読めば読むほど台湾のことが好きになる『Howto Taiwan』。台湾の小ネタ・現地情報が満載、読むだけで旅行に行きたくなってしまう。コアなファンから初心者まで広く愛されるウェブメディアだ。「台湾が好きすぎて、自分たちがほしかったものをつくりました」と編集長の田中伶さん。好きでつながる、あたらしいメディアの形のヒントがそこに!?
─『Howto Taiwan』、記事が一つひとつ作り込まれていてすごい熱量を感じます!いったい誰がどんな風につくっているのか、気になって取材をオファーさせていただきました。
ありがとうございます! まず運営メンバーでいうと、私含めて3人ですね。私以外の2人は、別で本業を持ちながらパラレルワーク的な感じで『Howto Taiwan』に関わってくれていて。なので、稼働できるのは基本的に平日の夜と週末だけなんです。
全員とにかく台湾が好き(笑)どんな記事を作ろうかとかはチャットでやり取りしているのですが、毎日滝のように「こんな記事作りたい!」って企画が出てきます。
現地にも、記事を書くために行くばかりじゃなく。普通に旅行に行って、たまたま入ったお店がめっちゃ良かったから記事にしよう!みたいなこともよくあるんです。「◯◯ってお店がオープンしたから、今度の週末にちょっと行ってくるわ」ってふらっと行ったりとかもあって。
でも、PV目標や掲載本数などのルールがないので、本業が忙しいと記事が更新されないことも全然ある(笑)完全に、メンバーのテンションで動いてますね。
みんな収入源が別にあって、言ってしまえば、私たちにとって『Howto Taiwan』ってなくなっても困らない存在なのかもしれない。
その一方で、お金をもらえるもらえないに関係なく、ただただ「やりたいこと」なんです。何と言うか…本当に、趣味の延長みたいなものですね。
─そもそも、『Howto Taiwan』をはじめたきっかけは?
大学のときに台湾に2年間留学していたのですが、そこで台湾にどっぷりハマってしまって。
ただ当時は、「いつか台湾に関わる何かができたらいいな」くらいでした。大学で経営学を勉強していたこともあり、将来はキャリア支援や人材育成の道に進もうと決めていて。
なので卒業して5年ほどは、人材育成の会社を立ち上げたり、教育系のベンチャーで広報をさせてもらったり、台湾とはまったく関係のない仕事をしていましたね。
でも、ずっと台湾への気持ちは心のどこかにあって。
ちょうど広報の仕事を通して発信の仕方やメディアの方々との繋がり方を学ばせてもらっていたこともあり、「今なら台湾のために何かできるかもしれない」、「いや、今しかないかも!」って思ったんです。それで2016年、28歳のときにメディアをつくろうと決めました。
─ブログとかではなく、メディアだったんですね!
ブログは、じつは大学時代からずっとやっていたんです。台湾で流行っている音楽(Chinese-POP)が大好きだったので、中国語の歌詞を日本語に翻訳するっていうブログを。誰にも頼まれていないのに、10年間で300曲以上翻訳しました(笑)
ただ、私がどれだけブログで発信しても、C-POPそのものの魅力が爆発的に広まっていく感覚ってあまりなくて。これをずっとやっていても、大好きなC-POPの魅力を沢山の人に知ってもらうってことは難しい気がしたんです。
社会に対してもっと影響力を持つには、まずはC-POPの入口である「台湾」そのものに目を向けてきちんとメディアを立ち上げ、自分も「趣味で発信もやっている人」ではなく「発信を生業にしている人」になったほうがいいんじゃないかなって。あえて法人化してオフィスも持ちました。今後個人の活動だけにとどまらず、法人格として大きな企業とコラボなどできていけば、どんどん影響力も大きくなっていくんじゃないかなって。
それに、仲間とメディアをつくったら簡単に「飽きたからもう辞めよう」とは言えないじゃないですか(笑)。自分を逃げられない状況に追い込んで、「好き」に責任や覚悟を持ちたかったのかもしれませんね。
─メディアを運営する上では、どんなことを一番大切にされているのでしょう。
感覚的な話になってしまうのですが…そもそも私たちがかなり台湾好きなので、「自分たちがほしいと思えるものしかつくらない」というのは大事にしていますね。
たとえば「台湾女子ナイト」っていうイベントを全国各地で年に1~2回開催しているんですが、もともと「みんなで台湾ビール飲みながら、自分のお気に入りスポットについて熱く語り合える会があったら行きたいよね」みたいなところからはじまって。
当時の台湾イベントって、会議室で台湾の文化や歴史を学ぶようなものが多く、対象の年齢層も高かったりして、自分たちが参加したい!と思えるものがなかったんです。「I Love 台湾」のTシャツで参加して浮きまくる、みたいな経験もあったり(笑)
実際に「台湾女子ナイト」を自分たちで企画して開催してみると、「今までこういうカジュアルな雰囲気で台湾愛を語れる場がなかったから嬉しい」「台湾女子ナイトがきっかけで台湾好きな仲間ができた」という声をたくさんいただいたんです。毎回 150~200人くらいの規模で開催しているのですが、嬉しいことに最近はチケットも即完売するくらいになっています。
「こういうのが欲しかった」を大事にする姿勢は、記事に関しても一緒です。記事広告の依頼が来たときも、ただ単に商品やお店を紹介することはありません。
それが読者にとってどんな風に価値のある情報なのか。2泊3日ぐらいの旅行で台湾へ行く人に対して、なぜその場所にあえて行かなくちゃいけないのか?その商品をわざわざ買わなきゃいけないのか?という理由を、読者目線で考えること。それをすごく大事にしています。
そうなると、よっぽど情報が十分にあって、かつ好奇心をくすぐられる内容でないと「そこに行ってみたい」「買いにいきたい」と思えないんですよね。自分がターゲットになって初めて、コンテンツというものをシビアな目で見れるようになった部分はあります。
─『Howto Taiwan』をたくさんの人に届けるために、何か工夫していることは?
私たちはオウンドメディアという形で台湾の魅力を発信していますけど、伝える方法は記事だけじゃないと思っていて。
たとえば、少し前に読者から「台湾の主要な駅名の読み方を全部教えて欲しい」というリクエストが来たんですけどね。記事よりも音声で聞けたほうが良いんじゃないかって、「Voicy」という音声メディアツールでひたすら駅名を読み上げていくっていうのをやりました(笑)
最近はインスタライブもすごいやってますね。私たちが台湾の夜市に行って「今、夜市にいまーす」ってストーリーに流したり、イベントに行ってその様子を流したり。台湾や東京で開催される台湾関連のイベントに行きたくても行けない人たちが、まるで現地にいるような気持ちで楽しめるといいなって。
メディアというのはあくまで「入り口」の一つ。『Howto Taiwan』が知られても、台湾を好きになってもらえなければ意味がないかなと思うんです。
どうしたら台湾をいいなって思ってもらえるか、適材適所でいろいろ発信方法を変えてみる。いまって本当にいろいろなツールがあるので、場所によって見せる顔が違うみたいなのも面白いですよね。
私が今年になってnoteをはじめたのも、それが理由です。田中伶としての文章を通して『Howto Taiwan』を知ってもらい、台湾を好きになってもらうことができたらラッキーだなって。
─田中さんのお話を伺って、なんでしょう…「好き」とか「得意」とか「やってみたい」っていう気持ちに素直になるってすごくいいなと。
そんな風に言ってもらえて嬉しいです…!そうですね、仕事だとか趣味だとか関係なく、「自分が情熱を燃やせること」をこの先もやり続けられたらいいなとは思っています。
もちろん先のことをあれこれ心配したり、時には何かを諦めたりしなければならないときも出てくるかもしれない。私自身、やっぱり結婚や出産を経験する前はそうでした。
それこそ妊娠が分かったのは『Howto Taiwan』を立ち上げたときぐらいだったので、正直「これから頻繁に台湾旅行に行こうと思ってたのに… 大丈夫かな…」みたいな。バリバリやっていきたいことと、自分の行動が制限される出産を両立できるのかなって。
でもいざ子どもが生まれると、キャリアや世の中の見方がかなり変わったんです。子どもがいなかったら『子連れ台湾』っていう本も出版できなかっただろうし、「台湾好きママ」みたいな肩書きでメディアに出させていただくこともきっとなかった。
自分のキャリアや人生が、逆にすごい広がった気がして。ライフステージの変化が足かせになることはきっとない。だから何も諦めなくていいし、今できなくてもいつかタイミングが来るかもしれないから、悲観しなくていいって思えたんです。
私はやっぱり台湾が大好きなので、しばらくは台湾を基軸にいろいろ挑戦していきたい。『子連れ台湾』の反響が思った以上に良かったから、たとえば旅行会社さんと一緒に「親子で行く台湾」といったパッケージ旅行を企画するのも面白そうだなって。それにC-POPをもっと盛り上げるために、アーティストの誘致などもやってみたいです。
やりたいことが尽きない…!私が60歳になったら、「台湾×シニア」みたいな切り口で何かやってるかもしれませんね(笑)
取材 / 文 = 長谷川純菜
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