たった1つのツイートに150名以上の応募が殺到!『古着女子』をはじめ、バーチャルモデル事務所『VIM』などを運営するyutori。19歳〜27歳のミレニアル世代が作り上げるチーム。根底にあるのは、ただ「ここにいたいからいる」という感覚だ。代表の片石貴展さん(25)に、新しいチームづくりのヒントを伺った。
連載:ぼくらの未来へのチームづくり
平成から令和に、そして2020年代へ。これからの時代、とくに若手を中心とするチームの「ルール」や「大切にしていること」に迫る連載です。時代がどんどん移り変わっていくいま、チームはどうあるべきなのか?新しいチームをつくる皆さんとともに、そのヒントを探っていきます。
- yutoriを読み解くチームデータ -
創業:2018年4月
事業内容:ファッションコミュニティ事業、IP事業
従業員数:約20名(うち正社員約5名、他業務委託・アルバイト・インターン)
部署:【古着事業部】と【デジタルアパレル事業部】の2つ
職種:主に【プロデューサー】【ディレクター】【クリエイティブ】の3つ
>>> 『yutori』過去のキャリアハック記事は こちら
時代は平成から令和へ。会社や組織のあり方も、アップデートを迫られているのかもしれない。
僕たちのチームルールは古い?新しい?このカルチャーは斬新?それとも当たり前?── 正解のない「チーム像」を、現代に生きるみんなで探していきたい。
「じつは、うちには当初から決まっているビジョンやミッション、バリューはありません。目的で人を集めることはしたくない。集まったメンバーが、ごく自然に“ここにいたいからいる”という感覚を持てる場所をつくりたいんです」
こう語るのは、古着情報メディア『古着女子』などを運営するyutoriの片石貴展さん(25)。
平均年齢は22歳。本格的な採用活動を始めてわずか3ヶ月で、応募数は400名超。1つのツイートをきっかけに150名以上の応募を集めたこともある、人気のベンチャー企業だ。
なぜ若い世代は、yutoriに惹かれるのか。そして働く人たちは何を信じ、どこに向かっているのか。新たなチームのあり方を実践する、yutori流のチーム論に迫った。
【プロフィール】yutori CEO 片石貴展(25)
明治大学商学部卒業後、株式会社アカツキに入社。新規事業部の立ち上げを経験する。2017年12月にInstagramで「古着女子」を立ち上げ、開設5ヶ月でフォロワー10万人を獲得。2018年4月にyutoriを創業。『古着女子』やコンセプトショップ『9090』、スポーツブランド『dabbot.』、下北沢のコミュニティスペース『pool』、バーチャルインフルエンサー所属エージェント『VIM(ヴィム)』などを展開する。
企業ってもともとビジョンがあって、その目的に向かって人が集まってくることが多いですよね。ただ僕たちは、目的で人を集めることはしたくないと思っています。
会社が目指したいことのためでなく、「この場所が好きだから」とか、「ここにいたいから」という理由で集まってほしい。日常の中にyutoriというものがごく自然に入っていて、それがずっと続いていくような感覚に近いです。だからうちには、ミッションもビジョンも、バリューもない。
それに、ホームページの企業理念を見ててもよく思うんですよ。「この会社の社員って、本当にこれ思ってる?」って。形式的につくられたものって、その会社で働く社員にとって本当に必要なものにはなっていない。その違和感がどうしても拭えなくて、ここまであえて決めることを避けてきたのかもしれません。
いまyutoriにあるのは、3つの行動指針だけ。
・理想の追求を最後まで諦めない
・自分自身で最高だと思えるものを出す
・良いことも悪いこともありのまま素直に言う
これは、つい先月みんなで話し合って決めました。あえて行動指針は決めようと思ったのには理由があって。じつはこれ、僕らのこの1年の「失敗」に紐付いているんです。
理想の追求を途中で諦めてしまったことがあったり、自分の120%の力を出しきれなかったり、素直な気持ちを言い合えなかったり。
そういう良くなかったこととか、自分たちが無自覚にやってしまっていたこと。その裏返しをルールにしたような感じです。行動指針って、その無意識の重力から引き戻すためのツール、言ってしまえば“戒め”のようなものなんだと思います。
yutoriで働くメンバーには、僕らはチームだということ、共同体なんだということを実感してほしい。だから、できる限り同じ時間を共有することを大事にしています。
たとえば、朝はみんな10時までに出社して、毎日朝礼で業務報告をする。週に1回事業部ごとに定例会をして、進捗を全員で共有し合う。そして月に1回は社員全員で集まって、1ヶ月を振り返る。
もちろんそれだけでは共有しきれない部分もある。だから、社員もアルバイトもインターン生も関係なく、全員に毎日日報を書いてもらっています。
僕も毎日目を通しているのですが、ブログを読んでるみたいで面白いですよ。メンバー同士がコメントで励まし合ったりしているところなんかも見れますし。
いまはオフィスにいなくても仕事ができる時代です。朝礼や日報なんて「古臭い」と言う人もいる。でも僕らは、そういった人と人とのリアルな触れ合いが“必要だから”やっているだけで。
これは「古い」とか「現代的だ」とかではなく、本当に必要なものは何かを見極めたい。事実、うちではリモートワークは推奨していないし、やっているメンバーもいません。何をするにも、ニュートラルな視点で今それが自分たちにとって必要なのかどうかっていうことを、1個1個考えていけるといいなって。
同じ時間を共有することともうひとつ、yutoriのテーマになっているのが「弱さや恥ずかしい部分、ダサい部分をまるっと含めて許そうよ」ということ。
なんというか、自分のことを発信したり、何かを表現したりするって恥ずかしいじゃないですか。自分が心の底からいいなと思っているものを否定されるって当然悲しいし、自分自身を否定されたようにも感じてしまう。
だからyutoriは、思っていること、やりたいことをみんながラフに表現できる場所でありたいと思っています。僕自身、「それいいじゃん」という言葉を積極的に使っていて。
今いるメンバーやyutoriで働きたいと言ってくれる人って、自分の中にある感性をどこかで信じきれない人が多い。それは、僕たちの世代にはよくあるのかもしれません。「協調」を重んじられた環境で育ってきたから、自分の「好き」を信じたいけど信じれない、そういう狭間で葛藤しているというか。
要は、そういった人たちが自分のことを信じられる場所になりたいんです。だから面接で聞くのも、「yutoriで何がやりたいのか」ではなく「あなたが何を信じていて、何を信じたいと思っているか」ということ。
信じたいことを肯定してあげたい、もっとその感性を研ぎ澄ましてほしいと思えた人と仲間になって、どんどん輪を広げていく。僕らが初期からよく言っている「臆病な秀才の最初のきっかけをつくる」というのも、そこにつながっているんです。
よく採用基準ってどうしてるの?と聞かれるんですが、そこはすごくシンプルで。「一緒に飲みに行きたいと思えるか」ですね。
僕、仕事だから、会社だから価値観の合わない人がいてもしょうがないよねみたいな感覚ってよく分からなくて。仕事っていうものは日常の中に入り込んでいて、生活と分断されているのではなく、もっと曖昧に溶け合っているものだと思っています。
だったら、自分が「好きだな」「一緒にいたいな」「すげえな」「友だちだな」と思える人と働きたいと思うのは本当に自然で、本能的なことなんじゃないかなと。もちろん面接ではスキルセットの部分も見ますが、最終的にはその人の考えや大切にしていることを聞いて、好きだと思えるかが判断基準になる。
僕たちが好きだと思う人には共通点があって、それは「バランスが良い人」。
1個を極めている人というよりは、2個が混ぜ合わさっている人というか。感性と論理とか、強さと優しさとか、2つの要素がバランス良く混じり合っている人を好きになりやすい。
なんだろう、クラスの中に、主張しなくても地味にモテてるやつっていません?(笑)前に出るわけじゃないけど、さりげなく支持があるような人。主張し過ぎず、存在感があって、優しいんだけど心は強いみたいな、絶妙なバランス感覚を持っている人がyutoriには集まっている気がします。
僕らは美学をどう研ぎ澄ましていくかという思想でやっていて、そこを「いい」と言ってもらえることも多くなってきた。でも、それはある種「自信のなさ」から来ているのかもしれない。
資本主義の社会での企業活動って、上場とか、時価総額いくらとか、M&Aとか、分かりやすいゴールがあるじゃないですか。正直僕は、そういった“点数”をつけられる土俵の中で戦える自信があんまりなくて。
だから、いわゆるITベンチャーとかスタートアップにカテゴライズされるのには少し違和感があるんです。誰かと比べるというよりは、yutoriとしてどう楽しく長く儲かり続けていくのか?ということだけを考えています。
自分たちの居場所を守るためには、会社として業績をあげ続けなければならない。信じていることが単なる「ゆとりだ」と言われてしまわないためにも、「数字」や「お金」とはシビアに向き合う必要がある。全員で業績報告を高頻度でやる“ゆとらない日々”をおくるのも、そのためです。
それはメンバー全員が理解できているし、そもそも、「ここに入れば好きなことをやりたいようにできる」と思っている人は採用しません。yutoriはお金を稼ぐためだけの場所でもないし、好きなことをやるだけの場所でもない。その両立のバランスを、みんなが必死にとろうとしている。
「ここにいたいからいる」というyutoriの輪を、長く、じんわり大きくしていけたらいいですね。
取材 / 文 = 長谷川純菜
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