた本人、「上谷隆宏(馬骨)」というメンバーがまだ在籍していて。みんなに「これってどういう意図でつくった?」っていうのを直接聞いている。思いだったりを訊けるのはいいかもしれません。
サービスの発端は「イラスト投稿サービスをつくりたい」と、2ヶ月くらいで馬骨がつくってきたんです。創業者の片桐はそのコンセプトを聞いたとき「正直微妙」と思ったそうなんですが、リリース直後からはすぐ人気が加速していきました。そして現在に至るというカタチですね。
― 新しい言語、技術の導入をどう進めている?(ブランディング、UX含む)
pixiv本体はPHP言語で開発していますが、周辺の機能やサービスではRailsをつかったり、Goをつかったりさまざま。新しい技術導入において、特徴的なところだと、技術基盤チームというチームがあり、KPIをもたず、新技術の可能性を探るチームがあります。機械学習など、どんどん新しい技術に挑戦していて。機械学習による自動着色サービス「PaintsChainer」との連携だったり、新しい技術導入のとっかかりにもなっています。
― 直面した最大の辛いこと、危機的なこと、心が折れたこととは?
サービスを毎日のように見てくれているユーザーさんが多く、ちょっとした変更にも気づいてくれて…否定的な声があったときは辛いですね(笑)ネガティブな意見が多くでてきて本リリースの前にお蔵入りした機能も一部もあったりして。本来は順次出していく予定だったのですが、コミュニケーション不足、説明不足があり、理解を充分に得ることができなかった。ここは大きな反省ですね。
― 一番楽しかった、嬉しかったことは?
pixivはイラストレーターさんや作家さんを相手にしているサービスなんですよね。なので、「投稿していたら、出版社から声かかって、マンガ家デビューして、それ一本で食っていけるようになりました」といった人にもリアルで会えて、すごくうれしかったですね。
― これからのサービスの目標を聞かせてください!
作家さんやクリエイターに寄り添うサービスという軸はぶらさず、「絵描きの人生にすべてに寄り添えるサービス」を展開していきたいと思います。pixiv以外にも、絵が練習できたり、描くツールだったり、「発表するところからモノを売るところまで」をカバーしていて。
「pixiv」というサービスでいうと、グローバルで存在感を発揮していきたいと考えています。絵って非言語なので、「絵」さえかければ世界中の人たちとコミュニケーションができる。いま利用者数の約半数が海外になってきているので、ここはさらに強化していければと思います。
GMOペパボ株式会社 ホスティング事業部 ディレクター 瀧口 舞/2012年にペパボ入社。ホスティングサービス「ロリポップ!」や「ムームードメイン」、ハンドメイドマーケット「minne」のカスタマーサービスを経て、現在はロリポップ!のディレクションと新プラン「マネージドクラウド」のPMを担当。
― サービス立ち上げメンバーって残っている?
もともと「ロリポップ!」は家入一真さんが立ち上げたのですが、今のGMOペパボ代表の佐藤健太郎(ケンタロさん)も携わっていて。当時、ケンタロさんはCSをやっていたんですよね。お問い合わせ対応する立場で。実はお問合わせのDBに、ケンタロさんが返信した記録も残っているんです。たとえば、新卒メンバーたちがCSをやる時、その記録を見ることができるんですよ。「これがケンタロさんの返信なんだ」って見て勉強するのが通例。初期の頃ってかなりフランクなやり取りがあって、ユーザーと一緒につくっていく感触は勉強になります。
― 新しい言語、技術の導入をどう進めている?(ブランディング、UX含む)
技術よりも、リブランディングの話になりますが、1月にサービスのリブランディングをして。これまでの初心者、学生、女性向けのポップな印象から、安心感を持って使ってもらえるように変えました。
これまでポップなキャラとして「ロリポおじさん」がいたんです。社内では真剣に「ロリポおじさんの存在はこの先必要か」「なくしたほうがいいんじゃないか」「本当になくしていいのか」ってかなり議論しました。
それでも新しい道を進もう、と。踏みとどまるのではなくやってみる。GMOペパボって「やっていき」を大事にしているので、とにかく一回チャレンジしてみよう、と。これはリブランディングだけでなく、技術・言語もそういった空気で進んでいくことが多いと思います。
こぼれ話として「ロリポおじさん」は溶鉱炉に沈めてサヨナラしました。じつはあまりその先のことを考えておらず…これも「やっていき」でしたね(笑)
― 直面した最大の辛いこと、危機的なこと、心が折れたこととは?
私はディレクターなのでSQLを書くこともあるのですが…17年も運営しているサービスだと、テーブルの構造、カラムが継ぎ足されていくということがあって。最初に作ったエンジニアがもういないという状況で「この値は…なんだろう」となることがあるんですよね。ほしい数字が見つけられず、目視チェックの作業がつらい時は…正直ありますね。ドキュメントも一部だけとか…(笑)ここはなんとか解決していきたいところです。
― これからのサービスの目標を聞かせてください!
ロリポップ!はこれまで個人、初心者の方に多く利用いただいているサービスでしたが、いま新しいプランで「マネージドクラウド」を開発しています。クラウドホスティング、VPSのように柔軟性がありつつ、拡張性がある。同時に気軽に簡単に使える。こういったサービスをつくっているところです。ホームページをつくったり、Webサービス、アプリケーションをつくるときに、個人や法人問わず、もっと多くの人に「ロリポップ!を使おう」と選んでもらえるようにしたいですね。
(おわり)
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